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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第1話 忘却の迷宮
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14. よし! ダンジョンへ行こう

 ラボの作業室に入ると、ちょうどメーティス先生がネイトにアーマーの説明をしているところだった。『忘却の迷宮』に入るにあたって、ネイトにも俺と同じアーマーを提供して欲しいと、頼んであったのだ。『下着』の内装甲をフィットさせれば、外装甲は『鱗』が貼りつくだけなので、調整には時間はかからないはずだ。

 ネイトが笑顔を見せ、「ありがとうございます。とても軽くて、動きやすいアーマーです。ラボの技術に驚きました」と言った。白衣のメーティス先生が作業の手を止めず、「これを作ったの、マリシくんではなくて、あたしなのよねー」と言い、「あ、ありがとうございます」と口ごもりながらネイトが礼を言った。メーティス先生は自慢げに、「よくできているでしょう? マリシくんのアドバイスで改良できたのよー」と言う。不具合のせいで何度も死にそうになったからでしょう、とは言わないでおいた。

 メーティス先生が、「いくら軽いって言ってもミスリルは金属だから、水の中に落ちたら沈むのよね。緊急脱出用のボタンが両脇の下にあるから覚えておいて。どっちかの腕がもげちゃったときのために、両脇の下にボタンがあるけれど、機能は同じ」と、さりげなく物騒なことを言う。ネイトが右手で自分の脇の下を探っているので、「それを押すなよ」と忠告したが、もう遅く、ネイトのアーマーがガシャリと床に落ちた。右腕で左の脇の下のボタンを押したので、胸を隠す格好にはあったが全裸になった。「えっ?」と、ネイトは固まり、俺は慌てて背を向けた。以前、『下着』まで解除する必要があるのかメーティスと議論になったが、「緊急なんだから、全部を外した方が良いでしょう」の一点張りで、このシステムになったのだ。使ってみると便利な機能で、屋敷に帰ってアーマーを外すとき、専らこのボタンに頼っていた。もちろん、一人の時だ。

 背後から、「み、見ましたよね?」ネイトの上ずった声がしたので、「いや、なにも見てない」と見え透いた嘘をついた。後ろでがしゃがしゃという音と、メーティス先生が、「ダメダメ、まず『下着』を身に着けて、それからこのベルトのボタンを押して、『鱗』を貼り付けるの。…そうそう、その順ね」と言うのが聞こえた。そして、「もしかして、マリシくんに裸を見せるの、初めてだったの? へー、まだそういう関係なんだ」と言う声と「もうこちらを向いても大丈夫です」が重なった。

 振り返ると、顔を赤くしたネイトがアーマーをまとっていた。メーティス先生はのんびりとした口調で、「マリシくんの装甲にも同じところに緊急脱出ボタンが付いているけど、裸にして襲ったりしないでね」とネイトに言い、「マリシくんもね」と付け加えた。


 ダンジョンに持っていく物や休憩場所など、ネイトと打ち合わせをしていたとき、急にクロートーが『忘却の迷宮』の地下空間に行きたいと言い出した。「あたしが生まれた場所なんでしょう? 見る権利はあると思うわ」と言うクロートーに、「正直言って、足手まといだ。それに、あの場所に行ったことで、お前が暴走したり、身体に異常をきたしたりしたらどうする?」と言ったが、「それくらいであたしが暴走するなら、マリシが来る前に、とっくに暴走しているわ」と言う。

「3人でダンジョンに入るとなると、持っていく荷物が増えて計画を練り直す必要があるんだぞ」と言うと、「荷物持ちはあたしがするわ」と聞き入れない。しまいには、「あたしだって、まったくの素人ってわけじゃないわよ。何度か、一緒にダンジョンに入ったじゃない」と、疑似記憶を持ち出してきた。

「とにかくダメだ。ダンジョンには俺とネイトで入る。そして、地下空間へ行くのは俺だけだ。小さなトンネルがあるだけで、2人で行く移動手段がない」と言うと、メーティス先生が「マリシくーん、移動ポッドの試作品を使えば、クロートーちゃんも移動できると思うわよ。加速システムを連動できるわ」とクロートーの味方をした。

 クロートーがメーティス先生の言葉に飛びつき、「それ、いいアイディアじゃない!」と言うので、「その加速システムは前回、うまく作動しなかったんですよ。二人で使うのは危険すぎます」と反対したが、メーティス先生は、「バッチリ直しといておいたわよ!」と胸を張った。それなら最初からトラブルを起こすなよ。

クロートーが、「ねぇ、マリシ、お願いよ。トンネルを塞いだら、もうあたしがラストニアの遺跡に触れるチャンスはなくなるわ。もしかしたら、遺跡の中に、あたしの記憶に残っているものがあるかもしれないじゃない」と言い、俺は迷った。地下空間までクロートーを連れて行くリスクは承知しているものの、クロートーの記憶の中に地下空間のことがあれば、なにかわかるかも知れない。なにしろ、この時代よりはるかに進んだ文明の遺跡だ。新しい発見のチャンスがあるなら、たとえそれがハイリスクハイリターンであろうと、試してみる価値はある。

「わかった、クロートーは荷物持ちで連れていく。先生、予定変更で3人分のアーマーをお願いします」と頼むと、「クロートーちゃんは頑丈だから、マリシくんが使っていたミスリル製の鎖帷子を着るだけで大丈夫よ」と言われた。なにも言わずにいるネイトに、「そういうことで迷惑をかけることになるかも知れないが、バックアップを頼む」と言うと、憮然とした表情で、「リーダーの決定には従います」と言った。


 翌朝9時、まだ眠そうにしているクロートーを幌馬車に押し込み、衛星都市ザークから東のオブリビオン山へゴーレム馬車を疾走させた。今回は『忘却の迷宮』の地下空間に潜るだけでなく、ダンジョンに開けた穴を塞ぐ必要もあり、荷物が多くなったが、その分、幌馬車も大きくしていた。12時過ぎにはオブリビオン山の麓に到着し、簡単に昼食を済ませた。幌馬車に積んでいた組み立て式の荷車を降ろし組み立てた。ダンジョンの狭い悪路を移動できるように、荷車の幅は狭く、車輪は太くしていた。

 クロートーは宣言通り、荷物運びを担当し、人間離れしたパワーのおかげで、山盛りの荷物を載せて登っていった。途中、荷物を落とさないように後ろから支えはしたが、クロートーはやすやすと荷車を牽き、山の中腹にある『忘却の迷宮』入り口に着いたのは16時だった。「疲れていないか?」とクロートーを気遣うと、「大丈夫。山を登っただけだし、余裕、余裕!」と元気な声が返ってきた。

「これからダンジョンに入って、今夜は5層目で休むことにする。ダンジョンの中は寒いから今から重ね着しておけ。俺が先頭で、次がクロートー、最後はネイトで頼む」と言うと、ネイトが「御意」と答えた。冒険者ギルドのルールで、ダンジョンの中は5の倍数で休憩場が置かれている。ダンジョン内で野営するよりも、きちんとした壁に囲まれた休憩所で休む方が安全なので、冒険者は、5層目、10層目、15層目、20層目を目指した。ダンジョン深部に行くと休憩所を設置できていない場合もあるが、そこまでたどり着けるパーティーは高ランク冒険者なので、野営しても心配ないのだ。

 俺は腰に「黒曜(こくよう)」を帯び、背中に荷物を背負った。クロートーは重ね着をして防寒対策し、荷車を引いた。ネイトは弓を肩にかけ、腰に矢筒を帯びた。


(パラゴ、下の階に降りる。安全な最短コースを表示しろ)


 視野の片隅にダンジョン全体の地図が現れ、2層目に降りるまでの最短コースが線で表示された。事前に打ち合わせしておいた通りのコースだった。パラゴはダンジョン内に漂うマナの残留から、フロア全体の地図を描いているらしく、情報が乏しい一部の場所は、黒く塗りつぶされていた。ちなみに、ダンジョンだからと言って、どこにでも魔物がいるわけではない。魔物が立ち入らない場所もあるのだ。その一方で、魔物が狩場にしているところもあり、うっかり入ってしまうとBランク程度の冒険者でも全滅するリスクがあった。どの道を選ぶかで冒険者パーティーの命運が分かれ、その選択は、先頭を行く者の技量によるところが大きい。

 ダンジョンの中は、発光する苔で薄明るい場所もあるが、ほぼ真っ暗なので、【発光】の魔法を発動し、3m先に光源を浮かせた。俺もネイトも夜目が効くし、クロートーも暗いと言わないので、見えているのだろう。ダンジョンで松明を使うと煙で息苦しくなったり、視界が悪くなったりするため、使うことはなかった。

 荷車を牽くクロートーは、凸凹道やぬかるみにてこずっていたが、細腕からは想像できない怪力を発揮し、半ば強引に荷車をコントロールした。下の層への移動は、階段を降りる場合も、ただ穴を降りる場合も、急勾配を降る場合もあった。ネイトを見張りに立てて俺が先行し、危険がなければ、クロートーが荷物を降ろすことを繰り返した。途中、何度か小休止を挟みながら、ようやく目的の5層目に到着した。

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