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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第3話 エルフ族の街
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13-2. 王都の休日

 案内役のメーティスがお腹いっぱいでもう動けないと言い出し、待たせていた馬車で家に帰った。俺とネイトとクロートーは、マップを受け取り、王都を歩くことにした。俺が一番行きたかったのは古文書屋だ。大きな建物に本棚だけがあるような、三つ星の古文書屋に行くと、そこの店主は偏屈そうな老人だった。

「エルフ族に関する古文書が欲しいんです。古代の伝承、暗号で書かれた書、なんでも良いので、売ってください」と言うと、老人は、眼鏡がずり落ちたままこちらを見て、「あんた、この店、初めてじゃな。若いのに珍しい。エルフ族について調べているのかい」と言うので、「はい。この店ぐらいしか扱っていないと思って」と言うと、「大賢人ジャービルの本は読んだかね」と訊かれ、「もちろん『真説魔術体系書』は持っています。初期の写本です」と答えた。本当は大賢人ジャービル自身が書いた原書を持っているのだが、それは秘密だ。店主がにんまりと笑い、「ありゃあ、面白い本だ。あんたは魔術師かい?」と訊くので、「まあ、そんなところです」と答えた。よろよろと店主が立ち上がり、「予算はどのくらいじゃな?」と言うので、「いくらでも。あるだけ欲しいんです」と言うと、「ほう、そりゃあ、あんた、えらく景気がいいな」と言って、あちこちの本棚から本を集め始めた。どういう分類をしているかわからないが、この大量の本の中から、目的の本がわかるらしい。18冊の本がカウンターに並び、そのうち7冊はすでに所有していたので、残る11冊を買い求めた。高価な古文書もあったのか、690,000イェンだったので、すぐに小切手で支払った。

 店主は、「わしゃあ、本の価値がわかる人が好きだ。欲しい本があったら探しておいてあげるから、いつでも来ておくれ」と言ってくれたので、「ありがとうございます。本はここの家に届けてください」と住所を渡すと、店長は老眼鏡越しに紙を見て、「ほう、マーリン殿の家かい」と、おやじの名前を言ったので、「息子のマリシです」と言うと、「道理でな。ひひひ」と笑った。


 古文書屋を後にし、家に向かって歩きだした。王都の治安は良く、道で子供たちが遊んでいた。衛星都市ザークに比べると、全体に家は小さく、密集していた。クロートーは珍しそうに街並みを眺めていた。こういう風景は、疑似記憶にあるのだろうか。

 ネイトがポツリと、「せっかく王都に来たので、武器屋に寄りたいのですが…」と言った。パラゴに武器屋を通るルートを確認させると、家に帰る途中に一つ星の武器屋があったので、「それなら、この道をまっすぐだ」と進んで行くと、武器屋が見えてきた。店の前には、「きっと見つかる、あなただけの一品」と見たことのあるキャッチフレーズが掲げられていたので、「まさか俺の所有する武器屋じゃないよな」と確認すると、「いいえ、王都には武器屋をお持ちではありません」とネイトが答えた。ネイトよ、なんでも知っているのか?

 3人で武器屋に入ると、「いらっしゃいませー。うちの店は、冒険者様にあった武具を提供することをモットーに…、あっ!」と、店主が叫んだ。衛星都市ザークで解雇した、腰抜け店員が、店主のようだ。俺を見て動揺し、「な、なにしに来たんだ。俺は何にもしてないぞ」と震え始めた。

 ネイトが俺を見て、「お知合いですか?」と訊くので、「ああ、衛星都市ザークの武器屋で働いていた店員だ」と答えると、俺たちが襲撃された事件と関わりがあると、察したのだろう。ネイトは凄みを帯びた笑みを浮かべ、「ほう。ちょうど良かった。いろいろ聞いておきたいことがある」と凄んだ。

 腰抜け店主は、「お、俺はなにも知らない。オーナーと貴族が勝手に企んでいるだけだ。武器屋が武器を売るのは当然で、何に使おうと俺は知らん」と言った。どうも衛星都市ザークで、俺を襲撃した一件とは違う用件で来店したと思っているらしい。

 手を挙げてネイトを制し、雇われ店主に、「俺は王室に顔が利く。知っていることを話しておけば、弁護してやる」と言うと、「騙されるか!」と店主は言った。思ったほど、馬鹿ではないらしい。

「それなら、一人で頑張れ。貴族と組んでいるオーナーに、罪を被せられなければいいな」と言うと目に見えて狼狽し、「ま、待て、待ってくれ。本当に、助けてくれるんだな?」と喰いついてきた。「内容次第だが、事情を知らなければ助けようがない」と言うと、「お、俺は貴族に武器を売っただけだ。貴族が反乱を起こそうとは思ってもいなかった」と言う。思わぬところで、思わぬ情報が入った。そういえば、俺に疑いをかけられたのも王国転覆罪だった。つながりがあるのかもしれない。

「そうか。オーナーの命令でお前が大量の武器を売ったと証言してやろう。それで、誰に武器を売ったんだ」と訊くと、「それだけは死んでも言えない」と店主が言った。ネイトが、「先の心配より、今の心配をすべきではないのか?」と冷たく言うと、気圧された店主が、「わかった。ボードウォーク公だ。俺はオーナーに騙されただけなんだ」と叫んだ。

「公」が就くのは公爵だ。公爵と言えば王国に5つある爵位の最高位だ。その公爵家が王国の転覆を企てているとしたら、ゆゆしき事態だ。

「どのくらいの数の武器を売ったんだ」と訊くと、「わからない。別の場所に売ったのに、ある時、送り先が同じになっていた」と言う。それが本当なら、ますます怪しい。

「わかった。今のことは俺たちの胸にしまっておく。なにか起こった時には、できるだけ協力すると約束しよう。一つ忠告するなら、できるだけ早く、ここから逃げ出した方がいいぞ」と言うと、床に座りこんだ雇われ店主が力なく頷いた。

 すっかり観光する気も失せ、家に戻った。ネイトはなにも言わなかったが、さっき武器屋で聞いた事の重大さを、正しく理解しているに違いない。クロートーはどうだかわからなかった。

 リビングのソファに座って、これからどうすべきか考えていると、執事のノートンがやってきて、「手紙が届いております」と言った。「誰から?」と訊くと、「書いておりません」と言った。封蝋された封筒を受け取ると、ただ「マリシ殿」と書いてあった。パラゴに危険がないことを確かめさせ、封を切ると、『本日22時に私室にご足労いただきたい。御内聞(ごないぶん)に願いたし。N & I』と書かれた紙が入っていた。ネイトが、「誰からですか?」と聞いたので、「おそらく国王陛下と王妃殿下からだ。今夜会いたいそうだ」と言うと、「私もお供します」と言うので、「だめだ。内密に願いたいそうだ。他の2人には俺が国王陛下と会うことは秘密にしておいてくれ」と言うと、ネイトは頷いた。


 その夜、俺は一人、王城に向かった。『重軽装』平服7番を着て、革のベルトを巻き、短剣だけ吊り下げた。王城の周りは石を積んで作られた高さ3mぐらいの、白い城壁に囲まれていた。その壁は侵入防止のためつるつるに磨かれ、石と石と隙間も埋められていた。

 人気(ひとけ)のないところに行き、壁に向かって跳ぶと、【吸圧】の魔法で、右手のひらを壁に貼り付けた。続いて左手にも【吸圧】の魔法を発動し、壁に貼りついた。この繰り返しで、ゆっくりと城壁をよじ登り、城壁の上に横たわって周りの様子を伺った。

(パラゴ、国王陛下と王妃殿下はどこにいる?)と訊くと、(居館の3階奥です)と言う。(そこまでの、もっとも安全なルートを表示してくれ)と言うと同時に、視覚にルートが表示された。もっとも安全かもしれないが、かなり骨の折れるルートだ。

(もう少し楽なルートはないかよ?)と言うと、視覚にルートが再表示された。たしかにこちらのルートの方が楽そうだ。

 城壁から飛び降り、城の敷地内に侵入した。警備は厳重だったが、衛兵の死角を選び、魔道具等の罠が仕掛けられていないか注意しながら、居館の隣にある塔にたどり着いた。城壁を登った時と同じ要領で、塔の壁に貼り付き登っていった。途中、塔に絡みついた蔦で行く手を阻まれるところもあったが、城壁に比べると指をかけられる隙間が多く、登りやすかった。

 15mぐらいの高さまで塔の壁を登り、居館の屋上を見下ろした。パラゴの選んだルートは、ここから、10m離れた居館の屋上に跳びうつるものだ。居館の屋上に届かなかったら、いや届いても死ぬ可能性はあった。これで楽なルートかよ…。

【吸圧】の魔法で、居館に背を向ける形で塔の壁に貼り付き、一つ大きく息を吐くと、【身体強化】した両脚で塔の壁を蹴った。後向きに飛び、空中で身体をひねって身体の前面を下にした。そして、両手で【風嵐】を発動し、巻き上げた風で落下速度にブレーキをかけた。着地の衝撃は緩和され、無事、屋上に降り立った。

 国王の私室の上まで移動すると、窓から部屋の中を覗いた。どうやらナイキ国王の書斎のようだ。部屋の窓を開けた時、タイミングよく、ガウンを着たナイキ国王陛下が書斎に入ってきた。風の流れで窓を見て、俺に気づいたようだ。驚いた様子もなく、「よう、マリシ。無理を言ってすまない。入ってくれ、いまイリスを呼んでくる」と言った。

 本当に部屋に入って良いのか迷い、万が一に備えて窓際に立って待った。まもなく、化粧を落としたイリス王妃殿下が入ってきた。ナイキ国王陛下とイリス王妃殿下は、俺には遠慮しないとアピールしているようにも思った。

 勧められるままに椅子に座ると、ナイキ国王陛下が、「マリシ、今の余は国王ではなく、師匠の弟子の冒険者だと思ってくれ。いや、兄と思ってくれ。イリスは姉だ。いいか?」というので、神妙な顔をして頷いた。「こんな時間に来てもらったのは、誰にも言えない、誰にも知られたくない話があるからだ。フェフェのことだ」と言われ、なんとなく察しがついた。ナイキ国王陛下が、「娘のことをどう思った?」と訊くので、「素晴らしいお嬢さんだと思いました。パーティー会場では俺たちに気遣ってくださったし」と答えた。ナイキ国王陛下はじっと俺を見つめ、「そうか。ありがとう。だが、そういうことではなく、他に気づいたことはあるか?」と言うので、「正直に申してよろしいでしょうか」と断りを入れると、「もちろんだ」と返ってきた。

 遠慮するのをやめ、「フェフェさんは人間ではありませんね?」と言った。しばらく時間があき、「ではなんだと思うのだ。腹の探り合いをしなくても良い。考えていることをすべて話してくれ」と言うので、「エルフ族と人間族の混血です。年齢は120歳を超えています」と答えた。国王陛下と王妃殿下は、じっと俺を見つめたまま微動だしなかった。

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