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62.すごいぞ!

 盾はあきらめて、ポケットからアイカの実をいくつか取り出し、もう一つ巾着ティッシュを作ることにした。

 走っている間に、グリードワームを倒せそうな方法を思いついた。


 まず、巾着玉を二つ作る。

 グリードワームの口へ向けて一つ投げる。

 多分避けられて体に当たる。

 でも汁がついてワームはのたうち回る。

 そのスキに走ってワームとの距離をつめる。

 超近距離からもう一つの巾着玉をワームの口へ放り込む。

 ワームがそれをゴックン。

 バンザイ。


 という作戦。

 とっさに思いついたんだけど、イケるような気がする。


 問題は、暴れているグリードワームの口へ巾着玉をうまく放り込めるかってことなんだけど。


 ドンッ、ドンッ


 グリードワームが三度(みたび)大地を尾っぽで叩きはじめた。

 またあの、粘度が強すぎて使い物にならないローションのような餅球を吐き出……


「あ、そっか」


 気づいた。

 グリードワームは、尾っぽドンドンのあとに餅球を飛ばしてきたんだった。

 ドンドンの回数は、一発目も二発目も五回だったように思う。

 イラついて地面を叩いていたわけじゃなく、予備動作だったのかもしれない。


「数えてみよ」


 もし違ってて避けられそうにないタイミングで餅球が飛んできたら、足元にある名もわからぬ虫たちがくっついた盾を使おう。

 死ぬよりはましだ。

 グリードワームが尾っぽを振り下ろす。


 ドンッ


 三回。


 ドンッ


 四回。


 ドンッ


 五回。


 ポンッと、よく聞くとシャンパンの栓が抜けたような微かな音がグリードワームの口の中から聞こえた後、餅球が発射された。

 しかし餅球は、僕に当たることなく、発射直前まで僕が立っていた場所を通過していった。


「うしっ」


 僕は、餅球が予想通りのタイミングで飛び出したのを確認し、すぐさまグリードワームへ向けて全速力で駆けだした。

 全力疾走すれば、わざわざグリードワームに巾着玉をぶつけたりせずとも、尾っぽが五回大地を叩く前に、確実に口の中へ巾着玉を放り込める距離まで近づけるだろう。


 グリードワームは僕が自身のほうへと走ってくる姿に驚いたのか、あわてたように、


 ドンッ


 まず一度尾っぽを振り下ろした。


 ドンッ


 二回目。

 これまでよりも地面を打つペースが速いように思える。

 だがこれくらいなら問題はないだろう。


 ドンッ


 三回目。

 大丈夫。

 イケる。


 ドォンッ


 四回目。

 球が発射された。


「うえぇっ!?」


 これまでよりもひと際大きく大地を打ち鳴らしたかと思ったら、透明の球が飛び出してきた。

 球のサイズは小さくなり、バスケットボールの二倍ほど。

 これを食らっても動けるだろうが、動作は鈍くなるだろう。

 もしかすると、あの尾っぽの動きは、球を作るためのものだったのだろうか。

 気がついたところで飛んでくる球は、どうしようもないんだけれど。

 球との距離、約五メートル。


「まさか四回とは……」


 三メートル


「前より球が速くない?」


 一メートル


「当たっ」


 一メートル


「てたら骨折れてたな」


 三メートル


「骨だけじゃすまないか」


 五メートル


「内臓も痛めてたかも」


 七メートル……九メートル……十一メートル……餅球はどんどん遠ざかっていき、勢いがなくなって下へ落ちた。


 何があったのかというと、グリードワームが狙いを外したわけではなく、餅球が僕をすり抜けたわけでもなく、僕がただ避けたのだった。

 グリードワームの口の中の状態を見て。


 三発目まではグリードワームとの距離があり、洞窟のように暗い口の中の様子を見ることはできなかった。

 しかし、グリードワームに近づくにつれ、だんだんと開きっぱなしの口の中全体を見ることができるようになった。


 そして、四発目発射準備中、三回目の「ドンッ」でグリードワームの口の奥から透明な球がニュルンと、すぼめられたノドを塞ぐようにして現れた。

 「これってまさか……」と思い、四回目、尾っぽが大地を叩く音と同時に、進路を右へずらし、餅球を避けることができたのだった。


 でもって、僕は餅球を避けた後もずっと走り続けていたので、今はグリードワームの臭い臭いお口の匂いが嗅げる距離にいた。


「ここからなら小学生でも入るだろ」


 僕が大きなモーションで振りかぶる。

 すると、グリードワームがこちらへ前進し始めた。

 「こうなりゃ直接攻撃じゃい」ってとこだろう。だが、動きはノロい。うちの妹とかけっこ勝負したら、妹が勝つと思う。

 とはいえ、また違う変な攻撃をしてくる可能性もある。

 なので、僕は油断なくグリードワームを見据え、


「それっ」


 アイカの実の汁がたっぷりと沁み出た巾着玉二つを、その喉奥へと投げ入れた。

 巾着玉を放り込まれたグリードワームは、喉をゴックンと動かし、


「ピギョオオオォォォオオォォォォォオオオォォォォォォォォオオオオオエエエェェェェェェェェェェェェェェェッ!」


 耳をつんざくほどの叫び声をあげ、狂ったようにのたうち回りはじめた。


「ピギィィィィィイイイィィィィィィィィィィッ、プギィィィイイィィィィィィィィィィッ、プギョッ、ギョオオォォォォォォォォオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」


 ミミズのような巨体を伸び縮みさせ、仰け反り、丸まり、口から唾液だか胃液だかよくわからない体液を吐き出し、ビッタンビッタンッ、ドシンドシンッ、大暴れだ。


「すごいな……。でも、予想通りの結果になりそうで良かった」


 悶え狂うグリードワームから距離をとり、一安心していると、


「バハムートーーーーーッ!」


 後ろのほうから声が聞こえてきた。振り返ると笑顔のリィザがこちらへ走ってくる姿が見えた。

 リィザは、走る勢いを弱めることなく、僕の腕に体当たりするようにしがみついてきた。


「やったなっ、おい! アハハハッ、すごい! すごいぞバハムート! アハハハハハハッ」


 満面に笑みを浮かべ、じゃれるようにくっつくリィザがえらい可愛くてドキドキ。


「い、いえいえ、運が良かっただけですよ」


 恥ずかしくて視線を外しながらそう言うと、リィザはさらに強く僕の腕に抱きついてきた。

 それに合わせて僕の心拍数も上昇する。


「アハハッ、謙遜するな! あのグリードワームを一人で倒したんだぞ! 運だろうが何だろうがすごいことだ!」


「ど、どもです」


「グリードワームの口に投げ入れたのは、私が渡したアイカの実だよな。アイカの実をくれと言った時はどうするんだろうと思ったけど、よくあれがグリードワームに対してこれほど効果的だとわかったな。ホントにすごいぞ!」


 グリードワームが体液の雨を降らせる中、抱き寄せるしかなかった状況と違って、今はリィザのほうから腕に抱きついてきたわけで……。

 そのリィザは、超がつくほどの美少女なわけで……。


「そ、それはですね、リィザさんがグリードワームに襲われた話からヒントを得たんですよ」


 そんな女の子がすごいすごいと連呼しながらキラキラした目と笑顔を僕に向けてるわけで……。


「私の話から?」


「え、ええ」


 その笑顔を間近で見ていると、何だか、こう、リィザのこと……


「あ、なーんだ。九割方私のおかげか」


「……」


 クルクルパーだなぁって思うわけで……。

 僕の腕からあっさり離れたリィザ。

 腕を組んで鼻高々。


「……そっスね。九割九分クルク……偉大なるリィザの姉御のお手柄っス」


「フフ、おいおい、いくらなんでも九割九分九厘は言い過……なんでそんなに目を細めて私を見るんだ?」


 ま、そんなクルクルリィザはほっといて。


「あれ? 無視?」


 鳴き声が小さくなってきたグリードワームの様子を確認してみる。


「プ、プギィ……ギュウ……グギュウ……」


 もう暴れてはおらず、わずかに息はあるようだが、時折ピクリと反応をみせるだけでぐったりとしていた。


「姐さん。グリードワーム、もうほとんど動かなくなってますけど、トドメとか刺します?」


「ん? おお、本当だ。アイカの実は完全な弱点だったんだな。なんだか息を止める寸ぜ……あっ! ん゛っ、ん゛ん゛っ……これがホントの虫の息ってやつだな! うん!」


「でもトドメ刺すまでもないか」


「これがホントの虫の息ってやつだからな!? な!?」


「もう攻撃はしてこないだろうし」


「これがホントの虫の息ってやつだしな!? だろ!?」


 ……


「うわぁ! ホントだぁ! この魔物は虫なだけに今の状態はまさに虫の息だぁ! リィザさんはうまいこと言うなぁ! どうしてこれほどまでにうまい表現ができるのだろうかぁ! 僕には思いつくことさえできやしないよぉ!」


「フフ、だろ?」


 いや、全然。


「んじゃあ、そろそろみんなを呼びましょうか」


「まぁ、私ほど言葉を巧みに操れる者は……みんな? ……あ」

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