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97.団長さん

 まぁいいや。誰でも知ってるって言うなら、リィザも知ってるだろ。


「リィザさんリィザさん」


「モグモグモグ、ふぁんふぁ?」


 なんか食ってた。


「……何食べてんの?」


「モグモグモグ、ゴックン。ハチミツパン」


 手に黄金色のミツがかかった、パンの欠片を持っていた。


「どこで買ったんスか?」


「手売りの女の子が寄ってきたんで買った」


 まったく気づかなんだ……。


「僕の分は?」


「アーン、パクリ、モグモグモグモグ、ゴックン。はぁー、おいしかった。二個買ったけど、お前、おじいさんと話してたから、二個とも食べた」


 最後の一欠片を食べ終え、とっても幸せそうなお顔のリィザ。

 おじいさんと話してたことが、食べていい理由にはなんないだろ。


「ハチミツパンうまそうですね。次は、僕の分も買っといて下さいね」


「さっきもちゃんとお前の分は買ったぞ。ただ、お前の分を私が食べちゃっただけだ」


「……今度は僕の分取っておいて下さいね」


「任せろ」


 大丈夫かな……。


「頼んますよ? それで」


「リヴィエラ様のことだな」


「聞いてたんスか?」


「うむ。ハチミツパンがどれだけ美味しくても、私は人の話を聞けるのだ」


「誰でも聞けるでしょ」


「バカ者。ハチミツパンというのは」


「リヴィエラ様って?」


「リヴィエラ様というのは、聖杖騎士団団長リヴィエラ・ララ・キルビラージュ様という女性のことだ」


 聖杖騎士団といえば、この街に常駐しているパルティア教お抱えの、女性だけで構成された騎士団だったよな。その団長さんか。


「つまり、団長ってくらいだから、超強くて有名ってことですか?」


「それもあるが、美の化身と謳われた聖女様の生まれ変わり、とまで言われるほどの美しさゆえに有名でもある」


「へぇ~。美の化身と謳われた……あれ?」


 これってどっかで誰かが言ってたな。いや、どっかで誰かというか、


「そうだ。畑のとこでリィザさんが言ってた人だ」


 聖杖騎士団団長は超美人だから、見たら腰を抜かすとかなんとか。


「うむ。そのお方の名前がリヴィエラ様だ」


「そうだったんですね」


 それでみんな、強く美しいリヴィエラ様を見に行ったってわけだ。

 なるほど。

 世界中の人が知ってるくらいのお人か。


「リィザさん、僕達も見に行きましょうよ」


 ぜひとも見てみたい。

 リィザに言って歩き出そうとしたが、


「いちいち行かなくてもいい」


 背負っている荷袋を引っ張って止められた。


「何でっスか?」


「じき、ここを通るだろうからな」


「なんでわかるんです?」


「おじいさんが、『リヴィエラ様が戻って来られた』と言ってたろ。どこかへ行って戻ってきたというのなら、この道を真っすぐ北へ進んでまず教会へ向かうか、光の塔を挟んで反対側にある教会関係者の宿舎へ帰還の報告に行くだろうからな」


 ふむふむ。

 ならば、南へ走って行った人たちは、待ちきれなかったってことかな。


「じゃあ、ここで待ちます。つーか、リヴィエラ様見たいんで待ってていいっスかね?」


「まぁ、いいだろう。もう見えてるしな」


「え」


 リィザの言葉に顔を南側へ向けた。

 すると遠くに、こちらへやって来る白馬に乗った一団を確認できた。


「あの中にリヴィエラ様がいるんですか?」


「だと思う」


 でも、有名な人ってわりには、


「みんな静かですね」


 小さなざわめきは起きているようだが、『うひょーーーっ!』みたく騒いでる人はいない。


「騎士団の、しかも団長に向かって大きな声をかける人なんていない。戦終わりの凱旋でもあるまいし」


 そんなもんか。


「お前も下品な声出すなよ」


「ご安心を」


「うむ」


「サインもらってきていいっスか?」


「ダメ」


「ご安心を」


「うん。ほら、突っ立ってないで道を空けるぞ」


「オス」


 リィザとともに、街道の右側へ寄った。

 人影まばらだった通りは、脇道から現れた人や、夜にもかかわらず建物から出きた人で、だんだんと賑わってきた。


 しかしその賑わいもリヴィエラ様が近づくにつれ静まり、僕の周りの人達も口を閉じ、四つの輪が串団子のような形でくっついているパルティア教の聖印を手に持ち始めた。


 リィザも、服の胸元からネックレスにつけている聖印を出し、手に握って、祈りを捧げるように目を閉じ……


「……あれ? リィザさん、その聖印」


「おお、なんとお美しい……」


 近くにいたおじさんの声を耳にして、騎士団一行へ顔を向けた。

 聖印については後で聞こう。

 おじさんも上げたような小さな感嘆のざわめきがさざ波のように広がっていく。


 全員が白馬に跨っており、先頭を行くのは、口元を微かに笑ませ、饅頭みたいな頭にフィットした形の帽子をかぶった、白いローブ姿のおじいさん。

 神父様のような立場の人だろうか。

 そして、後ろには白いマント、白銀甲冑を装備した騎士団員が二十名ほど続いており、その一番前に、


「……」


 息をのむほどに美しい女性がいた。


 ぶれることなく前を見つめる眼光鋭い銀色の瞳、気位を現す様に高い鼻梁、凛々しく引き結ばれた赤い唇。

 ウエーブがかった金色の長い髪は、それ自体が発光しているようで、肌は純粋なまでの白。

 堂々とした騎乗姿に、とびぬけた存在感、まとう空気は厳粛で、近寄りがたいほどの絶世の美女だ。

 間違いなく、この方がリヴィエラ様だろう。


 騎士団一行が目の前を通り過ぎて行く。

 近くで見るリヴィエラ様は、美しいどころか神々しくさえあった。

 騎士団の人は全員美人だが、一人だけ別格だ。

 こりゃ騎士様でなかったとしても、恐れ多くて声もかけられんわ。

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