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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第3話 エルフ族の街
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13-1. 王都の休日

 エルフ族と人間族の交流はなく、エルフ族と言えば、尖った耳を持ち、人間族より8倍も長寿で、魔法を得意とし、ひっそりと集団生活している、ということくらいしか知られていなかった。これらの情報も、100年前の大賢人ジャービルによるもので、それっきりエルフ族と会った人間族はいないはずだ。すでに絶滅した種族だと言う研究者もいる。それなのになぜハーフエルフが、それも、よりによって王室にいるのか疑問だった。フェフェが養父母である国王陛下や王妃殿下を騙してとは思えなかったし、家族の秘密なら立ち入る話ではない。フェフェがハーフエルフだと言う事実は胸にしまっておこう。


 朝食後のコーヒーを飲んでいたネイトが、「昨夜のパーティーの後から、考えこんでいる時間が長いようにお見受けします。よもやフェフェ殿をお仲間にしようと考えているのではありませんよね?」と言った。「んっ? いや、まさか。あの場でも言った通り、国王陛下や王妃殿下の許可なく、フェフェを冒険者パーティーに入れることはしない」と言うと、メーティス先生が、「マリシくん、どうせ苦労を背負い込むんだから、フェフェちゃんはやめておいたら? いつもと違って、今回は間違いを起こしたら、打ち首よ」と言った。先生、いつだって間違いを起こしていません。

 クロートーの反応は違って、「でもさぁ、なんだか可哀想だったわ。アイドルとしてあんなに人気なのに、友達が1人もいないなんて」と言う。「フェフェの希望を木っ端微塵にしたのはクロートーだったろ? なにが自分はフィアンセよ、だ。本当、恥ずかしかった」と文句を言うと、クロートーはちょっと焦り、「あ、あたしはそのつもりなんだから!」と言うので、「言っておくけど、俺にはそんな気は全然ない。誤解を生むから、人前で言うのはやめてくれ」と言うと、クロートーは返事しなかった。

 ネイトが、「我々とフェフェ殿とは一期一会だったと考えましょう。むこうは王室の養女です。普通の王国民とは違います」と言い、みなが納得した。俺もフェフェのことを考えないようにした。


 王都に来て2週間が過ぎ、衛星都市ザークに帰る前に王都を観光することにした。馬車に乗り込むと、メーティス先生が、「はーい。正面に見えるのが、この前のパーティー会場だった王城ね。真っ白な城壁が美しいでしょう? 100年以上前の建物で、地下に抜け道があるって噂よ。しかもね、北側の中央公園のどこかに繋がっているんだって。居館の隣にそびえている塔は王都で一番高い建物なの。てっぺんの見張り台からは王都の外まで一望できるわ。王城に続く道はいくつかあるけれど、城門から延びる道は一本だけ。王都の南門につながっていて、軍隊が出陣するために広く作ってあるのよ」と教えてくれた。

 馬車が王城の近くまで来ると、城門前で左に曲がり、南門に続く道に入った。馬車3台ぐらいが通れる広い道の両脇には、官公庁の建物が並び、王国騎士団と王国魔術団の住居もあった。ぽつぽつと広い家があり、貴族の別邸だとわかった。

「あの右側の遠くに見える四角い建物が王国研究所。あたしとマリシくんの出会いの場よね。マリシくんが強引にあたしを奪いに来てくれたの」とかなり盛った話をするので、堪らず「いや、先生、そんなことはなかったと記憶していますが…」と訂正すると、「もう、照れちゃってんだからー」と、バシッと肩を叩かれた。

「ここからじゃ見えないけれど、王立アカデミーの前には王立図書館があるのよー。その右の大きな建物が神殿。道路を挟んで反対側がこの前行ったコロッセオね。西の神殿と東のコロッセオは、有事の時には避難所になるの。王城の周りは、公共の建物ばっかりで、あんまりおもしろくないかもねー」と言う。

 南門に続く大きな街道しばらく行くと、交差する大きな道があり、「この道は王都をぐるっと回るようにつながっていて、環状道路って言われているわ。どうして環状かと言うと、昔はここが外壁だったのよ。王都が狭くなったんで、今の場所に外壁を作り直したわけね。この道沿いにはいろんな店があるのよ。ちょっとみんなで歩かない?」とメーティス先生が提案した。御者に馬車を止めさせ、馬車を降りた。王都は衛星都市ザークのように、地区ごとに武器屋通り、魔道具通り、食品通り、衣服通りなどに分かれておらず、いろんな店が混在していた。

 クロートーが、「ねえねえ、メーティス先生、いろんな店がバラバラに並んでいるけれど、目当ての店に行くにはどうするの?」と訊くと、メーティス先生がビシっとクロートーを指さし、「それ、いい質問! 年に1回、王都のマップが売られるのよ、ほら!」と言って王都のマップを見せ、「このマップは隠れたベストセラーなの。その理由は食べ物屋の情報が満載なの!」と言う。「えー! マジで? 食べ物屋?」とクロートーが食いついた。メーティス先生がページをめくりながら、「見てよ。星がついている店はおいしい店、最高においしいところが星三つね」と説明した。

 クロートーには地図がわかるらしく、「ねえねえ、こことここに三つ星のお店があるじゃない。近いから行きましょうよ!」と言ったが、メーティス先生が、「無理、無理、むぅーりー。星の多い店は予約しないと絶対に入れないわ」と忠告したとき、横で聞いていたネイトが、「たしかマリシ様がオーナーの店の中に、三ツ星店があったと記憶しております」と言った。


(パラゴ、俺が王都に所有する食品関係の店で繁盛しているところを表示)


 頭の中に一つの店名が浮かんだ。「えーと、『ベルバラ』、じゃなくて、『別腹』だったかな?」とつぶやくと、ネイトがポンと手を打ち、「そうです、『甘味処 別腹』。マリシ様、せっかく王都にいるのですから、オーナーとして視察することを進言いたします」と言い出した。そして、メーティス先生も「マリシくーん、オーナーとして普通のお客の感想を聞くことを進言しまーす」と言い、クロートーも「マリシ、オーナーとして味をチェックすることを進言します」とネイトの真似をした。結局、職権濫用、便乗、フードファイターの3人とともに店に行くことになった。


 昼食時で、店の前には列ができていたが、ネイトは行列を無視して店に入った。すると、店員がやってきて、「お客様、すみません。列の後ろにお並びください」と言ったが、「こちらはこの店のオーナーのマリシ様だ。抜き打ちで視察のため、予約せずに来店した。マネージャーに会いたいのだが?」と言い、迫力に飲まれた店員が、「お、お待ちください」と言って店の奥に走った。まもなく40歳ぐらいの男性がやってきて、「初めてお目にかかります。マネージャーのスガーです」と言った。ネイトは、「こちらはこの店のオーナーのマリシ様だ。先月の売り上げが、いつもの月よりも一割落ち、材料費がいつもの月より二割増えた。この店は優良店ゆえ、心配して衛星都市ザークから、直々に視察に来たのだ」と言うと、スガーは驚いた顔をし、「さ、左様でございますか。それは遠路はるばる、ありがとうございます。ここではなんですから、奥にどうぞ」と言われ、俺たちは休憩室に通された。部屋に入るなり、スガーは、「申し訳ございません。菓子職人が秋の新作スイーツを開発中で、そのために材料費がかさみました。そして、開発の時間をとるために、いつもより多く、店を閉じたのでございます」と言った。

「これだけ繁盛していれば、売り上げを落としてまで、新作に挑戦する必要はないのではないですか?」と訊くと、「お言葉を返すようですが、オーナー、高い質を維持するには、向学心を持ち、初心に戻って仕事をする必要があります。そして、お客様に満足いただくには、自分たちの満足いくものを提供することが第一です。そのために手間をかける必要があります」とスガーが言い、心の底から感心した。

「さすが三ツ星店に選ばれるだけあるなぁ。それで秋の新作メニューは完成したのですか?」と訊くと、「はい。時間がありましたら、新作を試していただけませんか」と言うスガーの言葉に、クロートーがにんまりと笑った。

 まもなく、人数分の秋の新作メニュー4品が並んだ。おいしかったが、俺には甘すぎて、1品で十分だった。俺が残した3品を3人が分けて食べた。いつも小食のメーティス先生まで5品のスイーツを食べたので、よほど美味しかったのだろう。店の名の通り、別腹のようだ。マネージャーのスガーが感想を聞きに戻ってきたので、「とても美味しかったです。俺たちは明後日、ザーク市に戻らなければなりません。この金で事業を拡大してください」と言って、俺は小切手を取り出し、スガーに渡した。小切手とは、書いた金額だけ銀行から引き出すことが出来る紙だ。俺のサインがあれば通用する。

「ありがとうございます」と受け取ったスガーが、小切手を見て、「えっ? 王立銀行の小切手? えっ? 500万イェン?」と言って絶句した。一般王国民の平均年間所得よりもずっと高い金額だ。「たまにしか来れないけれど、この店を応援しています。頑張ってください」と言うと、スガーが深々と頭を下げ、「ありがとうございます。新しい職人を雇って、更なる高みを目指します」と言った。

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