90.見てる
「ま、なんにせよ、けっこうなお金が稼げたことだし、次の場所へ行きましょ」
「待った」
リィザが、歩き出そうとするククの肩を、むんずと掴んで止め、
「ん」
右手の平を白銀娘の前へ出した。
「何?」
「お金」
「お金が何?」
「今は私がリーダーだ」
「うん」
「サン金貨二十枚、私が預かる」
「……え~」
とても嫌そうな顔のクク。その気持ちはわかる。
「あ、姐さん、無茶なことはよしたほうが……」
「何で嫌そうな顔? 何で無茶? 別に、強引に奪おうとしてない。預かると言ってるだろ?」
そういうことでなく。
「すぐ失くしそう」
ハッキリ言っちゃう狐娘。
整理整頓が苦手で、大切にしているパルティア教の聖印でさえ失くしそうになってたし。
「失礼な。これまでお金の入った袋を失くしたことはない」
本当かな。
「三度しか」
やっぱあるじゃん。
「十七年生きてきて三回って多くないっスか?」
「全部子供の頃の話だ。大人になってからはまだない」
これからあるみたいな言い方。
「ほら」
右手をククへズイと近づける。
「え~……じゃあ渡すけど、絶対失くしちゃダメよ?」
「うん」
母親からお金を預かる子供のように返事して、ククが羽織の袂から出した小袋をリィザが受け取った。
「では……」
さっそく小袋の口紐をほどいて、リィザが金貨を六枚取り出し、
「はい、ククの分」
と三枚渡し、
「バハムートも、はい」
同じく三枚もらった。
「え? 僕ももらえるの?」
「うむ」
「いやったーーーーー」
「ただし、使う時は私に声をかけるように」
「ーーーーーあ? 声を? 何で?」
「好きに使わせたら、お前変なモノ買いそうだし」
変なモノというか、見たことのない珍しいモンがあったら買うと思う。
「あと、モノの価値とか知らないから、ぼったくられそう」
それはあり得る。
「了解です。買い物の時はよろしくお願いします」
「うむ」
「……はふぅ~~~」
僕の隣で、手の平に乗った金貨三枚を見つめて、魂でも出てきそうなほど長い溜息を吐くポメ娘。
「どしたの?」
「クロアがリーダーだったら、もっともらえたのになぁと思ってね」
「ああ」
クロアは、稼いだお金のほとんどをみんなに配ってたってやつか。
「なのに、サン金貨三枚……」
言って、チラリとリィザを見るクク。
「私と聖人クロアを一緒にするな」
いつの間にやつは聖人に……。
「それにククもわかってるだろ? 盗まれた物を買いそろえないといけないって。余ったらまた配るから、今はそれで我慢しろ」
「わかってるって。別に不満があるわけじゃなくて、ただ、やっぱりクロアは良いやつだって言いたかっただけよ」
「うん、本当にな……」
「ねー……」
クロアを思い出しているのか、寂し気に夜空を見上げる二人。
なんか死んだみたいだな。
「そのクロさんのことは、これからどうするんです? 見つかるまでトレアドールにいるんスか?」
「ひとまずは、グリードワームの情報料がもらえる二日後まではここにいようと思う。その間にクロアの情報が手に入らなかったら、一度ハーラスに戻ってクロアが戻ってないか、戻った気配はないか確認する。その後のことは、また後日考える」
「そうですか」
あいつ、村に戻るかな?
でも、犯人は現場に戻るって言うし、あり得るかもな。
「では、そろそろ……」
「そろそろ?」
何、そのタメ?
「食事に行くとしよう」
「食事!? ご飯!? いやったーーーーーーーーーーっ!」
「フフ、いい反応だ」
「ひゃっほーーーーー……叫んどいて何ですけど、もう大声出すなって言わないの?」
「うむ、かまわん。一日中叫んでてもいいぞ」
ヤバい人じゃないんだから叫ばないけど。
リィザの優しいモードは、まだ継続中のようだ。
「それで、食べる物は決まってるんですか?」
「決まってる」
「何を食べるんで?」
「フフ、今日食べるのは……なな、何と!」
「なな、何と(ゴクリ)!?」
「お魚料理だーーーーーっ!」
「……あー、お魚っスか」
「わかりやすいな、お前。お魚嫌い?」
「好きっス」
「なら喜べ」
「いえね、好きなんですよ、お魚。お魚好きなんですけど、セイヴズでパティーヌさんがお肉食べてるの見たせいか、お口がお肉を欲しがってる感覚なんですよ」
「その気持ちはわからなくもない。しかし、これから行くお店ならば、お前も満足すること間違いなしだ」
「へぇ。ウェイトレスがミニスカでノーパンとか?」
「そんなお店がこの世に存在してたまるか。料理が美味しくて大満足する、と言ってるんだ」
「前に食べたんスか?」
「前はお店が休みだった。なので食べたことがない。だが、他の街でも耳にするほどの有名なお店なんだ。だから、今日こそは絶対にそのお店に行く」
意思が揺るがないことを言葉と視線で伝えてくるリィザ。どうしてもというなら、反対するつもりはない。むしろ有名店ってことだし楽しみだ。
「ククもそのお店がいいの?」
顔を向け尋ねると、
「……」
ククは、なぜか噴水広場のほうをじーっと見つめていた。
「クク、どうしたんだ?」
リィザがククの肩に手を置いた。
「……んあ? ああ、うん」
ククは、目をパチパチ瞬いてリィザを見てから、もう一度顔を北側へ向け、
「こっちを見てるやつがいる……」
ポツリとこぼした。
「どこだ?」
「誰?」
リィザと僕も、ククと同じ方向へ目を向けるが、誰もこちらを見ていなかった。
カップルなんて、僕が騒いでたことをさっくり忘れてイチャコラしてる。
「場所も誰かもわかんないけど、見られてる感覚はある」
そんなのわかるもんなのか。
プ◯デターのあの人みたい。
名前忘れた。
「嫌な感じの視線か?」
聞きながら、リィザの左手が自然とレイピアを握っている。
「嫌な感じはないけど観察されてるような……あ」
「どうした?」
「……消えた」
「いなくなったのか?」
「いなくなったというか、もうこっち見てないわね。フー」
息を吐き、肩から力を抜くクク。
「結局何だったの?」
「さぁ? あんた達、誰かに見られる心当たりないの?」
「む~……」
「ん~……」
リィザと仲良く首を捻って考える。
一瞬タケノコが頭をよぎったが、あいつは今頃、パティーヌさんの折檻を受けてるはず。
ほかに思い当たる人となると……セイヴズの隣にある服屋の前で、白いローブを着たやつがこっち見てたな……
「どう?」
「む~……私はないな」
「そっか。バハムートは?」
「……」
「バハムート? 何かあるの?」
「……いや、ないかな」
ま、関係ないか。
あれって一時間以上前のことだし。
それに、見られる理由がないし。
「そう? もちろん、アタシもないわよ」
「ふむ。これは考えてもわからないな」
肩をすくめるリィザ。
おっしゃる通りで、考えるだけ時間の無駄だろう。
「とりあえず心の片隅に止めておこう」
「そうっスね」
「うん」
できることが何もないわけだしな。




