67.ポメポメポメポメポメポメポメポメ
「バハムート、待て」
グリードワームの縄張りから森にさしかかるところで、リィザの指示を受け足を止めた。
「ここからは歩いてな」
「オス」
リィザが先に進み僕があとに続く。
そのまま歩いていくと、探すまでもなくレモン色の光を見つけた。
しかし、大木の裏側にあり、何が光っているのかはわからない。だが、
「……う〜ん……」
うめき声が聞こえてきた。
僕とリィザが目を見交わす。
「……人間ですかね?」
「……もしくは亜人か」
そっか、ここ異世界だもんな。
「じゃあ、食べられてた人が吐き出されたってことですか?」
「かもしれん。早く介抱してやらないと」
二人して早足で近づいていく。
リィザは大木の手前で一度立ち止まり、
「危険な何かという可能性もあるから、バハムートは左から木を回れ。私は右からいく」
挟み撃ちね。
「了解っス」
「足音立てるなよ」
リィザが手に持ったレイピアを握り直して右へ進み、僕が左へ。二人してそ〜っと近づき、同時に木の裏側へ顔を覗かせた。するとそこには、
「……クク?」
「あ、ポメラニアン」
白銀色のふわふわ毛並みをもつポメラニアンが、体を横にして倒れていた。
なぜか体が薄黄色く光っており、悪い夢でも見ているのか、うんうんうなされていた。
ククがグリードワームに食べられていたってことだろうか。だとしたら、よく無事だったな。
「おーいクク。ククちんやーい」
「……う〜ん……ん〜……」
声をかけるが、返ってくるのはうめき声だけ。
……ククだよな?
特徴である体と同じくらい大きなふわふわ尻尾がついてるし、人間みたいにうなされてるし。
だが、獣なので顔で判別できない。同種の狐ってことも考えられる。
「クク。ポメラニアン。ポメポメポメポメポメポメポメポメ」
「……ポメ……言うな」
ククだった。
今朝、リィザを置いてハーラスの村を出てったって聞いたけど、こんな形で再会するとは。
ミラとレアはいないのかな。
まさか二人もグリードワームの腹の中ってことはないだろう。ミラ超強いし。それもこれも聞けばわかることか。
ククのそばでしゃがんで、もふもふの毛に覆われた体を指でツンツンつついてみた。
「ん……ん〜……う〜ん」
苦しそうな声は返ってくるが、ケガをしているわけではなさそう。
グリードワームに食べられただけでなく、砲弾みたいに飛ばされたってのに頑丈な獣だ。
よく考えてみると臭くないし汁もついてない。
この光が関係してるのかな。
なんにせよ、ワンコがうなされている姿というのは見ていて辛い。多少強引にでも起こすとしよう。
「ククー。おーい。起きろー」
ユサユサ体を揺らす。
「う、う〜ん……」
「ククってばー」
ユサユサ
「ん〜……む〜……」
「起っきしろー」
ユサユサ
「う〜……」
「……」
「ん〜……」
「……(ほじほじ)」
「んにゃはーーーっ! え!? え!?」
耳の穴ほじったら一発で起きた。
これビックリするよね。
四本脚で立ったククが頭をプルプル振った後、首を上下に何度も動かし目の前の僕を見てきた。
「や」
右手を上げて挨拶した。
「あ、うん」
ククも右前脚を上げて返した。
「大丈夫?」
「……え? あれ? バハムート?」
「うん」
「あれ? アタシ……あれ? んん?」
状況が呑み込めていないようで何度も首を傾げている。その可愛さ無双レベル。
「クク、グリードワームに食べられてたんだよ。憶えてない?」
「グリード……………………ハッ」
僕に言われて自分の身に起こったことを思い出したようで、もともと大きく丸い目をさらに見開いた。
「そ、そうよ……ア、アタシ、ワームに食べられて……あんたが助けてくれたの?」
「ん~……一応そうなるのかな?」
偶然助けただけなんだけど。
「バハムートが…………う……ぐす……うぅ……」
「どしたの?」
「うわぁぁぁーーーーーーーーーーんっ」
ククが地面にお尻をペタンとついて、黄色いクマのぬいぐるみみたいな格好で泣き出した。
「こあかったよぉぉぉーーーーーーーーーっ、うあぁぁぁーーーーーーーーんっ」
「よしよし」
ククの背中をなでなでしてあげた。
「くしゃかったよぉぉぉーーーーーーーーっ、うえぇぇぇーーーーーーーーんっ」
「よしよし」
なでなでモフモフ
「ありあとぉっ、ありあとぉっ、バハムートォッ、ふえぇぇぇーーーーーーーーーーんっ」
「ポメポメ」
なでなでモフモフ
よっぽど怖かったんだな。
あんなデッカイ魔物に食べられたんだから当然か。
「ククはグリードワームの縄張りで何してたの?」
「ひっぐっ、ぐすん……お、お金、さ、探してた」
考えることは一緒だな。
「危ないでしょ?」
「ぐすっ、ま、前に、き、狐のままで、んぐっ、や、やった時、ずずっ、み、見つかんなかったの」
「それで今回もイけると思ったと」
「う、うん、ぐすんっ、で、でも、さ、探すのに、ひっく、む、夢中になってて、ぐすっ、き、気がついたら、ふぐっ、あ、あいつが、う、後ろで、ずずっ、お、大口、あ、開けてて」
「食べられちゃったのか」
「う、うん、ずずずーっ」
グリードワームは、餅球を獲物にぶつけて動けなくしてから食べるはずだけど、そんな必要もないくらいスキだらけだったんだな。
「だけど、飲み込まれたのによく無事だったね? 今、ククが光ってるのが関係してるの?」
「う、うん、ぐすっ、光の護符、ずずっ、使ったから」
「光の護符?」
「うん、ぐすっ」
「何それ?」
「ずずっ、手、出して」
「ほい」
左手をククの前に出した。
「ぐすっ、アタシの背中、ポンポンして」
「うん」
右手で、
ポンポンポンポンポンポンポンポン
「……オエェェェ(ゲロリ)」
左手にゲロ出された。
「…………なぜ?」
「フー。そのお肉とお芋の間にあるやつがそうよ」
「……」
折りたたまれた紙がある。あるが、
「……このゲロ受け止める必要あった?」
「良く見えるようにと思って」
良く見たくなかった。
「あと、ポメ言うな」
泣いて感謝して、吐いて仕返しするとは……。
ゲロを吐き体の光が消えたクク。
そんなゲロ吐きポメラニアンを呆れた目で見ながら、ゲロを捨て草で手を拭いた。
「あ、それまだ使えるのに。もったいない」
もったいなくない。
「で、結局これって何?」
「その護符を使うと光の膜が体を覆ってくれるの。その光が相手の攻撃や色んなダメージから身を守ってくれるってわけ。グリードワームが臭い体液撒いてたから使ってたのよ」
あの臭い雨も防げるのか。
「食べて使うって変わってんね?」
「食べなくても手に持つなり、体に貼るなりして『我に光の加護を』って文言を唱えれば誰でも使えるわよ。アタシは狐の体で、自分じゃ上手く貼れないし、貼ってくれる人がいなかったから口の中に入れてたの。でもグリードワームに襲われた時、ビックリして飲み込んじゃったのよ」
「なるほど」
「光の護符で体を守ってたとはいえ本当に助かったわ。あんがとね、バハムート」
パチリとウインクしてきた。
可愛くて可愛くて言葉にできない。
「いやいや、ホントたまたまだから。でも、ククがウ◯コになんなくて良かったよ」
「なんないわよ。長いことかかるだろうけど肛門から脱出してたと思う」
ウ◯コじゃん。
「あんたは何でこんなとこにいんの? つーか、何でこっちの世界にいんの?」
「それは……」
僕とククが話してる間、ずっとむっつり顔であさってのほうを向いていた、ククの後ろにいるリィザへ視線を移した。
「へ? 後ろ?」
ククが僕の視線を追って振り返った。
「あら、リィザいたの?」
「……」
「って、バハムートがいるんだからそりゃあんたもいるわよね」
「……」
「そかそか、ケンカしてたけど結局バハムート喚んだのね」
「……」
「でも、何でここにいんの? ハーラスからかなり離れてんのに」
「……」
「……ちょっと、聞いてんの? 何でそっぽ向いてんの? ちょっとってば?」
ククがリィザのブーツのつま先をポムポム前脚で叩く。
「つーん」
リィザつーん。
「……」
つーんされたククはこっちを向いて、
「……どしたの?」
僕に聞いてきた。
「どしたもなにも、ククがリィザさん置いて出てったから拗ねてるんだよ」
「拗ねてないし」
拗ねてるし。
「置いてって……だってリィザ寝てたから起こすのかわいそうだと思ったのよ」
「寝てたからって置いてくほうがかわいそうじゃない?」
「でも、リィザってばクロアがいなくなってから……あんた、クロアがいなくなった話聞いた?」
「聞いた」
「いなくなってからすっごく落ち込んじゃって、食事はあんまり食べないし、夜もほとんど寝てないのに、目の下にクマ作って、『クロアはケガして動けない状態かもしれないから』って言って森の中を一日中ふらふら歩き回って捜したりしてたのよ」
切なくなってくるな。
「そんな子が久々にぐっすり寝てたんだもん。起こしにくいでしょう?」
「けどそれは、何も言わずにいなくなっていい理由にはなんないと思うよ?」
「え? 言ったわよ、レアに。聞いてないの?」
「「レアに?」」
リィザがやっと反応して、言葉が被った。
「何て言ったの?」
「クロアの手がかり探しに遠出するからって」
クロアの手がかり……。
「リィザが起きたら伝えといて、とも言ったわよ? 本当よ? 聞いてないの? レアはどこ? ハーラスにいるの?」
「……」
これはどうやら、ククは戻らないつもりで出ていったというわけではなさそうだ。
「……なぁ、クク」
リィザがしゃがんでククを真っすぐ見た。
「何?」
「ククは、クロアがもう帰ってこないと思って私達のもとを去ったんじゃないのか?」
「ええ!? 違うわよ! ちゃんと戻るつもりだったわよ!」
やっぱりただの誤解だったか。
「ハーラスの近くにクロアの手がかりがなんにもなかったから遠くへ脚を伸ばそうと思っただけよ!」
そういうことね。
「まぁ、クロアはもう帰ってこないだろうけど」
そこは当たってた。
「……そうか……そうだったのか……」
リィザは、ホッとしたのか首の力を抜いて顔を俯け、
「……フ、フフフ」
笑い声をこぼし、
「……リィザ?」
下から顔を見上げる白銀狐を、
「ククーーーーーーーーーーーーーーーっ」
笑顔で高い高いしたあと、ギュッと胸に抱きしめた。
「ぐぇぇぇっ」
苦しむククを無視して。
ククには悪いけど、リィザの気がすむまで我慢してもらおう。
なんにせよ、ククが出て行ったんじゃなくて良かった。
これでリィザの情緒不安定も少しは解消されるだろう。




