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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第3話 エルフ族の街
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4. 招かれざる客ほど遠慮ない

 研究室を出て、ラボと屋敷をつなげる廊下にいくと、屋敷から来た爺と鉢合わせになった。爺はいつもと同じように落ち着いた様子で、「ぼっちゃま。ギルドマスターと2人の男が会いたいとのことです。事前に連絡がなかったのでお引き取り願いたいと申したのですが、ギルドマスターが、今、会っておいた方が面倒なことにならないとおっしゃるので、お取次ぎしに参いった次第です」と言った。

「わかった。ギルドマスターはどんな様子だった」と屋敷に向かって歩きながら爺に尋ねると、「やむなく案内してきた、という様子です」と言った。事情は知らないが、ポニーは仲裁役を買って出てくれたようだ。

「残る2人はどんな感じだった?」と訊くと、「おそらく、王国騎士団と王国魔術団の一員と思います。履いている靴が王国から支給されたものでした。一人は帯刀し、一人は杖を持っておりました」という。さすがうちの執事、見るところを見ている。「わかった。爺は屋敷にいてくれ」と言って、ネイトと一緒に屋敷の玄関に回った。


 パラゴの地図では、屋敷の前に3つ、そこから離れた敷地内に3つ、赤い点があった。屋敷の前に行くと、困惑気味のポニーと2人の男が待っていた。

 すぐにパラゴが、『人間。23歳。王国騎士団員。戦闘レベル 73、魔法レベル 3』、『人間。32歳。王国魔術団員。戦闘レベル 4、魔法レベル 71』と表示した。

 俺の戦闘レベルは83、魔法レベルは82だ。同時に2人を相手しても勝てないことはなかったが、穏便に済ませたい。努めて明るく、「やあ、ギルドマスター。お久しぶりです。今日はどういうご用件ですか?」と言うと、「マリシの旦那、実は…」と言うポニーを遮るように、王国騎士団員が一歩前に出た。黒いマントを付け、腰からは剣の柄が見えていた。平服の下には、チェイン・メイルぐらい身に着けているのかもしれない。

 厳しい顔で、「お前がここの当主のマリシか」と()うてきた。「そうです。なにかご用でも?」と答えると、「お前に、ある嫌疑がかかっている」と言った。すると、隣の王国魔術団員が右手を挙げ、王国騎士団員を制した。こちらの方は黒いマントに、フード付きローブ姿で、杖を持っていた。なんとなく嫌な感じのおっさんだった。

「冒険者マリシ。貴様にかかっている嫌疑は王国転覆罪である。この地で王国を脅かす武器を開発しているそうじゃな。このまま逮捕する。ついて来てもらおうか」と、なんか鼻にかかったような声で言われたが、寝耳に水だ。「王国転覆罪?」と聞き返した。よりによって一番心当たりのない罪の嫌疑がかけられるとは…。

 ポニーがスキンヘッドの頭を掻きながら、「な、なぁ、このマリシという男は間違っても王国転覆などを企むことはありませんぜ。見ての通り、まだ成人したばかりですし…」と口を挟んだが、王国騎士団員と王国魔術団員はこちらを見据え、ポニーの言葉を無視した。

 俺は肩をすくめ、「まったく身に覚えがありません。国王からの命令書でも出ているんですか?」と訊くと、王国騎士団員が「お前ごときの逮捕に、国王陛下の命令書はいらぬ」と言った。「突然のことでこちらも混乱しているのですが、王国転覆罪と言えば王国を揺るがす大罪です。それなのに、国王の命令書もなく、王国騎士団と王国魔術団が動くのは正式な任務なのですか?」と詰めると、王国魔術団員が、「貴族からの申し立てであるぞ。反抗的な態度をとるなら、力づくで逮捕することになる」と抑揚のない声で答えた。

「反抗的な態度を改めたとしても、納得いかないので抵抗はしますよ」と言ったとき、パラゴが(宿主様、王国魔術団員が詠唱を始めました)と警告した。俺は素早く手印を組み、【身体強化】の魔法を発動すると、王国魔術団員に跳びかかり、魔法が完成する前に当て身を食らわせた。他愛もなく、王国魔術団員は気を失った。

 王国騎士団員の動きは速かった。マナを巡らせた剣で斬りかかってきたので、振り向く動作と同時に剣を抜き、マナの巡った刀で相手の剣を切断した。両刃の長剣を斬られた騎士団員は、一瞬、動揺の色を見せたが、日頃の訓練の賜物か、すぐに腰に刺した短刀を抜いた。さすが王国騎士団員だけある。やむなく王国騎士団員の右腕を斬り飛ばした。

 王国騎士団員の腕から血が噴き出し、「うっ…」と小さく、呻いた。気の毒だが、斬らないとこちらが斬られていた。ネイトはダガーを抜いて、臨戦態勢だった。

「残る3人を斬ってくる! 2人はここで身を守れ!」と叫ぶと、ポニーが「おう!馬車の中にいるのは貴族の配下だ! 斬ったら大ごとになる!」と忠告してくれた。「わかった! ポニー、そいつの腕を繋げておいてくれ。ネイト、無茶するなよ」と言って、馬車の方に走った。

 逮捕が失敗に終わったのは、離れた3人にもわかったようだ。馬車の前にいた王国騎士団員が剣を抜くのが見えた。


『人間。38歳。王国騎士団員。戦闘レベル71、魔法レベル4』

『人間。35歳。王国魔術団員。戦闘レベル4、魔法レベル70』


(宿主様、王国魔術団員は詠唱を完成させています)(種類は!)

(【障壁】です)


【障壁】は物理攻撃を防ぐ魔法で、戦闘が始まると決まって魔術師はこの魔法を発動する。右手に輝く剣を持ったまま、左手で手印を組み、【無音】の魔法を発動させた。向かう先に静寂が拡がり、シンとなった。こちらが魔法を使うとは思っていなかったらしく、王国魔術団員が動揺し、口をパクパクさせた。

 王国騎士団員は両手に剣を持ち、斬りあう気満々のようだが、こっちにその気はない。

 左手で【火球】を発動させ、そのままひょいと投げてやると、案の定、マナを込めた剣でそれを斬り、爆発に巻き込まれて吹っ飛んた。ほとんどの奴は無造作にものを投げられたら、反射的に剣で斬ってしまうのだ。加減したので、死んではいないだろう。

 動揺する王国魔術団員の【障壁】の魔法は、マナを巡らせた刀で斬り裂いた。そうする必要はなかったが杖を斬り、当て身を食らわせて眠らせた。

 馬車まで走ると、その扉を斜めに斬った。馬車の中には、背の低い、中年の男がいた。見たことがない顔だが、身なりで、ポニーの言っていた貴族の配下とわかった。

「僕の声は聞こえますね?」と言うと、恐怖で固まっていた貴族の配下が、かろうじて首だけ動かした。「こちらにはあなたの声は聞こえません。肯定なら首を縦に、否定なら首を横に振ってください。間違えると、僕も判断を間違えます」と静かに脅すと、貴族の配下は何度も首を縦に振った。

「王国の正式な手順を踏んでの逮捕ですか?」と訊くと、貴族の配下は戸惑った後、首を横に振った。

「あなたの主人に伝えてください。これっきり当家にもギルドマスターにも関わらないようにしていただきたい、と」と言うと、貴族の配下は首を縦に振った。

「これ以上の詮索はしません。お連れを怪我させたことは謝罪します。手加減しては、こちらが殺されかねませんでしたから。このままお引き取りいただけますか」と訊くと、貴族の配下は何度も首を縦に振った。剣を鞘に収め、ぱちんと指を鳴らし、【無音】の魔法を解除した。とたんに、風の音や、馬の鳴き声が聞こえた。

 馬車から離れ、ネイトとポニーの元に戻ると、腕を斬られた王国騎士団員が、「貴様! ただではおかんぞ!」と怒鳴った。ポニーの回復魔法のおかげで、腕はつながっていたが、失血で顔色が悪かった。

 王国騎士団員を無視し、ポニーに「貴族の部下と話をつけてき た。今後、当家やギルドマスターと関わりを持たないそうだ」と告げ、ネイトに「ギルドマスターを応接室に通してくれ」と頼んだ。ネイトはポニーを連れて、屋敷に入った。

 俺を睨みつける王国騎士団員に、「悪く思わないでください。斬らなければ、こちらが斬られていましたから」と声をかけた。「貴様がいきなり攻撃してきたから不覚を取ったのだ」と言われたが、「先に詠唱を始めたのは、あなたの仲間です。僕が不意打ちをしたわけではありません」と返すと、王国騎士団員は呻くように、「そ、その通りだ」と答えた。

「僕がこれほど自信をもって話せるのは、今回の容疑にまったく身に覚えがないからです」と言うと、王国騎士団員はなにも言わなかった。「あなたも、気づいているのではないですか? これは正規の手続きを踏んだ任務ではないと。これっきり、なかったことにしてください。それが僕の要求です」と言うと、若い王国騎士団員が頷いた。そもそも気乗りしない任務だったことが表情からわかった。

「では、そこで寝ている魔術師と、向こうのお仲間二人を連れ帰ってください」と言って、王国騎士団員を残し、屋敷に戻った。


 応接室でポニーとネイトが待っていた。ポニーが表情をこわばらせ、「マリシの旦那、面目ねぇ。俺のところで止めておければ良かったんだが、案内しないと収まりがつかない状況だった」と言った。「ポニーが大変だったのは察している。あの貴族について知っているか? 俺はまったく覚えがない」と言うと、ポニーが首を振り、「俺も知らん。王国騎士団員や王国魔術団員を連れているということは、王国内でそれなりの地位にいる貴族だろう。冒険者ギルド本部に来るなり、『マリシという冒険者を知っているか』と訊かれてな。俺が対応すると、マリシの旦那が当家を愚弄しているとか、武装して王国の転覆を狙っているとか言い出したんだ。『それは俺の知っているマリシって男ではありません。そんな話は聞いたことがない』と突っぱねたんだが、『ここでわからなければ他を当たって探し出す』って言うんで、俺がついてきた次第だ」と言った。知らないところで俺を守ってくれたポニーに感動したが、礼を言うのが照れ臭く、「手間をかけたな」と短く言うにとどめた。

 横からネイトが「よろしいでしょうか」と口を挟み、「前任の武器屋の店主を解雇してから貴族からの注文をお断りしていると聞いています。逆恨みされたのではないでしょうか?」と言った。ポニーが、「その程度のことで、マリシの旦那を犯罪者にするか?」と言うので、「見栄やプライドがかかると、人は正気を失うからなぁ」と言うと、「わははは。悟りきった老人みたいだぞ」とポニーに笑われた。そして、「マリシの旦那、気をつけてくれよ。冒険者ギルドの方でも、おかしな動きがないか注意しておく」と約束してくれた。

 ポニーに馬車を用意し、冒険者ギルドに送らせ、その日は終わった。その後、集めた情報で、ネイトの推理通り、武器屋の元店主ワートの解雇が、今回の事件の発端らしいとわかった。迷惑な話だった。

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