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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第2話 盗賊ケムリ
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4. Aランクの仕事依頼

 ゴーレム馬車を飛ばして冒険者ギルドに行き、手に入れた獲物を解体業者に引き渡した。そして、そのまま依頼完了の手続きをした。

 それから2日後、報酬を受け取るために、俺とクロートーは、ネイトのいる受付カウンターに行った。ネイトは感心したように、「最初の仕事だったのに見事な成果だ」と言った。そして、たくさんの数字が並んだ紙を取り出し、「今回の報酬の詳細だ。まずキバジカ10匹分の100,000イェン。そして、残る47匹の出来高が235,000イェン、合計335,000イェンだ。キバジカの牙は、一部、欠けている個体、欠落している個体があり、98本になった。90本で45,000イェン、端数の8本は2,500イェンで買い取らせ、47,500イェンになった。キバジカの肉は53体分で530,000円、状態の悪い4体分は20,000イェンで、合計550,000円だ」と説明した。そして、「ところで、キバジカの毛皮だが、一部、損傷したものがあったが輸送のときの傷か?」と不審がるネイトに、「え、あー、ちょっと乱暴に扱っちゃったかしら」と、クロートーがとぼけた。ぽいぽい放り投げていたのは誰だ。

「毛皮57匹分のうち36枚は72,000イェンで引き取らせた。傷んだ毛皮も11匹分を3,000イェンで引き取ってもらい、合計75,000イェンだ。それで、今回の仕事の報酬総額は、1,007,500イェンになる。このうち、ギルドの取り分は10%になるから、残りの906,750イェンがクロートー殿の取り分だ。ここからザーク市への税金が30%引かれ、634,725イェン、そして、解体業者には1体につき3,000円の処理代がかかり、57匹で171,000イェンだ。残りの463,725イェンが手取りだ」とネイトがまとめると、「うっそー! たったの数時間でこんなにもらえるの?」とクロートーが喜んだ。メーティス先生にお金を払っても、まだ36万イェンくらいの黒字だ。

 ネイトは報酬を渡しながら、事務的に「これはデビューしたての冒険者、みなに言っているが、冒険者の収入は不安定だ。良い依頼はなかなかコンスタントには来ない。そして、準備に時間もお金もかかる。報酬は計画的に使った方がいい」と言った。調子に乗ったクロートーが、「了解! 冒険者の作法その5ね。報酬は計画的に使うこと!」と敬礼した。ネイトは訳が分からないという顔でクロートーを見た後、俺に、「マリシ様、ギルドマスターがお会いしたいとのことでした。私も一緒にとのことです」と言った。「んっ? ポニーが? なんだろう。今すぐでもいいのか?」と訊くと、「はい、私も一緒に」と繰り返し、クロートーには「では、さようなら」と素っ気なく言って立ち上がった。

 クロートーが慌て、「ち、ちょっと待ってよ。あたしだって、一緒に行きたいわ」と言っても、「ギルドマスターは、私とマリシ様だけに話しがあるそうだ」とネイトは取りつく島もない。「だから、待ってって! ギルドマスターはあたしもマリシの冒険者パーティーのメンバーだって知らないのよ。それを伝えるいいチャンスじゃない」とクロートーが言うと、ネイトが眉間に皺を寄せ、「クロートー殿はマリシ様の冒険者パーティーのメンバーではない!」と断じた。

 クロートーはキレ気味に、「わかってないなぁー! 無事に冒険者デビューしたし、今からメンバーになるのよ!」と言い、ネイトは「むっ! マリシ様が誰かと組んで仕事するなら、Aランク冒険者の私が適任だ」と言って睨みあった。冒険者ギルド職員と冒険者の言い合いに、周りが注目し始めたので、「こんなところで喧嘩するなよ。ポニーのところには3人で行こう」と提案すると、「当然よ!」とクロートーが答え、ネイトはいい顔をしなかった。


 受付カウンター奥の応接室で待っていると、まもなくしてポニーがやってきた。スキンヘッドに髭面の恰幅のいい男で、その風貌はまるで山賊だ。言われなければギルドマスターとわからないだろう。

「おう、マリシの旦那。待たせて悪い。それに、えーっと?」と、ポニーがぎょろ目でクロートーを見ると、「Cランク冒険者のクロートーです!」とアピールした。ポニーは思い出したように、「おう! マリシの旦那の弟子だったな」と言い、どっかりとネイトの隣のソファに座った。

 ポニーは俺を見て、「いつも厄介事を相談してすまねえ。今回もマリシの旦那にしか頼めないヤマだ。依頼人はタールベール公、つまり領主様だ」と言った。タールベール公は公爵で、貴族の中ではもっとも爵位が上だ。

 ポニーが「衛星都市ザークに盗賊が出没しているって噂を聞いたことがあるか?」と訊くので、「いいや」と答えると、「そうだろうなぁ。この街の警備をしている衛兵たちには箝口令を敷いて、表沙汰にしないようにしているからなぁ」と言う。「なんで隠しているんだ?」と訊くと、「連続盗難事件を(おおやけ)にすれば、治安が乱れるし、模倣犯が出てきても困るからだ。それに、資産家だけを狙って盗みを繰り返しているのもある」と言った。「つまり、被害者も表沙汰にして欲しくないってことか?」と確認すると、「そういうことだ」と言って、ポニーは持っていた書類に目を走らせた。「盗まれているのは、現金ではなく、物品ばかりだ。表沙汰にしたくないってのもわかるだろう?」とポニーが言った。「裏で、その盗品が売買されているっていう情報はないのか?」と訊くと、「おそらく衛兵たちが調べてはいるんだろうが、そういう話は聞いていない」と言う。

「金に換えづらい宝飾品を盗むのはどういうことなんだ?」と訊くと、ポニーが、「それがなぁ、盗まれているのは宝飾品に限らないようだ。現金の方がアシが付きにくいのに、不思議だなぁ」と首をひねった。「容疑者はいるのか?」と訊くと、「いない。衛兵たちも躍起になって盗賊を探しているのだが、あと一歩のところで逃げられてしまうらしい」と言う。

 衛星都市ザークは、衛兵の担当区域がしっかり決まっていて、衛兵詰所に常駐していた。同じ衛兵が同じ区域に常駐していると住民と連携して防犯体制を敷くことができ、怪しい余所(よそ)者がいれば、すぐに気づけるはずだ。それにもかかわらず、なかなか犯人を捕まえられないというのは奇妙だった。

「衛兵たちは、この盗賊をケムリって呼んでいる。掴もうにも掴めない、煙のように消えてしまうって意味らしい。領主様はケムリが魔術師じゃないかと思って、冒険者ギルドに、というか、この俺に解決して欲しいと依頼してきたんだ。だが、俺には冒険者ギルドの仕事があるし、俺が動くと大事(おおごと)になりすぎる。それで、マリシの旦那にお願いしたいんだ」とポニーが言った。

 ポニーは元Aランク冒険者で優秀な魔術師だが、ギルドマスターなので顔が知られている。犯人捜しを始めたら、あっという間に噂になるだろう。秘密裏に盗賊を捕まえるため、俺に白羽の矢が立ったようだ。

「凶悪な奴なのか?」と訊くと、「いや、これまで一人も死んでいない。マリシの旦那、今回は領主がお困りだ。Aランクの仕事にするから、急ぎでお願いしたい。どうだ?」と頼んできた。「わかった。引き受けよう。犯罪を止めればいいんだな?」と念を押すと、ポニーの表情がパッと明るくなり、「おう! 事件が止まれば依頼完了だ。助かったー!」とソファの背にもたれかかった。

 隣にいたクロートーが、「あたしも、同じ冒険者パーティーとして捜査に加わるわけ?」と言うも、俺の代わりにネイトが冷ややかに、「マリシ様は単独(ソロ)で仕事する」と言った。ネイトの態度を不審に思ったのか、「じゃあ、ネイト先輩はどうするのよ?」と訊くと、ネイトは澄まし顔で、「私はギルド職員として、マリシ様をサポートする」と言った。「ずるーい、職権濫用じゃない!」とクロートーが怒り始めた。


 二人に構わず、「盗難事件が起こった場所はわかるか?」とポニーに訊くと、「おう! ここに地図がある」と言って、資料の中から地図を出し、テーブルに広げた。衛星都市ザークの地図の中に、事件が起こった場所が散在していた。ポニーが地図を指差しながら、「この赤い点が事件発生場所だ。このとおり、バラバラだろう?」と説明した。

 地図をじっと見ながら、(パラゴ、この街の資産家の屋敷をマークしろ)と命じると、資産家の屋敷はほぼ盗難事件の起こった場所と重なっていた。この4か月で14件の盗難事件が起きていた。続いて、(衛兵のチーム別に担当区画を色分けしろ)と言うと、地図に被さり、18区画に色付けされた。

「ポニー、事件の順はわかるか?」と訊くと、「おう。この赤い点の隣にある数字が、事件の起こった日付だ」と聞いたので、パラゴに事件が起こった順に線を繋がせた。事故現場はバラバラだったが、そのせいで逆に法則性があることに気づいた。

「盗賊は衛星都市ザークのあちこちで事件を起こしているように見えるけれど、同じ衛兵チームが担当する区画では、二度と事件を起こしていない。そして、必ず隣り合わない区画で事件を起こしている。この調子だと、次も事件を起こしていない区画をターゲットにするだろう」と説明すると、ポニーが身を乗り出した。

「そして、ほら、犯行は月に4回、月曜日に起きている。ところが、先月の犯行は3回だ。今の法則に従えば、この区画に盗難被害を出していない資産家がいるのだろう」と言った。「おう、おう。続いてくれ、マリシの旦那」とポニーが先を促した。

「まだ事件を起こしていない区画は3つだ。南区画に資産家はいない。残る区画は、南西区画と北東区画だ」と言うと、じっと地図を見ていたネイトが「マリシ様、南西区画は…」とつぶやいた。「そう、俺の屋敷がある。おそらくターゲットにされている」と言った。

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