69.天才狐
「パパさんママさんは三百年、ククは百年か……。てっきりウチのメンツの中で一番下だと思ってた」
「アタシは一番年上ね。そん次がクロア」
「クロアって何歳?」
「二十三歳」
まぁそんなとこか。
「ミラは?」
「二十一だって」
もうちょい上かと思った。
「レアは?」
「永遠の十八歳だって」
わけわからん。
あの人なんにもわかんないな。
じゃあ、一番下は十七歳のリィザと僕か。
「でも、人生経験が一番豊富なのはクロアね。アタシは、百歳まで故郷の島から出たことなかったし」
「ふぅん。ククはクロアがいなくなった理由わかんないの?」
「わかんない」
あっさり。
「どうして荷物がなくなってたと思う?」
「クロアが盗ったから」
きっぱり。
「クロアが犯人だと思ってるんだ?」
「うん」
はっきり。
「リィザの前では言わないけどね。あのコ怒るから。けど、状況からしてクロアが盗った……というか持ってったとしか考えられないでしょ」
だよね。
「クロアのこと腹立つ?」
「ううん」
「何で?」
「お金や物に執着のない真面目なクロアが、アタシ達に黙って荷物とお金持ってくってことは、よっぽどの事情があるからだと思うの。だったら仕方ないわ」
ククもミラやレアと同じく、犯人はクロアだけど気にしないって考え方か。
「みんな心が広いねぇ」
「それだけクロアが立派なやつってことよ。そういうあんたは、クロアのことどう考えてんの?」
「基本不幸になれと考えてる」
「そういうこと聞いてんじゃないわよ。あんたいつまでたってもクロアに懐かないわね」
懐くポイントがないからね。
「クロアがいなくなったことについてどう考えてんの?」
「荷物パクって逃げた」
「簡潔ね。腹立つ?」
「ん〜……」
仲間の荷物を持ち逃げしたわけだから、裏切り行為には腹が立つ。けれど、ぶっちゃけ僕には被害がない。だからか、腹が立つって以上に、
「……ビックリ? って感じかな?」
「何それ?」
「クロアって荷物盗んだりしそうにないから意外だなぁって」
「あら、だったらアタシ達と一緒じゃない。そうよね、どんな事情があるのか知んないけど、お金とかに興味のないあいつが意外よねぇ」
そういうことではなく、状況を聞く限りクロアが盗んだことは間違いないと思うが、プライドの高いええかっこしいのクロアが、荷物を盗むという小悪党のようなマネをしたことが意外、ってことなんだけど。
よっぽど欲しい物が荷物の中にあったのかな?
でも、それならみんなに、「これちょーだい」って言えばもらえるだろうに。
全員クロア大好きなんだし。
……パンツなら話は別か。
それか?
「あんた、てっきり怒ってると思ったわ。あんたが気にしないんならいいけどね。よっ」
ククが足元にあった小石を蹴った。
すると、十歩ほど先を歩くリィザの横の草むらまで小石は転がり、ガサッと音をたてた。
音を聞いたリィザがすぐさま反応し、足を止め、レイピアの柄に手をやり、草むらへ顔を向けた。
じっと目を凝らすリィザ。
しかし何もないとわかると、首を傾げてまた歩き出した。
「フフ、リィザ可愛い」
いたずらっ娘だな。でも確かに可愛い。
「そういやリィザさんに聞いたんだけど、ククってクロアがいなくなって荷物がなくなった理由を話し合ったとき、『わかんないわねぇ』って言って首を傾げてたんだってね?」
「うん」
「リィザさんの手前、クロアが盗ったって言いにくいからごまかしてたんだね」
「それもあるけど、クロアがどうやってハーラスからいなくなったのかがわかんなかったのよ」
「歩いてでしょ?」
「だと思うんだけど、森の中にいる子達に聞いても誰も出ていく姿を見てないって言うのよね」
出ていく姿を見てない?
つーか、森にいる子達?
「でも、あのやたらとデッカくて嫌な気配がまた出たって言ってたわ」
「ああ」
あの正体不明の不快な気配か。
「あの正体って何だかわかった?」
「まったく。森の子達もあの気配が出た時は、自分の棲み処に隠れてたから何もわからないって言ってた」
「そっか」
大きな魔物がハーラスの近くに巣でも作ろうとしてるのかな?
「それで、昨日までに近くにいる子達のほとんどにクロアのこと聞いたんだけど、なんにも情報が得られなかったから、今朝から遠くにいる子達に聞こうと思って村を出たのよ」
「でも、クロア情報手に入れてどうするつもりだったの? クロアは戻ってこないと思うって言ってたよね? 見つけ出して強引に連れ戻すつもりだったの? もしくは発見次第110番とか?」
「ひゃくとーばんって何? 手がかりだけで良かったのよ。リィザが、『クロアはケガして動けないのかも』って言って森をふらふら捜し回ってたからさ。クロアを見た子がいたってリィザが聞けば、とりあえず安心するでしょ」
そういうことね。
「何かわかった?」
「わかったなら言ってるっての」
そりゃそうだ。
「で、森にいる子達って誰? この森って実はたくさん人が住んでるの?」
「いないわよ」
「じゃあ何がいるの?」
「動物たちがいるじゃない」
「……もしかしてククって、動物と話ができるの?」
「うん」
「マジ?」
「マジ」
「変な薬キめてて動物がしゃべってるような気がするとか……」
「じゃなく」
「冗談抜きで?」
「抜きで」
「おおっ! ククすげぇぇぇーーーーーっ! クク超すげぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーっ!」
そんな子供が思い描く夢のようなことができるとは。
「大したことじゃないわよ。ウフフフ」
「ククってアレ!? 天才!? 天才狐!?」
「そんなことないけど、あんたがそう思うんならそうかもね。ウフフフフ」
「なになに? どーした?」
僕の驚く声を聞いてか、リィザがこっちへ来た。
「聞いてよ! ククってば動物と話ができるんだよ! すごくない!?」
「おおっ、そのことか! うむ! うちのククは超すごいぞ! 超かしこいさんだぞ!」
「だよねだよね! うちのククは世界一だぁっ!」
「私もリーダーとして鼻が高いぞ!」
「ち、ちょっとあんた達、褒めすぎだってば。ウフ、ウフフフフフ」
謙遜するクク。
だが、動物と話せるなんて優れた能力だし羨ましい。
「どんな動物とでも話せるの!?」
「哺乳類ならね」
「哺乳類!? 哺乳類と話してるの見たい!」
「え……」
突然反応が鈍くなったクク。
「何? どしたの?」
「それは……ん~……」
難しい顔になってしまった。
何かまずいことでも言っただろうか。
「クク?」
「ん~……どうしても見たいの?」
「見たい見たい見たい!」
「……わかった。じゃあ見せたげる」
「イヤッホーーーイッ! わーーーいっ! わーーーいっ!」
「でも、期待してたのと違うからって、後で文句言わないでよ」
期待してたのと違うから?
……よくわからんけど、
「そんなの言わないよ! やったーーーーーっ!」
動物と話してるところを見れるんだから言う理由がない。
「んじゃあさっそく、哺乳類哺乳類……」
辺りを見回す。
しかし、森から草原に出て道を歩いている間もずっと景色を眺めていたので、目に見えてわかるほどの大きな動物がいないことには気づいていた。
空を見る。
燕のような鳥が数羽飛んでいた。
「鳥はダメだよね?」
「うん。おいしいけどね」
「となると……」
草原に目を向けて、注意深く動物を探した。
周りは長いのから短いのまで草がたっぷり生えてるし、これだけ広けりゃ一匹くらいは哺乳類がいるだろう。
「む~………………お」
道からそう離れていない草が、不自然に揺れた。
「クク! あそこ! あそこに何かいるっぽい!」
「ん?」
僕が指差す先へククが目を向けた。
「……よくわかんないわね。とりあえず行ってみましょ」
道をそれて草原に入っていくクク。
僕とリィザも後に続いた。




