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63.みんな

「どうしたんです? そういや今日は、まだ一回もみんなの顔見てないですね。どうせまたどっかで僕が戦うの鼻クソでもパクつきながら見てたんでしょ?」


「……」


「おーい! みんなー! グリードワーム倒したぞー! ………………あれ?」


 おかしいな?

 いつもなら魔物を倒すと、芸能人見つけた田舎モンみたいにワラワラ寄ってくるのに。


「……バハムート」


「みんなどうしたんですか? 顔も見せないなんて。それとも今日はリィザさんだけ別行動?」


「……あのな、バハムート」


「あ! そうだった! この間、僕達ケンカ別れみたいな形になっちゃったから……あー、それで顔を合わせづらいのか」


「……聞いてくれ、バハムート」


「僕、別れ際に、『お前らみんな死んじまえーっ!』って言っちゃったんだよな。さすがにあれは、毎日命がけでがんばってるみんなに言っていいセリフじゃないよな。ちゃんと謝んないと。おーい!」


「バハムート!」


「真っ黒クロさん出ておい……え? 何です?」


「……聞いてくれ」


「はい、何でしょう?」


「……」


 聞いてくれと言っておきながら、リィザは俯き黙り込んでしまった。

 よく見ると、リィザの細い肩が小さく震えていた。

 心配になり声をかけようとすると、


「実は……」


 リィザが口を開いた。

 空を見上げ、何かを堪えるように白いコートの胸の辺りを両手できつく握りしめながら。


「実は……もう、いないんだ」


 碧い瞳は、空のずっと向こう側を見ているようで、声はとても哀しげだ。


「いない?」


 意味がわからず首を捻る僕に、リィザは、


「もう……みんな……いないんだ」


 答えのように一つの単語を付け加え、再度僕へ言った。


「みんな……いない……」


 リィザのセリフを口に出す。

 いない?

 いないってどういうことだ?


 ……いや、リィザのこの表情を見れば、そんなこと考えるまでもない。

 でも、みんなが?

 ついこの間まで言葉を交わし、一緒に食事もしたみんなが……?


「……」


 空の果てに、見ることのできない何かを探しているようなリィザの瞳が潤んでいる。

 どうしよう……僕はとんでもないことを言ってしまった。

 みんな死んじまえって。

 そんな……。


「リ、リィザさん……」


「……」


「ま、まさか……」


「……」


「み、みんな死」


「どっか行っちゃったんだ……」


「んで………………え?」


「みんな、私をおいてどっか行っちゃったんだ……」


「……」


 ……どっか行っちゃった?


「……その、つまり死んでないの?」


「バカなことを言うな!」


 怒られた。


「あいつらが簡単に死ぬわけないだろ! たとえ冗談でもそんなこと言うな!」


 そう言って再び空を仰ぎ見るリィザ。

 その瞳には一体何が映っているのだろうか……ホント何見てんだこの人?

 まぎらわしい。


「それで、どっか行っちゃったってのはどういうことなんです?」


「ああ、それがだな」


 リィザが空から僕へ視線を移し語り出した。


「三日前、お前を送り還したあと、クロアを除く私達四人は、『木こり蟹』を依頼主に届けるべくカラムの街へ向かったんだ」


 送り還したっつーか強制送還っつーか。


「街へ着き依頼主に木こり蟹を渡し終え、明け方にはハーラスの廃村に無事帰ってきた」


 聞いてた予定通りだな。


「私達は、いつも使っていた家へ入りクロアに依頼が完了したことを伝えようとした。だが……」


「なんかあったんスか?」


「……クロアがいなかったんだ」


 いなかった?


「散歩にでも行ったんじゃ?」


「それと」


「それと?」


「みんなで共同で使っていた荷物、お金、あと……クロアの荷物がなくなってた」


「あらら……」


 それはなんと言っていいやら……。


「もちろんお前の言う通り散歩に出かけたんじゃないかと思って、村の中や周辺を捜し回った。しかし……」


「見つからなかった、と」


「……うん」


 荷物かかえて散歩っておかしいもんな。


「ん〜……じゃあ、何かに襲われた可能性は?」


 人か獣か魔物か。


「それはない」


「何で?」


「レアの『魔除けの円陣』に何の反応もなかったからな」


「ああ」


 レアがハーラスの村全体に展開させている魔物除けの魔法陣。クロアの危機を察知することもできるというもの。

 実際、僕がクロアに電気アンマぶっ込んでたら、みんな気づいて戻ってきたし。


「魔物は村に入れないし、村はククの縄張りだから獣は近寄らない」


「周辺に盗賊もいないし、そもそも夜は人が来たりしないとも言ってましたよね」


「うむ。仮に襲われたのだとしたら争った形跡が残るはずだが、そのようなものは見当たらなかった」


「ふむふむ」


「その後も私達は、拠点をハーラスの村においたまま捜索範囲を広げてクロアを捜していたんだが、クロアが見つかるどころかさらに……」


「……まさか」


「……今朝起きると…………みんな、いなくなってた」


「……」


「……みんなの荷物もありませんでした……」


「……」


 置いていかれたってことだろうか。

 僕、泣きそうになってきたんだけど。

 今日リィザの様子がおかしかったのって、それが原因だろうな。

 しばらくリィザには優しくしてあげよう。


「ミラ達は何で出てったの?」


「……多分、クロアがいなくなって、もう帰ってこないと思って、出てったんだと思います」


「ああ」


 みんなクロアを頼りにしてたもんな。

 リーダーのクロアがいなくなってグループが自然消滅ってところか。

 なるほどね。

 何で敬語なんだろう?


「じゃあ、ミラ達とは、クロアがいなくなって荷物がなくなった理由を話し合いました?」


「話し合った」


「みんな何て言ってました?」


「ククは、『わかんないわね〜』って言いながらずっと首を傾げてた」


 何か気になることでもあったんだろうか?


「狐さんの姿だったのですごくカワイかった」


 見たかった。


「ミラは、『クロアが金に興味がないってことはわかってるけど、状況から考えて、多分クロアが盗んだんだろうな』と言っていた」


 まぁ、そう考えるわな。


「だが、『今までたっぷり稼がせてもらったから別に気にしないけどな』とも言っていた」


 たっぷりってどんくらい稼いだんだろ。


「レアも、『クロアさんがお金に興味がないことは知っていますが、状況から考えると、多分クロアさんが盗んだんでしょう』と言っていた」


 イケメン好きのレアが疑うとは意外かも。


「だが、『イケメンだから別に気にしません』とも言っていた」


 レアらしい。


「私は二人が、『多分クロアが盗んだんだろう』と言ったとき、声を荒げそうになった。だが我慢した。なぜならミラが怒ると怖いからだ」


 なんて潔くビビるんだろう、この人は。


「だが……そんなわけがあるか!」


 リィザがその時のことを思い出してか、こぶしを握り締め、声を大にして否定した。僕としては、ミラやレアの言いたいことも理解できる。しかし、


「確かに二人は何もわかってないっスよね!」


 僕もリィザと同様に大きく声を上げた。


「おおっ、バハムート! 私に同意してくれるのか!?」


 クロアがどういった人間かわかり合える同士が見つかり嬉しそうなリィザ。

 笑顔で瞳を輝かせている。


「へへっ、なんスかその質問は。まったく、水臭ぇなぁ。もちろんっスよ姐さん!」


 僕の言葉を聞いて、リィザの笑みが温かいものになった。


「お前とクロアはいつもいがみ合っていたが、そうか……私は嬉しいぞ、バハムート。二人の言う通り状況だけ見ればクロアが盗ったのではないかと思うのも仕方がない。しかしっ、私達にはわかる! そうだなバハムート!」


「はいっス姐さん!」


「クロアがどのような性格で、どのようなことを考え、どのような行動をとるのか。あいつのことをよく見ていた私達ならばはっきりと断言できる! そうだなバハムート!」


「はいっス姐さん!」


「『多分クロアが盗んだんだろう』? ふざけるな! クロアは」


「『絶対』に盗んでますよね!」


「盗んでなど……え?」


「まったくもう! 何言ってんスかね二人とも! 誰がどう見たって絶対、間違いなく、完全にクロアが盗ったに決まってるじゃないっスか! ねぇ姐さん!」


「……」


「多分!? 多分ってか!? かぁーっ! これだからイケメンってやつぁ得だねぇ! クロアの中身をよく知る僕達から言わせりゃ神に誓ってあいつが盗ったって断言できますよ! ねぇ姐さん!」


「……おい」


「盗人への罰は何になるんスか!? 普通に禁固刑とかじゃないっスよね!? ここが異世界ってことを考えたら生爪はがすとか、手首縛ったロープを馬につないで引きずり回すとか、焼きゴテで罪人の証を押すとかそんなかんじっスか!? ねぇ姐さん!」


「……バハムート」


「でも個人的には鞭打ちの刑にしてほしいっスね! 街のど真ん中であのイケメンを素っ裸にして、胸にアホって書いた紙を張りつけて、尻をビシバシ鞭で打ってやったらあいつプライド高いから身も心もボロボロになると思うんスよ! ねぇ姐さん!」


「バハムート!」


「その際乳首に鈴のついた洗濯ばさみを……え? どしたんスか、姐さん?」


 リィザが、泣いているような、笑っているような、悲しんでいるような、でも最終的には怒っているような、なんとも複雑な表情で僕を見ていた。

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