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82.もー大変

「……御屋形様」


「私?」


「少し冷静になっておくんなまし」


「私は常に冷静だ」


 ウソこけ。


「あのですね、クロアごときを捜すのにぶべらっ、クロさんを捜すのに金貨全部は無茶苦茶です」


「全部違う。ワームの情報料分残してる」


「金貨百二十枚は無茶苦茶です。あんな水色ぶべらっ、クロさんなら銅貨二、三枚(二、三十円)も出しときゃ、暇人が暇つぶしに捜してくれます」


「捜すどころか見つけてもみんな無視するだろうな」


「だったらそれがクロさんの運命なんです」


「意味わからん。とりあえず、その小袋を寄越せ」


 リィザが、僕が持っている金貨が入った袋へ手を伸ばしてきた。

 サッと背中側へ隠した。


「……どういうつもりだ?」


「それはこちらのセリフ。金貨百二十枚の報酬なんて、どういうおつもりで?」


「だからそれは」


「あー、少しいいか」


 僕達のやり取りに、パティーヌさんが割って入った。


「私は、一仕事終えたので食事に行ってくる。貴様らは、グリードワーム討伐の確認に行っている馬が戻るまでここにいろ」


「了解だ」


「了解です」


「その間に報酬をいくらにするか決めて、職員に金を渡しておけ」


「サン金貨百二十枚で」


「ウソです。考えて決めます」


「ああ、それがいい。たかが人捜しにサン金貨百二十枚も出したら、見つかる前も見つかった後も大騒ぎになるぞ。『クロアとは何者だ? 王族か? はたまた極悪人か?』とな。クロアは、騒がれることを好まない性格に見えたが?」


「う……」


 言葉に詰まるリィザ。

 パティーヌさん、よくぞ言ってくれた。


「とはいえ、その金は貴様らのものだ。どう使うかは貴様らの自由。好きにすればいい」


 言ってパティーヌさんは、テーブルの上に置きっぱだった包丁を手に取り、


「では、またな」


 軽く手を上げ、出入口へと歩き出した。


「あ、パティーヌさん、色々とありがとうございました」


 後ろ姿に向かってお礼を言い、頭を下げた。


「ありがとう、パティーヌさん」


 リィザも同じく礼を言う。

 パティーヌさんは、顔だけをこちらへ向け、


「うむ」


 笑顔で頷き、建物の外へと出て行った。

 第一印象は怖かったが、中身はとても優しいお姉さんだったな。

 そんな人に、どんな異名がついているのやら。


「そういや、怪力お姉さんのミラと、きれいなお姉さんなんだかミイラなんだかわからないレアは捜さなくていいんスか?」


「捜すも何も、あの二人は自分からいなくなったんだし」


 それは、クロアもだと思うけど。


「それに、ミラとレアがいなくなったのは、きっとクロアがいなくなったからだ。ならば、クロアが戻ってくれば、二人も戻ってくるに違いない」


 ミラはずい分とクロアのことを気に入っていたようだし、レアはイケメン好きだもんな。

 確かに、クロアが戻れば二人もひょっこりと戻ってきそう。


「フー」


 リィザが息を吐いて椅子に座り、僕も腰を下ろした。パティーヌさんに、馬が戻るまで待ってろと言われたけれど、どれくらいかかるんだろう?


 窓から見える街の様子は、相変わらず人で賑わっているが、夜の帳が降り始め、辺りは薄暗くなっていた。お腹空いたな。


「おい、お前ら」


 後ろからかけられた低い声に振り返ると、ピチピチの黒いシャツを着た男が立っていた。

 筋骨隆々で、二メートル近い身長、頭はツルツルで、顔は強面。

 海外の用心棒のような風貌だ。


 ……僕達って今、金貨百二十枚持ってるんだよな。もしかして、ちょっと危ない状況だったりするのでは?


「な、なな何ですかあなたは!? お、お金なんて持ってませんよ!?」


「いや、持ってるだろ」


「し、証拠でもあるんですか!?」


「その小袋にサン金貨百二十枚入ってるだろ? 話は聞こえてたからな」


「そ、そういう話をしていたからといって、袋の中にお金が入っているとは限らないじゃないですか!? 中を見てお金を確認して初めてお金が入っていると言えるのであって、あなたが金貨を持っていると聞いただけならば、この中に金貨が入っているという可能性は生まれても、断定には至らないのではないですか!?」


「……何だこいつ、メンドくせーな。おい、金髪のねーさん」


「私はお前より年下だと思うが?」


「こっちもこっちでメンドーそうだな……。俺の名前は、キロってんだ。そっちは確か、リィザって呼ばれてたよな」


「いかにも」


「よろしくな、リィザ。お前さんのツレがえらく警戒しているようだが、悪さをしようってわけじゃねぇ。セイヴズの建物内でそんなこと考えたりしねぇしな」


「べ、別の建物ではするってことですか!?」


「いや、しねぇから。坊主、ちょっと黙ってろ」


「うむ。バハムート、少し静かにしていろ」


「おお~……ならず者相手でも堂々としたお姿。リィザさんカッケー……」


「これしきのことで大袈裟に言いよるわ……フフ、フフフフフ」


「……お前、聞こえてるからな。えーっとだな、お前らクロアってやつを捜してるんだろ?」


「そうだが? なぜ知ってるんだ?」


「お前らの会話は、ほぼ聞こえてたからな」


 歓喜の雄叫びを上げはしたが、大声で会話はしていなかったはず。

 パティーヌさんが僕達に何の用があるのか気になって、聞き耳をたててたのかもしれない。


「で、だ……報酬がサン金貨百二十枚って本当か?」


 それを尋ねるためにきたのか。

 カツアゲじゃなかったんだな。


「あー、それはだな……実は、サン金貨一枚にしようかなぁ、と考えているんだ」


 約十万円。

 安くはなったが十分高い。

 だが、リィザの言葉を聞いたキロさんは、


「そうか……」


 気の抜けた返事。


「わかった。見つかると良いな。俺も、お前の依頼書が貼り出されたら目を通しておこう。突然悪かったな」


 あっさり去っていくキロさん。


 多分、報酬が金貨百二十枚なら、フライングぎみでクロアの人相を聞いて捜しに行こうとしてたんだろう。

 武器防具が展示してある建物内左側へ戻ったキロさんが、そこにいた人達に、肩をすくめて首を左右へ振るジェスチャーをしている。

 それを見たみんなもガッカリ顔。

 全員が僕達の話を聞いていて、話の内容が本当か確認するため、キロさんが代表してこっちにきたってところかな。


「やっぱり報酬増やそうかな……」


 僕と同じくその様子を見ていたリィザが、不穏なことを言い出した。


「姐さん。クロさんは、稼いだお金のほとんどを、みんなに配っちゃうような人だったんでしょ?」


「うん」


「だったらこのお金も、『私のために使わずに自分達のために使いなはれ』って言うと思いますよ」


「言うかもな……そんなしゃべり方はしないけど」


 フー。

 もー大変。

 また金貨百二十枚出すって言う前に、討伐確認の馬が戻ってきてくれるといいんだけど。


「……ん?」


 キロさん達がいるほうから多くの足音が聞こえてきたので、そちらを見ると、全員が出入り口の扉へ向かうところだった。

 もう夜だし、家か宿に帰るのかもな。


 そんな中、一人みんなから外れてこちらへ歩いてくる、中肉中背の、猫背で目つきがすこぶる悪い男。

 頭にタケノコのような帽子を……いや、帽子ではなく皮つきタケノコみたいなヘアースタイルだった。

 こっちの世界で流行ってるんだろうか。

 髪型に並々ならぬポリシーを感じる。

 その男が、リィザの後ろ姿を睨むように見つめながら、僕達のテーブルにやってきた。

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