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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第3話 エルフ族の街
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3. 勝負の行方はバイト代にかかわる

 研究員たちが次の実験の準備をしていると、ネイトが近づいてきた。なにか言いたげだったので、「どうした?」と訊くと、「さきほどの剣技はなんというのですか?」と言うので、「あれは居合いっていう技だ。剣を抜いた動作で敵を倒す、あるいは敵の攻撃を受け流して、次の一撃で敵を倒す。さっきも斬る瞬間に最大限のマナを流した。今度、ネイトに剣を教えるよ。きっと向いていると思うぞ」と言うと、人前で滅多に表情を崩さないネイトが喜んだ顔をした。俺としても、ネイトがダガーで敵に襲いかかるよりも、長さのある剣を扱ってくれた方が、安心していられる。ネイトなら、さほど時間をかけずに剣技を修得できるだろう。

 実験室内に、さまざまな形をした盾が6つ並び、胸ぐらいの高さの台にがっちりと固定された。メーティス先生が笑顔で、「はーい、次、クロートーちゃんの番ね」と声をかけると、「おおーっ!」と、気合いの入りまくったクロートーが雄叫びを上げ、手に持つアトロポスの杖を掲げた。なにを始める気なんだ?

「みなさーん、お待ちかねー。第一回、マリシ杯を始めまーす。今日は、あたしたちのラボのオーナーにして、剣の達人、魔法の達人、大金持ち、イケメンと三拍子揃ったマリシくんが、みなさんがたの研究成果を見てくれまーす」とメーティス先生が声を張り上げ、実験室内に拍手が沸いた。「マリシ杯」って初耳だし、三拍子と言いつつ四つ挙げているが、指摘する気にもならなかった。

「ルールは簡単よー。同じ素材、同じ重さ、同じ面積の盾の強度を競いまーす。どのチームも形に工夫を凝らしたと思うから、楽しみにしてまーす。実戦を想定して、クロートーちゃんにみなさんがたの作った盾を突いてもらいまーす。盾が破れたらみなさんの負けねー」とメーティス先生が言うと、研究員たちの間に微妙な空気が流れた。女子が盾を突いて破れるのか?という反応だ。部下にしてみると、メーティス先生の天然ぶりに、どこまで真面目に取り合っていいのか困るのだろう。

 クロートーは、そんな雰囲気にのまれることなく、「よろしくお願い申し上げます!」と言って、ビシッと敬礼した。劇に出てくる門兵のようで、周りは苦笑した。

「勝ったチームにはマリシくんから賞金が出ます。勝者がいなければクロートーちゃんが賞金をもらいます」と言ったが、こちらは初耳だ。この成り行きだと賞金を出すしかないようだ。

「クロートーちゃんが勝ったら賞金出すわ。それが、バイト代ね。負けたらバイト代、出ないわよ」と囁いているのが聞こえた。「おおーっ!」と、クロートーは素直に返事していたが、詐欺を働くのは頭の良い奴というのは本当のようだ。

 並んだ盾の形を見ると、一つとして同じ形のものはなかった。いかにして外力を分散させ、盾に負担をかけないかを競うようで、なかなか面白い企画だと思った。

 クロートーがラストニア合金製の180cmの棒を構えたが、隙だらけで、まるでなっていなかった。再生能力があるせいか、防御を考えていないのも見てとれた。つまり、素人の構えなのだ。

 研究員たちが微笑ましく、見守る中、メーティス先生が、「じゃあ、クロートーちゃん、お願いねー」と言った。クロートーが、「おおーっ!」と答え、またしても悪意のない笑い声が起こった。

 モデルのようなプロポーションのクロートーが盾の前に立ち、大きく棒を振り回し、一つ目の盾に叩きつけた。ガシャーンと、もの凄い音を立て、一撃で盾が潰れた。

「ひとーつ!」と、クロートーが叫んだ。目を疑う光景に、その場にいた研究員たちが笑顔のまま凍りついた。

「ふたつめー!」という、掛け声に続いて、次の盾も壊された。鋭いとは言えないアトロポスの棒が、盾を貫いているのだから、どれだけの力が込められているのか、想像できない。クロートーにしてみれば、今日のバイト代がかかっているのだ。気合が入るのは当然だろう。

 その後、「みっつ!」、「よっつ!」、という掛け声と、金属が裂ける音が続き、とうとうクロートーはすべての盾を破壊した。そして、「やったー! バイト代ゲット!」とピョンピョン跳び上がって喜んだ。

 ほとんどの研究員は固まったまま、自分たちの研究成果が無残な姿になっているのを見つめていた。メーティス先生だけは驚いた様子もなく、「はーい、みなさーん、残念ながら第一回マリシ杯の優勝者はいませんでした! 次はクロートーちゃんに勝てるように、知恵を絞るのが研究者ですよ。これでわかったと思うけれど、オーナーはいつも過酷な状況で活動しているの。ラボの開発品が思ったように機能しないと、オーナーの命に関わるってことを忘れないでくださーい!」と言い、研究員たちから、ぱらぱらと拍手が沸いた。

 買い被りすぎかもしれないが、メーティスは、開発品が、どういう状況で使われているのか、研究員たちに教えたかったのかも知れない。結局、俺は賞金50,000イェンをクロートーに払った。


 ラボの実験室での和気あいあいとした雰囲気を破ったのは、パラゴの警告だった。


(宿主様、ギルドマスター他、6人が近づいてきています。うち1人は一般人、2人は剣士、2人は魔術師です。敵意を持っています)


 ギルドマスターと言えばポニーのことだが、来訪の連絡は受けていない。一体、どういうことだろう? パラゴが警告するということは、なにかまずいことが起きていると察しがついた。

「先生、大至急、戦闘服を用意してください」と頼むと、メーティス先生は理由も聞かずに、「はーい、ミルクチーム、マリシくんの『重軽装』平服7番の準備をして、1分以内にね。マリシくん、その刀はそのまま使って。ネイトちゃんはバニラチームと『重軽装』平服3番に着替えに行って。ここで着替えるのは嫌でしょう」と言った。ネイトは頷き、バニラチームと走って部屋を出ていった。「なにがあった」とか「どうした」とか余計なことを訊かないのは、付き合いが長いからだ。

(パラゴ、ポニーたちはどの辺にいる?)と訊くと、(敷地内に入りました。馬車で移動していると思われます)と言う。頭の中に地図が映し出され、来訪者6人が赤い点で表示された。まさかこんなに遠くから監視されているとは思ってもいないだろう。ミルクチームのメンバーが戻ってきて、「『重軽装』平服7番お持ちしました」と、フードの付いた、袖の長い貫頭衣と少しゆったり目のズボンを渡してきた。ベージュ色で、見た目は麻袋のような感じだったが、手触りは滑らかだった。

「先生、これが戦闘服ですか?」と確認すると、「『重軽装』シリーズの改良版よ。ラストニア合金製なのよ。マリシくん、気づいていた? あたしの白衣も『重軽装』シリーズなの。爆発に巻き込まれても、白衣の中だけは残るわ」と、笑顔で不気味なことを言った。

 シャツの上に貫頭衣を着て、ズボンを履き替えた。加工したラストニア合金の間には緩衝材も入れているようだ。この普段着が、甲冑とは思われないだろう。フードを被り、服の上からベルトを着けた。なかなかいい作りなので、「裁縫はどうしたんです?」と訊くと、「仕立て屋のシャルルさんにお願いしたのよ。ラストニア合金で、はさみと糸と針とを作って、たくさんのお金と一緒に持っていったら、作ってくれたわ」と言う。先生、仕立て屋とはそういう仕事です。

 そこへネイトが戻ってきた。帽子をかぶり、長袖で、スカートの部分にゆとりをもたせたシルエットのロングワンピースだった。ウエストのくびれを強調させるようなベルトをし、街歩きする、おしゃれな同世代の女性と同じだった。正直なところ、ネイトがこういう格好をするのを見たことがなかったので、ガン見してしまった。その視線に気づいたのか、「すみません。このような浮ついた服しか準備されていませんでした」と言うので、「い、いや、似合っている」と言うと、ネイトは顔を赤くした。足首にダガーを巻いているのだけは違和感があるが、どこに付けるか迷った結果だろう。

「ネイトちゃんもいい感じじゃない。普段からこういう格好した方がいいわよ。大人びているのがいいのは若いうちだけだから。マリシくんはフードを被ったままでね。覆われている部分は、まず破れないし、剣の衝撃は緩和してくれるわ。でも、特別な機能は付いていないから気を付けてねー」と言った。

 ちょうどそのとき来訪者に動きがあり、3つの赤い点が屋敷に向かっていた。正面から近づいているところを見ると、問答無用で襲い掛かる気はないようだ。

「ポニーと一緒に、剣士と魔術師が訪問しているみたいだ。なんだかわからないが、こちらに敵意を持っている。クロートーは先生と研究員の安全を守ってくれ。困ったら先生の指示を仰げ」と指示すると、棒を脇に持ったまま、クロートーが「了解!」と敬礼した。

「ネイトは一緒に来てくれ。冒険者ギルド絡みかも知れない。何かあったらポニーと協力して、お互いの身を守ってくれ」と言うと、「御意」とネイトが言った。最後にメーティス先生に、「ちょっと行ってきます」と言うと、「はーい。マリシくん、今日は手伝ってくれてありがとう。ネイトちゃん、マリシくんのサポートお願いね」と、メーティス先生はぜんぜん心配していなかった。

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