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91.懐中電灯

「あ~あ。アタシもう、走りったり何だりで汗だく」


 ククが羽織の合わせ目をつまんで、パタパタと中に風を送った。


「これから、あのお魚料理のお店に行くのよね?」


「うむ」


 すでに話し合っていたようだ。


「あそこってちょっとお高いお店なのよね……」


 自分を扇ぎながらククは何事かを少し考え、


「リィザ、そっち行きましょ」


 細く暗い脇道のほうへと歩き出した。


「ん? ……ああ、そういうことか。わかった」


 何かを納得したリィザがククについて行く。

 よくわからないが、僕も二人の後を追おうとすると、


「バハムートはここで待ってなさい」


 ククに止められた。


「何で?」


「アタシは今から着替えるの。それで路地裏に行くの」


 ああ、それで。

 汗かいたって言ってたもんな。


「リィザは見張り。あんたはここで待機。いい?」


「了解。ククも人に裸を見られると恥ずかしいんだね。狐の時は、ケツの穴丸出しなのに」


「ケツの穴はあんたよ。アタシは今、人間に化けてるんだから、人間の常識に合わせるのは当然なの。騎士団とすれ違った時も、おんなじこと言ったでしょうが」


 確かに言われた。


「バハムート、こっち来ちゃダメよ」


「わかってるって」


「行きましょ、リィザ」


「うん。バハムート、あんまりウロウロするなよ」


 人気のない細い路地へ入っていく二人。真っ暗だから足元とか見えないんじゃないかな?


「リィザさん」


「何だ?」


「暗いから、懐中電灯使ったらどうっスか?」


 僕が異世界に持ち込んだものだ。

 こういう時に使えばいいのに。と思ったのだが、


「あ……」


 気まずそうな表情を作ったリィザが、僕から視線をそらした。


「どうかしたんスか?」


「えーと……そのー……」


 なにやら言いにくそうな様子。


「あんた、まだ言ってなかったの?」


 そんなリィザを見たククはあきれた顔。


「そりゃバハムートもクロアのこと怒ってないはずだわ」


「何のこと?」


 話が見えない。


「カイチュウデントウは、クロアが持って行ったのよ」


「……クロアが?」


「うん」


「でも、カラムの街に行くとき、『明星のランプ』と一緒に持って行ったんじゃないの?」


「クロアが、貸しておいてくれって言うから渡したの。『明星のランプ』ごとね」


「そうなんだ……」


 だから、リィザがセイヴズで鞄の中身を出したとき出てこなかったのか。

 ククが持ってたわけじゃなかったんだな。


 クロアのこと怒る云々は、トレアドールまでの道中で、ククが『あんたてっきりクロアのこと怒ってると思った』みたいなこと言ってたけど、懐中電灯のことだったのか。


「あ、あのな、わ、私もクロアが持ってると思うけど、もしかすると、盗まれたかもしれなくてだな……」


 リィザがククの説明に付け加える。

 盗まれたって言っても、僕はクロアが荷物もお金も盗んだと思ってるから、そこを分ける必要はないんだけれど。


「盗まれてたとしたら……ごめん」


 申し訳なさそうな表情のリィザ。

 謝るってことは、リィザがクロアに渡したんだろうな。

 それで言いにくそうにしてたのか。

 でも、盗まれたものは仕方がないので、


「いえいえ、お気になさらず」


 気に病まないよう、軽く返しておいた。

 実際、怒るようなことでもないわけだし。


「で、でもあれって、高級品じゃないのか?」


「そんなことないっス。三千円くらいっスかね」


「三千エンっていくらくらい?」


「銀貨三枚くらいっス」


「三枚……」


「安」


 リィザとクク、ビックリ。


「なんで、ホントに気にしなくても大丈夫っス」


「そうか……そうだったのか……」


 はぁ~、と息を吐いて脱力するリィザ。

 よっぽどお高いものだと思っていたようだ。


「あんな便利なもんがサン銀貨三枚って、あんたの世界ってわけわかんないとこね」


 安堵の表情を浮かべるリィザの頭をよしよし撫でながらクク。

 僕から言わせりゃ魔法があって魔物がいるこっちの世界のほうがわけわからない。


「ま、何にせよ、安いもんで良かったわね」


「だな。サン銀貨三枚ならすぐ弁償できるし」


 ククの言葉に笑顔で返すリィザ。


「リィザ、気にしてたもんね」


「そうなの?」


「うん。自分で、『バハムートはもう喚ばない』って言ったくせに、『盗まれてたら、バハムートに何て言おう……』って変なこと言ってた」


 確かに変。


「いちいち言わなくていい。ほら、さっさと着替えに行くぞ」


「はいはい」


 リィザがククの背中を押して、路地の奥へと歩いていく。


「すぐに戻るからな。知らない人について行っちゃダメだぞ」


「つまり、知ってる人にならついて行っていいと?」


「行くな。じっとしてろ」


「いってらっしゃーい」


 二人の後ろ姿を見送ってから、近くの建物の壁にもたれかかった。

 今いる石畳の街道は、夕方ごろに比べ、人の往来が三分の一ほどまでに減っている。

 それでもけっこうな賑わいだが。

 そんな街の様子を眺めながら、


「クロアのやつ、懐中電灯持ってったのか……」


 今聞いた話を口に出してみた。

 やはり、夜道を逃げるために持って行ったんだろうな。

 よくよく考えてみれば、あいつって弱いのに、どうやって魔物がいる夜の森を歩いて逃げたんだろうか? 魔物に詳しいらしいから、うまく逃げる方法とかわかるのかな?


 でもって、逃げて、どこへ行ったんだろう?

 クロアが何かを探してあっちこっちに行ってるってのは知ってる。

 何を探してるかは知らないけども。


「……いや、でも……」


 ふと、視線を噴水広場へ向けると、聖女様の石像が目に入った。

 クロアは、悪魔の力に興味があると言っていた。直接言ってたわけではないが、間違いないと思う。

 だったら、悪魔の封印があるトレアドールに来るんじゃないの?

 でも、勇者様や魔人グリネオくらいの力がないと、封印は解けないってリィザが言ってた。

 ならば、ここへ来ても封印は解けないか。

 クロアってコアラくらい弱いし。

 もし封印を解こうとしたら強い力が必要なわけだし。


 ……だったら、クロアが探してるのって、封印を解くことができるくらい強い力……とか?


 でも、冷静に考えてみると、クロアがそこまで無茶をするほどの悪人とは思えないな。

 それに、リィザとククが言ってた。

 クロアは、トレアドールに行く話になったら、嫌そうな顔をして「行かない」と言ってたって。

 あいつだって、封印がトレアドールにあることくらい知ってるだろうに。


 やはり、封印を解こうとまでは考えてないし、悪魔の力に興味があるってのも、魔人となったグリネオくらい強くなりたいと思ってるってことなんだろう。

 それに、荷物を盗んで逃げた理由が何かはわからないが、まったく話がつながらない気がする。


「う~ん……」


 結局、クロアがどうしていなくなったのかは謎のままだな……。

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