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83.金貸して

「……」


 リィザの横で立ち止まり、今度はそのキレイな横顔へ、近眼の人のように細くした目を向けるタケノコ。


「……何だ?」


 リィザが、気味悪そうに碧い瞳をそちらへ動かし尋ねると、タケノコは、


「……お前、リィザ・ライン・ハイエスか?」


 リィザのフルネームを口にした。


「……そうだが」


 眉をひそめながら返事をするリィザに、


「おー、やっぱり。俺だよ俺」


 タケノコは、表情を崩して親し気に声をかけてきた。

 オレオレ言われたリィザがタケノコに顔を向け、じっと見て、


「……あ」


 誰だか思い出したような声を出し、


「……久しぶり」


 と言いつつ、顔をそむけた。

 嫌そうな、気まずそうな表情で。

 僕のほうへ顔を向けているリィザと目が合う。


「誰? 元旦那?」


「脊髄引っこ抜くぞ。ただの知り合いだ」


「おいおい、『ただの』ってことはないだろ」


 タケノコがリィザの対面に座った。


「俺は、ダールってんだ。よろしくな」


 ダールが僕に向かって手を上げた。


「ども、バハムートっス」


 僕もシュタッっと手を上げた。


「ブハハハハハハハハッ、マジでバハムートって名前なんだな」


 タケノコスタイルに笑われた……。

 ダールも僕達の話を聞いてたようだ。


「俺とリィザは、前に一度だけ一緒に依頼をこなしたことがあるんだよ。な?」


 と、リィザへ顔を向けるダール。


「……うむ」


 リィザは、やっぱり顔を背けたまま返事。


「でもお前、変わったなぁ」


 ダールがまたジロジロとリィザを見る。


「前は、いっつもオドオドしてたのに、さっきはパティーヌさんやキロさんと普通に話してたよな」


 パティーヌさんにはビビってたけど。

 ククに、「リィザは元々人見知りで、オドオドした性格だった」と教えてもらった。少し信じられない気持ちもあったが、本当だったんだな。

 そして、クロアの話し方や動作をマネするようになって、オドオドと人見知りを克服したとも聞いた。

 自分をここまで大きく変えてくれた、恩人のような存在なんだから、そりゃ一生懸命になって捜すってもんだ。


「……お前も変わったな」


 リィザが横目でダールの髪を見た。

 前はタケノコじゃなかったんだろう。


「は? お前?」


 少しイラついた表情になるダール。

 その顔を見てリィザが視線をそらした。


「……俺のことは、ダールさんって呼んでたよな? しゃべり方も変わったな、お前」


 変わったというか、クロアのマネっこだけど。


「あー……まぁいいや。好きに呼べ」


 ダールが変な心の広さを見せて、


「ところでよ」


 ニヤ~っと、嫌悪感が湧いてくる笑みを作り、


「お前って今、サン金貨百二十枚持ってるよな」


 やっぱりか、とため息をつきたくなるようなセリフを吐いた。


「持ってない」


 しれっとウソをつくリィザ。


「隠してもわかってるっての」


「ホントだし」


「わかってるって言ってんだろ」


「持ってるのバハムートだし」


 そういう意味では確かに。


「んなもんどっちでもいいんだよ。……なぁ、リィザ」


 ダールがテーブルの上に片ヒジをついて身を乗り出した。


「ちょっとでいいから、金貸してくんねぇか?」


 ……大金を手にすると親戚が増えるって話は、本当だろうな。

 他人でさえ寄ってくるんだから。


 ダールにイヤらしい笑顔を向けられたリィザは、顔を横へ向けたまま、


「貸さない」


 ハッキリと告げた。


「は?」


 リィザの返事を聞いたダールは、意外そうな顔でビックリ眼。

 断られるとは思ってなかった、って顔に書いてある。

 たった一度、一緒に依頼をこなしただけの仲なら、断られてもおかしくはないと思うけど。


「……リィザ、本当に変わったなぁ」


 しみじみと言うダール。


「前は、何でも『うんうん』言ってたのになぁ」


 それで、簡単に貸してくれると高をくくっていたんだろう。


「なぁ、お前はどう思うよ?」


 こっちに話を振られた。


「以前の性格を知らないから、何とも言えないっス」


「そっちじゃねぇよボケ。金貸すくらいいいよなって聞いてんだよ」


 ボケって言って、金貸してくれって……。


「リィザさんにお任せします」


「はぁ? 『リィザさん』? 『任せます』? お前、もしかしてリィザなんかの尻に敷かれてんのか? 情けねぇな」


 ゲシッ


「あたっ」


 テーブルの下で靴を蹴られた。

 だんだん言動が荒れてきたな。


「……おい、リィザ」


 威圧するように声を低くするダール。


「何だ?」


 顔を僕のほうへ向けたままのリィザ。


「お前、あの依頼で俺がケガした理由、忘れたわけじゃねぇよな?」


「……憶えてる」


「そうかそうか、憶えてたか。おい、聞いてくれよバハムート」


「何ス?」


「俺達が受けた依頼ってのが、マンウルフ退治だったんだよ」


 あの、人面狼ね。


「俺とリィザと、あとテサって名前の、リィザみてぇにいつもビクついてる女と三人で、マンウルフの縄張りに行ったんだけど、こいつら最悪でよ」


「へー」


「俺が五匹いたマンウルフをおびき出して一箇所に集めて、リィザのユニコーンとテサの魔法でブッ殺すって作戦だったのに、いざとなったらこいつらビビって体が硬直して、役立たずになりやがった」


「へー」


「そのあと、俺がマンウルフに襲われ出したのを見て、ようやくリィザがユニコーンを召喚して助かったんだけどよ、危うく死ぬところだったんだぜ」


「死ねばよかったのに」


「……何?」


「ダールさんを襲ったマンウルフ」


「あ、ああ、そっちな。マンウルフは、ユニコーンが一匹残らずブチ殺したよ。でも俺は、足や腕を噛まれて大ケガだ。こいつらのせいでよ」


 ダールがリィザを恨みがましい目で見る。

 それでリィザは、気まずくてずっと顔を背けてたんだな。


「あ~あ、ヒデェよな」


「私もテサも申し訳なく思っていた。だから報酬は、全部お前の受け取りにしただろう」


 だったらチャラでいいんじゃね?


「そんなもん受け取って当然だっての」


 当然ではないと思う。


「俺は、気持ちの問題を言ってんだよ。お前ら謝りもせずに街からいなくなっただろ」


「ケガを負った直後に謝った」


「そのあとだよ」


「そのあとも、会ってもう一度謝ろうとしたが、『もう俺に近づくな!』って言って話を聞いてくれなかったんじゃないか」


「その時は、イラついててつい言っちまっただけだよ。わかれよ」


 わからん。


「とはいえ、もう過ぎたことだ。全部水に流してやる。だから、悪いと思ってんなら金貸してくれよ」


 手の平をリィザの前に出すダール。

 まったく水に流してないし、言ってることが身勝手すぎ。

 リィザは、出されたダールの手の平を見つめ、


「貸さない」


 顔を背けてやはり断った。


「たんまり持ってんだしいいだろ?」


「貸さない」


「ちょっとでいいからよ」


「貸さない」


「すぐ返すって」


「貸さない」


「頼むよ」


「貸さな」


 ドンッ


「痛っ」


 リィザが言い切る前にダールがテーブルの脚を蹴り、動いたテーブルがリィザの腕に当たった。


「いつつつ……」


 ヒジをさするリィザ。


「……お前、なめてんの?」


 その様子を冷めた目で見るダール。

 腕と足を組んで見下した態度。


「リィザさん、大丈夫っスか?」


「……うん」


 腕を曲げ伸ばししている。

 確かに大丈夫そう。


「おい、そんな融通の利かねぇバカほっとけ」


「……」


 リィザとは、まだ出会って二週間くらいだし、この前もケンカしたわけなんだけど、これだけ好き勝手言われて暴力も振るわれると、何というか……こう…………


「……おい、ガキ。何だその目は?」


「……何で貸して欲しいの?」


「そんなもん、色々事情があんだよ」


「いつ返してくれるの?」


「すぐっつってんだろ」


「……ふーん」


「……何だ? 何か文句でも」


「貸そっか?」


「あんの……へ?」


「やめろ、バハムート。私も後で知ったんだが、こいつは人にお金を借りても返さない、どうしようもない」


「うるせぇっ!」


 バンッ


 テーブルを手で叩き、リィザを黙らせるダール。


「……マジで貸してくれんのか?」


「ま、僕達お金たくさん持ってるしね」


「へへ、話がわかるじゃねぇか。助かるぜ、バハムート」


「気にすんな、タケノコ。いくら貸して欲しいの?」


「それじ……お前今、タケノコって」


「ほら早く。僕の気が変わっちゃうかもよ?」


「お、おう。じゃあ……サン金貨六十枚貸してくれ」


「ろく……!? ふざけるな!」


 椅子から腰を上げ、ダールに顔を向けて怒鳴るリィザ。


「まぁまぁリィザさん、落ち着いて。ダールさん、悪いけど金貨六十枚数えてくれる?」


 金貨の入った小袋の口紐を持ってプラプラ揺らした。

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