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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第1話 忘却の迷宮
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20. ゴブリン襲撃

 20時にはネイトとクロートーは奥の個室に入り、俺はいつものように休憩所の扉の前に座り、半分覚醒、半分睡眠状態で外の様子を拾った。見張りを始めて間もなく、(宿主様、敵意をもって取り囲む50体を感知しました。サイズからゴブリン47匹、ホブゴブリン3匹と思われます)とパラゴが警告した。

 ゴブリンの数が多いだけでなく、ホブゴブリンもいるので、「敵襲だ!」と奥の部屋にいるネイトとクロートーに大声で叫んだ。ネイトは気づいていたのかと思うくらいの速さで部屋から出てきた。手には弓を持ち、腰にはダガー2本と矢筒を帯びていた。遅れてクロートーが、パジャマの上にミスリル製の鎖帷子を身に着け、寝ぼけ眼で現れた。部屋に入って、さほど時間が経っていないと言うのに、しっかり休んでいるし…。「眠いのであれば、部屋に戻れ!」とネイトが怒鳴ると、クロートーは目をこすり、「大丈夫よ、ふぁぁー」とあくびした。

 休憩所は、北と南の壁を長辺とする長方形をなし、北はダンジョンの壁、南はダンジョンの広場に面していた。東、西、南の壁には、大きな窓はないが、弓矢で外の敵を射るため縦長の穴、すなわち、狭間(はざま)があった。狭間から除くと、手に剣や弓を持ち、鎧で身を固めたホブゴブリンとゴブリンが見えた。(パラゴ、敵の数を表示してくれ)と命じると、視野の隅に『50』という数字が出た。

「まずはゴブリンを混乱させるから、ネイトは矢で数を減らしてくれ、クロートーは待機だ」と言うと、寝ぼけ眼のクロートーが、「えー。いつでも戦えるように、荷物に石を詰め込んできたのに…」と不満を言った。

「石を持って? 投石のためにか?」と訊くと、「そうよ、あたしも活躍したいからさぁ」と言う。クロートーなりに冒険者パーティーに貢献したいと思っているのだろう。その心意気を買うことにした。

「わかった。じゃあ、石を持ってこい」と言うと、部屋に戻っていった。

 ネイトが外の様子を伺いながら、「つけられていたのでしょうか?」と訊いてきた。たしかに、たまたま鉢合わせしたにしては、数が多すぎる。

「つけられていたような気配もなかった。もしかしたら、アトロポスの襲撃を受けて、この辺りを警戒していたんじゃないか? そこへアトロポスと同じ顔をしたクロートーがやってきたから、大勢を引き連れて復讐しに来たのかもしれな」と答えたとき、クロートーが戻り、手にしたリュックを逆さにした。中から握りこぶし大の石がゴロゴロと出てきた。そして、「これだけでも10個はあると思うわ」とドヤ顔で言う。

「すごいな。ネイト、矢はいくつ残っている?」と訊くと、「21本です」とネイトが即答した。「じゃあ、ネイトは狭間か扉から射てくれ。クロートーは扉から投石を頼む。扉を開くが、【障壁】を張っておくから休憩所の外に出ないように気をつけてくれ」と言うと、2人が頷いた。

 扉を開け、【発光】の魔法で発光体を放ち、休憩所の周りを明るくした。そして、【障壁】の魔法を扉の外に張った。これで、内側からは扉の外に出ることができるが、ゴブリン程度の力では室内に押し入ることができないだろう。続けて、両手で手印を組み、小さな声で「オン マリシ エイ ソワカ…」と詠唱した。目の前でマナが具象化し、長く伸びた牙を持つ、巨大な猪の形になった。

 ネイトが「エリュマントスの猪!」と驚嘆の声を上げた。【エリュマントスの猪】は高度な魔法で、マナの消費も多いため滅多に使わないが、術者が意のままに操ることが出来き、視覚も共有できた。

 クロートーがしゃがみ込んで、猪の鼻をつつきながら、「なにこれ?」と言った。「魔法で作った猪だ。その猪が見ている景色が、俺にも見えている。クロートーの顔しか見えないからどいてくれ」と言うと、ネイトが、「これは【エリュマントスの猪】といって高位魔法の一つだ。以前、冒険者パーティーにいたBランクの魔術師が発動しているのを見たが、これよりもサイズは小さかったし、こんなにすぐには発動できなかった。さすがはマリシ様」と感心すると、「ネイトはそうやってすぐにマリシに(こび)を売るし」とクロートーが聞こえるようにつぶやいたが、ネイトはなにも言わなかった。

「これからゴブリンたちの群れに、エリュマントスの猪を突進させる。パニックになるだろうから、出てきたところを矢と石で倒してくれ」と言い、俺目線の猪が休憩所の外に出た。ゴブリンたちが虚を突かれ、固まっているのが見えた。ゴブリンにしてみれば、自分たちと同じくらいの大きさの巨大な猪が突進してくるのだから恐怖しかないだろう。一番近い群れに突っ込み、逃げ惑うゴブリンの背後を、容赦なく、長い牙で蹂躙した。「ぎぎ-!」「きー!」と悲鳴が上がり、ゴブリンが轢死した。視界のカウンターが減り、『47』になった。

 俺=猪の突進に気づいたゴブリンは背を向けて逃げ出し、そこへ「せーい!」という掛け声とともに、クロートーの投げた石が飛んだ。一発でゴブリンの頭が潰れるのが見えた。相変わらずコントロール抜群だ。

 ネイトの弓も速いペースで弦の音を立て、視覚の隅のカウンターが減り続けた。俺=猪は行く手を阻むゴブリンを牙で突き殺し、ときどき立ち止まっては、ゴブリンの密集したところに突進した。すでに敵は『40』に減っていた。

(宿主様、ホブゴブリン3匹は無傷です)とパラゴが言うので、ホブゴブリンを探した。ホブゴブリンの身長は人間族の大人と同じぐらいで、ゴブリンの中にいると、子どもの群れにいる大人のようだ。

 猪目線でもどこにいるかすぐにわかった。ゴブリンを跳ね飛ばしつつ、身近にいたホブゴブリンに迫った。ホブゴブリンは猪の突進に気づいても逃げず、モーニングスターを身構えた。

 猪は突進には優れるが、回避は苦手だ。モーニングスターの鉄球が、俺=猪にぶつかり、マナの塊は破壊された。俺には痛みも衝撃も感じないのだが、殴られたように仰け反った。

 ネイトが正面から眼を離さず、「大丈夫ですか?」と訊いてきたので、「猪がやられた。…あとどのくらい戦える?」と訊くと、「矢は14本あります」と言い、クロートーが「マリシ、そろそろ石がなくなるわ。残り2個」と言った。残りの敵は27匹だ。

(宿主様、ゴブリンが休憩所に近づいてきます)とパラゴが警告したとき、数匹のゴブリンが、火のついた涙草(なみだぐさ)を放り投げてきた。涙草の煙は刺激が強く、煙に巻かれると喉や目をやられるため、こういう名前が付けられていた。休憩所にいる俺たちを燻りだす魂胆のようだが、ダンジョンのような密閉された空間で涙草を使うのは馬鹿げている。所詮はゴブリンどもの浅知恵か。

 休憩所の狭間や壁の隙間から煙が入ってきたので、ベルトのボタンを押し、『鱗』の配列を変え、フェイスマスクで顔を覆った。目の周りは、【障壁】で守られ、外部とは隔離した状態になった。ネイトも俺と同じようにフェイスマスクで防御した。だが、クロートーは無防備で、煙の影響をもろに受けていた。「なによ、これ、ゴホッ、煙いし、目が痛いし、ひどいことしてくるじゃないのよ、ゴホッ」とむせているので、「しゃべるな。余計に煙を吸い込むぞ。煙が辛いなら奥の部屋に待機しろ」と言ったが、「大丈夫よ」と動かなかった。

【風嵐】の魔法を発動させ、部屋の外に排煙した。その竜巻のせいで、ダンジョン15層全体に煙が漂い、一気に視界が悪くなった。「休憩所の防衛を頼む」とネイトに声をかけると、「マリシ様は?」と訊かれ、「視界が悪ければ、多勢よりも個が有利だ。外に出る!」と、休憩所の外に飛び出した。

 ダンジョンの中は煙が充満し、1m先も見えなかったが、パラゴのサポートで、敵の位置を正確につかんでいた。煙に紛れて、ゴブリンたちを刈り取っていった。「ぎぃー!」という断末魔の声が響き、この叫び声が引き金になって恐怖に駆られたゴブリンたちがパニックを起こした。こうなるとホブゴブリンの統制もきかなくなり、同士討ちが始り、あちこちで悲鳴が上がった。パラゴの示すカウンターは、あっという間に『21』になった。

 エリュマントスの猪を倒したホブゴブリンに近づくと、勘の良い奴で俺に気づき、牙を剥いて威嚇した。ホブゴブリンは、知能は人間族以下だが、力は人間族以上の残忍な魔物だ。モーニングスターを振り下ろしたので、その鉄球を黒曜で真二つに切り裂き、ホブゴブリンがたじろいだ一瞬を逃さず、刀を走らせ葬り去った。

 少し離れたところでは、別のホブゴブリンが涙を流しながら、ゴブリンたちを怒鳴りつけていた。身を屈めて移動し、悟れられることなく斬った。斬られたホブゴブリンは、自分が死んだことにも気づかなかっただろう。残る1匹のホブゴブリンは、ゴブリン6匹を連れて、休憩所に向かっていた。ホブゴブリンが扉の前に立った瞬間、クロートーの「たぁりゃー!」という叫び声が聞こえ、ホブゴブリンの身体は金属棒で貫かれ、串刺しになった。投げる石がなくなって、アトロポスの棒を投げつけたようだ。クロートーの腕力に驚嘆していると、「やぁー!」という叫び声が続き、休憩所の扉から移動ポッドの部品が飛んだ。それに当たったゴブリンが跳ね飛ばされて即死した。戦意喪失したゴブリンたちは逃げ惑い、あっという間に視界のカウンターは『0』になった。

 休憩所に戻り、「よくやった。クロートーは指示を守りながら、よくホブゴブリンを倒したな。どんなに能力が高くても、命令を守らない冒険者は、冒険者パーティー全体を危うくする。今日の行動は立派だった」と褒めると、「まぁね」と、クロートーが得意げな顔をした。ネイトには「いつもサポートありがとう」と礼を言った。ネイトは真剣な顔のまま、「涙草を何とかしないと、このフロア全体に影響が出ます」と言うので、2人で涙草を拾い集め、【土溶】を発動して土の中に沈めた。

「今夜はもう襲撃される心配はないだろう。明日に備えて休もう」と言うと、ネイトとクロートーが部屋に戻り、ようやく、長い一日が終わった。

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