51.召喚されてたんだよ
「……(じー)」
「どしたの、誠?」
サクが話してる最中からずっと僕の顔を見ていた。今も見てる。
「一緒に下半身露出教室やろうってお誘いならお断りだけど」
「言わないから安心しろ。……お前、今日は元気だな?」
「え、そう?」
「ああ。ここ二週間ほどは、山から突然動物園に連れてこられて『どうしてこんなことに……』って悩んでるチンパンジーみたいな顔してたからな」
「どんな顔だよ」
でも、チンパンジーはともかく例えとしてはかすってる。
突然異世界に喚ばれたわけだから。
「疲れてるっていうか、戸惑ってるっていうか……なぁ、サク」
「うむ。担任にDVD(エロ)を没収された次の日の武刀は、初老かってくらい老けていたしな」
あれは僕もビックリした。朝鏡を見た時、カツラかぶった田舎のおじいちゃんと体が入れ替わったのかと思ったくらいだ。
異世界を体験して体が異常なほど疲れていたんだと思う。
「どうしたんだって聞いても理由は言わないし」
「DVD(エロ)が原因ではないと言うし」
DVD(エロ)についてはあきらめてる。
返してくれるらしい三年後まで待つしかない。
本命のエログッズはベッドの下にあるし。
そして誠は、聞いても理由を言わないと言ったが、僕は正直に言ってたりする。
自分は異世界へ喚ばれたんだ、とわかった二度目の召喚の翌日。遅刻ギリギリで登校した僕の老けた顔を見て、クラスメイト達が驚き固まる中、誠とサクは僕の席へやってきて「どうしたんだ?」と心配顔で尋ねてきたので「実は、異世界へ召喚されることになってさ……」と真顔で話したのだった。
しかし、信じてはもらえず、「本当の理由は?」「いや、本当だって」というやりとりを何度かかわし、最終的には二人とも、「何か言いたくない理由があるんだな」と結論付けて「だったら、これ以上聞かない」と言って自分たちの席へ戻って行ったのだった。
気持ちはわかる。
信じろってほうが無理な話だし。
僕だって誠やサクの立場なら、同じ結論を出しただろう。
その後は、僕の疲れた顔を見てもあえて触れてこず、僕も触れなかった。
なので、僕の様子について話すのは、約二週間ぶりだった。
「さすがに半月ほど経っても疲れた顔してるようなら、多少強引にでも聞き出すかってサクと話してたんだよ」
「話したくないことを無理矢理というのは心苦しいがな」
話したくないことはないし話したんだけどね。でも、
「二人とも心配してくれてありがとう」
僕のことを気にかけてくれていたことに感謝だ。
「いいって。チンパンジーは、ストレスから毛をかきむしったりするそうだからな。もう大丈夫なんだな?」
優しい眼差しで誠。
「うん、もう大じょ……今のチンパンジーのうんちくっていらな」
「小早川もお前のこと心配してチラチラ見てたぞ」
「え」
小早川さんが?
最近は、異世界のことで疲れ切ってて、こっちにいる間は毎日ボーっと呆けていたので気がつかなかった。
そっか……小早川さんが心配して…………あれ?
誠って、無口で無表情な小早川さんの考えてることがわかるのか?
って、チラチラ見てたんなら、なんとなく想像はつくか。
チラチラ……チラチラか……ムフフ。
これはぜひお礼を言っておかなければ。
「小早川さんや」
「……」
小早川さんが本から僕へ視線を移した。
「センキューベリーマッチ」
「……You're welcome」
とてもキレイな発音で返された。
「これだけ周りに心配かけたんだ、理由を説明してくれるんだろうな?」
サクが改めて聞いてきた。
「もちろん」
「では、何があったのか話してくれ」
「うん。えーと、おおざっぱに説明すると、まず僕は、リィザ・ライン・ハイエスさんっていう金髪でガーターベルトな女の子によって異世界へ召喚されてたんだよ」
「「……」」
「向こうでは魔物と戦わされたり筋トレさせられたりしてたんだけど、三日前にそのことを含めた色々なことでケンカしちゃって、『もう喚ばん!』って言われて、今は晴れて自由の身になったってわけ」
「「……フゥ」」
話を聞いて、誠とサクが同時にため息。
「やっぱ話してくんねぇか」
「やはり話してはくれんか」
やっぱり信じてはくれないか。
「やれやれ……」
誠が腕を広げ、肩をすくめて首を左右に振った。
そのヤレヤレのポーズも懐かしく思えてしまう。
クロアのやつ元気かな?
病気とかになってりゃいいけど。
「ま、お前が元気になったならそれでいいさ。無理して理由を言う必要はねぇよ」
無理せずペラペラしゃべってんのに。
「にしても、その作り話は何だ? 何でお前が召喚されたんだ?」
「そんなん言われても知らないよ」
「それに、召喚されて筋トレって意味わかんねぇし」
「筋トレ筋トレいう女の人がいたんだって」
「何だそりゃ?」
やらされてる本人も何だそりゃって思ってた。
「では聞くが、異世界に魔法はあるのか? あるならば使い手に会ったか?」
少しだけ興味ありげなサク。
「うん。あるし、会った」
「その人の名前は?」
「レアなんとかなんとかカルーラって女の人」
「……なんとかって何だ?」
「自分の名前わかんないって言ってた」
「美人だったか?」
「美人だった」
「ほう」
「でもたまにミイラだった」
「……どういうことだ?」
「僕もよくわかんない」
「……得意な魔法は何だ? 炎や雷か? 光魔法か?」
「そういうのは見たことない」
「……何なんだ、そのなんとかさんは?」
「……ねー」
僕もよく、何だこの人って思ってた。
「もう少ししっかりとした設定があるのかと思ったぞ」
設定とかじゃないのに。
「信じられない気持ちはわかるけど本当に……あ、そうだ」
ズボンのポケットに手を突っ込み、そこにあるものを取り出した。
「これ見て、これ」
「ん?」
「何だ?」
誠とサクが、僕の手の平に乗っているものに注目した。
「……何かの種だな」
「アボカドの種だろ」
「フッフッフッ、そう思うでしょ?」
「思うというか……」
「アボカドの種だろ」
「ところがどっこい! なんとこれは……異世界のアイテムなのでーす!」
「は?」
「アボカドの種だろ」
「その名も『目覚ましの種』だ!」
「目覚ましの種?」
「アボカドの種だろ」
「眠っている人や眠そうな人のそばで割るとパッチリと目を覚ますのだ!」
「のだって言われてもな……」
「お前が目を覚ませ」
「……」
全然食いついてこない。
「ま、とにかく」
誠が座ってる僕の首に腕を回してきた。
「お前がいくらバハムートって名前でも、異世界に喚ばれることなんかねぇって」
「羽場武刀な」
そして、実際喚ばれてたんだけど。
でも、喚ばれることはないというか、もう喚ばれることはないだろうな。
「それよか、今日久々に遊びに行こうぜ。俺、部活休みだし。雨も夕方頃にはやむらしいし。なにより武刀が元気になったことだし。どうだ、サク?」
「うむ、いいな」
「もちろん武刀もオッケーだよな?」
「もち」
近頃は、放課後になるとすぐ帰ってたからな。遊ぶのは久しぶりだ。思いっきり自由な時間を楽しむとしよう。
「よしっ、決まりだ! 今日の放課後は遊びまくるぞ!」
「「おー!」」




