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81.千二百万円

「待たせたな」


 パティーヌさんが、皮の小袋を手に持って戻ってきた。


「パティーヌさん」


 ということで、気になっていることを聞くことにした。


「何だ?」


「パティーヌさんがクロさんを見たのって何年前ですか?」


「うむ。私が服屋のクロさんを見たのは」


「僕らのリーダー、水色のクロさんを見たのはいつですか?」


「そうだな……私がセイヴィアを引退する少し前だったかな。約十一年前だ」


 十一年前……クロアが十二歳の時に見たってことになる。


「それがどうした?」


「クロさんって今、二十三歳らしいんですよ。十一年前のクロさんて子供でしたか?」


「いや、貴様が描いた絵と同じだった」


「おかしくないっスか?」


「クロアが本当に今二十三歳ならな。だか、見た目が二十三くらいだから、三十三歳と言ったのを貴様が聞き間違えたんだろう」


「僕は直接聞いてないんですけど……リィザさんは直で聞いたんスか?」


「ククに教えてもらった」


 じゃあククが聞き間違えたんだろうか。

 ……ありえるような気がする。

 自分の年齢もはっきり数えてないくらいだから、人の年齢なんて興味ないだろうし。けど、


「十年以上まったく顔が変わらないっておかしくないですか?」


 もう一度パティーヌさんに聞いてみた。


「世の中そんなやつもいるだろ」


 あなたもですか……。

 確かにそういう人もいるだろうけどさ。十一年か……。


「……ちなみに、パティーヌさんっておいくつ?」


「さ、これが報酬だ」


 パティーヌさんが、手に持っていたリンゴくらいの小袋をテーブルに置くと、ゴトリと重そうな音と、袋の中からジャラっと金属の触れ合う音が聞こえた。


「おおっ、なんだかたくさん入ってそうですね……あ、そうだ」


 リィザに、何で報酬をもらえるのか言ってなかった。


「姐さん、このお金はですね」


「うむ、わかっている。グリードワームの報酬だな」


 人参君を描きつつも聞いてたのか。


「しかし、これはサン銅貨か? サン銀貨か? 百枚以上あるようならサン銀貨一枚か、サン金貨一枚に替えてほしいのだが」


「金貨一枚!?」


 っていったら約十万円だ。

 さすがにそんな大金には……でも、グリードワームって超大物だったから、それくらいもらえるのかも。


「フフフ」


 僕達を見てイタズラっぽい笑みを浮かべるパティーヌさん。


「すまんが替えることはできんな。いや、替えようと思えば替えられるが、余計に硬貨が増えるだけだぞ」


「増える?」


「まさか……」


「フフ、そのまさかだ」


 パティーヌさんが小袋の口紐をほどき、僕とリィザの前に、中身の半分ほどを出して見せてきた。


「んがっ」


「ほわっ」


 二人そろって椅子から腰を跳ね上げ、目玉が飛び出しそうなほど驚いた。

 こんなの誰だってビックリする。

 だって袋の中からは、


「今回の報酬、サン金貨百二十枚だ!」


 大量の金貨が出てきたんだから。


「ひ、ひ、百、に、二十枚……!?」


 円にすると、約千二百万円。

 大変だったとはいえ、たった一回戦っただけで千二百万円。


 セイヴィアってこんなに儲かる仕事なんだろうか……って、そんなことはないよな。リィザも僕と同じようなリアクションしてたし、今なんて目と口を開けたまま固まってるし。


「パ、パティーヌさん、ほ、本当に、き、き、金貨、ひ、ひひ百二十枚、も、もらえるの?」


 念のためお伺いした。


「いや、違う」


「……なぜこんな盛大なウソを?」


 一瞬でテンション下がった。


「ウソというわけではない」


「そうなんですか? あ、そっか。セイヴズに二割渡すから百二十枚から引くってことですか?」


「それはすでに引いてある」


「ではどういう?」


「グリードワームの情報を売っただろう。それと合わせて、貴様がもらえるのは、サン金貨百三十枚だ」


「……百……三十……」


 あの情報って金貨十枚で売れたのか。

 マイナスどころかプラス十枚。

 計千三百万円。

 毎月のお小遣いが二千円の僕にとっては、もう何が何だか……。


「あ、あの、どうしてこの依頼は、こんなに高額なんだ?」


 テーブル上の金貨をチラチラ見ながらリィザ。


「とある貴族の、セイヴィアをやっている息子が、貴様らが倒したグリードワームに襲われたそうだ。そいつは、命からがら逃げ帰ることができたが、話を聞いた親御さんが怒って、『今すぐあのグリードワームを倒してくれ!』とアホみたいに高額な報酬を出したんだ」


 過保護な貴族さんだ。

 息子さんが魔物に襲われて怒るくらいなら、セイヴィアなんてさせなきゃいいのに。


「そうだったのか。しかし、サン金貨百二十……いや、百五十枚もの報酬ならば、みんなもこの依頼に食いついたのでは? どうして残ってたんだ?」


「依頼が持ち込まれたのがつい先程でな。だからバハムートは、その貴族の要求通り『すぐ』に倒したってことだな」


 これまたラッキー。


「ということで、このサン金貨百二十枚は貴様のものだ。もちろん、今確認に向かわせているウチの者が、グリードワーム討伐の知らせを持ってきたらではあるが、まぁ貴様はウソを言うようには見えんし渡してもいいだろう」


 パティーヌさんは、テーブルの上の金貨を袋の中にしまい、


「グリードワームの情報買い取り分は、二日後に渡そう。だからひとまず」


 その袋を持ち上げ、


「ほら、サン金貨百二十枚だ。受け取れ」


 僕の前に差し出した。


「で、では、遠慮なく」


 両手を水をすくうような形にして、金貨の入った袋を受け取った。


「ふおおぉぉぉ~……」


 ズシリという音が聞こえそうなほど重い。

 小さな袋なのに、ボウリングの球でも持っているかのような不思議な感覚。

 四、五キロはありそうだ。


「やったな、バハムート」


「やりましたね、リィザさん」


「……フ、フフフフフ」


「……ハ、ハハハハハ」


 自然と笑いがこぼれてきて、


「やったーーーーーーーーーーっ!」


「やったっスよーーーーーーーーーーっ!」


 二人して叫んだ。


「サン金貨百二十枚だぞ!」


「百二十枚っス!」


「すごいな!」


「すごすぎっス!」


「頑張ったかいがあったな!」


「はい! 変人五人組に虐待され続けた地獄の日々が報われました!」


「こぉいつぅっ!」


 ドゴスッ


「ぶばぁっ」


 満面の笑みで顔面殴られた。


「地獄は言いすぎだぞ! アハハハハハハハハハッ!」


「痛いよーーーーーっ! アハハハハハハハハハッ! 言いすぎじゃないし痛いよーーーーーっ! アハハハハハハハハハッ!」


「わーーーいっ! わーーーいっ! わーーーいっ!」


「バンザーーーイ! バンザーーーイ! バンザーーーイ!」


「あ、そうだ。おい、リィザ」


「アハハハ……ん? 何だ?」


「アハハハハハハハハハハッ! 金貨百二十枚だぁーーーーーっ! イヤッホーーーーーーーーーー」


「クロア発見の報酬が書いてなかったが、いくらにするんだ?」


「うむ。サン金貨百二十枚だ」


「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!」


「む? どうした、バハムート?」


 どうしたって、あんた……。


「い、今、クロちゃん発見の報酬に、き、金貨」


「うむ! 百二十枚もあればすぐに見つかるぞ!」


「……」


 正気じゃねぇ……。

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