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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第2話 盗賊ケムリ
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7. 貧困街は危険がいっぱい

 翌朝、メーティス先生、ネイト、クロートー、それに爺を集め、昨夜の顛末について詳しく説明した。すると、メーティス先生が、「それじゃあ、ネイトちゃんが見た盗賊の顔はマリシくんとそっくりだったわけ?」と言うと、ネイトが、「すまない。不覚を取った」と謝った。メーティス先生は容赦なく、「ネイトちゃんの頭の中がマリシくん一色で、誰でもマリシくんに見えちゃうのかしらぁ? そのせいで盗賊を逃がしちゃうなんて、どうかと思うけれどー」と追い討ちをかけ、「言い訳のようだが、私がマリシ様を他の男と見間違えることなど、ありえない」とネイトが小さな声で言った。

 クロートーが、「ねえねえ、世の中には自分と似た人が10人いるって聞くけれど…」と言い出した。

「そんなにいるかよ。それを言うなら、せいぜい3人だ。それに、このタイミングで、その3人のうちの1人が現れるなんてことないだろう」と言うと、「じゃあ、もしかしてマリシの双子の兄弟とか?」ととんでもないことを言いだした。それまで黙っていた爺が、「それはございません。ぼっちゃまが生まれた日のことは今でもよく覚えております。あの日は…」と昔話を語り始めたので、「やめてくれ」と手を挙げて止めた。

 メーティス先生が、「マリシくん、おかしなこと考えず、魔法を使ったって考えるのが普通じゃない?」と言った。「僕は最初からそう思っています!」と断言した。おかしなことを言い出したのは、先生だろう。

 ネイトが「昨夜の窃盗は失敗しています。盗賊はまた現れるでしょうか?」と真顔になった。「ああ。また来るだろう。こいつは、典型的な秩序型犯罪者だ。どの事件も徹底的に準備しているし、自分のルール通りにやっている。追い詰められた時を想定して、【身体強化】や【防術】の魔法を事前に発動していた。おそらく、頭のいい奴で、神経質、そしてなにか目的をもって犯罪を繰り返している」と、俺が想像する犯人の人物像を説明した。

 ネイトが「警備体制を強化しますか?」と訊くので、「いや。今度は反撃だ。昨夜、盗賊に目印を付けた。こちらから出向こう」と伝えると、全員が驚いた顔で俺を見た。しばらく沈黙が続き、ネイトが「いつの間に?」と言うので、パラゴのことを明かすわけにいかず、苦し紛れに「【指弾】の魔法で目印を付けたんだ」と言うと、魔法に詳しくない4人は納得したようだった。メーティス先生が、「さっすが、あたしのマリシくんよね。神がついているみたい!」と喜んだ。先生、もしかしてパラゴのこと、気づいていますか?

 クロートーが、「よおーし、今度はあたしが捕まえに行くわよ!」と気合を入れたが、「だめだ。盗賊は、この街の南区画にいる。ガラが悪い区画だ。クロートーが絡むと、余計に面倒になる」と止めると、「それ、どういう意味よ」と、むっとした顔をした。口には出さなかったが、クロートーのスタイルの良さは目立ちすぎるし、怪力は問題を大きくしすぎる。

「俺とネイトで行ってくる。昼過ぎに出る」と宣言し、「先生、ラボは通常通り、再開してください。爺もいつもの生活に戻ってくれ。クロートーは引き続き屋敷とラボの護衛を頼む」と言うと、クロートーは「了解!」と、ビシッと敬礼した。


 昼過ぎ、俺とネイトはメーティス先生が開発した『重軽装』平服を着て街を移動していた。平服というのは、一般的な王国民の格好という意味で、メーティス先生が勝手にネーミングしたそうだ。貧困街にゴーレム馬車で行くのは目立ちすぎるので、途中からは歩いて移動した。

 衛星都市ザークの北門は農耕地帯につながり、西門は王都キキリーにつながり、東門近くには冒険者ギルド本部があった。どこもそれなりに栄えていたが、南門の外は荒野につながっているため、往来が少なく、あまり栄えてないなかった。それゆえ、「貧困街」と呼ばれていた。

 南区画に入ると、道のごみが多くなり、建物の落書きが多くなった。知らない顔が入ってくるのは珍しいようで、周りからじろじろ見られた。そして、どこからともなく4人の男が現れ、俺たちを囲んだ。

 一番年かさの、20代半ばの男が、「見ねえ顔だが、ここになんの用だ?」と訊いてきた。「人に会いに来ました」と答えると、「誰にだ?」と言った。どうせ、好奇心で訊いただけだろうから、「それは、言えません」と答えると、「兄ちゃん、いい度胸してるな。俺が案内してやる、案内料をよこしな」とすごんできた。やっぱりクロートーを連れてこなくて良かった。

 俺が、「いい歳して、なにしているんだ。腕っぷしが強いならFランク冒険者ぐらいにはなれる。仕事をする方が、恐喝より安定して収入が得られる」と言うと、男たちはポカンとした顔をし、すぐにこちらを睨みつけながら、「なに、説教垂れているんだ。痛い目にあいたくなければ金を出しな」と脅してきた。なにも言わずに男に近寄り、掌底で男の胸を突くと、手加減したつもりだったが、「ぐっ!」と息を詰まらせて失神し、地面に転がった。別の男が、殴りかかってきたが、軽く躱して、鳩尾を突くと、「うっ!」と唸って昏倒した。

 喧嘩慣れした一人がナイフを抜いて、刺してきた。武器を抜くなら容赦しない。突き出されたナイフを持つ手を取り、捻り上げながら投げると、男は肩から地面に落ちた。「痛ってえ! 痛てえよー!」と、肩を押さえて泣き声を上げた。「や、やめろ。この女がケガするぞ」と、男がネイトを後ろから押さえつけ、首筋にナイフを当てていた。ネイトはわざとこの状況を作ったのではないだろうか?

「お前こそやめろ! どんなになっても知らない…ぞ」と警告したときには、ネイトはナイフを持つ男の右手首を握り、男の脇をくぐって、背中に腕をねじり上げた。その瞬間、男の腕からボキリと言う嫌な音がして、手からナイフが落ちた。だから警告してやったのに…。骨折の痛みに、「うわっ。あっ、あぁぁー」と男は悲鳴を上げた。

 そこへ、「バカはやめろ!」と声が響いた。白衣を着た長身の男がこちらにやってきた。20歳半ばぐらいだろうか。髪は灰色で、眼鏡をかけ、色白だった。眉間に皺をよせ、怒っているようだ。パラゴがすぐにステイタスを表示した。


『医師。男性 26歳。戦闘レベル5、魔法レベル53、職業レベル70』


 職業レベル70はなかなかの医者だ。チンピラたちは医師を見知っているようで、肩を抑えて転がるのチンピラがすがるような目をしながら、「い、痛てえよー。先生、なんとかしてくれよー」と叫んだ。その医者はため息交じりに、「はぁ…。まったく、治しても治しても怪我して」と言いながら、肩を抑えるチンピラの背中に回ると、「ずいぶん、乱暴にされたようですねぇ。肩が外れるときも痛いですが、治すときも痛いですよ」と言い終わる前にバキッと音がし、脱臼が直ったようだ。だが、痛みのあまり、男は失神していた。

 医者は首を振りながら、「気を失うぐらいなら、最初から喧嘩をしなければいいのに」と言った。気絶した男と地面に転がる男2人に、マナを流して覚醒させた。そして、ネイトが倒した男を診て、「これはひどい。前腕の骨が二本とも折れている。後で診療所に来なさい!」と言った。そして、全員の応急処置をすると、先生は不機嫌そうにこちらを見て、「この辺りは物騒です。あなた方のような人が、こんなところに足を運ばなくてもいいでしょう」と言った。

 俺は、「昨夜のことで、いろいろ聞きたいことがあって」と言うと、「わかっています。ついてきてください。説明しましょう」と神妙な様子なので、「お願いします、ケムリ殿」と声を掛けると、ネイトが驚いた顔をした。男の顔と俺の顔は似ても似つかなかったが、この男こそが盗賊ケムリだった。

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