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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第5話 旧ドワーフ坑道
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13-1. ドワーフ族との交渉

 エルジャの転移魔法でカナンの村に戻り、領主宅に行くと、執事のレイノスが俺の代理でさまざまな作業を手際良くこなしてくれていた。一緒に仕事をしてわかったが、レイノスは状況判断が的確で、常に先のことを考えている。性格は真面目で、思慮深い。執事をさせておくにはもったいない逸材だった。

 レイノスに、ネイトが意識不明の重体で、その治療のためメーティスがエルフ族の町に残ったことを伝えると、「メーティス教授を一人残して、大丈夫でしょうか?」と心配そうなので、「エルフ族は平和を好み、人間族に対して友好的だ。食事や生活習慣など共通部分は多いが、先生は逞しいから大丈夫だろう」と言ったが、それでもレイノスの表情は冴えなかった。エルジャが、「ダークエルフ族がエル・キンベの街を襲ったとき、マリシさんたちが助けてくれた恩をエルフ族は忘れていません。あの時のことがあったから、前例がないのにネイトさんの治療がすぐに始まったのです。マリシさんもネイトさんも、それにクロートーさんも国賓級の扱いなのです」と言った。レイノスにはハーフエルフと伝えていなかったが、今の言葉でエルジャがエルフ族と関わりが深いと悟ったのだろう。レイノスがエルジャに頭を下げ、「どうか、教授のことを、よろしくお願いします」と頼んだ。

「ところで、村は順調か?」と話題を変えると、レイノスは、「すべて御当主の描いた地図通りに、村ができつつあります。非常によくできた区画割ですが、御当主は、どこでこれを学ばれたのですか?」と訊いてきたので、パラゴに教えてもらったとは言えず、しどろもどろに、「いや、まぁ、王国魔術団員のシュルツが教えてくれた…かも」と言うと、レイノスは納得したようだった。

 俺は、「竜ヶ峰のミスリル鉱山のことだけれど、やはりドワーフ族に掘ってもらうのが良いと思う。いつもミスリルのインゴットを買いつけているガダッハ族のところに行くつもりだ」と伝えると、「承知しました。いつ出発しますか?」と訊かれ、「そうだな、3日後にはここを出たい」と告げると、「準備に取り掛かります」と言ってレイノスは退室した。


 3日後、エルジャの運転するゴーレム馬車に乗り、クロートーと3人で、ドワーフ連合国のドン・ドア・ドガ坑道に向かった。ドワーフ連合国は、キンベ山脈を領土とした7つの部族の集まりで、それぞれの部族が鉱山や地下坑道を持ち、共同生活を送っていた。ひとたび坑道に入ってしまうと、他の部族とのつながりがなく、たまに部族間での文化交流や婚姻などがある程度だという。

 ドワーフ族は義理堅いくせに、平気で約束を破るので、商売では油断できなかったが、どこか憎めないところがあり、嫌いではなかった。ときに尊大で、ときに繊細で、子供のようなところがあった。ガダッハ族の先代族長も、約束より少ないミスリルのインゴットを持ってきたうえに、横柄な態度だったので、投げ飛ばしてやったら、手のひらを返したように親切になった。ドワーフ族の文化では、強い者や富を持っている者が尊敬されるのだ。今の族長は半年前に就任したばかりで、あまり親交がないが、ミスリル含有量の多い鉱山を掘らせると提案すれば喜んで乗ってくるだろう。

 カナンの村からガダッハ族の住むドン・ドア・ドガ坑道までは、キンベ山脈沿いに南下し、3時間ぐらいと近かった。いつもは南側から北上するため、キンベ山脈の麓にあるドン・ドア・ドガの坑道入り口を見つけるのに時間がかかった。クロートーに、「マリシが迷うなんて珍しいわよね」と言われ、パラゴがいないことを再認識し、気が沈んだ。

 ゴーレム馬車を停め、ドン・ドア・ドガ坑道の入り口になる、金属の扉の前に立った。扉には、さまざまな動物の絵が彫り込まれていて、それを見たエルジャが不思議そうな顔で、「マリシさん、また魔道具なのですか。どうやって開けるのでしょう?」と言うので、「ここの開け方は知っている。順番通りに動物に触れればいいんだ。えーっと、ネズミ、ウシ、トラ、ウサギ…」と、教わった順番通りに、彫金の動物に触れて行くと、6匹目に触れたところで、魔道具が作動し、静かに扉が開いた。セキュリティレベルが高い時には、12匹の動物を順番通りに触れなければ開かないそうだ。

 扉の先は坑道の壁や道が塗り固められていて、ところどころに魔道具の光があった。クロートーが、「ねえねえ、このまま勝手に入っていいの?」と言うので、「ああ、扉を開けた時点で許可されたことになる。今から言っておくが、ドワーフ族の風習は独特だから、怒らず我慢しろよ」と忠告したが、クロートーは「どうせドワーフ語はわからないし、大丈夫よ」と気に留めていないようだった。「エルジャは、一応、ドワーフ語は話せるのですが、ドワーフ族に会うのは、初めてなのです」と言うので、「んっ? まぁ、慣れれば付き合いやすい奴らだぞ」と答えておいた。

 坑道には何度か足を運んでいるので、パラゴがいなくても、だいたいの見当がついた。しばらく歩くと、正面からドワーフ族が歩いてきた。立派な顎髭で、身長は150㎝ぐらいだが、それと同じぐらいの腹囲があり、小さくは感じなかった。男はドワーフ語で、「おまえたち、人間族だな。何しに来た!」と怒鳴るので、「俺はマリシだ。族長のジルバ・ドン・ガダッハに会いに来た!」と言い返すと、男は胡散臭そうに俺たちを見て、「人間族が何しに来た。族長はおまえに用はない、帰れ、帰れ!」と追い払うような仕草をした。「俺は先代のアリバル・ドガ・ガダッハと義兄弟の盃を酌み交わした男だぞ! 今すぐ、ジルバを呼んで来い。もたもたしていると、そのケツ蹴飛ばすぞ!」強い口調で言うと、ドワーフ族は俺を睨みつけたまま、何も言わずに引き返した。

 クロートーが驚いた顔で、「ヤバ! あたしドワーフ族の言葉、全部わかっちゃった」と言う。俺とペアリングしたときにドワーフ族の言葉を学んでしまったのだろうか。そういえば、人間族の言葉だってペアリングで知ったはずだ。

 エルジャが、「マリシさんが、あんなに汚い言葉を使うなんて、幻滅しちゃうなぁー」とアイドル口調で言うので、「ドワーフ族を相手にするときは、あれくらい言わないと話が進まないんだって」と説明すると、「そうなのですか」と半信半疑の顔をした。

 まもなく立派な衣装のドワーフ族が、2人の供を連れてやってきた。ガダッハ族の族長ジルバ・ドン・ガダッハだった。俺を見て、ジルバ・ドン・ガダッハは破顔し、両手を広げた。「おおー。これは、これは、人間族のマリシ! 元気にしていたか!」と、でかい声で言うと、そのままハグしてきた。強い力に身体が軋みそうだ。毎度のことながら、ドワーフ族との挨拶はつらい。

「久しぶりだな、ジルバ・ドン・ガダッハ。今日はいい話を持ってきたぞ」と言うと、ジルバ・ドン・ガダッハは豪快に笑いながら、「わははは。そうか。マリシが良い話を持ってくるときは気を付けろっておやじが言っていたぞ。投げ飛ばされるかもしれないってなぁ。わははは。食事をしながら話しでもどうだ?」と言うので、「それは有難い。今日は2人の連れがいるんだ。クロートーとエルジャ・サラだ」と紹介した。

 ジルバ・ドン・ガダッハがクロートーとエルジャを見て、「おーう? これはまた、『枝』と『小枝』みたいな奴だな。人間族はこういう女が好きなのか? 『大木の根』みたいな女は嫌いか?」と始まったので、「ま、まぁ、人の好みはいろいろだからな」と言うと、「はっはー! 俺の好みと違って幸いだ。おまえとは女を取り合いたくないからなぁ。2人ともマリシの妻か?」と言うので、「そ、そうだ」と答えておいた。

 ジルバ・ドン・ガダッハが部下に、「よぉーし、おまえら、マリシと妻たちを奥に案内しろ。これから酒宴だ」と言うと、お供の二人が、「へい、お館様」と返事した。


 ジルバ・ドン・ガダッハの部下に案内されたのは、土をくりぬいて作った部屋で、内部を魔道具が明るく照らし、きちんと掃除され、清潔だった。部屋は広めで窮屈な感じはなく、テーブルとイス、それに4つのベッドがあった。案内のドワーフ族が去り、3人だけになると、クロートーが、「ちょっと、マリシ! あの男、なによ! ああいうタイプの男って、チョー苦手なのよね。それにまだ昼前なのに酒宴ってなに?」と文句を言い出した。「だから、言っただろう、怒るな、って。さっきの男は、ガダッハ族のジルバ・ドン・ガダッハ族長で、先代族長の息子だ。ここでは族長が一番偉いから、なにをするにも族長の許可が必要だ」と説明すると、エルジャが、「いくら族長でも失礼なのです。エルジャたちのことを『小枝』とか『枝』だなんて! 初対面で言うことではないのです!」と怒りだしたので、「ま、まぁ、種族によって美の基準が違う。ドワーフ族は痩せた女性に対する評価が低いんだ」となだめた。エルジャの怒りは冷めず、「エルジャは、こう見えてもエルフ族の中ではナイスボディなのですからね」とぶつぶつ言っていた。

 クロートーが、「でもさぁ、さっき、マリシがあたしを妻って紹介してくれたのは嬉しかったわよ」と言うので、「あの場は、ああ言うしかなかったんだ」と弁解すると、エルジャが不満げな顔で、「エルジャは、マリシさんの妻なんてことに同意はしていないのです!」と文句を言った。「ごめん。でも、もしジルバ・ドン・ガダッハがエルジャやクロートーを妻にしたいと言い出したら面倒だろ?」と言うと、クロートーが、「いーっ? そんなことあるの? 会ったばかりなのに?」と露骨に嫌な顔をした。「だって、ドワーフ族の社会では物を持っていると尊敬されるからな。興味があれば欲しがるし、興味がなくても欲しがる」と教えてやると、「そ、それなら、エルジャはマリシさんの奥さんになります」とエルジャが言った。なんだか、「その方がまだ、まし」と言われた気がした。

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