13-1. ギルドマスターの華麗な謎解き
いつになく厳しい表情のポニーがアルター卿を見て、「これで関係者が揃いましたな。私が冒険者ギルド本部のギルドマスター、ポニーです。紹介しましょう。こちらはネイト、冒険者ギルドの職員です。その隣が依頼品を管理しているロロア、その隣が書記官のチラビズ殿です。さて、あらましは、うちのネイトから聞きました。衛星都市ザークからボベッドの町まで品物を運ぶ途中で、品物の中身がなくなったということで、間違いないですな?」と言うと、アルター卿は、「その通りだ」と言った。その態度は、自分は被害者で、冒険者ギルドはどう責任を取るつもりだ、と言わんばかりだった。
「冒険者が運んだ箱はありますか?」とポニーが訊くと、「スン、箱を出せ」とアルター卿が言い、スン執事が黒い箱を出した。見たところ、渡したときと変わらなかった。
ポニーは持っていた封筒から紙を出し、「これは預かった時のロロアの記録です。『黒の箱。表面は革。直方体。20 cm x 20 cm x 10 cm』。間違いないですな?」と確認した。
「間違いない」と言うアルター卿に、「依頼の条件にあった通り、中身は確認しておりません。ですから、箱の中になにが入っていたのか、冒険者ギルド本部でもわかりません」とポニーが言うと、「入っていたのは、首飾りだ!」とアルター卿が叫んだ。 ポニーが「それはどのくらいの大きさですか?」と訊くと、アルター卿は箱を指差し、「この箱に入るくらいの大きさだ。純金製の鎖に、宝石がちりばめられている。時価にして2億イェンは下らん家宝だ」と興奮気味に言った。
ポニーは納得したように頷き、座っていたロロアに目配せした。そして、「そのようなものが箱に入っていたとなると、どんなに軽くても重さ100gはあるでしょうなぁ。冒険者ギルド本部では、お預かりした品物の重さを記録しています」と言い、隣でロロアがテーブルの上に天秤を設置した。ポニーは一方の皿の上に分銅を置き、「お預かりした時の重さと同じ重さの分銅が乗せました」と説明し、「執事殿、反対の皿に箱を乗せていただけないかな?」と頼んだ。
スン執事は言われるままに、天秤の皿に箱を乗せると、天秤はしばらく揺れていたが、やがて揺れ幅が小さくなり、水平位でピタリと止まった。
「箱の中にあった物がなくなったというのなら重さが一致しないはずです。しかし、この通り、お預かりした時と重さは変わっていませんなぁ」と言うポニーに、天秤を見つめたまま、アルター卿が、「どういうことだ?」とつぶやいた。「冒険者ギルドは、依頼を受けた冒険者が、品物を盗んでいないと断定します。そちらの勘違い、あるいは詐欺でしょうな」とポニーの声は冷静だ。
アルター卿の隣にいたネズミ顔の男が血相を変え、「詐欺だと? 無礼な! なにを根拠にそのようなことを言う!」と叫んだ。ポニーは眉間に皺を寄せ、「失礼ですが、貴公は?」と尋ねると、ネズミ男は「アルターの弟のウォルターだ。この領地の南を統治する準男爵だ」と名乗った。
「準男爵」は爵位ではなく称号で、当然、「男爵」よりも地位が低い。ポニーがじっとウォルター卿の顔を見て、「ちょうど良かった。この場にいる者たちに、冒険者ギルド本部が掴んでいることを話しましょう」と言うと、書類袋から紙の束を取り出し、一枚の暦をテーブルに広げて説明を始めた。
「話を整理しましょう。冒険者ギルド本部にアルター卿から依頼があったのは9日前です。アルター卿と子爵夫人が冒険者ギルド本部にいらっしゃって依頼なさいました。その対応をしたのは私でした。間違いないですな?」と訊くと、アルター卿が、「その通りだ」と頷いた。
「その3日後にマリシ殿が依頼を引き受け、さらに2日後に冒険者ギルドはマリシ殿に箱を渡しました。そして、その日のうちにマリシ殿が出発し、正午前にここに箱が届きました。4日前のことです。箱が届けられた日に、間違いはないですな?」と言うポニーに、アルター卿は、「うむ。そうだ」と言った。
ポニーは手にした紙の束をめくり、「2か月前、王都で開催されたハーベストセレモニーに、アルター卿と子爵夫人が出席なさったのは間違いありませんか?」と訊くと、アルター卿は「その通りだ。その時には確かに首飾りがあった。そうだな?」と言って、隣の子爵夫人に確認した。夫人は無表情に頷いた。
ポニーも頷き、「わかりました。そしてハーベストセレモニーの後、アルター卿と奥方は、しばらく衛星都市ザークの別邸で過ごされていましたな?」と言うと、アルター卿が「そうだ」と答えた。
ポニーは別の紙を取り出し、「これは衛星都市ザークの、貴族の通行記録です。それによるとハーベストセレモニーが終わった後、アルター卿は一度、街を出ているようですが、子爵夫人のお名前がありません」と言った。アルター卿が頷き、「私だけ一週間ほど、こちらに戻っていたのだ」と言う。
ポニーは頷き、「そう言うことになりますなぁ。つまり、アルター卿が知らない間に首飾りがなくなるとすれば、ハーベストセレモニーから冒険者ギルドに依頼するまでの一か月ちょっとの間です」と言うと、なおも「そんなはずはない。首飾りは常に妻の目に届くところにあった。首飾りはその男が盗んだのだ」と俺を見る。
ポニーは大きく息を吐き、「ふぅー。これは公にしていないことですが、ちょうどその頃、衛星都市ザークは大変なことになっていたんですよ。ケムリと言われる盗賊が、窃盗を繰り返していました。なかなか捕まらない、巧妙な奴でしてね、煙のようにいなくなるからケムリと言われていたんです」と言うと、ネズミ男、もといウォルター卿が、「それがどうしたというのだ! 無駄話はやめたまえ。まずは品物がなくなったことを謝罪しろ、謝罪だ!」と怒鳴った。
ポニーはなだめるように右手を挙げ、「まあまあ、聞いてください。捜査の途中で面白い法則を発見したんです」と言って、折り畳んでいた衛星都市ザークの地図をテーブルに広げた。
「犯人は4か月の間に14件もの犯行を繰り返しました。それも決まって月曜日に。ところが、一度だけ、月曜日に犯行が起こらない日がありました」と言った。
アルター卿は首を捻り、「それが、首飾りがなくなったこととどう関係があるのだ?」と言ったが、ポニーは「法則通りなら、月曜日にこの区画で窃盗事件が起こったはずなんですよ」と続け、事件が起こっていない区画を指さした。アルター卿は地図をみて、「ここは私の別邸がある区画だな」と言った。「お気づきになられましたか。アルター卿が衛星都市ザークを発ってボベッドの町に行ったのが土曜日、その2日後の月曜日はケムリが窃盗事件を起こしませんでした。単なる偶然ですかな?」とポニーが言うと、アルター卿は不思議な顔をし、「窃盗事件? そんなことは聞いてないが?」と言うと、ポニーは、「ええ。被害届も出ていません。いや、子爵夫人、出せなかったんではないですか?」と顔面蒼白の子爵夫人に質問した。アルター卿は妻の様子がおかしいことに気づき、「どうした? なにか、あったのか?」と言った。
ポニーはスキンヘッドの後頭部をなでながら、言いづらそうに、「下衆の勘繰りですがね、首飾りが盗まれた日、奥方は別邸を留守にしていたんで言い出せなかったんじゃないですか?」と言うと、アルター卿が、「なに? じゃあ、どこにいたと言うのだ」と訊いた。すると、ポニーは、「こっちもそこが気になりましてね。衛星都市ザークのすべての宿を確認しました。すると、奥方が外出した時の服装と、似た服装の女性が宿を訪れていました」と言った。アルター卿が子爵夫人を見て、「宿だと? どういうことだ?」と問い詰めるも、子爵夫人は黙ったままだ。なにも答えられない子爵夫人に代わって、ポニーが、「しかし、不思議ですねぇ。宿泊客名簿には『アルター卿』とありますよ。月曜日と火曜日、客室に2人分の朝食を運ばせていました。その時、アルター卿は領地に戻っておられたんですよねぇ? つまり、誰かが、アルター卿を語って宿に泊まったってことになりますなぁ」と言った。
シーンとなる中、チラビズ書記官が紙に書き込む音だけが響いた。ポニーがメモ紙を見ながら渋い顔をし、「一般の王国民が貴族のお名前を知るはずもないですから、衛星都市ザークに出入りした貴族を調べたんですよ。すると、アルター卿が衛星都市ザークを出た翌日に、南門から貴族が入っています。記録には『ウォルター準男爵』とありました」と言うと、事態を飲み込めないアルター卿が、「どういうことなのだ?」と言って、子爵夫人とウォルター卿を交互に見た。ウォルター卿は何も答えず、子爵夫人は気を失うのではないかと思うほど顔色が悪かった。
ポニーは、「それから、これは伝えておいたほうが良いでしょう。マリシ殿がこの街に入った日、つまり4日前ですな、衛兵たちが街に入る、3人組を探していたそうです。奥様、ご存知ですか?」と子爵夫人に尋ねると、子爵夫人はかすれ声で、「わ、私は何も知りません…」と否定した。
ポニーは肩をすくめ、「そうですか。冒険者ギルドから来た3人組が町に入ったら、足止めして、奥方に知らせる命令を受けていたって衛兵は言っていましたがね」と教えると、子爵夫人は青ざめた顔をして黙り込んだ。




