77.サッチュウザイ
「そっちの右端に行こう」
リィザが八つある窓口のうち一番空いているところへ移動した。
そこでは、白い髪がモップみたいにふさふさのおじいさんが、丸椅子に座ってカウンターの中にいるお兄さんと話しながら、紙に何かを書いていた。
「ここで、中にいる職員の人に依頼内容を伝えたり、情報を売ったりするんだ。ここのセイヴズの受付は、八つあるからどこでもいいけど」
「ふむふむ。僕達は今、順番待ちで並んでるんですか?」
「そうだけど? お前の国って並ぶ習慣ないの? 並ぶほど人いない?」
習慣ありまくり。人いまくり。
「そうでなく、セイヴィアの人は並ばなくてもいい、みたいなルールはないの?」
「ない。セイヴィアだとしても貴族だとしてもそんな融通はきかない」
しっかりした組織だ。
「概ね」
おーむねか。
「ここが受付ってのはわかりましたけど、左側の武器とか飾ってあるスペースは何です?」
「あっちは、有名なセイヴィアが使ってた武器や防具を展示してあるんじゃないかな」
「ほほう」
後で見に行こう。
「んじゃあ右側は?」
「込み入った話の時は、あっちでするんだと思う」
「ふむふむ。ここ来るの初めてっスか?」
「中はな。お前、大陸文字書けないよな」
「大陸文字って何スか?」
「こっちの世界の字」
「無理っス」
「今は仕方ないけど、少しずつ覚えるんだぞ」
「はい」
めんどい。別にいいや。
「半年たっても覚えてなかったらお説教な」
まぁ、それくらいなら
「きつい往復ビンタを添えて」
料理名みたいに添えられた。
「では、依頼書をお預かりしますね」
受付のお兄さんが感じの良い笑顔を浮かべて、手続きが済んだらしいふさふさおじいさんから紙を受け取った。
「何卒よろしく頼みます」
椅子から腰を上げたふさふさおじいさんは、小さく頭を下げ、回れ右し、出入り口へと歩いていった。
年をとってもふさふさなんて羨ましい。
「次の方どうぞ」
受付お兄さんが僕達を呼んだ。
「まずはお前からいっとけ」
僕の背中を押すリィザ。
「え? 姐さんが先じゃないんスか?」
「お前の情報が、いくらになるのか知っておきたいんだ」
「何で?」
「いいから、ほら」
リィザに再度背中を押されカウンター前へ。
「よくわかんないけど、それじゃあ……」
今の今までふさふさおじいさんが座っていた木の丸椅子に腰かけた。お尻が温い。
顔を前へ向けると、韓流スターのような男臭くも爽やかなハンサムさんが、
「セイヴズへようこそ」
ウェルカムスマイル。
「こんにちは」
僕も良い笑顔を返した。
「本日は、どのような」
「リィザ!」
受付さんの声をぶった切って、誰かが僕の後ろに立っている御主人様の名前を呼んだ。
声のしたほうへ顔を向けると、テーブルなどが置かれている右側スペースの街道側一番奥、窓際テーブルの建物内が見渡せる席に、いつの間にやらパティーヌさんが座っており、リィザを睨むように見つめ、『こっちへ来い』という意味だろう、立てた人差し指をクイクイと自分のほうへ曲げていた。
「わ、私?」
自分を指差してパティーヌさんに尋ねるリィザ。
無言で頷くパティーヌさん。
名前呼んだんだからそりゃそうだ。
「な、何で?」
「早くしろ」
問答無用。
「うぅぅぅ……私、なにもしてないのに……」
うなだれながらもリィザがパティーヌさんのいるテーブルのほうへと歩き出した。僕の服の襟首をつかんで。
「姐さん、僕お呼ばれしてないんですけど?」
「私もお呼ばれされる覚えはない」
「お呼ばれされてない僕と、お呼ばれされる覚えはないけどお呼ばれされてるリィザさんとでは、全然立場が違うと思うんですけど」
「つべこべ言うな。お前は私の何だ?」
「都合のいい男?」
「従者だ。イザという時は、私の盾となれ」
「従者は盾じゃないっスよ?」
僕がリィザにズルズル引っ張られていく中、右側エリアにいた人達全員が左側へ移動を開始した。
みんな、「パティーヌさん、イラついてんぞ」「おっかねぇ」「この女何したんだ?」などと話しながらすれ違っていった。
強面の人も恐れるほどパティーヌさんて怖いんだな。
ホント、何やったんだろ?
光の塔の件だろうか?
リィザをチラリと見ると、うなだれた格好のまま顔を赤くしていた。
注目を浴びて恥ずかしいんだろう。
ズルズル引っ張られた状態でパティーヌさんのいるテーブルに到着し、ようやくリィザが僕のカッターシャツから手を離した。
パティーヌさんは、四人掛けの四角いテーブル席の奥に座り、リィザをじっと見つめていた。
思い出してみれば、パティーヌさんは最初からリィザのことを観察するような目で見ていたような気がする。
何か気になることでもあるのかな?
「おい」
パティーヌさんの視線が、リィザの斜め後ろに立つ僕へ移った。
「貴様は、リィザと一緒にいたやつだな。なぜここへ来る?」
当然の質問。
僕、お呼ばれされてないんだから。
「そ、その、ど、どうしてもこいつが同席したいと言うので連れてきたんだ」
「んなこと一言も言っテテテテテテテテテテ」
ウソつきリィザに足を踏まれてグリグリされた。
「い、いい子にしているので、い、一緒に居させてもいいだろうか?」
「……まぁ、かまわん。二人とも座れ」
「う、うん」
リィザは頷いて、パティーヌさんから見て斜めの席についた。
よっぽど怖いんだな。
仕方がないので僕がパティーヌさんの正面にある丸椅子に座った。
「……げ」
テーブルの上に包丁が置いてあった。切っ先が僕のほうへ向けられている。
すごく落ち着かない。
「さっそくだが、リィザ」
パティーヌさんが腰を浮かせてリィザの前の席に移動した。
リィザ意味なし。
「……な、何か?」
「貴様、何を持っている?」
「……へ?」
可愛く首を傾げるリィザ。
「貴様の荷袋に入っているものだ」
「荷袋……」
リィザが背中に負っていた巾着型の荷袋を下ろし、テーブルの上に置いた。
「早く出せ」
「出せと言われても、何を出せばいいのか……」
「そいつのせいで、体の中がうずいてかなわん」
うずく?
大人の魔道具でも持ってるんだろうか……。
「体の中…………あ」
何か思い当たる物があるのか、リィザが荷袋の中を漁りだした。
「ん~…………あれ? む~…………」
ガサゴソガサゴソ中を探るが目当ての物は見つからないようで、結局、
「えいや」
荷袋を逆さにして、中身をテーブルの上に出した。
相変わらず整理整頓されていないようだ。
何がどこにあるのかわかる、みたいなこと言ってたくせに。
中からは、服や布、小袋、超キレイな石など色んな物が出てきて、
カランコローン
「あ、あったあった」
赤と白でカラーリングされた、僕がこっちに持ってきた殺虫剤も出てきた。
「これじゃないか?」
リィザが殺虫剤を手に取り、パティーヌさんに見せた。
「……ああ、それだ。体のうずきが強くなった」
口端を上げニヤリと笑うパティーヌさん。
どうやら当たりのようだ。
よくわかったな。
でも、殺虫剤で体がうずくって何でだろ?
エロい成分なんて入ってないと思うけど。
「それは何だ?」
「これは、サッチュウザイといって、虫をやっつける魔道具だ」
ただの道具だって。
「ははぁ、なるほどな」
何かを納得したパティーヌさんが、まじまじと殺虫剤を見る。
「そいつに触れた虫は死ぬのか?」
「いや、この上のところを押すと、ここにある穴からブレスが吐き出されて、それを受けた虫は死ぬんだ」
「ふむ。貸してみろ」
「うん」
リィザがパティーヌさんに殺虫剤を手渡した。
受け取ったパティーヌさんは、色んな角度から殺虫剤を眺め、手触りも確認し始めた。
「……ほう、これがなぁ。虫なら何でも殺すのか?」
「そうだと思うけど……どうなんだ?」
リィザが僕に話を振ってきた。




