表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/149

75.街どすえ

「こ、これが街……」


 ようやくたどり着いたトレアドール。


 土ではなくブロック状の石が敷き詰められた道。

 白い壁が眩しい黒い木組みの木造建築の家。

 たまに見える赤いレンガ造りの建物。

 等間隔に立っている、長い棒の先にランタンを取り付けたような、アンティークな街灯。

 その傍には、街並みを色彩豊かにする花壇。

 建物の窓からもカラフルな花を植えたプランターが下げられている。

 道の両サイドには食べ物を売っている屋台や布の上に品物を並べて商売をしている人がいて、夕飯時だからか、あちらこちらから辛抱たまらんいい匂いが漂ってきた。


「ま、街どすえ……リ、リィザはん、あ、あて今、ま、街におるんどすえ……」


「変な喋り方するな」


「もう変なことやらかしそうな予感」


 始めてこちらへ召喚されてから約二週間。

 ようやく僕は街へ来ることができたんだ。


「いぃぃぃやっほーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ! 街だーーーーーーーーーーーーーぶへぇっ」


 ククに荷袋でどつかれた。


「街中で叫ぶな! 恥ずかしいでしょ!」


「叫んだわけじゃなく、感動に心が震えてそれが音となって口から」


「うっさい! 街中で大声禁止! いい!?」


「ええ~。ねぇねぇリィザさん」


「何だ?」


「僕ね、おっきい声が自然と出ちゃうんだ。それくらい良いよね?」


 上目遣いで可愛くお伺いしてみた。


「ダメだ化け物」


 バカ者と言い間違えたんだろう。


「ふぅ……離れちゃダメ、大声出しちゃポメ。二人とも心が狭いねぇ」


「お前、誰に言ってるんだ……?」


「大声出しちゃポメって何……?」


「さながら僕は、翼をもがれた天使だね」


「落下して死ね」


「そして地獄へ行け」


「さぁさぁお二人さん、口汚く人を罵ってないで行くよ」


「……後で人気のない場所に連れていこう」


「……アタシ良いとこ知ってる」


 逃走ルートを探しておこう。


「しっかし、すごい人出だなぁ」


 大型トラック三台が並んで走れそうなくらい広々とした石畳の道には、肩がぶつかりそうなほど多くの人が行き来していた。

 先ほども見た防具をつけた人や際どい格好の人もいれば、走り回る子供、それを温かい目で見つめるおじいさんおばあさん、馬に乗って鋭い目を周囲へ向けるヒゲのおじさん、派手な馬車、そこから降りてきた複雑な紋様の刺繍入りドレスを着たおばさん、その側にメイドさん、老若男女様々な人達が街に溢れていた。

 中でも白いローブを着た人が多く見られる。


 とある一軒の建物に目を向けると、ガラス窓から中の様子を窺うことができ、テーブルの上や戸棚には、木のコップ、陶器のお皿、ワイングラスなどが並べられていた。

 食器を取り扱うお店なのだろう。


 リィザとククに挟まれる形で歩きながら、「すごいなぁすごいなぁ」と言って首を左右へ忙しなく動かしていると、こちらをじっと見ていたリィザと目が合った。


「何でしょう?」


「こんな見事なまでの田舎者的行動をとってるやつ初めて見た」


 ほっとけ。


「珍しいんだからしゃーないでしょ」


「でもさ、田舎から出てきたやつだって、もうちょい田舎出身を隠そうとするわよね」


 ククも街でなく僕を観察していた。


「あのね、僕の国には、『旅の恥はかき捨て』って言葉があるの。無理して都会もんぶってても楽しくないからいいの」


「かかないに越したことはないだろ?」


「そこに誇りはないの?」


 お店とか見てりゃいいのに。


「どうだ? 街を見た感想は?」


 興味深そうに聞いてくるリィザ。


「そりゃもう、色んな格好したたくさんの(異世界の)人がいてビックリというか、感動ですね」


「ふっふーん。そうだろうそうだろう」


 リィザ、なぜか鼻高々。


「街の雰囲気はどう?」


 こちらも興味ありげにクク。


「そりゃもう、(異世界の)お店なんて見るの初めてだから、ワクワクするというか、どんなもの売ってるのか見に入るのが楽しみだよ」


「ふっふーん。そうでしょうそうでしょう」


 ククも鼻高々。

 ……これってあれだな。

 日本に観光に来た外国人にインタビューして、「二ホン、スバラシー」って言われていい気分になるやつとおんなじだろうな。


「そんで、まずはどこに行くの? 僕としては、光の塔を近くから見たいんだけど」


 真っすぐ伸びる石畳の街道が光の塔まで続いているので、ここからでも塔を見ることはできるが、やはりもっとそばで見たい。


「光の塔へ行くのは明日だな。明日の早朝、塔の隣にある教会へ行くからそれまで我慢だ」


「あらら、そうですか」


 早朝ってことは、日の出と同時に起きて行くってことかな?

 登校前に行けそうだ。


「なので、私達がまず行くところは……ここだ!」


 リィザが足を止め、声を張って、「ゲストはこの方です!」みたいなポーズで通りの左側にある一軒の建物を手で示した。


「ここ何?」


 周りと比べてひときわ大きい、二階建ての赤いレンガの建物。

 奥行きはわからないが、横幅はコンビニ二件分ってところ。

 五段ある手すり付きの短い階段を上った先の、重厚そうな木製扉の横には、四角と三角と点で構成された文字と若い男性のものと思われる横顔が浮き彫りになった、銅版のレリーフが壁に取り付けられていた。


「なんとここは……」


「ここは?」


「セイヴズなのだーーーっ!」


「おおぉぉぉぉぉっ! ここがセイヴべはぁっ」


 リィザに荷袋でどつかれた。


「あ、姉御、なにゆえ?」


「大声を出すなと言ったろ」


 聞いて驚けとばかりに言ったのあんたでしょうに。

 ここがリィザ達が所属しているらしい、人助けのための依頼を受けてこなす、正義の味方のような組織か。立派な建物だ。


「ではクク、後ほど噴水広場で」


「うん、了解」


「あれ? どこいくの?」


 返事して歩き出そうとしていたククが立ち止まる。


「傘売りに行くのよ」


 ああ。


「あとでみんな一緒に行くのかと思ってた」


「それだと食事が遅くなるでしょ」


 言われてみれば。


「がんばって高値で売ってくるから、そっちもしっかり稼ぎなさいよ」


「稼ぐ? どうやって?」


「ん? あ、そっか。あんたの世界ってグリードワームいないって言ってたわね」


 それは道中話した。


「いないけど、それが?」


「いい? グリードワームの弱点って誰も知らないの。だからその弱点を情報としてセイヴズに売るのよ」


「そんなことできるの?」


「うん」


「へぇ~」


 魔物の弱点がお金になるとは。


「セイヴズは、そんなもん買ってどうすんの?」


「世間に広めるのよ」


「タダで?」


「そう」


 さすがは正義の味方の組織。素晴らしい。


「あとは、他のワーム系の魔物にも効果があるのか、とか色々研究してくれる」


「で、またタダで情報を教えてくれると?」


「そ」


 そこまでやってくれるのか。

 弱点教えてお金もらう自分が恥ずかしくなってくるな。

 セイヴズで働いてる人は聖職者のような人達かもしれない。

 つーか、ワーム()ってことは、チ◯コのお化けみたいなやつが他にもいるのか。もう会いたくないな。


「てなわけで、しっかり稼いできなさいよ。じゃないとお金ぜんぜんないんだから」


「え? 何でお金……あ、そうだった。クロアってお金も盗んぶべらっ」


 リィザにビンタされた。


「クロアは盗んでない」


「で、でやんしたね。正体不明のイケメンに盗まれたんでやんした。あ、でもでもリィザさんはお金いくらか持ってたよ?」


 グリードワームの縄張りで見せてもらった。


「それはリィザの個人的なお金でしょ」


「共同で使うお金がないんだ」


 そういうことね。


「ちなみにリィザさんは、いくらもってるんスか?」


「サン銀貨とサン銅貨をあわせてちょうどサン金貨一枚分だ」


 リィザ、約十万円。かなり持ってる。


「ククは?」


「銅貨三枚」


 三十円。少な。


「共同で使うお金っていくら盗まれたの?」


「『始まりの森』に入る前に結構使ったから、サン銀貨十枚くらいじゃないかしら」


「銅貨も何枚かあったな」


 一万円とちょっとってとこか。

 だとすると、クロアはお金が欲しくて盗んで逃げたわけではなさそう。あいつ、お金に興味ないって言ってたもんな。


 となると、やはり荷物が目的だったんだろう。


「んじゃあ、荷物盗まれたって一体何を」


 盗まれたの? と聞こうとしたところで、


 キィ


 目の前のドアが内側に開き、


「邪魔だぁぁぁぁぁっ!」


「うおっ!?」


「わわっ!?」


「うわぁっ!?」


 中から出てきた女性が大声で僕達を叱りつけた。

 長い黒髪を頭の上でまとめた、紅く厚い唇がセクシーな、三十は過ぎていると思われる綺麗な人。

 白い長袖ブラウスに、黒のタイトスカート、黒い網タイツに黒いハイヒールという格好。

 やり手の女社長、もしくは指導が厳しい女教師みたいだ。

 背が高く足が長いので、網タイツが大変よく似合っている。タイツから讃美歌が聞こえそうなほどに。


「げ」


「ひっ」


 その女社長さんを見たククの顔が気まずいものになり、リィザは怯えた声を漏らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ