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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第1話 忘却の迷宮
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15-2. ダンジョンの住人たち

 ダンジョン2日目の朝、俺が起こす前に、ネイトは出発準備を終えていた。7時半ころ、クロートーを起こしに行ったが、いくら声をかけても起きてこず、しびれを切らしたネイトが部屋に入って引っ張ってきたのは8時過ぎだった。眠そうだが、疲れは残っていないようだ。3人で簡単な朝食を済ませ、休憩所の外に出ると、荷台を触られた形跡はあったが、盗まれた物はなかった。

 昨日と同じ陣形で、ガタガタと荷車の音が響かせながらダンジョンを移動した。下層の行くにつれてフロアは狭くなり、移動距離は短くなったが、魔物のレベルが上がるので油断ならなかった。ダンジョン8層目に入ったとき、(宿主様、前方に一体、中型の生体反応を感知しました)とパラゴが警告した。

 歩みを止め、闇の中に目を凝らすと、ダンジョンの壁に魔蟲が潜んでいるのが見えた。「前方に土蜘蛛がいる。集まれ!」と声をかけると、すぐに2人が集まったので、片手で手印を組み、【障壁】の魔法を発動しつつ、「今、【障壁】の魔法を展開した」と警告した。【障壁】は物理攻撃を防ぐための見えない壁で、強い力を受けなければ壊れることはない。ただし、内側から外側に移動できるので、魔法を発動したことを言っておかないと、冒険者パーティーのメンバーが外に締め出されてしまうことがあった。

 クロートーが、「ねえねえ、土蜘蛛ってなに?」と訊いてきたので、「ダンジョンに生息する中型の魔蟲だ。昨日のゴブリンみたいな、小型の魔物を食って生きている。やっかいなのは…」と言ったとき、目の前の、魔法の壁に、ビシャっと黒い液体がこびりついた。「こうやって毒を飛ばしてくる。この毒で獲物の動きを鈍くし、糸で絡みとるんだ。そして、獲物の身体に消化液を入れて、液体にして飲んでしまう。飛んでくる毒と蜘蛛の糸に注意が必要だが、剣の通りやすい体で戦いやすい」と説明すると、クロートーは「ふーん。マリシって、なんでも知っているのね」と感心した。

 土蜘蛛が【障壁】の壁全体に毒や糸を飛ばしてきたが、魔法の壁に囲まれていたので、身体に付くことはなかった。黙って成り行きを見ているクロートーに、「土蜘蛛の糸で【障壁】が壊れる心配はない。それに、引き寄せられることもない。そのうち、奴の方から近づいてくるさ」と言うと、音もなく、8つの赤い目をもつ、真黒な土蜘蛛が近づいてきた。森に生息するヒュージスパイダーよりも手足が短く、毛深かった。これだけ近づいてくれば、【発光】の魔法を発動しなくてもよく見える。クロートーはしかめ面をして「キモッ!」と言った。

「前面の壁についた糸を焼き払うから、糸が消えたら攻撃してくれ」とネイトに言うと、「御意」と言って弓を構えた。【火壁】の魔法を発動し、前面の糸を燃やした。【火壁】は【火球】と同じように火系魔法だが、爆発することはなく、火でできた壁を作るものだ。たとえば巨大蜂の大群に襲われた時など、この魔法が防御と攻撃の両方を担うことができた。

 黒い大きな土蜘蛛は目前に迫っていた。ネイトが矢を外すわけがなく、土蜘蛛の、鎌状の上顎の間にプスっと矢が刺さった。そして、「どりゃー!」と言う掛け声とともにクロートーの剛腕がうなり、土蜘蛛の腹にぽっかりと穴が開いた。パラゴに確認するまでもなく、土蜘蛛が死んだのはわかった。どちらの攻撃も致命傷だ。

「2人ともよくやった。でも、ダンジョンではあまり大声を出すな。こちらのいる位置を悟られると、狙われる場合もあるし、狙っている獲物が逃げる場合もある」と教えると、クロートーは「了解!」と言って、ビシッと敬礼した。どこでそんな仕草を覚えたのだ。


 ダンジョン10層目に到着したのは11時過ぎだった。10層目の休憩所は5層目の休憩所よりも小さいが、壁は頑丈にできていた。ここで小休止をとり、昼食も済ませた。昨夜のホブゴブリンの件があり、パラゴに索敵させたが、ところどころに生体反応があるものの、こちらに敵意を持つ魔物はいなかった。

 ダンジョンの移動を再開し、13層目まで下りたところで小休止をとっていると、ネイトがポツリと、「このダンジョンは、この程度でしたでしょうか?」と言った。「ん?」と聞き直すと、「魔物が少ないように思います。魔物討伐後のような静けさです」と言う。俺がこのダンジョンによく潜っていたのはずいぶん前なので、冒険者ギルド職員のネイトの方が最近の様子を知っているのだろう。「そう言えば、昨夜、5層目だというのにホブゴブリンの気配を感じた。ゴブリンの集落に何かあって、群れからはぐれたのかな」と言った時、パラゴが、(宿主様、前方に生命体反応。ゴブリン21匹です)と警告した。立ち上がりながら、(パラゴ、敵の数を表示しろ)と命じると、視野の片隅に『21』という数字が表示された。ネイトはすぐになにかあったと察したのか、弓を持って立ち上がった。

「前方にゴブリンがいる。昨日より数が多い」と警告すると、ネイトは前方をじっと見つめ、静かに弓を引いた。そして、弦が振るえる音に続いて、50m先のゴブリンが「きー!」と悲鳴を上げ、ひっくり返った。視覚のカウンターの数が『20』に減った。

 昨日のゴブリンたちと違い、倒れた仲間を見ても固まるゴブリンはなく、いきり立っていた。【発光】の魔法を発動し、ダンジョンの奥のゴブリンたちを見えるようにすると、「うぉりゃー」と言う声とともにクロートーが石を投げ、一匹のゴブリンが弾け飛んだ。さっき静かにしろと指導したばかりなのに、まったく治っていない。カウンター数が『19』になった。

 ネイトは次々に矢を射て、弦が鳴るたびにカウンターの数字が減った。その隣で、クロートーが地面にはいつくばって、手頃な石を探しているのだが、その緊張感のない格好に笑いそうになった。

 物陰に隠れながらゴブリンが近づいてきたので、【障壁】の魔法を発動して2人を守り、アーマーのベルトのボタンを押してヘルメットを装着した。

「【障壁】を張った。2人ともここを動くな。近くのゴブリンを斬ってくるから、遠くのゴブリンを削ってくれ」と言い、【障壁】の外に飛び出た。緑色の皮膚を持つ、醜悪なゴブリンが剣や手斧を手に、襲い掛かってきた。

黒曜(こくよう)」を一閃させると、3匹のゴブリンの首が落ち、茶色い血が噴き出た。カウンターの数字が3つ減り、『12』になった。ゴブリンの集団に駆け寄ると、マナを巡らせた刀で、レザーアーマーごとゴブリンを斬った。その後ろから、手斧を投げつけようとしていたゴブリンの眉間に矢が刺さった。

 俺の胸の高さくらいまでしかないゴブリンは、執拗に足を狙ってきた。ダンジョンに入る冒険者には、活動性を重視するあまり、足の防御をおろそかにする者もいる。それを知っているのだろう。だが、『鱗』で覆われた外装甲と衝撃を吸収する『下着』で、こちらの防御は完ぺきだ。

 地面を薙ぐように、「黒曜」を振り、2匹のゴブリンを斬った。真横から襲い掛かったゴブリンを斬ろうとしたとき、投石が当たってゴブリンが吹っ飛んだ。クロートーよ、狙う敵が俺に近すぎるぞ。

 その後も、ゴブリンを斬った。後ろからは弦を弾く音と「でりゃー」という声が聞こえてきた。怖気づいた最後の一匹が背を向けて逃げだそうとする、その背中に矢が刺さり、視界の隅の数字が『0』になって消えた。

 黒曜を振って血を払い、腰の鞘に納めた。ネイトとクロートーのところに戻り、【障壁】の魔法を解除した。「サポート、ありがとう。クロートーの投石はすごいけど、俺には絶対当てるなよ。アーマーが壊れそうだ」と、言っておいた。クロートーは気にした様子なく、「あたしってさー、周りに石がないと攻撃できないのよね。なんとかならないかしら?」と言った。「クロートーは荷物運び担当だ。戦ってくれるのはありがたいが、無理しなくて良いって」と言うと、クロートーは「ぶー」とむくれた。


 15層目の休憩所に到達したのは15時ごろだった。荷物を下ろし、2人に菓子を渡した。クロートーが、「なにこれ?」と言うので、「とっておきのおやつ。檸檬の皮をハチミツと砂糖で煮込んだものだ。元気が出るぞ」と教えると、クロートーは躊躇なく口の中に入れ、「うまい!」と目を輝かせた。そして、「あたし、こういうの大好きだけれど、ひょっとして、普通の人間ってことない?」と訊いてきた。たしかに見た目は普通なのだが、普通の女性ならあんな投石できないだろう。答えられずにいると、ネイトがおやつを食べながら、「私は普通に接しているつもりだ」と言い切った。

 15層目の休憩所を出てからは、静かな移動が続き、パラゴの映す地図にも脅威になるような敵は表示されなかった。そして、目的の20層目の休憩所には、18時ころ到着した。20層目の休憩所は小さく、せいぜい2つのパーティーを収容できる程度の広間があるだけで、個室はなかった。

 建物をチェックし、「大丈夫、安全だ」と声をかけ、3人で休憩所に入った。暖炉に火を入れ、室内を温めながら、昨日と同じく、干し肉を炙った。外に匂いが漏れて、魔物や魔蟲を集める可能性はあったが、休憩所の壁や扉は頑丈にできているので心配ないだろう。

 3人で卓を囲んでいると、ネイトが、「ゴブリンが、あそこまでのいきり立つのは、自分たちの巣が襲われた時です。冒険者ギルドは1週間以上、このダンジョンへの立ち入りを禁止しているので、なにか引っかかります」と言ってきた。パラゴに索敵させていた俺は、「心配しすぎじゃないか? 周囲に大型魔物の気配はなかったぞ」と言うと、ネイトが黙った。

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