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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第3話 エルフ族の街
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6. 軍法会議は踊る

 軍法会議の日、ネイトとともに王城に向かった。俺は役人の制服のように地味な『重軽装』正装1番を、ネイトは冒険者ギルドの職員スーツのような『重軽装』正装2番を着ていた。

 城門の衛兵に出頭命令の書かれた書簡を見せると、俺が来ることを通達されていたらしく、居館の一階にある広い部屋に案内された。

 裁判が行われる部屋の一番奥には高い席があり、横並びに5人程度が座るようになっていた。その前の一段低いところには、裁判長、裁判員が座る11席があり、部屋の真ん中に被告人の席があった。俺たちは正面に向かって左側の弁護側の席に座らされた。

 まもなく黒い制服で帯刀した者と黒い制服で杖を持った者が入ってきて、正面の席に座った。一目で王国騎士団員と王国魔術団員だとわかった。その後、俺たちと反対の壁際に、内部調査官たち2人が座った。最初から弁護席に座っていたせいか、ネイトが部外者と気づく者はいなかった。

 遅れて20歳代後半の、猫背の男性がやってきた。眼鏡で、服装は地味、色が白く、身長は160cmぐらいだろうか。書類の束をもってこちらに来ると、「マリシさんですね。ご足労頂いてすみませんでした。私は被告側の弁護士を務めるベラムダというものです」と挨拶した。

『人間。男性。28歳。戦闘レベル3、魔法レベル26、職業レベル46』とパラゴが表示したが、あまりパッとしないステイタスだ。男は愛想笑いを浮かべ、「今日の軍法会議はジュークという騎士団員が被告になっています。

王国民と立ち会って斬られたという容疑、そして王国民を傷つけたという容疑の2つについて審議されます。被告のジュークから、ようやくマリシさんの名前を聞き出したので、重要参考人としてお呼びしました。このままでは、ジュークは死罪になります。どうか裁判で本当のことを話してください。よろしくお願いいたします」と言った。

 今の今まで、自分の潔白を証明しようと覚悟して出廷したのだが、俺を裁く裁判ではないようだ。この弁護士、どうしてそんなに大事なことを伝えてくれなかったのだろう。大騒ぎしてみんなを王都に連れてきたことを恥ずかしく思い、隣のネイトをチラリと見ると、安堵の笑みを浮かべていた。

 やがて関係者が揃い、被告であるジュークという王国騎士団員が法廷に連れてこられた。俺が腕を斬った男で、こちらを見て驚いた顔をしたが、すぐに目をそらした。裁判官が席に着き、衛兵が部屋に入り、「国王陛下、入室いたしまーす!」と叫んだ。

 関係者がガタガタと立ち上がり、俺とネイトもそれに倣った。ナイキ国王陛下は金髪を後ろになであげ、立派な口髭と顎髭を伸ばしていた。意志の強そうな、精悍な顔つきで、引き締まった体つきは昔と変わっていなかった。正面の一番高い席に上がり、眼光鋭く、全体を見まわした。

 国王陛下が着席すると、全員が再び席に着き、正面中央の裁判長が、「それではこれから王国騎士団員ジュークの審議を始めます」と開廷を宣言した。そして、「容疑は2つ。一般王国民と立ち会い敗北したこと、そして、一般王国民を理由なく傷つけたということです。最初に内部調査室からどうぞ」と言い、内部調査室の若い女性が立ち上がった。

 パラゴが『人間。女性。31歳。戦闘レベル3、魔法レベル3、職業レベル60』と表示し、俺たちの弁護士より優秀だとわかった。

「えー、最初の容疑は明白です。右腕を斬られ、回復魔法で治療した痕跡がありました。王国騎士団員としての資質に疑問があり、身分剥奪相当と考えます。次に正規の手続きを踏まずに、一般王国民の家に押し入ったと供述しています。これは死罪に相当します」と、いきなり厳しいことを言ってきた。

 裁判長は淡々と「続いて被告の弁護人どうぞ」と言った。べラムダ弁護士が立ち上がり、「今回の一件については不明な点が多々あります。被告が王都から離れた衛星都市ザークに、たった一人で(おもむ)き、一般王国民と戦闘するということがあり得るのでしょうか? 裁判長、私は重要参考人として、被告と戦闘した一般王国民を招聘(しょうへい)しました。その者に当時の状況を証言させても良いでしょうか?」と言うと、裁判長は「許可します」と言った。

 俺が立ち上がると、法廷内の目が一斉に集まった。虚偽の証言をしないことを誓わされ、虚偽の証言をした場合、罪になると伝えられた。

 べラムダ弁護士が、「マリシさん。職業は何ですか?」と質問し、「冒険者です」と答えた。「では、事件が起こった当日、あなたはなにをしていましたか?」と問われ、「仲間と一緒にいました」と答えた。「マリシさん、あなたが被告の腕を斬ったのは事実ですか?」と言うので、「はい」と答えるしかなかった。「それは一対一の正当な立ち合いでしたか?」と訊いてきたので、「違います。僕が戦闘したのは4人でした。3人は気を失い、反撃できなかっただけです。戦ったのは僕一人でした」と答えた。

 みなが固唾を飲んで見守る中、ベラムダ弁護士が「その4人はどのような人物ですか?」と訊いた。すると、向かいにいた若い内部調査官が、「異議あり。本件と関係ありません」と声を張り上げた。

 裁判長は、「異議を認めましょう。弁護人、本件に関係ある質問にしなさい」と言った。ベラムダ弁護士が額の汗をぬぐった。なにか頼りない男だ。

「では、マリシさん、被告が一般王国民のあなたを傷つけたという事実はありますか?」と問われ、「こちらが傷つけられた事実はありません」と答えると、内部調査室の女が手を挙げ、「裁判長、重要参考人に質問しても良いでしょうか?」と言ってきた。裁判長が許可すると、気の強そうな内部調査室の女が、「あなたの年齢はいくつですか?」と言うので、「17歳です」と答えた。

 ちょっと馬鹿にするような顔をして、「常識的に考えて王国騎士団員1人を含む4人と戦って、無傷で相手を倒したとは考えにくいです。あなたの妄想ではありませんか?」と言った。

(宿主様、ネイト様の殺意が上がっています)とパラゴが警告したが、それを無視し、「妄想癖はありません。私はSランク冒険者です。これも妄想ではありません」と言うと、ちょっと笑い声が起きた。

 裁判長は困った顔をし、「被告弁護人、招聘した重要参考人の身元を証明することはできるのかね」とボソボソ尋ねると、ベラムダ弁護士が、「えーと、衛星都市ザークの冒険者ギルド本部のギルドマスターは証人に立つことができると思います」と言った。

 内部調査室の女がすかさず、「裁判長、この裁判は、この青年の身分を証明するためのものではなく、被告の罪状審議です。これ以上、長引かせるのは無意味です」と言った。そこで、俺が手を挙げると、裁判長は嫌な顔をした。重要参考人の立場で、自発的に発言するのは、嫌がられるようだ。仕方ないとでも言うように、「重要参考人、手短にどうぞ」と言われた。

「裁判長、ありがとうございます。私の妄想かどうか証明するのに、被告と同じレベルの王国騎士団や王国魔術団と試合すればいいのではありませんか? 先日の王国騎士団員や王国魔術団員と同じレベルであれば、私や私の仲間が負けることはないと思います」と挑発した。場内がしーんとし、続いて、その場にいた王国騎士団員や王国魔術団員からひりひりするような怒りを感じた。裁判長はどう収拾しようかと考えるように黙ると、一番奥にいたナイキ国王陛下が、「ははは。小気味良いではないか」と笑い出し、「その青年は王国最強を誇る王国騎士団と王国魔術団に喧嘩を売っているのだ。その心意気を買って、御前試合としよう」と宣言した。国王の言うことは絶対だ。

 裁判長はしぶしぶのようではあったが、国王の提案を受け、「それでは王国騎士団長と王国魔術団長に問います、どのような試合にしますか?」と話を向けると、裁判長と同じ席に並ぶ、黒い制服を着た、鷲鼻の中年男が手を挙げ、「古より御前試合は、『技』、『力』、『魔術』、『剣』を競うものと決まっておる」と硬い表情で言った。俺が手を挙げると、今度は裁判長も不機嫌そうに、「重要参考人、手短にどうぞ」と言った。

「こちらの希望は、『技』は弓をつかった個人競技、『力』は力を比べる個人競技、『魔法』は魔道具を含めた対戦です。『剣』はお任せします」と言うと、王国騎士団長は裁判長の許可も得ず、「良かろう。『剣』の競技は2対2で、剣士と魔術師のペアで良いか?」と言い、「わかりました。こちらが勝てば被告の名誉と身分を挽回してやってください」と答えた。

 裁判長は自分抜きに話が進み、苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、「王国魔術団長殿はいかがですか?」と確認した。すると、鷲鼻男と同列の、のっぺりとした顔の老人が、「儂はそれで良いよ。勝負は1週後で良いな?」と言ったので頷いた。

 裁判長はうんざりした表情を浮かべ、「では、これにて休廷。1週間後の御前試合の後、最終審議に移ることにしまーす」と宣言した。


 軍法会議後、ベラムダ弁護士は怒っていた。「なんてことしてくれるんですか。有利な裁判ではありませんでしたが、滅茶苦茶ですよ。なんですか、御前試合って! 王国のエリート相手に、勝算はあるんですか?」と詰めてくる。

 ネイトが聞こえるように、「マリシ様が勝算なく、勝負を挑むわけがないのに」と独り言を言い、ベラムダ弁護士は黙ってネイトを睨みつけた。そして再び俺を見て、「こういう法律を無視したやり方は、僕は好きではありません!」と言った。「僕たちが勝てば、ジュークは無罪放免になるようにしてやったんですよ。裁判を続けるより分がいいでしょう?」と言うと、「勝てる可能性なんてゼロですよ」と言うので、「そんなことありません。それより魔術師が一人足りないので、ベラムダ弁護士、試合への出場をお願いします」と頼んだ。目に見えてベラムダ弁護士が動揺し、「ぼ、僕は弁護士です。魔術師の役目は無理ですよ」と拒むので、「あなたが魔法を使うのはわかっています。お願いです」ともう一度、お願いした。

「そ、そりゃあ、一時期は魔術師の修業をしたけれど、芽が出ないので辞めました。王国魔術団とやりあうなんて、とても無理です」と言った。たしかにあの魔法レベルなら王国魔術団員とやり合うのは無理だろう。

「メンバーになってくれるだけでいいです。あとは僕が何とかしますから。そうだ、今から家で作戦会議でもどうです?」と言うと、ベラムダ弁護士が首を振り、「嫌です。僕は魔術師として御前試合に出る気なんてありません」と言いきった。すると、ネイトが、「マリシ様を呼びつけておいて、今更、自分は関係ないはないだろう」と冷たく言った。

 ベラムダ弁護士はネイトを見て、「さっきからあなたは誰ですか? 法廷書記官?」と訊き、ネイトは澄ました顔で「マリシ様の護衛だ」と答えた。ベラムダ弁護士が目を剥き、「えっ? ええー? 部外者? 軍法会議に部外者? それはまずい、さすがにまずい。責任問題になるよー!」と悲鳴を上げた。

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