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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第2話 盗賊ケムリ
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1. プロローグ

あらすじ

 クロートーがCランク冒険者になり、冒険者ギルドの作法を教えるマリシ。そんなのんびりとした生活を送る中、冒険者ギルドマスターのポニーからAランクの依頼が舞い込んだ。衛星都市ザークに出没する盗賊ケムリの犯行を止めて欲しいという。調査を進めるうちに、混沌とした事実が明らかになる。

 Sランク冒険者マリシとネイトクロートーの活躍を、描いた第2弾。

 日の前に天アリ、摩利支と名づく、大神通自在の法アリ、 常に目の前を行き、日は彼を見ざるも彼は能く日を見る。

『仏説摩利支天経』より


(日の光の前に人を超越した存在があった。マリシと名乗り、魔法を自在に操った。いつも目の前を行き、周りは彼を見ることが出来なくても、彼は周りを見ることができた)



挿絵(By みてみん)



 衛星都市ザークに冒険者ギルド本部が置かれたのは、王都の東、西、南に位置する衛星都市に王国の機能を分散させるためだった。その国策は功を奏し、衛星都市ザークには依頼を求めて冒険者が集った。俺もその一人で、王都と3つの衛星都市に住居を構えているものの、大きな依頼を求めて、衛星都市ザークに滞在していることが多かった。

 冒険者ギルドが提供する仕事は、その難易度によって、AランクからFランクまで分かれており、報酬の相場はFランクで1万イェン、Eランクで3万イェン、Dランクで5万イェン、Cランクで10万イェン、Bランクで30万イェン、Aランクで60万イェン以上だった。ランクの高い仕事は割がいいように思うかもしれないが、たとえば1週間準備してCランクの仕事をこなすのと、10日の間、毎日Fランクの仕事をこなし続けるのでは、同じぐらいの収入になる。効率よく稼ぐには、一つの依頼を受けたときに派生する、他の依頼報酬も考える必要があり、冒険者ギルドは、冒険者にそういうサポートをしてくれていた。

「マリシ、今日はありがとう」と、ゴーレム馬車の御者台で、クロートーは笑顔だった。よく言えば天真爛漫な17歳だが、悪く言えば、場の空気を読まず、ずけずけ物を言う、遠慮ない性格だ。『忘却の迷宮』での事件の後、クロートーは冒険者ギルドのCランク冒険者として登録され、今日は冒険者のお作法を教えてやる約束だった。ネイトがいい顔をしなかったのは言うまでもない。

 冒険者ギルド本部の前にゴーレム馬車を停車させ、俺とクロートーは建物の中に入った。依頼を求める冒険者たちが掲示板の前にたむろしていたが、身なりを見る限り、高ランク冒険者はいないようだった。これなら、まだ手ごろな依頼が残っているかもしれない。

 掲示板を指差し、「クロートー、あの人だかりを見ろ。あそこの掲示板には依頼カードが貼ってある。急ぎの依頼や高額依頼、そして冒険者ギルドがお勧めする依頼なんかは、掲示板に張り出されて、早い者勝ちだ。それ以外の依頼はギルド職員が知っている。例えば、森でたくさんの薬草を見つけた時なんかは、薬草探しの依頼が出ていないか、ギルド職員に訊けば調べてくれるぞ」と教えると、「ふーん、なるほどね」と大人しく聞いていた。「まずは掲示板で自分のランクにあった依頼を選ぶことからだ。自分で選んでみたらどうだ?」と勧め、クロートーは促されるまま、掲示板に向かった。

 クロートーが掲示板に近づくと、周りの冒険者たちが、ちらちらとその姿を見た。古代ラストニア文明のモイラが作った人造生命体は、見事なプロポーションすぎて自然と男たちの気を惹いてしまうようだ。本人は意識していないのだろうが、大きな胸を強調するかのように腕組みしたり、前かがみになったりするので、恥ずかしくなって、視線を外した。

 しばらして、クロートーが掲示板から1枚の依頼カードを剥いで、「これに決めた!」と言いながら戻ってきた。「見せてみろ」と言って依頼カードを受け取り、内容を確認した。


『増えすぎたキバジカの退治。Cランク。

 報酬:10万イェン+出来高制

 詳細:ザーク市の北の農耕地にキバジカが大発生し、農作物を荒らしている。収穫期の農民を助けよ! 最低討伐数は10匹。それ以上は1匹につき5,000イェンの出来高払い。冒険者よ、急げ!』


 まぁ、手ごろな依頼だろう。だが、どうしてこの依頼を受けたのかわからず、「キバジカって知っているのか?」と訊くと、クロートーは「知らないけど、どうせ牙の生えた鹿でしょう?」と言う。クロートーよ、名前から想像しているだけだろう。

「牙だけじゃなく、角も生えているぞ。角は攻撃に使うし、発情期になるとオス同士がガシガシぶつかりあう。牙は木の皮を剥いで食べるのに使うから、それほど長くないが、角が厄介なんだ。80㎏から120㎏の中型草食動物で、農作物を荒らす害獣だ。冒険者ギルドに依頼が来た理由がわかるか? すごくすばしっこくて、なかなか捕まえられない。魔術師と組んで、足止めさせてからじゃないと10匹は倒せないぞ」と言うと、「マリシ、手伝ってくれる?」と訊いてきた。ここは心を鬼にし、「ダメだ。どうしても手伝って欲しいなら、報酬の半分はもらう」と言うと、「えー、けち臭いこと言わないでよ。大金持ちのくせに」と言ってきた。

 クロートーの言う通り、俺は親が残してくれた財産のおかげで、王国一の金持ちだ。退屈しのぎに、無報酬で手伝うこともできたが、ここはお金を稼ぐ大変さと依頼を受ける責任を教えておかなければならない。

「冒険者のお作法その1。冒険者パーティーは報酬を均等に分ける、だ」と言うと、「ぶー」とクロートーがむくれた。「冒険者デビューだろう? 一人で依頼を達成した時の感激はひとしおだぞ。単独(ソロ)でやってみたらどうだ?」と勧めると、「うーん、わかったわよ。頑張ってみる!」と素直に納得した。そして、「この紙は、どうしたらいいの?」と訊くので、「この依頼カードを受付カウンターに持っていけばいい。ほら、ネイトがいるだろう。頼みに行こう」と言って、一緒に窓口に行った。

 カウンターのネイトは、ビシッとスーツを着て、真っ赤な髪を綺麗にまとめ、伊達メガネをしていた。どこから見ても、お堅い受付職員だ。クロートーとは違ったタイプの美人だが、この格好を見てナンパする冒険者はいると知った時は驚きだった。

「ネイト先輩、この依頼をお願いします」とクロートーが気安く言うとネイトは事務的に依頼カードを受け取り、目を走らせた。「ほう。キバジカはそう凶暴ではないが、とにかく敏捷だ。全体魔法ができる魔術師と組まないと苦戦するが?」と、さっきの俺のアドバイスと同じことを言った。

「でも10匹でしょう? 何とか、なると思うんだけれど」と、どこかクロートーはのん気だ。ネイトは少し考え、「クロートー殿の身体能力であれば、時間をかければ無理ではないかもしれない。承知した、登録しておこう」と言った。そして、台帳を出し、依頼カードの束をパラパラとめくりながら、「この依頼に関連した依頼を探してみよう。『キバジカの牙10本まとめて5,000イェン』、『キバジカの肉 1体 10,000イェン』、『キバジカの毛皮 1枚2,000イェン』、この辺りだ」と言った。不思議そうな顔のクロートーが、「ねえねえ、どういうこと?」と訊くと、ネイトが伊達メガネのツルを押し上げ、「冒険者ギルドには定期の依頼もきている。キバジカ一匹を捕獲することで、牙やシカ肉、毛皮の依頼もクリアしたとみなされるのだ。マリシ様は、こういった依頼をこなして、Fランクからあっという間にAランクになったそうだ」と説明した。クロートーに「ふーん。マリシって、意外とすごいんだね」と言われ、ドヤ顔になりそうになるのを我慢した。

 ネイトは無表情にクロートーを見つめたまま、「こういう依頼の斡旋が、冒険者ギルドの仕事の一つだ」と言い、クロートーは「ネイト先輩って、そういう仕事をしていたんだ」と感心した。ネイトはニコリともせず、「言っておくが、本業はAランク冒険者だ。それを忘れないで欲しい」 と言って、俺を見た。俺に向けて言っているのかよ、目力が強い…。

 ネイトはクロートーに視線を移し、「依頼を達成したら、獲得品を冒険者ギルドに運んでもらって構わない。捕ってから2時間以内に肉の処理をしたほうがいい。キバジカ退治の予定を教えてくれれば、こちらで解体業者を手配しよう。健闘を祈る!」と続けた。クロートーがビシっと敬礼し。「了解!」と言った。

 ネイトに「ありがとう」と礼を言うと、ネイトはにこりともせず、「クロートー殿の独り立ちを(うなが)すためにも、付き添いはこれっきりにすることを進言いたします」と言い、伊達メガネの下のネイト目がギラリと光った。これはかなりご機嫌斜めだ。「も、もちろん初回だけだ」と言うと、「そうだといいのですが、大丈夫でしょうね?」と確認するので、「あ、ああ。初回だけだって」と答えるしかなかった。ネイトはなにも言わず、俺の顔をじっと見た。

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