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96.有名人

「宿へ行く前に、服屋へ寄ろう」


「服屋?」


 突然のリィザの提案に、首を捻りながら聞き返した。

 ククを日本へ送った後、クロアズボンを制服のスラックスと穿き替え、だいぶ人影まばらになった大通りに出て、北側へ歩いている最中のこと。

 「宿ってどこですか?」という僕の質問に対するリィザの返事がそれだった。


「うむ。宿に荷物を置いてからと思っていたが、先に行くことにしよう」


「何しに行くんです?」


 リィザから預かった、ククの荷袋を背負い直し尋ねた。


「もちろん服を買いに行くんだ」


「誰の?」


「お前の」


 僕の?


「何で?」


「明日の早朝、教会へ行くという話をしただろ?」


「ええ」


 街へ入った時に聞いた。


「パルティア教信者は、普段から白い服を着ることが多く、信者でなくとも教会を訪れるときは、白を基調とした服を着ることが好ましい。トレアドールでは、パルティア教の敷地内に行くときは、だいたいみんな白い服を着ているな。だから、お前の着る白い服を買いに行くんだ」


 なるほど。

 こちらの世界の、僕が欲しい服を買ってくれるわけじゃないのか。


「ズボンだけ買うんスね」


 上は、白のカッターシャツを着てるからこれでいいだろう。


「いや、上下買おう。今日のお前は白いシャツを着ているが、毎日というわけではないからな。お金もたくさんあることだし、いつでも着れるように上下一式揃えておこう」


 いつでもねぇ。

 この人、パルティア教に入信しろとか言わないだろうな。


「でも、こんな夜にお店開いてるんですか?」


 今の時間は、九時ごろだと思う。

 二十四時間営業のお店でもあるんだろうか。


「このまま北へ行くと、巡礼者専用の宿がある。そこで買えるんだ」


 宿か。

 宿は、ある意味二十四時間営業だもんな。


「で、そこに泊まると?」


「泊まるのは別の宿だ。私達は、巡礼者じゃないし」


 確かに。


「ということで、宿へ行くのは白い服を買ってからだ」


「わかりました。では一着お願いします」


「うむ」


 任せろと言わんばかりに大きく頷くリィザ。

 

 白い服か。

 街中に白いローブ姿の人が多いのは、パルティア教の人が多いからかもしれない。

 トレアドールって、パルティア教の人にとっては、聖地のような場所らしいし。


 セイヴズの隣にある服屋からも、白いローブを着た人が出てきてたな。

 リィザは、あの人がこっちを見てたのは、「良いローブだろ」と見せつけていたからじゃないか、と言っていたけど、確かに白いローブ姿はカッコ良かった。

 僕も一着欲しいと思うくらい。

 かなり高そうだけど、いくらくらいするんだろう。


「……ん?」


「急げよ! 俺はあの人を見るためにトレアドールに来たんだからな!」


「わかってるよ! 俺だってそうだっての!」


 前から慌ただしくやってきた男性二人が、僕の横を駆け抜け、そのまま南側へと走っていった。


「何だろ?」


 あの人を見るために?

 有名人でも街にやって来たのかな?

 会話の内容に興味を引かれて立ち止まり、二人が走って行った南側へ顔を向けていると、同じくそちらへ走って行く人々の姿がチラホラ見られた。


 本当に誰だろう?

 こっちの世界の芸能人的な誰かだろうか。


「ホッホッホッ。やはりあのお方の人気は、大したもんじゃのう」


 いつの間にか隣に、目が隠れそうなほど白く長い眉毛をもつおじいさんが立っていた。

 僕と同じく、街道の南側を眺めている。


「あのお方?」


 このおじいさんは、みんなが誰を見に行ったのか知ってるようだ。僕の声を耳にしたおじいさんはこちらを向き、


「お主は行かんのか?」


 と、優しい笑顔のまま聞いてきた。

 行かんのか、と言われても


「有名な人が来たんですか?」


 誰かわからないので、気にはなるけど見に行こうとまでは思わない。

 それに、名前を聞いても、こっちの人にとっては有名人ということであって、僕は確実に知らない人だろうし。


「戻って来られたんじゃよ。あの、リヴィエラ様がの」


「リヴィエラ様?」


 やっぱり知らない人だった。

 お年寄りの方が『様』ってつけるからには、お偉いさんかな?

 僕が別段表情を変えることなく、首を傾げておじいさんを見ていると、


「どうしたんじゃ?」


 予想していない反応だったのか、不思議そうな顔でおじいさんも首を傾げた。


「いえ、リヴィエラ様ってどなたかなぁと思って」


「……」


 おじいさんが顔を前へ突き出し、マジマジと僕を見てきた。


「どうしました?」


「……お主、まさかリヴィエラ様を知らんと言うのか?」


 言うのかと言われても、


「知らないです」


 言うしかないわけで。


「こりゃたまげた!」


 長い眉毛の下にある目を大きく見開き驚くおじいさん。

 たまげるようなことなんだろうか?


「この世に知らぬ者などおらぬと言われるほどのお方なんじゃがのう」


 ハリウッドスタークラスだな。


「リヴィエラ様を見たと言うより、お主を見たと言ったほうが皆驚くかもしれんわい」


「そこまでの方でしたか。なにぶん田舎出身なもので」


 日本のだけど。


「田舎の者でも知っとると思うが、お主、余程の辺境に住んどるんじゃな」


「はぁ、まぁ」


「そうか、リヴィエラ様を知らんか」


「はい」


「知らんのじゃなぁ」


「ええ」


「知らんかぁ」


「はい」


「そうかぁ」


「ええ」


「……」


「……」


「あ、ワシそろそろ行くわ」


 おじいさんは去った。


「……」


 教えてくれるのかと思った……。

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