66.光る何か
「お金、お金、宝石……」
とりあえず、グリードワームの周りから探し始めることにした。
グリードワームは、力なくぐんにゃりと横たわっているが、体の真ん中辺りが膨らんだりしぼんだりをくり返しているので生きてはいるようだ。
その巨体をなぞるように歩きながら目を下へ向ける。
「お金、お金……剣とかはダメなのかな?」
顔を上げると、探すまでもなく何本かの剣が視界に入ってくる。
名剣だったら高値が付きそうだけど。
って、そんな目利きできないから言わなかっただけかな。
「宝石、宝石……お」
元は白かったと思われる黄ばんだワンピースのような服を着た、長い黒髪のガイコツさんが仰向けに倒れているのだが、その側の草の中で何かが一瞬光った。
しゃがんで草をかき分け覗いてみると、
「……聖印か?」
手の平に収まるサイズの、四つの輪が串団子みたいに並んでくっついている、リィザやクロアも持っていたパルティア教の聖印付きネックレスだった。
上二つの輪が金色で下が銀色だ。
「ん~……金と銀でできてるのかもしれないけど、これって多分この黒髪ガイコツさんの持ち物じゃないかな」
教会に寄付するためとはいえ、宗教のアイテムを持ち去るのは気が引ける。
ということで、黒髪ガイコツさんの胸の上に置いてあげた。
手を合わせて拝んでから立ち上がり、次を探す。
テクテク歩いてキョロキョロ目を動かすが、お金も宝石も金銀細工の装飾品も見当たらない。
結局グリードワームの右側では何も見つからず、尾っぽを回って今度は左側をテクテクキョロキョロ。
しばらく歩くがやはり金目の物はない。
もっと簡単に見つかると思ったのに。
すでに誰かが持ち去った後ってことはないのかな。
リィザのほうはどうかと目を向けると、遠くで右にフラフラ左にフラフラと一貫性のない動きであちこち探し回っていた。
あれじゃあ一度探した所かどうかわからなくなるだろうに。
「む~……」
再び目を皿のようにして、根気よく辺りを探していく。すると、
「……なんだこれ?」
光る何かを発見。
ただし、原っぱのほうではなくグリードワームの体の中で。
「ん~?」
顔を近づけじっくり観察してみる。
場所は、グリードワームの尾っぽから、その巨体の三分の一ほどの辺り。
目の前の皮膚の向こう側、グリードワームの体内が、障子越しに見る蝋燭の灯りのように薄黄色く光っていた。
「グリードワームのお腹って光るもんなのかな? それともお宝を飲み込んでるとか?」
……むぅ。考えてもわかんないな。
自称未来の英雄王を呼ぶか。
「おーい、リィザさーん」
リィザが俯けていた顔を上げこっちを見た。
「なーにー?」
「こっちこっちー」
カモンカモンと、手を団扇代わりにしてあおぐようなジェスチャーで呼ぶと、リィザが小走りでこちらへ来た。
その際リィザの手を確認するが、何も持っていなかった。
あっちも収穫ゼロか。
「どうし……わっ!? なんだこれ!?」
指摘するまでもなく気づいた。
だが、リィザもわからないようだ。
「これのことで呼んだのか?」
「そうっス。お宝ですかね? でっかい宝石が光ってるとか?」
「光る宝石なんてあるのか?」
「僕は知らないです」
「私も」
「ん~」
「ん~」
二人して首を捻る。で、少し考えた後、
「とりあえず切り開いてみるか」
と言って、リィザが腰のレイピアを抜いた。
「大丈夫っスか? 危ないものが出てきたらどうすんです?」
「切ってから考える」
順番おかしいだろ。
「心の準備はいいか?」
「どんな準備をすればいいのかわからないですけどいいです」
「ではさっそく……イッケーーーッ! バハムートーーーッ! はい」
レイピア渡された。
「……僕がやるの?」
「うん」
「何で?」
「バハムートだから?」
「聞かれても」
「バハムートだから」
「断言されても」
「ほらほら早く」
「え~」
リィザに背中を押されグリードワームに近づく。
やだな~。
やりたくないな~。
でも、これからもこっちの世界に喚ばれるだろうことを考えると、いつかは剣で魔物を倒せるようになったほうがいいとも思う。
ならば動かないグリードワームを斬ることは、生き物を斬る感触というものを知るための格好の状況とも考えられる。
ただ、何が出てくるかわからないってのがな……。
「あ、バハムート待った」
「何です? やっぱ自分でやります?」
「私は何かあった場合のことを考えて下がっとくから」
グリードワームと僕から離れていくリィザ。
……あの人絶対英雄にはなれないと思う。
「いつでもいいぞー」
安全圏まで下がったリィザが言ってくるが、そっちが良くてもこっちは良くない。
「……ちょっと切る前に」
グリードワームの皮膚の感触を確かめるため、光っている部分に足の裏をあて、グッ、グッと押してみた。
「……ホイールから外された、車のタイヤみたいなかんじかな?」
グッ、グッ
「けっこう分厚そう」
グッ、グッ
「こんなの切れるのかな」
「バハムートー、さっさとやれー」
リィザが急かしてきた。ということで、
「わかりました……よっ!」
グッ!
返事をしながら最後に一度強く押して離れた。すると、
「プギョオオオォォォォォォォォォォォォォォォッ!」
ぐったりしていたグリードワームがいきなり叫び声を上げた。
「うわっ!?」
「な、何だ!?」
驚く僕とリィザ。
グリードワームが大声で鳴きながら体をくねらせ始めたので、僕は慌ててリィザのところまで下がった。
「お前何やったんだ!?」
まだ何もやっていないが、危険なことが起こるかもしれないのにグリードワームを切れと言った人のセリフじゃない。
「見てたでしょ!? 足で押してただけですよ!?」
「じゃあ何であんなに叫んでるんだ!?」
「知らないっスよ!」
「ギョオォォォォォォォォォォォォォォォッ! ブオオオォォォォォォォォォォォォォォォ!」
まさか元気を取り戻したんだろうか。
僕がレイピアをリィザへ返し、二人して警戒していると、
「ブオオォォォッ、ブオォッ、ブフォッ、ブフォッ」
鳴き声が荒い呼吸に変わり、
「ブフォッ、ブオッ、オゥッ、ウォッ、ウォッ」
変な声を上げ、
「……ゥオエェェェェェ」
えずきはじめた。
「ウェェェェェッ、オエッ、オエェェェェェェェェッ」
グリードワームは、何かを吐き出すわけでなく、歯ブラシを喉の奥に突っ込みすぎたおっさんみたくずっとえずいてる。
そのグリードワームの縄張りに響く嫌な声を聞いていると、
「……吐きそう」
「……私も」
こっちも気持ち悪くなってきた。
何が起こるかわからないので目を閉じられず、耳も塞げず、しかめっ面でグリードワームを観察する。
すると、グリードワームの体内にあった光が消えていることに気づいた。
不思議に思いグリードワームの体をあちこち見回していると、
「オエェェェェェッ、オエェェェェェッ、ウォッ、ウォッ、ウォッ……ウゥゥゥオエエエェェェェェェェェェェェェェェェッ!」
グリードワームは一際大きくえずき、大砲のように上体を斜め上に向け、餅球で僕を攻撃していた時のように、ポンッと口から勢い良く何かを吐き出した。
大きさは餅球(小)くらいで、薄黄色く光っているように見えた。
光る餅球(小)は、飛びに飛んでグリードワームの縄張りを少し越え、森の中に落っこちた。
球を吐き出したグリードワームは、力を使い果たしたようにまたグッタリ状態。
その様子を確認したあとお隣へ顔を向けると、リィザもこちらを向いた。
「今の見たか?」
「見たっス」
「光ってたな」
「体の中にあったやつじゃないですかね」
「かもしれないな。今は見当たらないし」
「どうします?」
「とりあえずあれが何か確認しよう。行くぞ」
「オス」
僕が頷くと、リィザは光る球が落ちた方向へ駆け足で向かい、僕もリィザを追って走り出した。




