13-2. ギルドマスターの華麗な謎解き
アルター卿はポニーの言いたいことをようやく理解し、「つまり、妻が弟と密会し、その間に首飾りを盗まれ、そして、それを隠すために、冒険者ギルドで盗難にあったように企てた、と言いたいのですか?」と言うと、ポニーは「その通りでございます」と答えた。「はっはっは。ずいぶんと、荒唐無稽なストーリーを考えましたな。冒険者ギルドは、憶測の上に憶測を積み上げて、事実を捻じ曲げるつもりですか? 箱の中に首飾りがなかったことは、まぎれもない事実だ」と言うアルター卿に、厳しい表情でポニーが、「こちらに持ち込まれた時から箱の中に首飾りはなかったと証明するために、重さを量って見せたんですがね? それを無視して、証拠が不足していると言い張るんじゃあ、話になりませんなぁ」と言った。「ふん。作り話で人を貶め、補償を渋るとは、冒険者ギルドも品がない」とアルター卿は鼻で笑った。
しばらく睨み合いが続いた後、「わかりました。納得していただけないのでしたら、仕方がありません」と言ってポニーは立ち上がり、頭を下げた。そして、「このたびは冒険者ギルド本部がお預かりした品物を紛失し、誠に申し訳ございませんでした。心から謝罪します。紛失した依頼品の補償もいたします」と言った。冒険者ギルド本部が補償をすると言うことは、全面的に非を認めたということだ。横から口を挟みたかったが、我慢した。
アルター卿が不機嫌そうに、「最初から頭を下げればいいものを。それで、首飾りの対価としてどの程度、準備できるのだ?」と言うと、ポニーがぎょろ目をさらに大きくし、「首飾り? はて? こちらでは箱の中に何があったのかは、わかりません。箱の中を見るなという条件を設けたのは、依頼人の方でしたな? 紛失した箱の対価を、規定の額しか払えません」と答え、「今回はBランクの依頼なので、規定では報酬の10倍の300万イェンが補償の限度です。ただし、大きさ、難易度によって補償額が下がることはあります」と事務的に言った。
アルター卿が椅子を蹴って立ち上がり、「2億イェンの首飾りだぞ! そんなものでは足りん!」と怒鳴ると、ポニーがにやりと笑い、「落ち着いてください、子爵殿。そちらの言い分が罷り通るなら、紛失物が出るたびに国宝が増えることになりますなぁ」と言った。
しばらく沈黙があり、アルター卿が呻くように、「首飾りは戻ってこない、補償額は雀の涙。こんなもので納得できるわけないだろう」と言って椅子に座り込んだ。ポニーはスキンヘッドを撫でながら、「そんなに高価な物であれば、なんでAランクの依頼にしなかったんです?」と訊くと、「箱の中に高価な物があると言えば、盗難のリスクが増えると妻が言ったからだ」とアルター卿は口ごもった。今度は妻のせいにするのかよ。子爵夫人は青い顔をし、身じろぎもせず座っていた。
ポニーが困ったような表情で、「そちらに捕らわれているマリシ殿は王国一の資産家でしてなぁ。金目当てに首飾りを盗むはずがはありません。先ほど冒険者ギルドは正式に謝罪し、補償のお約束もしました。これで、拘束している冒険者を解放していただきたい」と言うと、ずっと黙っていたウォルター卿が「ふざけるな! この男はこちらで処刑する」と叫び、ポニーを睨みつけた。ポニーはまったく怯まず、「それはいけませんなぁ、貴族殿。依頼を失敗したぐらいで処刑されていたら、冒険者をやっていきませんぜ。冒険者ギルドは、あらゆる手段を講じて冒険者を守りますよ。おまけに、この様子では、冒険者に拷問を加えていたようですなぁ」と低い声で言い、記録をつけていたチラビズ書記官に目配せした。すると、チラビス書記官が、「申し遅れました。私は冒険者ギルド本部からの申し立てにより、貴族院から参りました書記官です」と挨拶した。
貴族院は貴族に関する職務を行う機関で、爵位を剥奪することが出来るほどの権限を持っていた。ウォルター卿が驚き、「なぜ貴族院が介入してくるのだ!」と怒鳴った。チラビス書記官は、愛想笑いを浮かべ、「冒険者ギルド本部から、貴族が詐欺を働き、その罪を冒険者に着せようとしていると申し立てがありました」と答えた。「な、なんだと?」と、ウォルター卿が目を剥き、アルター卿は口を半開きにしたまま、何も言えないようだった。
ポニーは渋い顔のまま、「今回の件は、相当に悪質ですなぁ。補償金を取ろうとするだけでなく、無実の冒険者を拷問し、犯罪者に仕立て上げようとしたのでしょう? 貴族院にはすべての証拠を提出し、しっかりと審議してもらうつもりです」と言うと、アルター卿はすがるような目でウォルター卿を見て、「本当のところはどうなのだ? ギルドマスターの言うことは本当なのか?」と訊くと、ウォルター卿は「まったく身に覚えない」と答えたが声には力がなかった。
沈黙する2人に、「そうそう、衛星都市ザークで貧困街を医療区画に変える工事が始まっているんですがね」とポニーが声をかけた。アルター卿が静かな口調で、「そんな話はどうでもいい。それより、貴族院への申し立てを取り下げてくれないか? 冒険者ギルドと私の間で解決することを提案したい」と言ったが、ポニーは話し続けた。
「まあまあ、聞いてくださいよ。衛星都市ザークの南区画で、解体する予定の廃屋から、凄い物がみつかったそうです。それは美しい、大きな赤いルビーのついた首飾りだそうで…」と言うと、アルター卿が勢いよく立ち上がり、「そ、それは、私の首飾りだ。今、それはどこにある?」と叫んだ。
ポニーが、「なんでも領主のタールベール公に届けられ、保管しているそうですよ。衛星都市ザークの法では、所有者がみつからないのであれば、みつかった土地の所有者が受け取ることになっています」と言うと、「誰が受け取るのだ?」とアルター卿が詰め寄ると、ポニーが俺を見て、「土地の所有者はマリシ殿です」と答えた。
アルター卿、ウォルター卿、子爵夫人の目が俺に集中した。ウォルター卿が俺を指差し、「そ、それでは、この男が首飾りを盗み出し、そして、隠していたということではないか!」と怒鳴ったが、ポニーはスキンヘッドを撫で上げ、困ったような顔をして、「それだと、日にちが合わないんですよ」と言った。そして、暦を指さしながら、「アルター卿から冒険者ギルドに依頼があったのは9日前、マリシ殿が依頼を受けたのが4日前ですよね? 首飾りがみつかったのは10日前でした。首飾りの入った箱が冒険者ギルドに持ち込まれたときには、その首飾りはタールベール公のところにあったんですよ。別の物でしょうな」と説明すると、アルター卿は正気を失ったような目で、「バ、バカな。そんな高価なものが、この世に2つとあるものか! それは紛れもなく、盗まれた首飾りだ」とわめいた。
ポニーが、「ちょっと都合良すぎやしませんかねぇ? 冒険者ギルドに箱を持ち込んだ時には、確かに中に首飾りがあったと言い、今度は、それより前に盗まれていた、ですって?」と睨みつけると、アルター卿が力なく「こちらの勘違いだ。冒険者ギルドの依頼の補償はいい。首飾りが戻ってくればいい」と言った。ポニーは呆れ顔で、「タールベール公と交渉してみるんですな。冒険者は連れて帰りますぜ」と席を立った。
往生際の悪いウォルター卿が、「ま、待て。その男が首飾りを盗んで、廃屋に隠した可能性があるだろう」と言ったが、ポニーは相手にせず、「後の調査は貴族院に任せますよ」と言った。ウォルター卿が立ち上がり、俺を指さすと、「警備兵、その男を地下牢に戻せ!」と叫んだ。両脇にいた警備兵が俺の腕をつかんだので、遠慮なく【雷走】を発動した。稲妻に打たれた警備兵が、「ふんぎゃ!」とおかしな悲鳴を上げて崩れた。しばらくは失神しているだろう。両手にマナを流して力を込め、縛っていた縄を引きちぎり、ポニーに「ありがとう。助かった。それにしても、よくこの短期間で調べられたな」と礼を言った。「タールベール公が全面的に協力してくれたんだ。それに、うちには優秀な職員がいるんでな」と言ってポニーがネイトを見た。笑みを浮かべるネイトに、「いつもありがとう」と礼を言った。
呆然とするアルター卿とウォルター卿に向かって、「僕がされたことは貴族院には偽りなく証言します。それから、地下牢にいる4人の野盗の扱いは人道的にお願いしますよ」と言ってやった。アルター卿とウォルター卿は椅子に沈み込んだまま、なにも言わなかった。




