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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第5話 旧ドワーフ坑道
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13-2. ドワーフ族との交渉

 しばらく部屋で待たされた後、ノックもなく扉が開き、入ってきたドワーフ族が、「準備できたぞ。お館様がお待ちだ」とぶっきらぼうに言った。ドワーフ族の後について、入り組んだ坑道の中を歩いていくと、天井の高い、広い部屋に案内された。部屋の真ん中に、長いテーブルが置かれ、20人ぐらいのドワーフ族が座っていた。テーブルの端の、一番、奥の席にジルバ・ドン・ガダッハが座り、「おおー! 人間族のマリシ! こっちに来い。妻もマリシの傍に座れ」と尊大に言い、クロートーは不貞腐れ、エルジャは圧倒されていた。ジルバ・ドン・ガダッハは、俺たちが着席するのを見届けると立ち上がり、「よぉーし! みんな杯を持て。ドン出身のガダッハ族の族長ジルバが言うぞ! 今日は人間族の友、マリシが良い話を持ってきてくれた。マリシは親父の代から、ミスリルインゴットを買ってくれている、いい友だ。今日はしっかり飲め。よし、ガダッハ族のためにー!」と叫び、ドワーフ族が一斉に「お館様のために!」と声を揃え、錫製の杯をガチガチと音を立ててぶつけた。

 俺とクロートーは遠慮せずに酒を飲み、賢明なエルジャは飲んだ振りをしていた。いきなり、クロートーがドワーフ語で、「うまい!」と叫び、一瞬、シーンとした。その場のドワーフ族がクロートーを見つめ、ジルバ・ドン・ガダッハが、「わははは! この酒がうまいというやつは、もう俺たちの仲間だ! さすがマリシの妻だな!」と大袈裟に笑った。続いてドワーフ族が杯でテーブルを叩いて喜んだ。

「よぉし! だれか『アリバルの涙』を持ってこい!」と上機嫌でジルバ・ドン・ガダッハが言うと、部下は目を丸くし、「お、お館様。あの酒は先代のお館様が、涙を流してぶっ倒れた、危ない酒ですぜ」と言うのが聞こえてきた。ジルバ・ドン・ガダッハは、「ごちゃごちゃ言うな! せっかく客人がドワーフ族の酒がうまいって言っているんだ。とことん飲ませてやれ!」と怒鳴ると、「承知しやした!」と部下のドワーフ族がどすどすと音を立てて駆けていった。

 その後、次々に料理が運ばれてきた。ドワーフ族はこれだけガサツで、無神経な種族だが、魔道具を作らせても料理を作らせても、とても繊細だ。このギャップはいつも不思議に思う。運ばれてきた料理は、どれも素晴らしい色彩で、芸術品のようだった。「うまい、うますぎる!」とクロートーは喜んで食べ、周りのドワーフ族はクロートーを見て、テーブルをナイフとフォークでガツガツ叩いた。クロートーは食べ続けながら、流ちょうなドワーフ語で、「この肉は表面を焦がしつつ、中が硬くならないようにした絶妙な焼き加減よね! それに、このソースはもう絶品! これだけ濃厚なのに切れがいいのはなんのスパイスなの? 素晴らしすぎる!」と食レポをした。ドワーフ族の文化では、出した料理を褒められるのは名誉なことなので、ジルバ・ドン・ガダッハは上機嫌で、「おーっ、『枝』! この料理のうまさがわかるか! どんどん食って、しっかり太って、丈夫な子供を産め! いいか、このスパイスの正体は『山椒』という王国東方領から取り寄せた高価なものだぞ。こんな高価な食材を持っているのは俺ぐらいだ!」と自慢しながら解説した。そこへ、ジルバ・ドン・ガダッハの部下がボトルを持ってきた。

 ジルバ・ドン・ガダッハはニヤリと笑い、「よぉし、『枝』! 『アリバルの涙』を飲ませてやる。親父が涙を流した酒だ。マリシ、おまえも飲め!」と言った。アリバル・ドガ・ガダッハはジルバ・ドン・ガダッハの父で、身体も個性も、息子を一回り大きくしたようなドワーフ族だった。そのアリバル・ドガ・ガダッハが涙したという酒はどんなんだろう? 不安はあったが、ドワーフ族の世界では酒を断るのは失礼にあたる。

 精巧な彫金が施された錫のカップに注がれた酒が俺たちの前に置かれた。ジルバ・ドン・ガダッハが、「よし、いいか。人間族とドワーフ族の未来に! 乾杯!」と音頭を取り、俺とクロートーがカップを挙げ、中の酒を一気に飲んだ。かなりアルコール度数の高い酒で、鼻から額に、火箸を突っ込まれたような感じがし、口から食道、胃まで、酒が流れていくのがはっきりわかった。黙り込む俺とジルバ・ドン・ガダッハを尻目に、またしてもクロートーが、「うまい! この酒、うますぎ!」と歓喜の声を上げた。周りが静まる中、クロートーがカップをテーブルに置く、カツーンという音が響き、それを合図に、喜んだドワーフ族がナイフとフォークでテーブルをガツガツ叩いた。

 クロートーが、「この前飲んだ200年前のドワーフ族の酒も最高だったけれど、これも最高ね!」と言うと、ジルバ・ドン・ガダッハは聞き逃さなかった。「『枝』! 200年前のドワーフ族の酒ってなんだ」と訊き、クロートーが、「竜ヶ峰の古い坑道で200年前の酒を見つけたのよ。それもすごく美味しかった」と包み隠さず言った。「古い坑道だと? もしかして、竜のせいで使えなくなった、あのミスリル鉱山か? 『枝』! あそこに入ったのか?」とジルバ・ドン・ガダッハが睨みながら言うので、クロートーの代わりに俺が、「俺たちは竜を退治した。今ならあの坑道が使える。今日持ってきた、いい話っていうのはそのことだ」と言うと、ジルバ・ドン・ガダッハが、口元に笑みを浮かべ、「そりゃあ、いい話だ。あの山にはミスリルが大量に埋まっている。竜さえいなければまた使える」と、急に静かに言った。

「あそこは今、俺の領地だ。あの鉱山を掘らせてやるが、儲けはこちらが多く取るぞ」と伝えると、ジルバ・ドン・ガダッハがナイフとフォークをテーブルに投げた。そして、不機嫌そうに、「ダメだ、ダメだ。あそこは元々、ドワーフ族の坑道だ。返してもらおう!」と言った。思った通りだ。「それは200年前の話で、今は人間族の領土だ。奪う気なら争うぞ。人間族とドワーフ族が争っても、良いことは一つもない」と警告すると、ジルバ・ドン・ガダッハは眉間にしわを寄せ、唇を歪めたが、酒を飲んで不満を誤魔化した。そして、「まあ、面倒な話はあとだ! まずは酒だ。そして、酒だ。最後も酒だ。はーはっはー」とわざとらしく笑った。

 クロートーはドワーフ族の料理を気に入ったらしく、強い酒を飲みながらひたすら食べ、食レポするたびにドワーフ族は喜んでいた。肉料理を好まないエルジャもおいしかったらしく、いつもより食べていた。

 ジルバ・ドン・ガダッハは、「ちょっと待っていろ、とっておきの酒を持ってきてやる」と言って席を立ったが、ドワーフ族たちは酔いが回っていて、族長の中座を気にする者はいなかった。エルジャが人間族の言葉で、「マリシさん、どうしてドワーフ族の酒宴って、女性がいないのですか?」と囁いたので、「んっ? ここにいる三分の一は女性だぞ」と教えると、「うそ!」と言って、エルジャが周りをガン見した。ドワーフ族の男も女も似た体形をしているし、髭を生やしている女もいるのでわかりづらいのだ。エルジャは女性がいると分かったらしく、「マ、マリシさんはドワーフ族の女性より人間族の女性の方が好きなのですよね?」と訊くので、「まぁ、そうだな」と言うと、「良かったのです…」とエルジャがつぶやいた。

 まもなくジルバ・ドン・ガダッハがボトルを持って戻り、「よぉーし、みんなこの酒を飲め。俺が族長になったときに配った酒だ。みんなで分けろ」と叫び、次々に酒が注がれた。酒がいき渡ったのを確認し、ジルバ・ドン・ガダッハが、「人間族の友マリシと、これからも付き合っていこう。『枝』、おまえはマリシの最高の妻だな。『小枝』、おまえも悪くないぞ。最後に乾杯だ。ガダッハ族に幸あれ!」と言って、高々と杯をささげると、部下たちが一斉に、「お館様に幸あれ!」と言った。

 それからしばらく歓談していたが、やがてお開きになった。まだ15時で、このまま旧坑道の話しを詰めると思っていたのに、その気はないようだ。酒宴が終わると、さっきとは違う部屋に案内され、ここで待てと言われた。


 3人だけになったので、「エルジャ、クロートー、今すぐここを出るぞ」と伝えた。クロートーが驚いた顔で、「マジで? すぐって、今すぐ?」と言うので、「そうだ。ジルバ・ドン・ガダッハは俺たちをここに閉じ込めて、竜ヶ峰の坑道を手に入れる気だ。とっておきの酒だなんて言って、『アリバルの涙』に劣る酒を持ってきただろう? あのとき、いろいろ部下に命じたに違いない。この部屋だって、さっきよりも狭いし、扉が頑丈すぎる」と言うと、エルジャがムッとした顔で、「そんなことずるいこと、許されるはずがありません!」と言った。

「それがドワーフ族なんだって。気前がいいかと思えば、自分の物はよほどのことがないと手放さない。200年前のドワーフ族の坑道って聞いたとき、顔色が変わっただろう? こちらが折れて、坑道の権利を譲るというまで軟禁するつもりだ。エルジャ、魔法でこの扉を開けられるか?」と訊くと、「それより、転移魔法なのでーす」と言い、目の前の霞が晴れたときには、ドン・ドア・ドガ坑道の外の、ゴーレム馬車の前にいた。

 ゴーレム馬車の周りには、石鎚を持ったドワーフ族がいた。俺たちに気づき、「あっ、おまえら! どうやって出てきたんだ!」と言った。俺は前に進み出て、「おい、何している! ジルバ・ドン・ガダッハが、余興にゴーレム馬の運転を見たいと言ったんだ。さっさと俺たちにその馬車を使わせろ! もたもたしていると酒宴が終わるぞ」と怒鳴ると、ドワーフ族は目を丸くし、「お館様が、か?」と言うので、「ジルバ・ドン・ガダッハの頼みでなければ、だれが酒を飲んでいる途中にここに来るか!」と怒鳴ると、「わかった。乗れ」と顎で指示した。

 御者台に並んで乗るなり、エルジャが、「みなさん、どこかに掴まってください。一気に最高速度にします」と言う。酒を飲んでいないはずなのに、目が爛々としている。そして、「…マナ充填 120%、火の球ゴーレム号、発進なのです!」と言った瞬間、ゴーレム馬車は、一気に加速した。動力カートリッジのマナに加えて、エルジャのマナが追加されたようだ。クロートーは大喜びで、「ひゃほー。いいぞ、いいぞー!」と言ったが、俺は上体が後ろに引っ張られ、転げ落ちないように必死に御者台に掴まった。

「そ、そんなに加速したら制御不能に…」と、みなまで言う前に大きく幌馬車がバウンドし、車輪が浮いた。その弾みで、御者台から打ち出されるような形で、俺は外に飛ばされた。「マリシ!」と叫んだクロートーが人造生命体ならではの反射神経と怪力で、俺の腕をがっしりと掴み、助けてくれた。その後もエルジャは最高速度を維持し、来た時には3時間かかった道のりを、たった2時間で戻った。

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