表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第1話 忘却の迷宮
22/373

21. ダンジョンの掃除屋

 ダンジョン5日目の朝は、10層目の休憩所で迎えた。ダンジョン内に人造生命体ラケシスがいないかパラゴに探らせたが、マナのない人造生命体は位置の特定が難しいと返ってきた。出発前、休憩所内で携帯食を摂っていると、「このダンジョンって楽勝じゃない?」とクロートーが言いだした。ここまで、たいした脅威はなかったのは事実だが、「ダンジョンは帰りの方が危ないから油断するな」とたしなめた。「別に油断しているわけじゃないけれどさぁ。なんだか弱っちい敵ばっかりだから」と意に返さず、そんなクロートーをネイトは厳しい顔で見ていたが、なにも言わなかった。

 10層目の休憩所を出て、最短コースで9層目に上がると、中層階での難所の、狭い一本道になった。この場所は道に迷うことはないし、周囲の警戒もいらないが、敵に遭遇すると逃げ場がない。前衛と後衛は、いつも以上に注意が必要な場所だった。

「荷物がないと、すいすい進むわよね」と、ダンジョンの一本道の怖さを知らないクロートーが、俺に並んできた。「下がれ! 危ないだろう!」と咎めると、「マリシはあたしと並んで歩きたくないの?」と、頓珍漢なことを言う。「そういう問題じゃないんだって!」と言ったとき、クロートーが変な顔をして、「ねえ、なんか臭くない?」と言いだした。そこへ、後ろからネイトの怒号が聞こえてきた。「隊列を乱すな。ここは狭いから危険…」と、その声は尻つぼみになり、俺の足を止め、前方にちらちら見える影に視線が釘付けになった。

「穴ネズミだ! 集まれ。【隠形】と【障壁】を発動する!」と叫んだ。穴ネズミは雑食性で、鋭い歯でなににでも噛みつき、なんでも食べてしまう。そのため、『ダンジョンの掃除屋』と呼ばれていた。普通はもっと下層を縄張りにしているのだが、こんなところにまで出現するのは珍しい。

 クロートーとネイトが近づいたところで、「壁に並んで動くな!」と忠告し、【隠形】を発動した。【隠形】の魔法は、周りに気配を溶け込ませ、匂いもわからなくする。鋭敏な嗅覚を持つ穴ネズミでも、俺たちに気が付かないだろう。

 壁際でじっとしていると、ドブのようなにおいが強くなり、一匹の穴ネズミが近づいてきた。銀色がかった太い毛はテカテカと光り、口からは鋭い牙が見えていた。鼻が曲がりそうになるくらい臭い穴ネズミが、【障壁】の前で、俺たちをしきりと嗅ぎまわっていた。ネイトとクロートーの姿は見えないが、俺と同様、匂いに耐えて、息を潜めているに違いない。

 やがて、穴ネズミが頭をもたげ、「チーチー」と鳴き声を上げた。それを合図に6匹の穴ネズミが近づいてきた。【隠形】魔法は完璧なはずだが、気づかれただろうか? 穴ネズミがマナを感じ取るとは聞いたことがないし、このままやり過ごせるはずだ。集まった穴ネズミたちは、鼻を動かし、しきりと周りの臭いを嗅いでいた。そのうち、なにもないと判断したのか、俺たちが通ってきた方向に向かっていった。

 穴ネズミが十分に離れたところで【隠形】を解除すると、鼻をつまんだクロートーが現れ、「くっさ! まじで臭い!」と言い、ネイトも眉間に皺を寄せ、不快な顔をしていた。クロートーは自分の体の匂いを嗅ぎ、「匂いが付いたかも…くっさ! 信じられないくらい臭いわ」とのけ反った。なにやっているんだ…。

「マリシにも匂いが付いてない?」と言って俺に鼻を近づけてきた。「や、やめろよ、俺だって臭いに決まっているだろう!」と離れたが、「くっさ! んっ? でも、かすかに、マリシのいい匂いがするかも」と言い、鼻先が俺の顔にくっつくぐらいまで近づき、くんくん嗅ぎ始めた。ネイトが怒って、「離れろ! 変態!」と、乱暴にクロートーの腕を引っ張り、「もう! わかったわよ」と不貞腐れたように言い、俺から離れた。


 再び俺を先頭に隊列を組み、先に進んだ。さっきまで穴ネズミがいた場所に行くと、地面には多量の骨が散らばっていた。クロートーが、「げっ! なによ、これ?」と悲鳴を上げた。「ゴブリンの骨だな。穴ネズミが死体を(あさ)ったんだろう」と言うと、「道理で臭いわけよね」とクロートーが納得したように頷いた。

 ゴブリンはダンジョンのどこにでも出没するが、死んだ仲間を食べてしまうので、通常、死体が残ることはない。ゴブリンの死体が野ざらしになっていたということは、ダンジョンのあちこちで相当数のゴブリンが死んでいるか、できたばかりの死骸か、ということだ。

 ネイトは怪訝な顔をし、「アトロポスは、ここでゴブリンを殺し、20層目に戻ってきたということでしょうか?」と言った。「途中で俺たちに気づいて、探したんじゃないか?」と根拠のないことを言うと、ネイトは納得いかないように首を傾げ、「クロートー殿を探すのであれば、上で待ち伏せるのではないでしょうか? それなのに、ここまで来てから引き返したというのは、理解できません。もしやラケシスがこのダンジョンの中で活動しているのでしょうか?」と言う。「わからない。暴走した人造生命体を破壊をする役割はアトロポスが担っていたらしい。どうやってクロートーを探し出したのかはわからない」と答えた。ネイトが頷き、「いずれにしても、これだけゴブリンを殺していれば、ダンジョンの生態系は乱れます。ダンジョンへの立ち入りを解除する前に、調査を入れることをギルドマスターに進言します」と言った。さすが有能な冒険者ギルド職員だ。

 その時、クロートーが鼻をヒクヒクさせ、「さっきの穴ネズミの匂いが強くなった気がするけれど…」と言い、少し遅れて、パラゴが、(穴ネズミが接近しています)と警告した。頭の中に、穴ネズミの位置を示した地図を展開され、離れていった穴ネズミが凄い勢いで引き返してくるのが分かった。風が後ろ、すなわち穴ネズミのいる方向に向けて流れていたので、俺たちの匂いを嗅ぎつけたようだ。

「ネイト、こっちに回れ! クロートーも俺の後ろに!」と叫び、【障壁】の魔法を発動し、道を塞いだ。突進してきた穴ネズミが、次々に【障壁】に激突し、慌てたように飛び退いた。

「穴ネズミはしつこい。こうなったら、戦うぞ!」と叫んだ時、「おりゃー」という掛け声とともに石が飛んだ。手前の穴ネズミが「チー!」と叫んで、跳ね飛んだが、固く、太い毛に遮られ、致命傷を与えられなかった。続いて、ネイトが矢を射た。穴ネズミの身体に矢が刺さったものの、これも致命傷にならなかった。

 穴ネズミたちは、目の前にいる俺たち目指して、【障壁】に体当たりを続けた。このまま体当たりされ続けると、【障壁】が破られるのも時間の問題だ。

「2人ともここにいてくれ。俺が追っ払ってくる」と言って、ベルトのボタンを押し、顔面を覆う形のフルフェイスヘルメットを装着した。そして、「黒曜(こくよう)」を抜き、【障壁】の外に出た。

 狭い洞窟では、敵に囲まれる心配はなく、目の前の穴ネズミにだけ集中すればいい。マナを巡らせた刀で、穴ネズミの鼻先を斬った。「チー!」と鳴き声をあげて、穴ネズミが飛びのくと、すぐに別の穴ネズミが襲い掛かってきた。マナの巡った刀の前では、穴ネズミの剛毛は役に立たず、致命傷ならずとも傷を負い、一匹、また一匹と、奥へ退いた。途中、なんどか押し倒されそうになったが、ネイトが穴ネズミの目を矢で射貫き、サポートしてくれたおかげで助かった。

 穴ネズミの集団が10層目に逃げていったのを確認し、「黒曜」を鞘に納めた。ネイトとクロートーのところに戻り、【障壁】の魔法を解除すると、クロートーが、「ねえねえ、なんで魔法を使って撃退しなかったのよ?」と、不思議そうに訊いてきたので、「んっ? こういう筒状の場所で爆発させると、自分もまきこまれるリスクがあるから、刀の方が確実なんだ」と教えてやった。「なるほどね。石を当てても死なないし、結構でかいし、臭いし、今回ばかりはあたしもやばいと思ったわ」と言った。さっきまでダンジョンを舐めていたクロートーも、これで少しは慎重になるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ