表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第1話 忘却の迷宮
5/373

5. ギルドマスターと有能冒険者ギルド職員

 移動ポッドが『忘却の迷宮』をショートカットしてはくれたが、不透明鉱石を持っていたため、ダンジョンを抜けるのに1日かかった。外に出ると、夜風が冷たかった。再び移動ポッドを分解してアーマーとして身にまとい、円筒の掘削装置と不透明鉱石を背負い、山を下りることにした。

 オブリビオン山にはほとんど植物が育っておらず、山肌は固い石で覆われている。土砂はなく、雨が降っても崩れることはない。山道は整備されていないので、岩陰に潜む生き物に注意しながら、月明りを頼りに山を下っていった。斜面は急勾配で、途中、何度か滑り落ちたが、外装甲のおかげで衝撃はなかった。

 山麓に置いた馬車に辿り着いたときにはもう空が白んでいた。幌馬車に入って、3時間ほど仮眠をとり、明るくなってから出発した。御者台に乗り、手綱を取ってゴーレム馬にマナを流した。一般に『ゴーレム』とは、人型二足歩行の人形を言うが、ゴーレム馬はラボで開発したもので、動力カートリッジのマナで、馬のように4つ足が動く魔道具だ。パッと見で魔道具とわからないように馬っぽく偽装していた。

 冒険者ギルド本部がある衛星都市ザークは、ここから西に50kmのところにあり、普通の馬車なら7-9時間かかるが、このゴーレム馬車であれば2、3時間で到着する。衛星都市ザークへの、平たんな、荒れた土地を移動していった。この辺りは、人を襲う、野生の生き物が出没することはあるが、多くは夜行性で日のあるうちは心配しなくて良かった。ここよりもっと北に行くと、キリーリー川があり、農耕に適した肥沃な土地があった。

 太陽が高く上るお昼ごろ、衛星都市ザークの外壁が見えてきた。東門を通るには衛兵の検問が必要なのだが、普段から衛兵たちにたっぷりお金を渡していたので、軽く会釈するだけで顔パスだった。

 冒険者ギルド本部の前にゴーレム馬車を停め、半透明鉱石を持って建物の中に入った。受付業務をしていたネイトがすぐに気づき、俺のところにやって来た。持っている半透明鉱石で察したのか、「さすがです」と言ったが、「まだ中途半端な報告しかできない」と答えるしかなかった。なにせ、わからないことが多すぎる。

「すぐにギルドマスターをお呼びします。こちらへどうぞ」と、冒険者ギルド本部の奥に通された。


 応接室に通されてまもなく、ネイトがポニーを連れてやってきた。「よお、マリシの旦那。どうだった?」と訊かれ、「『忘却の迷宮』の地中から面白いものを見つけてきた」と答えると、ポニーのギョロ目がさらに見開かれた。

「おう? 相変わらず、仕事が早いな」と早くも興味津々だった。ポニーとネイトに、半透明鉱石と赤色鉱石を見せながら『忘却の迷宮』の地下空間のことを説明した。そして、腰の収納ポケットから小さく折りたたんだ金属板を取り出し、「今の文明のものでないのは間違いないだろうな。これだけ薄く、しなやかな金属なのに折りたたんでも皺ひとつつかない」と広げて見せた。

 金属板をじっと認めるポニーが、「なにが書かれているんだ?」と質問したが、「正直なところ、まったくわからない」と答えるしかなかった。ポニーとネイトにはパラゴのことは秘密にしていたので、文字の解析させていることは伝えなかった。

「なにか、こっち(冒険者ギルド)でできることはあるか?」と訊かれたが、「いや、大丈夫だ。鉱石の分析はうちのラボでやる。新しいことがわかったら報告するよ」と答えると、ネイトが一瞬、眉間に皺を寄せた。

「あっ、そういえば、『忘却の迷宮』だが、ちょっと厄介なことをしてしまった」と言うと、ポニーが「おう?」とこちらを見た。「脱出の時に、23層目から20層目までの床をぶち抜いた。ごめん」と謝ると、ポニーが「そ、そうなると、下層の魔物が這い上がってくるぞ…」と呆然とし、ガクリと項垂れた。そして、指を折りながら、「…ダンジョン攻略中の冒険者の安全確保、ダンジョン修復費、ダンジョン閉鎖に伴う収入減、魔物出現への対策費、タールベール公への報告、ううぅ…」と呻いた。そこへ、「案ずることはありません」とネイトが言い、ポニーは「おう?」と奇妙な声を出し、立っているネイトを見上げた。

「この一週間は『忘却の迷宮』への冒険者の入場は禁止していました。今、ダンジョンを攻略している冒険者はおりません。したがって、冒険者の救出作業は不要です」と説明した。「お、おう…?」と驚くポニーの様子からして、ネイトが独断で、ダンジョンへの立ち入り禁止にしたのだろう。

 続けて、「穴を塞ぐ費用は、マリシ様からの寄付で賄えます。冒険者ギルドの決まりで、寄付は予算に入れないことになっていますから、改めて予算を計上しなくても処理できます」と言い、「おう!」とポニーの眼に生気が戻ってきた。

「ザーク市の経済への影響ですが、今回のダンジョン閉鎖に伴う収入減は一時的で、すぐに回収できると思われます。オーパーツが出たという噂で、より高ランクの冒険者が集まれば、衛星都市ザークの経済が活気づくでしょう。タールベール公へはそのようにお伝えください」と言ったときには、「おう! おう!」とポニーは完全に復活した。

 最後にネイトが、「ダンジョン周辺に問題が生じた場合、ギルドマスターが警備の仕事を依頼することを進言します。もし想定外に高レベルの魔物が出現した場合には、私が討伐隊を組みましょう」と言うと、「おう! おう! おう!」とポニーが喜んだ。ポニーよ、お前はそれしか言えないのか…。もはやどちらがギルドマスターなのか、わからない。

 ネイトに「せめてものお詫びに、この街の俺の貯金の半分を冒険者ギルドに寄付しようか? いろいろと金がかかるだろうし」と提案すると、ネイトが眉をひそめ、「それを実行すれば、銀行が対応しきれず、取り付け騒ぎが起こります。衛星都市での取り付け騒ぎは、王国の金融制度に対する信用不安を起こし、金融恐慌を引き起こしかねません。この街で動かせるのは、貯金の10 %が限度です」とたしなめられた。おやじとおふくろはそんなに金をくれていたのかよ。


 ポニーに挨拶して、応接室を出るとと、後ろからネイトに話しかけられた。「ラボでの解析は、もしかして、あの()()に依頼するのですか?」といつになくきつい口調だ。ネイトが女狐と呼ぶのはメーティス先生のことだ。「ま、まあ、そうだ。先生はラボの仕事、俺は俺の仕事、のつもり…」と答えると、ネイトはこちらをじっと見つめ、「あの()()を必要以上に信用しないほうが良いと強く進言いたします」と言った。ネイトにとって、俺の周りの女性はすべて「敵」であり、「邪魔者」であるようだ。

「わ、わかっているって」と答えると、ネイトが視線を落とし、「私のことをほったらかしにし過ぎです。私は今すぐにでもここを辞めてダンジョンにお供したいのに…」と言い出した。そして、「私が冒険者を辞めたのは、マリシ様と一緒にいたいからです」とも言われた。

「そ、そう言われても、俺は単独(ソロ)で依頼をこなすのが好きだから…」としどろもどろに答えると、「わかっています。私のわがままだから、ずっと我慢しています」と小さな声で言われた。本人はそう言うが、Aランク冒険者のネイトに、1年も事務仕事をさせた負い目はある。「じゃあ、久しぶりに、今夜、一緒に夕食でもどうかな? 積もる話もあるし」と罪滅ぼしのように誘うと、急にネイトが顔を上げ、「ありがとうございます。楽しみです」とニコリと笑った。もしかして、この展開を読んでいたのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ