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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第1話 忘却の迷宮
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23. 剣と魔法のシナジー

 ヘルメットの奥から、「戦闘プログラムを仕込んだアトロポスがいれば、わらわが手を下さずとも、不要なサルを抹殺できたものを…」とモイラの冷たい声が聞こえてきた。青銅色のプレート・メイルを身にまとい、淡く輝くモイラからは、これから殺戮を始めようとする明確な意思が感じられた。

「今の世界には、不要な人間なんていない! みんな王国に属して、自分にできることをして、生活している!」と叫ぶと、「愚か者め! どんな世界にも、生まれつき劣る人間がいる。生きる価値のない人間を減らし、世界をより良くするのだ」と言い返してきた。「人の価値は人造生命体みたいに、性能で評価できるものじゃない。生きる価値がない人間なんていない!」とこちらも言い返すと、「簡単な道理だ。優秀な人間を残していけば、次の世代に優秀な人間が増える。これを続ければ文明は発展する。愚かで、劣った者を排除するのは、優秀な者の務めだ。ふん。そんなこともわからんか」と鼻で笑われた。優秀な人間を残すという考え方が、劣った人間を殺害するという狂気にすり替わっていて、到底、受け入れられなかった。

「貴様に人の生死を決める権利はないぞ!」と語気を強めると、「では訊くが、お前らもゴブリンどもを殺しているではないか。ああいった生き物には、生きている価値がないと思っているからではないのか?」と屁理屈を言うので、「話をすり替えるな! 今は人間族の話をしている。貴様から見て劣った者だろうと、家族や友人、そして愛する人がいる。優れているとか、劣っているとか、そんなもので、人の価値を決められるものか!」と怒鳴ると、モイラは首を振りながら、「くだらん、くだらん。優れた者だけの国にして、その中から、かけがえのない存在とやらを見つければ良い。所詮、サルにはわからん理屈か」と馬鹿にした。

「貴様は狂った科学者だ。ラストニアを滅ぼしたのを忘れたか? 王国で愚かな行為を繰り返すのは、よしてくれ!」と言うと、「サルがなにを言う!」と叫び、斬りかかってきた。すでに【身体強化】魔法を発動していた俺は、大きく実験室の奥に跳んだ。ラストニア合金が軽いのか、モイラの運動能力が高いのか、プレート・メイルを着ていると言うのに、簡単に俺に追いついた。そして、間合いに入るなり、青銅色の剣を振り下ろした。

黒曜(こくよう)」で受けると、パーンと乾いた音が響き、互いに弾かれた。モイラの剣がアトロポスの棒と同じ素材だと確信した。「黒曜」を一閃させ、モイラの胴を払うと、金属同士がぶつかる音がしただけで、傷一つつけることが出来なかった。こうなると、剣を使った攻撃は封じられたも同然だ。

 俺の心を見透かしたように、「お前たちの文明レベルでは、剣の素材は鉄か、(はがね)か、そんなものだろう? この合金を斬ることはかなわぬ。これが文明レベルの差だ」と言った。悔しいがその通りだ。

 モイラは大胆に間合いを詰め、剣を振り下ろした。力が強く、一太刀受けるごとに「黒曜」の悲鳴が聞こえるようだった。(パラゴ、有効な攻撃はないか?)と苦し紛れに問いかけたが、(ありません)と冷たい返事だった。(関節は狙えないか?)と訊いても、(関節部分の隙間は補強されています)と返ってきた。

 通常、プレート・メイルは、鎖帷子の上に金属のプレートを付けて補強するため、関節部分の隙間が弱点だ。メーティス先生がそれを知らない訳もなく、弱点が見つからなかった。

 手印を組み、【火球】の魔法を発動させ、握り拳大の火の玉をモイラの身体にぶつけた。しかし、マナを巡らせたプレート・メイルに火の球はかき消された。ありえない現象に驚きながらも、耐マナシステムを考え出したメーティス先生は天才だと感心してしまった。

 青銅色に輝くヘルメットの下から、「面白いではないか、剣も魔法も無効化している。この状況で、お前はどうする? 勝ち目があるとはとても思えないぞ! ははははは」と、モイラの高笑いが聞こえてきた。

【指弾】の魔法を発動し、左手指のそれぞれにマナの弾を込め、兜の目の部分を狙って、同時に5発の弾を打った。モイラは衝撃でわずかに首をのけぞらせたが、たいしたダメージはなく、余裕綽々(しゃくしゃく)に、「さあて、次は何を見せてくれるのだ?」と言った。


(パラゴ、マナを可視化しろ)


 プレート・メイルの表面が赤く色付けされ、装甲全体に隈なく、マナが流れていることがわかった。ところが、唯一、動力カートリッジの納められたベルトのケースだけは、剣と同じように青かった。モイラに向かって突進し、刀を剣に当てながら、嶺に体を乗せて押した。突然の力押しにもモイラは動じず、重なるように向き合ったまま、互いに棒立ちになった。俺は左手で【雷撃】の魔法を発動し、至近距離からベルトの動力カートリッジに雷を発射した。【雷撃】が動力カートリッジを破壊し、モイラのプレート・メイルから、ふっと輝きが消えた。

 プレート・メイルの輝きが消えたことに気づいたモイラが、剣で刀を押しながら、「なにをした!」と叫んだが、「いちいち教えるかよ!」と言い、後方に飛んで逃げた。そのとき振り下ろされたモイラの剣が左肩に当たり、アーマーの『鱗』が飛び、内側の『下着』まで裂けた。激痛と共に血が飛び、肩から腕に生温いものが伝った。

 モイラがもう一度、「なにをした?」と言うので、「知らないのか、うちの開発品は、必ず(あら)があるんだ」と、負け惜しみのような、本音のような、あまり自慢できないことを言ってやった。

 そこへ、ピューと音を立てて矢が飛び、モイラに当たったが、カツンと音を立ててプレート・メイルに弾かれた。ネイトが二度三度と連続して矢を射たが、モイラのプレート・メイルを貫くことはできなかった。「なにをしたか知らんが、まあ、いい。お前らの文明で、この合金を破ることはできん。早く傷を治すがいい。待っていてやる。完全な状態の貴様を倒したいからな」と言うのでその言葉に甘えることにした。

 刀を鞘に納め、右手で【回復】の手印を組み、左肩の傷を止血し、筋肉の断裂をつないだ。魔法で傷の回復が促進され、左手が動くようになった。傷の治りを確かめるように左手を動かしながら、こっそり左手で手印を組み、【動縛】の魔法を発動した。この魔法は見えないマナの紐で、標的を縛り上げるものだ。

 モイラは身動き取れないことに気づき、「なに? 動かん。なぜ魔法が効く?」と驚いていた。動力カートリッジを壊したのだから、耐マナシステムが働かず、魔法が有効になるのは当然だ。どうもモイラはマナと魔法の関係をよくわかっていないようだ。

 狙い通り、モイラを動けなくすることができたので、収納ポケットから赤色鉱石を取り出し、モイラの身体に押し付けた。機能停止することを待っていると、モイラのヘルメットの中から、「なにをしている?」という声がした。そして、力任せに【動縛】を破り、赤色の鉱石を握る俺の右腕を抑えつけてきた。

(モイラの握力にアーマーがもちません)とパラゴが警告し、(右腕の『鱗』を強制解除しろ!)と言うと、『鱗』の結合が解除され、バラバラと散らばったおかげでモイラの手が滑り、腕の骨を砕かれる前に逃れることができた。モイラは、グイッと顎を上げるようにし、「驚いたな。お前がこの鉱石の使い道を知っていたとは。なるほど、これでアトロポスは葬られたか。これは人造生命体の起動を制御し、起動後は機能停止させるための触媒だ。だが、直接触れなければどうということはない」と言い、手袋(グローブ)を嵌めた左手で赤色鉱石を拾い上げ、握りしめて粉々に砕いた。万策尽きたとはこのことか…。

 その時、後ろから「マリシくーん、お待たせー! ラストニア合金で、マリシくんの刀を作ったわー!」というメーティス先生の叫び声が聞こえた。何を言っているかわからなかったが、視線を向けると青銅色の刀を振り回していた。それを見たモイラが、「お前たちの文明でラストニアの合金は作れん!」と怒鳴った。

 メーティス先生は、「モイラさんの持っている剣だって、このラボで作ったものじゃなーい!」と叫び返した。「それは()()()の!知識があったから作れたのだ!」と怒鳴るモイラに、「さっき作るところ見せてもらったわよー!」とメーティス先生が叫び返した。

 俺の耳に、「バカな。一度見て、覚えたというのか、あの複雑な混合比を…」とヘルメットの下でモイラがつぶやくのが聞こえた。

 メーティス先生は、「技術提携の約束でしょー? 盗んだわけではないわよー。教えてもらった技術をどう使おうがこっちの勝手だってモイラさん言っていなかったー?」と、いつまでもしゃべり続けている。「できているんだったら、さっさと渡してください!」と叫ぶと、「そういえば、さっきあたしの開発品のこと、悪く言っていなかったぁー?」と返ってきた。悪口と言うのは、こんなに離れていても耳に届くのかよ。

「その話は後! クロートー、俺に刀を投げろ!」と叫ぶと、クロートーの、「せやー!」という声が響き、頭上1mの高さに、鞘に入った刀がまっすぐに飛んできた。俺は跳び、空中で刀の柄を握って抜刀し、そのままマナを流して、モイラを上段から斬った。ギャン!と、金属が裂かれる音が響き、ヘルメットからプレート・メイルの右肩辺りまでが裂けた。同じ素材なら、マナを流した刀の方が強い。

 モイラは、「ぐぅっ!」と低く唸った。そこに、『モイラ。自己修復機能あり。ダメージ 0』とパラゴが表示した。暴走した時のクロートーと同じだ。

 刀にマナを巡らせたまま、右足で踏み込み、プレート・メイルの左肩から胴にかけて斬り裂いた。そして、そのまま手首を返し、胴の部分を薙いだ。致命傷を負わせた手ごたえがあったが、『モイラ。ダメージ 0』と表示された。攻撃の手を緩めず、モイラのプレート・メイルはボロボロになったが、決定的なダメージを与えられなかった。

「面白い、本当に面白いサルどもだ。どうやったかは知らんが、その剣の素材は間違いなく、ラストニア合金だ」と悔し気に言うので、「教えといてやる。利用するつもりで近づいたようだが、メーティス先生は貴様など足元にも及ばない天才科学者だ。貴様の持論なら、劣った方の科学者はこの世に不要なのではないか?」と挑発すると、「黙れ、黙れ! サルどもに何がわかる。()()()は天才だ!」とモイラが声を荒げた。「モイラさーん。ここであなたがやったことや、話してくれたことはすごーく参考になったわ。あたしが後を継いで、優秀な人を集めて、今の文明を進歩させるわー」と能天気な声が響いた。先生、モイラと同じことを言っているように聞こえるけれど…。

 怒り狂ったモイラが斬りかかってきた。俺はマナを巡らせた刀でモイラの腕を切りつけた。ガントレットのせいで腕を切断するには至らなかったが、血が飛び、壊れたヘルメットからは、苦痛に歪むモイラの顔が見えた。それでも自己修復機能を持つモイラは強気で、「この筐体の能力ならば、相打ちに持ち込めば、()()()の勝ちだ!」と言い、ラストニア合金製の剣を構えた。

 俺はモイラを見据え、「魔法のない世界にいた貴様には理解できまいだろう。剣と魔法は両方を組み合わせたとき効果が相乗される」と言い、左手で手印を組んで【風嵐】の魔法を発動させた。たちまち風が巻き上がり、モイラの身体全体が竜巻に包まれた。

 モイラは棒立ちになったが、倒れることはなく、「ははは。血迷ったか。この程度のそよ風で、人造生命体に収まったわらわを倒せる訳なかろう、あはははは!」と高笑いした。人造生命体の強靭さはこっちだって知っているので、驚きはしない。

 モイラが、こちらに近づこうと、一歩前に出た時、ガクンと片膝をついた。「ぬっ? なんだ?」と唸るモイラに、俺は指先で竜巻の位置をコントロールしながら、「風を起こしたのは、お前が砕いた赤色鉱石を巻き上げるためだ。貴様のアーマーはすでに穴だらけ。隙間から入った赤色鉱石が、じきにお前の機能を停止するだろう」と教えてやった。たとえプレート・メイルを強制解除しようと、身体に付いた無数の赤色鉱石の破片をとり除くことはできないだろう。

「マリシぃぃぃー!」とモイラは恨みを込めて叫び、近づこうとしたが、一歩も進めず両膝を突いた。指をかぎ爪のような形にして伸ばしてきたが、中身を失った手袋と腕甲が乾いた音を立てて落ちた。

(宿主様、モイラの融解が始まりました)と言うパラゴの言葉に続いて、ガシャンと音を立てて、プレート・メイルが倒れた。まもなく、モイラは完全に消滅した。

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