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79.人参君

「ちなみに、そのグリードワームはどこにいたやつを倒したんだ?」


「『始まりの森』にあるハーラスって廃村からずーっと北へ行って、森の出口に近いところにいたやつです」


「そうか……貴様、運が良いな」


「へ? ああ、はい」


 弱点がわからなかったらあんなの倒せなかった。おっしゃる通り運が良い。


「グリードワームの弱点は何だ? その弱点をついた後のグリードワームの反応はどうだった? 細部まで全て話せ」


「はい。えっと、まず弱点はアイカの実で――」



 〜説明中〜



「――明日はどのような敵が待ち受けるのだろうか。しかし、歩みを止めるわけにはいかない。我こそは、日出ずる国に生まれしラストサムライ、バハムートなのだから。つづく」


「ふむふむ。つ・づ・く。こ・い・つ・ア・ホ、と。フー」


 パティーヌさんが一息ついて、肩のコリを揉みほぐした。


「どうでした、僕の話?」


「途中の、『神よ、許したまえ』とか『僕は閃光となって』とか『何だ、このプレッシャーは!?』とか、どうでもいいところが多かったが、グリードワームを倒す方法はわかった」


「ありがとうございます」


「では、ここにお前のサインを書いておけ」


 紙の方向を逆さにして僕の前に置き、下の余白部分を指先でトントンするパティーヌさん。


「こっちの字書けないんですけど」


「貴様の書ける文字でいい」


「そうですか? それじゃあ」


 羽ペンを受け取り、『バハムート』とカタカナで書いた。


「どうぞ」


 紙と羽ペンを返す。


「うむ。ここからの流れだが、貴様の言った方法でグリードワームが倒せるかを検証する。倒せたなら、後日情報料を渡す。わかったか?」


「了解です」


「金を受け取る際の細かい手続きは、リィザにしてもらえ。それと、そのグリードワームを倒したと証明できるものは持っているか?」


「いえ。靴がまだ少し臭いくらいです」


「そうか……」


 赤い口紅がひかれた厚い唇に指を当て、何事かを考えるパティーヌさん。


「……誰か!」


 考えがまとまったのか、パティーヌさんが受付へ声をかけると、先ほどの韓流スターのようなお兄さんがカウンターを跨ぐように飛び越えて、すぐにこちらへやって来た。


「どうされました?」


「これは、こいつからもたらされた情報だ」


「お預かりします」


 パティーヌさんから紙を受け取る韓流スターさん。


「あと、こいつが例のグリードワームを倒したそうだ」


「ほう、それはそれは」


 韓流スターさんが眉を上げ、驚きの表情で僕を見た。ちょっと照れくさい。

 でも、『例の』って言うくらいあそこのグリードワームは有名だったのかな?


「だが、証拠となるものを持っていない。誰か人をやって確認してこい」


「かしこまりました」


 韓流スターさんは、僕とリィザに小さく頭を下げてから扉へと向かい、外へ出て行った。


「あのお兄さん、グリードワームを倒したところに行くんですか?」


「あいつの部下が、だな」


「アイカの実で倒したっていう証拠を探しに?」


「それとは別だ。単純に、グリードワームを本当に倒したかどうかの確認に行くんだ」


「何でです?」


「そこの壁を見てみろ」


「壁?」


 湖の絵や、男性の肖像画など絵画が数点が飾られる中、パティーヌさんの指差す方向には、何枚もの紙が貼られた掲示板のようなものがあった。

 紙には、三角と四角と点で構成された文字が書かれていて、絵が描かれているものもあった。


「あれって何です?」


「依頼書が貼られた掲示板だ」


「ああ、あれが」


 字が読めないからわからなかった。


「貴様が倒したグリードワームも依頼が出ていたんだ」


 パティーヌさんが椅子から腰を上げ、掲示板に歩み寄り、一枚の依頼書をはがして戻ってきた。


「これがその依頼書だ。グリードワームの討伐依頼だな」


 僕の前に依頼書が置かれた。


「へぇ~、これが……えっと、つまりどういうことで?」


「グリードワームを倒したと言った貴様の言葉が本当なら、依頼達成ということだ」


「僕が依頼達成……」


 もしかして、パティーヌさんが「運が良いな」って言ってたのはこのことなのか?


「だけど、これってセイヴズに出された依頼ですよね? 僕、セイヴィアじゃないんですけど」


「ここに貼ってあるのは、依頼主が『セイヴィアでなくともいい』と言ったものだ」


「へぇ〜」


 そんなのもあるんだな。


「依頼を達成したら報奨金を渡す。セイヴズに引かれる金額も、セイヴィアと同じく二割だ。ただし、装備品が壊れようがケガをしようが何の補償もしないがな」


 てことは、セイヴィアは治療費とか出してもらえるのか。


「でも僕、依頼受けてないですよ?」


「この依頼は、結果最優先だ。グリードワームを倒したという結果さえあれば問題ない。依頼主も満足してくれる」


「そうですか……なるほど。それで依頼を達成できてるか確認しに行ってくれたんですね?」


「そういうことだ」


「なら、明日でもよかったのでは?」


「それまでに別の者が、倒されたグリードワームを見つけて、『自分が倒した』とウソを言ってくるかもしれんだろう」


 言われてみれば。


「ウソを見抜く方法もあるが、アレはあまり使いたくない」


「なんでです?」


「廃人になる可能性がある」


 何するんだろ。


「……つまりパティーヌさんは、僕達がちゃんと報酬を受け取れるようにと考えて、すぐにグリードワームのところに人をやったってことですか?」


「そうだ」


 おお。


「ありがとうございます。パティーヌさん、超優しいです。グリードワームを倒せただけでなく、こんなに優しいお姉さんに応対してもらえて、僕達本当に運が良いです」


 リィザは逃げようとしてたけど。


「フッ、気にするな」


 このくらい当然だ、という表情のパティーヌさん。


「貴様、気に入ったぞ」


 なぜか気に入られた。


「……よし、できた」


 ずっと集中して依頼内容を書いていたリィザが、顔を上げ、羽ペンをインク壺についているペン立てに挿した。


「ようやく書き終わったのか」


「遅かったっスね」


「うむ。できるだけたくさんの情報を書いておこうと思ってな」


「どれどれ」


「どのくらい書いたんスか?」


 パティーヌさんと僕が、リィザの書いた紙を覗いた。


「うわ……」


「うげ……」


 紙には、小さな文字がミッチリと隙間なく書き込まれていた。


「何だこれは……」


「気持ちワル……」


 遠目から見たら、ただの黒い紙に見えるんじゃないだろうか。怖い。


「失礼だな。情報量が多ければ、それだけ早く見つかるだろう」


 多いというか、多すぎ。

 書くにしても、紙はまだあるんだからそっちに書けば良かったのに。

 依頼書ってこのまま掲示板に貼ったりするんだろうか?

 だとしたら、誰も読んでくれないと思う。

 文字が小さいし、全部読んだら精神を病みそう。


「……まぁ、これは後で何とかするとしよう」


 パティーヌさんが、紙の隅っこをつまんで自分の前に引き寄せた。


「で、そっちの紙は何スか?」


 リィザの斜め前にはもう一枚、何も書かれていない紙が置かれていた。


「こっちには、似顔絵を描いたんだ」


 ということは、描いたほうを下にして置いてるのか。


「そっちも見せてみろ」


 と促すパティーヌさん。


「……ここで?」


 少しためらう様子のリィザ。


「当たり前だ。ほら」


「……まぁいっか。けっこう上手く描けたし」


 絵に自信有りげな笑みを浮かべて、リィザは紙の端っこを持って、


「こんな感じだ」


 ピラリと裏返した。


「ほう……」


「これは……」


「フフ、どーだ」


 パティーヌさんと僕の反応を見て胸を張るリィザ。

 いろいろ言いたいことはあるが、とりあえず、


「ヘタだな」


「ヘタっスね」


 ヘタだった。


「な!? ち、ちょっと待て! ちゃんと見ているのか!?」


 見ている。見えにくいが見ている。

 なぜか、紙の中央ではなく下のほうに描かれた、親指くらいの小さい顔。そして、


「なんだか全体的に三角形だな」


「この鼻とアゴは、何でこんなにとんがってんです? 三角定規でも埋め込んでるんですか?」


 目、鼻、笑った口、顔のライン、すべてが三角形だった。


「アイツの顔立ちは鋭い感じだっただろうが!」


「そうなのか? 人参みたいなやつだな」


「こんな人参捜してないっスよ」


「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ」


 ダンッダンッダンッ


 地団駄を踏むリィザ。

 力作を人参呼ばわりされてとても悔しそう。


「しかし、これだけ特徴のあるやつならば、すぐに見つかるだろう」


「いえ、ですからこんなお野菜は捜して」


「だったらお前が書いてみろ!」


 リィザが叫び、


 バンッ


 人参君が描かれた紙を裏返して僕の前に叩きつけた。

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