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68.ポメ一族

 背後から照らす夕日が三つの影を前へと長く伸ばし、その影を追うように僕達はリィザを先頭にしてトレアドールの街へ向け、草原にある土の道を歩いていた。


 喜び極まってククを絞め殺しそうになっていたリィザが落ち着いた後のこと。


 リィザがまず、朝起きると誰もいなかったことをククに説明。で、ククはリィザがむっつり顔だった理由を理解した。

 ククは、何も言わずにいなくなった二人に対して怒りを露わにしたが、いなくなったことに関しては、「クロアいなくなったししゃーないか」と言っていた。


 お次にククが説明。

 昨日の夜に遠くまでクロアを探しに行こうと考えついたけれど、その時にはリィザはすでに寝ていて朝になってもグッスリだったので、レアに言伝を頼み出発したとのこと。その時点では、ミラもまだいたらしい。

 で、僕とリィザが状況を理解。


 その後、グリードワームの縄張りでお宝探しを再開しようとしたが、ククが、


「あんまお金落ちてなかったわよ。私が拾った分はグリードワームのお腹の中だし」


 と言ったので、リィザが、


「クク、私達はトレアドールへ向かおうと思う。何もないなら出発しよう」


 ククに言って、森を抜け、草原に出て、これまでいた森を右手に見ながら現在歩いているところだった。


 周囲に見えるのは、どこまでも伸びる幅広い土の道、両サイドの風に揺れる草花、遠くにある新緑に染まる山々などの壮大な風景で、ビルや電柱はなく、車も走っていない。


 そんな、中国映画にでも出てきそうなただただ広がっていく空と大地を見たのは生まれて初めてだったので、森から出た直後は、


「ほぇ〜……」


 と間抜けな声を出して、美しい世界に見入ってしまった。

 今はその景色を楽しみながら、隣を歩くククとおしゃべり中だった。


「へぇ〜、グリードワームがアイカの実でねぇ。言われてみると、あいつらってアイカの木の辺りでは見ないわね」


 うんうん頷く白銀髪の美少女に変身したクク。

 いつものごとく、羽織のような白い服を一枚だけ着て、黒いショーパン、素足にサンダルという格好。

 羽織の裾が長くショーパンがチラリとしか見えないので、裸ワイシャツならぬ裸羽織のように見える。

 少し違うのは、ワンショルダータイプで巾着型の荷袋を背負っているところ。

 リィザも同じ荷袋を背負っている。


「人間をあんまり食べないのが前々から不思議だったけど、人間が非常食としてよくアイカの実を持ってるのが理由かもね。やるじゃない、バハムート」


 僕がどうやってグリードワームを倒したかを聞いたククが、肩をぺしぺし叩いてきた。


「そんなことないよ。幸運が重なっただけだって」


 自分でも大したもんだと思うが、素直に褒められると照れ臭いので、自然謙遜してしまう。


「いや、お前は本当によくやったぞ、バハムート」


 前を歩くリィザが振り返って、後ろ歩きで言ってくる。


「ほぼ私のアドバイスのおかげとはいえよくやった」


 リィザの話のおかげではあるが、アドバイスではなかった。


「リーダーとして褒めてつかわす」


 クロアが戻るまでの間どっちがリーダーやる? とリィザがククに話を振り、狐娘は「どっちでもいい」と言ったので、リィザがリーダーの座に収まった。

 僕は、リィザの従者なのでリーダーはダメらしい。そもそもやる気ないけど。


「そう、リーダーとして、この三人のリーダーとして褒めてつかわす。フフフ」


 ククが戻ったこととリーダーになれたことが嬉しいようでテンション高めなリィザ。ずっとリーダーリーダー言ってえばってる。


「ありがとうございます。クロさんが帰ってくるまで僕達を導いて下さい、リーダー様」


「うむ、任されようぞ。……クフフフ」


 前へ向き直り忍び笑いを漏らしながら、ズンズン先へと歩いていくリィザ。

 えばってても微笑ましいから問題ないけど。


「微笑ましいわねぇ」


 ククも同じことを考えていたようで、リィザを見て優しい笑みをこぼしていた。


「あの子が元気になってよかったわ」


 妹を見守るお姉さんのようだ。


「前から思ってたけど、ククってリィザさんが自分よりも年下みたいに話すよね。ククの精神年齢は結構高かったりするの?」


「は? 精神年齢だけじゃなく、実際アタシのほうが年上だし」


「え、そうなの?」


 じゃあ、リィザは十七歳だからそれ以上ってことか。

 狐の寿命って犬と同じくらいだと思う。

 長生きな狐だったんだな。


「なにキョトンとしてんのよ」


「いや、年上に見えなかったからビックリしちゃって。いくつくらい上?」


 一つか二つだろう。


「百くらい」


「……」


 思わず足を止めてしまった。


「何してんの? ほら、行くわよ」


「あ、うん」


 再び歩き出す。

 ……百? 百って言ったか? 


「……一つ聞くけど、こっちの世界って一年で一歳年を取るんだよね?」


「そうに決まってんでしょ。あんたのとこもでしょ?」


「うん、まぁ……」


 てことは……


「ああ、そっか。冗談か。冗談だよね。あー、ビックリした。今のは何? こっちの世界ではスベり知らずの鉄板ジョークなの?」


「何言ってんの?」


「何って、今百歳年上ってボケたでしょ?」


「ボケはあんたよ。アタシは全然ボケてないっての」


「……」


 ククの顔はいたって普通。

 スベって恥ずかしがってる様子もない。


「……えっと……本当に?」


「何が?」


「本当に百歳年上?」


「んなこと言ってないでしょ」


「やっぱスベったから今の会話なかったことにしようとしてる?」


「アタシは百歳くらいって言ったの。多分、百はいってない。九十幾つだと思う」


「……そう」


 ……本当だろうか?

 本当の可能性はあるよな。

 だってここ地球じゃないし。

 エルフのような長寿の種族もいるだろうし。

 なによりこの狐娘、しゃべったり変身したりして普通じゃないしな。

 でもまさか、ククがそんなに長生きの狐とは。


「ちなみに今何歳?」


「百から先は数えてない」


 ベテランの殺し屋みたいなセリフ。


「だいたい、百十から百十五の間だと思う」


 狐娘に変身したときの見た目プラス百ってところか。


「ククさんって」


「何でさん付け?」


「超年上なんで」


「今まで通りでいいわよ」


「そう?」


「うん」


「じゃあククで」


「うん」


「ククってさ」


「うん」


「魔物?」


「殺すわよ」


「魔物だから?」


「あんたがバカだから」


「僕バカ?」


「うん」


「なぜ?」


「はぁ~~~」


 盛大にため息吐かれた。


「アタシが狐なのに百年以上生きてるから、『魔物?』なんてこと聞いてきたんでしょ?」


「うん」


「アタシはただの長生きなしゃべる狐よ」


「『ただの』の枠超えてない?」


「とにかく魔物じゃないの。アタシのパパとママなんて、魔物どころか地元じゃ神様並みに崇められてんのよ。村の人なんて、パパとママを見ただけで大騒ぎなんだから」


「へぇ。なんで崇められてんの?」


「三百年生きてるからね」


「……」


「あ、もちろん魔物じゃないわよ」


 ……三百年生きてる狐。

 でも魔物じゃない。

 違いがよくわからん。


「パパさんとママさんもしゃべったり変身したりできるの?」


「当然」


 当然なんだ。


「こっちの世界の狐が、みんな超長生きってわけじゃないよね?」


「違うわね。長く生きても十五年ってとこかしら」


「じゃあ何でポメ一族はそんなに長生きなの?」


 ゲシッ


「あだっ」


 太ももに膝蹴り入れられた。


「ポメ言うな。パパとママが二歳の時に、人間が落とした物を食べたのよ。そしたら体中に力がみなぎる感覚があったんだって。それ以来、人間の言葉を話せるようになったから、その落とした物が原因じゃないかって言ってる」


 ここでは、長生きできるようなもんが落ちてたりするんだろうか。

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