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85.肉、持ってろ

「人を見た目で判断するのも何だが、やはり貴様がウソをついていたか」


 事情を理解してくれたパティーヌさん。


「バハムート」


「はい」


「肉、持ってろ」


「ははっ」


 お肉を預かった。


「おい、貴様」


 パティーヌさんがダールへ近づき、三歩の距離をおいて止まった。


「な、何だ?」


 さっきまでの勢いは消え、ビビった表情で言葉をどもらせるダール。


「……ふむ、見ない顔だな。貴様、セイヴィアか?」


「ち、違う」


「だろうな。お仕置きの前に名前を聞こうか?」


「ダ、ダールだ」


「そうか。で、いつまでテーブルに乗っているつもりだ、タケノコ」


 名前聞いた意味なし。


「ぐっ、お、お前ら揃いもそろって……!」


 イラつきながらもダールがテーブルから降りた。


「私のセイヴズで恐喝とはいい度胸だな。バハムートじゃあるまいし、私の名を知らぬわけではあるまい?」


「し、知ってるよ」


「知っていて、か……。私も舐められたものだ」


「……へ、へへ」


「なぜ笑う?」


「べ、別にアンタを舐めてるつもりはねぇが、よく考えりゃ、アンタはもう現役のセイヴィアじゃねぇんだよな」


「何が言いたいんだ?」


「引退して十年経つんだろ?」


「つまり?」


「そんな昔に引退したババアに負けるわけ」


「オラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 パティーヌさんが三歩の間合いを一歩で詰め、ダールの腹に、


 ドフッ


「げぼぉっ」


 膝蹴りを入れ、体がくの字に折れたダールの後ろ髪を左手でわし掴み、テーブルに顔面を、


「オラァッ!」


 ガンッ


「ぶげっ」


 叩きつけ、


「オラァッ!」


 ガンッ


「ぶげっ」


 叩きつけ、


「オラァァァッ!」


 バキィィィッ


「ぶぎゃぁっ」


 テーブルを叩き割り、もひとつおまけに床板へ、


「オラァァァァァァァァァァッ!」


 ベキィィィッ


「ぶげぎゃぁぁぁっ」


 容赦なく叩きつけた。床板は割れ、ダールの首からタケノコの先までが床下に消えた。


「フーーー……」


 武道家のように細く長く息を吐いた後、パティーヌさんが左手を離すが、ダールは、リフォーム工事のために家へやってきて床下を覗き込む業者のような体勢のまま、ピクリとも動かなくなってしまった。

 言葉を失う建物内部の人々。


「お次の方どうぞ~」


 セイヴズ職員以外、言葉を失う建物内部の人々。


「まったく」


 パティーヌさんが立ち上がり、こちらへ戻ってきた。


「バハムート」


「ここに!」


「肉」


「どうぞ!」


 お肉を返した。


「……あの、パティーヌさん」


「パクリ、ムシャムシャムシャ、ゴックン。何だ?」


「タケノコが動きません」


「タケノコは動かん」


「ダールが動きません。天に召されたのでは?」


「大丈夫だ」


「そうなのですか?」


「多分」


「そうなのですか……」


 タケノコ君ダメかも。


「リィザ」


「……」


「リィザ!」


「……へ? あ、は、はい!」


 呆然とダールを見ていたリィザが姿勢を正し、慌てて返事をした。


「クロア捜しの報酬は、いくらにするか決めたのか?」


「あ、えと、サ、サン金貨十枚にしようかな、と」


 一枚と言っていたのに増えてしまった。


「……ふむ。貴様ら、今いくら持っている?」


 突然の質問。

 どうしたんだろう?


「サ、サン金貨百二十枚」


「それは知っている。他には?」


「あ、あと、サン金貨一枚分持ってる」


「そうか……」


 難しい顔になるパティーヌさん。


「バハムート」


「何でしょう?」


「その絵は、貴様が穴を開けた。そうだな」


 床に落ちている、湖が描かれた絵画に目を向けるパティーヌさん。


「そうです」


「それ、サン金貨千枚の価値があるんだ」


「……………………………………………………今、何と?」


「それ、サン金貨千枚の価値があるんだ」


「……………………………………………………念のため、もう一度」


「それ、サン金貨千枚の価値があるんだ」


「……………………………………………………つまり、こういうことですか?」


「ん?」


「この絵はサン金貨千枚の価値がある、と」


「そういうことだ」


「冗談ってことは……」


「パクリ、モグモグモグ、ゴックン。冗談を言ってるように見えるか?」


 見えるような、見えないような……。


 金貨千枚ってことは……約一億円。

 なんて強そうな響きだろうか。

 やっちまった……。

 まさか、そんなお高い絵が飾ってあるとは。


 これは、弁償……じゃなくて、損害賠償的な話になってくるのだろう。

 リィザを見てみれば、目を点にしてロボットダンスの動き出しのようなポーズで固まっていた。

 かなり笑えるが、笑っている場合ではない。


「あ、あの~」


「何だ?」


「ぼ、僕、き、金貨千枚も払えないんですけど……」


「なぜ千枚払うんだ?」


「え? だ、だって、その絵、金貨千枚って」


「絵の価値は、サン金貨千枚だが、修復費用はもっと安くすむだろう?」


「修復できるんですか?」


 両手で輪っかを作ったくらいの穴が開いてるんだけど。


「修復魔法士がいるではないか」


 そんな人いるの?


「それ、おいくらくらいで直せます? 千円くらい?」


「エンって何だ? サン金貨百枚もあれば足りるだろう」


「…………………………だ、そうです。リィザお姉様」


「……し、仕方がないか」


 目が点から通常に戻ったリィザが、コートのポケットに手を入れ、金貨の入った小袋を取り出した。

 てっきり怒られると思ったけど、あっさり出してくれるようだ。

 ちょっと意外。


「あぁ、待て待て」


 金貨を数えようとするリィザをパティーヌさんが止めた。


「あとな、絵の額縁。あれもキズがついてるから弁償」


「……おいくらほどで?」


「サン金貨十枚」


「……」


「それと、テーブルが壊れて床も穴が開いたから弁償だ。サン金貨十枚」


「……テーブルと床はパティーヌさんがやったのでは?」


「この世は理不尽なものだ」


 理不尽すぎやしないだろうか。


「では、タケノコ君からもお金をもらうべきではないですか?」


「もちろんもらう。が、お前達の分は、サン金貨十枚だ」


「……ということは」


「すべて合わせて、サン金貨百二十枚だな」


「……」


「ちょうどで良かったな」


 なんも良くない。


「……だ、そうです。マスターリィザ」


「……夢をありがとう」


 色々やりたいことがあったんだろう。

 リィザがそっと金貨の入った小袋をパティーヌさんに渡した。


「……」


 パティーヌさんは、受け取った小袋をじっと見つめ、持っていた骨付き肉をパクパクモグモグバリバリムシャムシャゴックンと残らず食べ、小袋の中から金貨三枚を取り出し、


「持っていけ」


 リィザに渡した。


「い、いいの?」


「うむ。タケノコから三枚多くもらう。お前達は三人いたから三枚持っていけ」


 三十万円とは太っ腹。


「……では、ありがたく」


「ありがとうございます」


 リィザが礼を言って金貨を受け取り、僕も感謝の言葉とともに頭を下げた。テーブルや床を壊したのはパティーヌさんなのでスッキリしないけれど感謝の言葉とともに頭を下げた。


「で、リィザ。クロア捜しの報酬はいくらにする?」


「あ」


 なるほど。

 それで持ち金を聞いてきたのか。

 金貨十枚出そうにも、持ってなきゃ話にならないもんな。


「むぅ~…………せっかくもらったのに申し訳ないが」


「気にするな。お前達の金だ。好きに使え」


「では、金貨一枚で」


 リィザが金貨を一枚パティーヌさんに渡した。

 てっきり三枚って言うかと思った。

 パティーヌさんの気遣いを無駄にしたくなかったんだろう。


「うむ、確かに」


 パティーヌさんが金貨をポケットにしまう。そこへ、韓流スターな受付さんがパティーヌさんの傍へやってきて、


「支部長、グリードワーム討伐の確認が取れました」


 とだけ言って、また戻って行った。


「聞いての通り確認が取れた。そういうことで、サン金貨百二十枚は貴様らのものだ」


 二枚しか残ってないけど。


「馬で確認に行ったんですよね? 早かったですね」


 三十分も経ってないんじゃなかろうか。


「飛んで行ったからな」


「へぇ」


 飛ぶような速さで行ったのか。

 速い馬もいたもんだ。

 僕達のためにありがたい。


「すでに言ったと思うが、グリードワームの情報料は二日後に取りに来い。忘れるなよ」


 そうだった。

 そのお金がもらえるんだった。

 ということは、合計で金貨十二枚の収入か。

 約百二十万円の稼ぎだ。

 ……十分大金だし嬉しいんだけど、本当なら約千三百万円手に入っていたのにと考えると、嬉しさも微妙。


「これで用は済んだな」


「うむ」


「はい」


「忘れていることはないな」


「大丈夫だ」


「ありません」


「あるぞ……」


 低くこもった声がパティーヌさんの後ろから聞こえ、僕達三人がそちらへ目を向けると、ダールが床の穴からゆっくりと頭を上げようとしていた。

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