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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第2話 盗賊ケムリ
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9. 金、金、金

 ネイトとサワー支店長の家に行き、支店長夫人に陶器の人形を渡した。すごく感謝されたので、よほど大事なものだったのだろう。いろいろ訊かれたら困るなぁと思っていたら、「盗まれたものが戻ってきたので、ことを荒立てる気はありません。この事件は終わりにしてください」と言われ、ホッとした。

 その足で南区画の不動産屋に行った。髪が薄く、濃い髭を結わえた中年の店長が、椅子に座って本を読んでいた。チラリとこちらを見て、愛想笑い一つせず、「いらっしゃい」と言い、再び本に視線を落とした。商売をする気がないような対応だ。

 俺が「南区画の土地が欲しい。ここで扱っていると聞いてきた」と言うと、「あーあ、あの貧困街ね。お兄さんたちがあんなところに住んでも3日ともたないよ。悪いことは言わない、他の物件を探しな。安さに釣られて借りてみたものの、すぐに出て行かれちゃ、こっちも手間だけがかかるしね」と言う。やはり商売する気がないらしい。

「賃貸物件を探しているのではなくて、南区画の土地を買いに来たんだ」と説明すると、ようやく、店長がこちらを見た。そして、ただ一言、「冷やかしなら帰ってくれ」と言い、また本を読み始めた。隣のネイトがむっとしているのがわかった。

「冷やかしじゃありません。土地も建物も売って欲しい」と辛抱強く言うと、店長は再びこちらを見て、「たしかに、あの一画は、土地も建物も全部、売りに出ているよ。けれども誰も買わない。そういう場所なの」と言うので、「だから俺が買うって!」と語気を強めた。

 不動産屋の店長が机の上に本を置き、「お兄さん、まずは金、それから保証人。保証人っていうのは、お兄さんが払えなくなった時に、代わりに金を払ってくれる人。いい? 社会的に信用のある人でなければ受け付けないよ。わかった?」と言い、続けて、「さあ、帰った、帰った。とにかくこの辺に住むのは無理だ、お兄さんたちみたいな堅気の人は」と追い出された。

 ネイトは怒っていたが、不動産屋の反応は、ある意味、仕方ないだろう。若いカップルが、土地と建物を売ってくれと言って、わかりましたと喜ぶ不動産屋はいない。さて、どうしたものかと思っていると、「保証人ですが、サワー支店長に相談してはいかがでしょうか?」とネイトが言った。「あっ、なるほど。その手があったな。頼んでみよう」と同意した。

 ネイトに連れられ、初めて王立銀行ザーク支店に入った。床はピカピカに磨かれた大理石で、天井が高くあり、待合室はちょっとしゃれた椅子が並んでいた。防犯のためなのか、窓口カウンターには鉄格子がはめられ、部屋の隅に警備兵が立っていた。ネイトが窓口に行き、受付嬢に、「至急の要件だ。サワー支店長と面会したい」と言うと、受付嬢はネイトの顔を知っているようで、「かしこまりました」と、脱兎のような勢いで走っていった。

「支店長ってこの銀行で一番偉いんだろう? 約束なしで面会できるのか?」と訊くと、ネイトは一瞬、変な顔をして俺を見て、「大丈夫です」と答えた。ネイトの言う通り、サワー支店長が笑顔でやってきた。「これは、これは、マリシ様にネイト様、至急の要件と伺いましたが、なんの御用でしょう?」と訊くと、ネイトが「今さっき、例のものを回収し、奥様に届けた」と伝えた。サワー支店長が驚いた表情を浮かべ、「もう、ですか? それでお金はどうしましたか?」と訊いた。「心配ない。マリシ様が穏便に解決した。この件はもう終わりだ」と言うと、サワー支店長は安心したような表情を浮かべ、「ありがとうございます。わざわざ、それを伝えてに来てくださったんですか?」と訊いいた。

「マリシ様が南区画の土地と建物を購入しようと考えている。そこで誰かに保証人を頼みたいのだが、どなたか推薦していただけないだろうか?」と言うと、サワー支店長が「承知いたしました。私が保証人を引き受けましょう」と即答した。サワー支店長よ、金額を聞かなくていいのか?

 ネイトが事務的に、「それは助かる。次いでお願いだが、書類等の作成ができる者を紹介しいてもらいたい」と言い、それにもサワー支店長は「承知しました。すぐにご用意します」と了承した。そして、「差し出がましいようですが、南区画のどの辺りを購入する予定でしょうか? あの区画は治安が悪く、建物は老朽化し、家賃が安いため住民がなかなか退去してくれません。当行としては、あまりお勧めいたしませんが…」と心配そうに言うと、「あの南区画を全部、買い取ると予定だ」とネイトが答え、サワー支店長が「ぜ、全部ですか?」と驚きの声を上げた。「マリシ様は南区画を医療区画として再開発するおつもりだ。貧困街を丸ごと変えてしまうのだ」という説明に、サワー支店長は俺を見て、「り、領主様からのご依頼か何かでしょうか?」と訊いてきた。

「えーっと…」と口ごもり、領主からポニーに盗賊ケムリの犯行を止めろと指示があり、俺に依頼が着て、ユシート先生が盗賊を辞め、医療に専念するため医療区画を作ることになったのだ。辿(たど)って行けば領主様の依頼ということになる。「まぁ、間接的にはそうなるかもなぁ?」と軽く答えておいた。

 ネイトがこちらを見て、「マリシ様、土地と建物の購入はローンにしますか、現金にしますか?」と訊くので、「ええっと、ローンってなんだ?」と質問した。「銀行からお金を借りて、毎月少しずつ、利子をつけて返済します。いくらか税金は優遇されますが、すべてのローンを返し終わるまで支店長には保証人になっていていただく必要があります」と言うので、「うーん。じゃあ、現金で一度に支払っていいんじゃないか?」と答えた。やりとりを聞いていたサワー支店長が慌てた顔で、「当行で一度にご用意できる金額には限りがありまして、準備にお時間をいただく場合がございます」と言うので、ネイトに「待てるよな?」と確認すると、ネイトが頷き、「支店長、今すぐ準備できるお金はどのくらいありますか?」と尋ねた。額に汗が浮かべたサワー支店長が、「10億イェンなら、なんとか今日中に」と答えた。「では、15時にここに来るので、南区画の不動産屋に同行して欲しい。サワー支店長か、もしくは代理人がきていただけるとありがたい」と言うと、「一括購入なら保証人はいらないのではありませんか?」とサワー支店長が訊き、ネイトが笑みを浮かべた。「不動産屋の店主が、マリシ様を子供扱いするもので、ちょっと驚かせてやりたい」と言うと、サワー支店長は納得したようで、「そう言うことでしたら承知しました。15時までに手配いたします。いつも当行をご利用いただき、ありがとうございます」と頭を下げた。


 15時に王立銀行ザーク支店に行くと警備兵5人とサワー支店長を含め、3人の銀行員、そして見るからに事務職という男1人が待っていた。みんなで不動産屋に行くと店主は居眠りをしていた。俺たちは気にせず店に入ると、「なんだ、なんだ、あんたら。あっ! おまえらか。なにをしに来た!」と店主が跳び起きた。「お金と保証人を準備してきました」と言うと、寝ぼけ顔で「なんだって?」と言い、俺たち一人一人の顔を見ていった。

「王立銀行で支店長をしているサワーと申します。私が保証人になります」と言うと、訳がわからないと言うように「はぁ? あんた、だれだ?」と言った。だから、今、自己紹介しただろう…。代わってネイトが、「南区画は全部、売りに出ていると言ったな。今からマリシ様が全部買う。現金でだ」と言った。

 不動産屋の店主は、狐につままれたような顔で、「ぜ、全部って、全部か?」と言い、ネイトが頷き、「そうだ。あるだけ全部、売って欲しい」と繰り返した。

「あんた、いくらかかると思っているんだ」と言うと、「余計な心配はしなくていい。サワー支店長、王立銀行はマリシ様にどの程度、融資できます?」とネイトが訊くと、サワー支店長が苦笑し、「ご融資の必要はないと思いますが、当行は上限なくご融資できます」と答えた。

 ネイトは不動産屋の店主に、「この通り、金も保証人も準備した。それでも扱えぬというなら別の不動産屋を新たに作る。どうする?」と脅しのように言うと、まだ理解しきれていない店主は、「ま、待ってくれ。本当に金はあるのか?」と言った。

 警備兵が大きなスーツケースをドンッと机に置き、中に入った札束を見せた。2億イェン入っていたケースが5つある。不動産屋の店長は自分の頬をつねり、「ゆ、夢じゃない」と言った。本当にこういうことをする奴がいるとは思わなかった。「問題なければ、契約をしたい」とネイトが言うと、また「ま、待ってくれ」と言う。ネイトが「今度はなんだ?」と訊くと、「びっくりして漏れそうだ」と言って店長はトイレに駆け込んだ。

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