8. 御前試合『力』
「さぁ、続いて力比べになります。重さ7㎏の鉄球を3回投げ、一番遠くまで飛ばした選手が勝ちになります。王室チームからは、見事な肉体を誇るトンドロ王国騎士団員です。見てください。フェフェの太ももより太い二の腕です! 冒険者チームからは、クロートー選手が登場します。クロートー選手はどちらですかぁー?」とフェフェの声が響いた。すると、「はーい!」とクロートーが観客室に向かって両手で手を振った。進行役のフェフェが、クロートーを二度見し、「え? クロートー選手なのですか? は、はい。確認しました? いいのですよね? はい、失礼しました。クロートー選手です。イベントコンパニオンかと思いました。この体で大丈夫なのでしょうか?」と言った。そんな進行役を無視して、クロートーは観客に手を振り続けていた。クロートーよ、やりすぎだ。
フェフェが、「クロートーさーん、いいですかぁ? こちらに並んでくださーい」と言い、ようやく観客へのアピールをやめてフェフェの隣に並んだ。待っている間、身長 2m近い、岩のような男が、腕組みしてムスッとしていた。
フェフェが、「それでは競技を進めましょう。先行は王国騎士団員のトンドロ選手です。どうぞ!」と言うと、大男は厳しい顔をし、所定のサークルに入ると、鉄球を拾い上げた。大胸筋と広背筋でシャツがはち切れそうだ。鉄球を握り、首のあたりで固定すると、サークル内をステップし、鉄球を押し出すように投げた。
「うぉぉー」と、両手を挙げて雄叫びを上げ、全身の筋肉を硬直させた。鉄球は25mも飛んでいた。どっと歓声が沸き、トンドロがそれに答えるように太い右腕でガッツポーズをとった。
「さぁ、すごい記録が出ました。25mを超えてきました。続いてクロートー選手です。トンドロ選手の記録にどこまで迫れるでしょうか?」と言うフェフェにクロートーが近寄り、なにか囁いた。
フェフェは変な顔をし、「えっ? はい、わかりました」と言った後、観客に向けて、「今、クロートー選手から質問がありました。どんな投げ方でもいいのか、と。どんな投げ方でも良いです! とにかく遠くに飛ばしちゃってくださーい!」と笑顔で言い、会場が笑いと歓声で沸いた。クロートーはまたフェフェになにかを囁いていた。フェフェは、クロートーの顔を見て、確認するような表情をし、「本当に伝えるんですか? そんな心配はないと思うのですが…」と聞こえてきた。
観客席がざわつく中、フェフェが大きく息を吐き、「クロートー選手からのお願いなのです! 危ないので、サークルの正面に座るお客様は、横にずれて欲しいとのことです。ここから客席まで200mはありますが、みなさん、クロートー選手の指示に従ってください」と言うと、場内が一瞬、シーンとなった後、すぐに笑い声と歓声で盛り上がった。クロートーよ、まさか本気を出す気か?
すでにクロートーはサークルに入っていて、手加減しろと伝えることは無理だった。クロートーは7㎏の鉄球を、手のひらでポンポンとはじくと、鉄球をもつ右手をお腹の前に置き、左手を添えた。そして両手を高く上に挙げ、身体を弓なりに反らせた。形の良いバストに場内の男性陣の視線は釘付けだろうが、こっちは気が気じゃない。クロートーが本気を出したらヤバいことになる。
クロートーは長い左足をまっすぐに上に挙げ、一瞬、ピタリと止めると、そのまま大きく左足を踏み込み、全身を鞭のようにしならせながら捻り、流れるようなモーションで鉄球を投げた。
「どーりゃ!」と気合の入った掛け声とともに、投げた鉄球は一直線に飛んだ。そして、すさまじい破壊音を立てて客席前の壁にめり込んだ。
目の前につき刺さった鉄球に、観客はスナックの入った袋の中身をぶちまけ、隣の観客は飲み物のカップを落とした。会場が水を打ったように静まり返るなか、壁にめり込んだ鉄球がぼとりと地面に落ちた。
言葉を失う進行役のフェフェの横で、クロートーはピョンピョン跳んで「やったー!」と喜び、やがて歓声が沸いた。
正気を取り戻したフェフェが、「し、信じられません。クロートー選手、なんという怪力なのでしょう! あっ、ち、ちょっと待ってください。審判団のチェックが入ります。魔法を使っていないか、今から王国魔術団員が確認します」と告げた。
クロートーの周りに審判の魔術師が集まり、身体にマナの残留がないかをチェックし始めた。マナの残留などあるはずがない。クロートーの身体にはまったくマナがなく、パラゴはいまだにクロートーの位置を感知するのに手こずるくらいだ。そして、パラゴに言わせると、完璧な人間族だそうだ。
思ったとおり、審判団の審査結果はすぐに出た。審判団から結果を聞いたフェフェは、「ただいま審査結果が出ました。不正はありません! 魔法を使っていません! つまり、つまり、純粋に『力』なのです。な、なんという怪力でしょうか。あっ、トンドロ選手、棄権しました。この瞬間、クロートー選手の勝ちが決まりました。冒険者チームに2ポイント入ります」と言った。その隣で、クロートーが「やったー!」とまた叫んでいた。
「早速、クロートー選手にインタビューしましょう。すごい結果が出ました。おめでとうございます」とフェフェが言うと、「ファンのみなさん、応援してくれて、ありがとう」と言った。クロートーよ、観客にお前を知る者はいないぞ。フェフェはネイトとは別の意味でやりづらそうで、ちょっとひきつった笑みを浮かべた。
「独特な投げ方でしたが、練習していたのですか」も訊かれ、「一生懸命練習しました! みんなのために」とクロートーが嘘をついた。
「普段はCランク冒険者と聞きましたが、力をつかう仕事が多いのですか?」と訊かれると、「そんなことありません! 今日はファンのみなさんから勇気と力をもらいました。これからも応援よろしくねー!」と言い、なぜか観客席から歓声が上がった。
「それにしてもすごい力でした。みなさーん、勝ったクロートー選手に、もう一度、拍手をお願いしまーす」と、フェフェが締めくくった。微妙に噛み合っていないインタビューだったが、会場は盛り上がった。王室チームだけはお通夜のようだった。




