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58.おリィザさん

「あ、あの〜……おリィザさん?」


「ひっ……んぐっ……ぐすっ……うっ、うううううううう……」


 う?


「うわあああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっっっ」


 そりゃもう見事な泣きっぷりだった。

 目を大きく見開き、僕を責めるように真っ直ぐ見つめて、お母さんに叱られたうちの妹(五さい)のように泣き出した。

 目からは、大粒の涙が後から後から溢れ出てきた。


「あわわわわ、あのあの、えーと……ごめんなさいっ!」


 頭を下げ、素直に謝った。


「あ、あのね、その、なんていうか、ついつい調子こきすぎたっていうか」


「わああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ、えぐっ、ひっく、んぐっ」


「え、えと、ホントすんません」


 謝りながら、リィザの肩へ手を伸ばそうとしたら、


「いやーーーーーーーーーーっ」


 ゴスッ


「ぶほぉっ」


 裏拳顔面に入れられた。


「いやーーーーーっ、やーーーーーっ、やだーーーーーーーーーっ」


「痛っ、ち、ちょっと、いてっ、リ、リィザさん、いたっ、お、おとなしく、いててっ」


 つづけてグルグルパンチで攻撃してきた。


「ふぐっ、ぐすっ、うえぇぇぇーーーーーーーーーーんっ、ふえぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーんっ」


「あの、本当に、いてっ、本当にごめんなさい。もうあんなこと、あたっ、い、言わないから、ね? だ、だから、いたっ、て、手をグルグルしないで」


「ふぇっ、えぐっ、ひっく……言って、ぐすっ、ない、んぐっ、もん、ふぐっ」


「え? ……えーと?」


「も、もう、ぐすっ、よ、喚ばないとか、ひぐっ、い、言ってない、んぐっ、もん、ひっく」


 ……『もう喚ばないとか言ってないもん』?

 急に何言いだしてんの、この人?


「いやいや、三日前僕に向かって言ってたじゃ」


「うわああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっっっ」


「あーーーっ、そうそうっ、違う違うっ、聞き間違い! 僕の聞き間違い! いやぁ、何だろこれ!? 耳の穴腐ってんのかな!? たまに臭い汁物出てたりするし! もげろ! 僕の耳もげろ!」


「ひぐっ、ふぐっ、んっ、うぐっ」


「あ、あの、だから、ね? 泣かないで、ね?」


「ぐすっ、泣、えぐっ、いて、ひっ、ずずっ、ない、んぐっ、もん」


 ……泣いてないもん? えぇ~……。


「……えーと、それは無理があるんじゃない? 現に今、僕の目の前で」


「うわああぁぁぁ」


「泣いてない! 泣いてないですよ! 全っっっ然泣いてないです! いやぁ、最近目の濁り方が半端ないっていうか、お医者様からも『君目がヤバイね』って言われたばっかなんスよ! もうホントなんだろこの目! 半分死んでるんスかね!?」


「うぇっ、んぐっ、ぐすっ、ずずっ」


「あ、あの~、ですから……その~、ですね」


「えぐっ、、あ、あや、んぐっ、ま、ふぐっ、って、ぐすっ」


 ……謝って?


「……さっきから何回も謝って」


「うわあ」


「すんませんでしたぁっ! マジすんませんでしたぁっ! 僕みたいなお腐れ召喚獣がナマ言ってマジすんませんでしたぁぁぁっ!」


 全力で謝った。頭は膝にぶつける勢いで下げた。


「うぇっ、んぐっ、ぐすっ、ふぇっ、ずずっ」


「あの、ホント反省してるっス。だから……ね?」


「うぇっ、ふぐっ、バ、バハムート、んぐっ、も、もう、ひっく、い、いいから、ぐすっ」


 ほっ。

 ようやく許してもらえ


「普通に、ひぐっ、あ、謝るのは、んぐっ、も、もう、い、いい、から、ふぐっ、ぐすっ、ち、ちゃんと、うぐっ、んっ、ど、土下座で、ずずっ、な?」


「……」


 ……両膝をつきまして、と。


「……えー、この度は、何といいますか、ついつい調子に乗って、えー、リィザさんを傷つけるようなことを言ってしまいました。えー、誠に……申し訳ございませんでした!」


 ガバッと頭を下げた。

 ドスッと後頭部に何かが乗っかった。


 多分足だと思う。

 受け入れねばなるまい……。


「……あ、あの~」


「ひぐっ……自分のような虫けらが……」


「……?」


「……ぐすっ」


「……え? えー…………え?」


「私の、んぐっ、後に、ずずっ、続け」


 私の後に……あぁ、そういう……虫けら?


「早く……ひっく」


「……じ、自分のような……む、む……し……けら……が」


「ぐすっ……もっとスムーズに」


 足で後頭部をグリグリグリ。


「ぐ、ぐぐぐっ……じ、自分の、ような……虫、けら、が」


「うぇっ、ひぐっ、うぅぅぅっ、も、もっと、ス、スムーズに」


「自分のような虫けらがっ」


「ぐすっ、心から尊敬する、ご主人様に」


「……心から尊敬するご主人様に」


「……取り返しのつかない不敬をはたらいてしまいました……ずずっ」


「……取り返しのつかない不敬をはたらいてしまいました」


「……ごめんなさい」


「ごめんなさい」


「死にます」


「死に……え!?」


「ぐすっ……早く」


 グリグリ


「ぐっ、うぅぅ…………し、死に、ます……マジで?」


「……しかし、世界を治められるほどの広い心を持ち大尊敬できるリィザ様は、ずずっ、僕の死を望まれないと思います」


「(ほっ)……しかし、世界を治められるほどの広い心を持ち大尊敬できるリィザ様は、僕の死を望まれないと思います」


「……僕、変態だもん」


「…………ぼ、僕、へ、変態、だもん」


「僕変態だもん」


「……僕変態だもん」


「僕変態だもん」


「僕変態だもん」


「僕……変態なんだもん」


「……僕変態なんだもん」


「……もっと、生きてることを恥じらうように」


 グリグリ


「ぐっ……僕……変態なんだもん」


「ハゲてるし」


「ハゲてないし」


「うわああぁぁぁ」


「ハゲてるし!」


「僕が死んでもゴミが生ゴミになるだけだし」


「……僕が死んでもゴミが生ゴミになるだけだし」


「そのようなことを言うものではない」


「? そのようなことを」


「ここは私のセリフだ」


「え? あ、はい。……え?」


「この世に生を受けたモノで、生きる価値の無いモノなどいはしない。たとえお前が、石をどけたらその裏にいる名前がまったくわからないような虫以下の存在であっても、生きる価値はギリある」


「……」


「あなたはどうしてそれほどの広いお心を……あ! ん゛ん゛っ、ゴホンッ……おおっ、あなた様は、どうしてそのような広く豊かで立派なお心といいますか胸といいますか、胸のほうに大きく意味を置いているそういう意味での豊かなお胸をお持ちなのでございましょうか? ……はいっ!」


「……」


「……はいっ!」


「……え? あ、ああ、はいはい。えー、……あなたはどうしてそのような広くて豊かで、えー、とても立派な、あー、お心というか胸というか、胸のほうに重きを置いた意味でそういう胸をお持ちなのですか?」


「……今の言い間違いは許すが。セリフは正確にな」


「……うス」


「フフフ……お前の不毛なる頭では私の豊かな胸の内というか胸のアレコレはわからないだろうな。これからは私の導きに従っていればいい。そうすればお前のようにゴボウが主食のヘンテコ生物でも立派に成長できるだろう」


「…………あのー」


「へへぇ。あっしのような荒れ果てた頭では到底考えつかないようなことを世界一尊敬するリィザ様は想像なさる。この世の最底辺を這いつくばってただ生きているだけのあっしを、どうか永遠にお導き下されぇ~。……はいっ!」


「……あのー」


「はいっ!」


「……いや、あのですね」


「はいっ!」


「足どけろ」


「……はい」


 ……よっこらせと。


「もう泣いてないっスよね?」


「……最初から泣いてなどいない」


「目ん玉の汁っ気は乾いたんスね?」


「まぁ……」


「何というか、あー……僕も言い過ぎたと言いますか……」


「……私もほんのちょびっとやりすぎたかもしれん」


 ちょびっと……。


「……えーと、じゃあ、お互い様ということで」


「……うむ」


 うんうん。何はともあれ丸く収まってよかった。


「ほんじゃ、そろそろ還して下さい」


「還すわけないだろ」


 ちっ。流れで還れるかと思ったのに。

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