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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第1話 忘却の迷宮
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22-1. 第三の女

 ダンジョンを戻る途中、パラゴの表示で、あちこちに、生き物が潜んでいるのはわかったが、襲ってくることはなかった。まるで嵐が通り過ぎるのをじっと待っているような感じだ。15時にはダンジョンの入り口に到着したが、とうとうラケシスの所在がわからなかった。「ダンジョンの入り口を【障壁】で塞いでおこう。魔物や魔蟲がダンジョンの外に出てこられると厄介だ」と言うと、ネイトが同意するように頷いた。【障壁】の魔法を発動し、ダンジョンの入り口全体をくまなく塞ぎ、冒険者が【障壁】を越えてダンジョンの中に入らないように入り口の前に石を並べた。「立ち入り禁止」の印だ。

 ダンジョンの入り口があるオブリビオン山の中腹から山麓にむけて斜面を下り始めた。ここが人工的に建造された山だとは、まだ信じられないが、よくよく見ると、この山の岩石はこの辺りにないもので、地面が隆起してできたのではなさそうだ。足元に気を付けながら下っていくと、途中、ネイトが岩陰に潜むイワガメを見つけた。イワガメは、大きな甲羅を持ち、植物を主食とする亀で、危険はなく、食べると美味だ。「これで今夜の食事は決まりですね」とネイトが嬉しそうに言った。

 山麓に置いていたゴーレム馬車に着いた時には、日が落ちていた。夜道を駆ければ真夜中には到着できなくもないが、急ぐわけでもないので、焚火を炊き、野宿することにした。

イワガメをきれいに解体し、甲羅をひっくり返して鍋代わりにした。そして、イワガメの肉を煮込み、塩で味を調えた。シンプルな料理だが、一口食べたクロートーは、「うまい…」と絶句した。旨味が強く、臭みのない淡白な肉で、塩を控えめに調理して正解だった。

「そういえば、昔、冒険者パーティーのみんなで食べたことがあったな」と言うと、ネイトが微笑み、「衛星都市サゼリーに向かう途中の荒野でした」と答えた。するとクロートーが、「そうそう。マリシが助っ人を頼まれて、断り切れずに冒険者パーティーに参加していた時よね。あの時はイワガメの争奪戦だったわよね」と言い、ハッとしたように「あたし、あの時の味を覚えていない。これって偽物の記憶?」と言って口をつぐんだ。途中で、俺とネイトの思い出が、自分の記憶に変わっていると、気づいたのだろう。

 しばらく沈黙が続き、薪が燃える、パチパチと言う音がした。焚火を見つめていたクロートーが、「慣れるしかないわよね」とぼそりと言った。疑似記憶と言うのは、本当に厄介だ。「なぁ、味の記憶はないのか?」と訊くと、クロートーが頷き、「そうみたい。知らない食べ物ではないのに、なにを食べても新鮮に感じる。それから匂いはわかるけれど、なんの匂いなのかはわからなかった」と言った。

「景色とか音とかの記憶はどうなんだ?」と訊くと、「なんとなくはわかる気がする。きっとマリシの記憶よね?」と言うので、「どうかな?」と言って空を見上げ、「この数日、ダンジョンの中にいたせいで星がきれいだと思う。クロートーはどうだ?」と訊くと、クロートーが空を見上げ、「満天の星空で本当にきれいだと思うわ。そして、時折聞こえる虫の鳴き声もロマンチック」と言う。「俺は虫の鳴き声は気にしていなかった。たぶん、どう受け止め、なにを感じるかは、クロートーの個性なんだろう」と言った。

 再び沈黙が訪れ、重い空気になりかけた時、ネイトが、「ダンジョンで見つけたヒヒイロカネについて、ギルドマスターと相談すべきと思います。高価なものが出たと噂になれば、あっというまに冒険者が押し寄せ、ダンジョンの管理が難しくなりますから」と話題を変えた。「そうだな」と同意すると、クロートーが思い出したように、「あっ! それって、あたしが掘り出した金属のことよね? そんな高価なものなの?」と訊いてきた。

「それな…」と、俺は2人に、オブリビオン山の秘密について説明した。壮大なスケールの話のせいか、半信半疑のようで、2人とも黙って聞いていた。話し終わると、ネイトが、「そんなに進んだ文明でも滅んでしまうとは考えさせられますね」と言った。「冒険者ギルドに黙っておくことはできないだろう? 戻ったら、俺からポニーに報告するのでいいか?」と訊くと、ネイトが頷いた。クロートーが不安げに、「それで、あたしのことはどうするわけ?」と言うので、「それは秘密にするって。暴走した人造生命体のアトロポスは消滅した、ラケシスはダンジョンの中にいる、ってことで良いだろう」と安心させた。

ネイトが、「ラケシス討伐隊を組むとなれば、Aランク冒険者でのパーティーを編成しなければなりません。私は当然、参加するとして、他の人選はどうしますか?」と訊くので、「任せていいか?」と訊くとネイトが頷いた。そして、「あたしも加わるわ」とクロートーが言ったが、「ダメだ。クロートーとラケシスが並んでみろよ。Aランク冒険者たちが、2人の関係を疑わないわけがないだろう?」と拒絶した。「そんなの、他人の空似で押し通すわよ」と乱暴なことを言うが、「無理だって! まったく同じ顔なんだから。それにラケシスが、クロートーみたいに余計なことを言い出す可能性がある。2人の関係が疑われれば、俺たちだってクロートーのことを隠し通せないぞ」と言うと、「クロートーみたいにって、なによ…」とブツブツ言って、それ以上はなにも言わなくなった。その夜は、早々に解散し、ネイトとクロートーが幌馬車に入り、俺は外で休んだ。

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