12. ロイヤルファミリーの秘密
しばらくして、主催者の国王陛下がパーティーの終わりを宣言すると、潮が引くように、パーティー会場から人がいなくなった。俺たちが会場に残っていると、来賓用の豪華な部屋に案内された。4人並んでテーブルの前に座っていると、ナイキ国王陛下とイリス王妃殿下、そしてなぜかフェフェが入ってきた。
立ち上がって迎えると、ナイキ国王陛下が右手を挙げて制し、「良い。座ってくれ。国王になると、なかなかプライベートで人に会うことができなくてな。こういう時間は楽しい」と言い、俺の向かいに座った。そして、「先に言っておかねばならぬことがある。このフェフェは、余と王妃の養女だ。このことは一部の人しか知らぬ。フェフェがマリシたちと話したいと言うので連れてきた」と言った。フェフェは、父と母が剣と魔法をやると言っていたが、それが国王陛下と王妃殿下とだったとは驚きだ。
フェフェは笑顔で、「どうかこれまで通り、王国アイドル、フェフェとして付き合ってください」と言い、その隣でナイキ国王陛下がちょっと眉間にしわを寄せた。もしかしたら、アイドル活動をしていることを好ましく思っていないのかも知れない。「みなさん、マリシさんのお仲間なのですよねえ? べラムダさんはどうしたのですか?」とフェフェが訊くので、「ベラムダ弁護士は、チームの頭数合わせに、無理を言ってリストに加えさせてもらっただけなんです。今夜のパーティーにも誘ったのですが、欠席すると連絡がありました。お忙しいのだと思います」と答えると、フェフェは「おかしいと思ったのです。一人だけ普通の人で。ところで、マリシさんの冒険者パーティーって魔術師はどうしているのですか?」と訊いてきた。
俺の代わりにネイトが、「冒険者パーティーのメンバーは、マリシ様と私だけです。マリシ様は魔術師としても一流ゆえ、魔術師不要です」と答えた。どうも、冒険者パーティーは2人だけと言いたかったようだ。フェフェは「ふーん」と言って黙り、イリス王妃殿下が「あまり質問攻めにするものじゃありません」と咎め、「師匠への言伝をお願いしませんと」と言うと、ナイキ国王陛下が、「むっ? そうだった。マリシ、毎年、師匠たちから王室に多額の寄付があり、感謝している。だが、どうか気を使わないで欲しいと伝えてくれないか。余も即位して3年になる。いつまでも師匠に頼っているわけにはいかない」と言った。出発の時、爺から聞いていたが、俺の関与していることではなかったので、「両親は、毎年、欠かさず寄付するように爺に言いつけたようです。爺は死ぬまでその言いつけを守るでしょう」と言うと、ナイキ国王陛下はいきなり笑い出した。そして、「ははは。あの爺なら、そうなるだろうな。しかも死にそうにもないなぁ。ははは」と言い、イリス王妃殿下に、「失礼ですよ」とまた叱られていた。
ナイキ国王陛下は、こちらを見て、「それならば、ありがたく受け取り、有効に使わせていただくことにしよう。政治にはなにかとお金がかかってな。お金をばら撒いて貴族たちを手懐けなければならんこともある。国王の権限が強いと言っても、なかなか好きなようにはできんのだ。貴族たちは既得権益を手放したがらん。ぐっと我慢して貴族の好きにさせねばならぬこともある。だか、余が国王になったのは、王国民のためだ。抵抗勢力に屈せず、王国の改革を進めていきたいと思っている」と言った。ナイキ国王陛下ならやり遂げるだろう。おやじとおふくろがナイキ国王陛下を支援する理由がわかった気がした。
そこへフェフェが、「パパ…じゃなくて国王陛下、マリシさんにフェフェの家庭教師になっていただくのはダメでしょうか」と言った。一体、なんの話だ? ナイキ国王陛下はちょっと眉間に皺を寄せ、「マリシは17歳、お前は16歳。家庭教師と生徒という歳の差ではなかろう」と言うと、「でも、先日の御前試合で、マリシさんの実力はわかったでしょう? フェフェはマリシさんからいろいろ教わりたいのです」と言った。なんだか、家庭内の会話を横で聞いているような感じがして、いたたまれない気分になった。
ナイキ国王陛下は、「ダメだ。王国騎士団にも王国魔術団にも腕の立つ者はいるし、教え上手もいる」と頑なだった。すると、「パパ、もしかして、フェフェにマリシさんを近づけたくないのですか?」と言い、慌てたようにナイキ国王陛下が、「ば、馬鹿者。そうではない。とにかく、ダメだ。マリシは、ここにいる3人の女性と付き合っている。これ以上、困らせてやるな」と言った。ナイキ国王陛下よ、それは大きな誤解だ。
突如としてクロートーが手を挙げ、「あたしは国王陛下の仰られることに賛成です」と言い、イリス王妃殿下が堪えきれず、口元に手を当て、「くくっ」と笑い声を上げた。クロートーは続けて、「あたしはマリシのフィアンセなんです。いくら国王陛下と王妃殿下の養女でも、マリシに家庭教師させるのは、このあたしが許しません」と言った。この場で、一つ一つ訂正したい気分だったが、フェフェはクロートーに取り合わず、ナイキ国王陛下とイリス王妃殿下を見て、「フェフェは同世代の友達が欲しいのです」と言った。イリス王妃殿下が、「今はそういう話をするときでなくてよ」とやんわりとたしなめた。
フェフェは止まらず、「パパとママはマリシさんを昔から知っているのですよね? そしてマリシさんにはクロートーさんって言うフィアンセもいるのに、どうしてフェフェがマリシさんと仲良くしてはダメなのですか?」と言い出し、ナイキ国王陛下とイリス王妃殿下が黙った。
俺は、「僕らは王都に長居できません。冒険者の仕事があるんです。だから、普段は冒険者ギルド本部がある、衛星都市ザークで生活しています。今回、お知り合いになれたのは光栄ですが、一期一会かも知れません。ご理解ください」と口を挟むと、フェフェが、我が意を得たり、という顔をし、「フェフェもCランク冒険者なのです。でも、国王陛下と王妃殿下が、腕の立つ冒険者パーティーに入らなければ冒険者ギルドの依頼を受けてはダメと言うので、依頼を受けたことがありません。ようやく、腕の立つ冒険者パーティーが見つかりました! フェフェも衛星都市ザークに行きます。どうか冒険者パーティーに入れてください!」と言った。なんだか、余計に話がこじれた。
しばらくの沈黙の後、ナイキ国王陛下が俺をじっと見て、「マリシ、国王ではなく、ナイキ兄ちゃんとして言わせてくれ。余の家族のごたごたに付き合わせて申し訳ない。また別に会う機会を設けてもいいか? これから家族3人で話し合いたいんだ。みなの者、すまない」と言った。さっきまで、王国のことを語っていたナイキ国王陛下の、親としての一面を見て、複雑な心境だった。「わかりました。また会うことを楽しみにしています。フェフェさん、僕にとってナイキ国王陛下とイリス王妃殿下はとっても大事なお方なんです。2人の許しなく、あなたを冒険者パーティーに入れることはできません。どうかわかってください」と言うと、「わかりました。せっかくの夜をごめんなさい。みなさんと知り合えて良かったです」と言い、俺をじっと見て、「フェフェはこのまま籠の鳥になりたくないのです。みなさんとお近づきになれるように、今からパパとママを頑張って説得します」と、無理に笑顔を見せ、ガッツポーズをとった。
フェフェの魔術師としての力量はどのくらいだろう? と疑問に思ったとき、パラゴがステイタスを表示した。
『フェフェ。人間族とエルフ族の混血。推定131歳。Cランク冒険者。戦闘レベル2、魔法レベル70』
信じられない文字が並び、声が出そうになった。フェフェがハーフエルフだとすると、誰かが、大きな嘘をついている。




