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42.許さんぞぉぉぉ

「そ、そもそもさ、僕って丸腰なんだよね。武器持ってないんだよ。そんな人に斬りかかるってどうなの? 気が引けない?」


「まったく。なんも持ってないてめぇが悪い」


「あいたたた、実は昨日から心臓に違和感があってさ。こんな病人と戦う気おきないでしょ?」


「それもてめぇの責任だ」


 揺るぎない自論を持っていらっしゃる。

 あわわわわわ、ど、どうしよどうしよ……あ、そうだ。


「クロアーーーーーッ! クロさーーーーーんっ! イケメンさーーーーーんっ!」


 明星のランプの光の中、リィザとククとレアに見守られている倒れたままのクロアに大声で呼びかけた。

 起きたら前の時みたく「許してやるんだベイベー」って言ってくれるかも。


「何やってんだお前?」


 構えは解かず不審げな目を向けてくるミラ。


「なぜか突然クロさんの容態がとても気になっちゃったもんだからクロさんやーーーーーいっ! バハムートさんですよーーーーーっ! あなたの未来を奪おうとしたバハムートさんですよーーーーーっ!」


 叫びつつ、さりげなくクロアがいるほうへ歩き出す。


 ブォンッ


「どこ行くんだよ」


「ひょっ!?」


 ミラの大剣が踏切の遮断機みたいに降りてきて僕を止めた。


 クロアのそばにいる、リィザとククとレアからは、


「うるさいぞバハムートっ!」


「うっさいわよバハムートっ!」


「右に同じですよバハムートさんっ!」


 怒られた。


「うるさくしてごめんねクロさーーーーーーーーーーんっ! もう静かにしまーーーーーすーーーーーーーーーーねーーーーーーーーーーっ!」


「だからうるさいと言ってるだろバカムートーーーーーっ!」


「だからうるさいっつってんでしょバカムートーーーーーっ!」


「だから右に同じと言っているでしょおバカムートさーーーーーんーーーーーやーーーーーいーーーーーーーーーーっ!」


 また怒られた。でも、騒いだかいがあったのか、


「う……ん……バ、バカ……ムート……?」


 かすかにクロアの声が聞こえてきた。


「クロア!?」


「気がついた!?」


「二つとも無事ですか!?」


 その声を耳にした三人がクロアの顔をのぞき込んだ。


「クロさんが還ってきた! クロさんが還ってきたよ!」


 僕もクロアの顔を見るためミラの大剣をくぐろうとしたら、


「行くな」


 ブンッ


「うわおっ」


 ギロチンみたいに刃が下がってきた。


「危ないよっ! ほら! 僕らのクロさんが目ぇ覚ましたんだよ! 僕達も駆け寄ろうよ! まるで、家族も見に来てるW杯出場のかかった大一番で一点リードの後半アディショナルタイムに時間稼ぎのためだけに交代して過去を通じて初めてW杯予選のピッチに立ったけど二秒後に試合終了のホイッスルが鳴ってピッチ上の仲間もベンチの仲間も抱き合って喜ぶ中嬉しいんだけど『何だ俺?』って気持ちもあっていまいち喜べないW杯本番には招集される可能性が低い微妙な立場のサッカー選手のような気持ちでさ!」


「うん?」


「さぁ! みんなでクロアキャプテンを胴上げだ!」


 僕が大剣のないミラの逆サイドを攻め上がろうとしたら、


「だから行くなっつーの」


 ミラにユニフォームを掴まれ、


「ぐへっ」


 ピッチ上に倒された。


「そこで大人しくしてろ」


「レフリー! レッド! レッド!」


「……」


「……んしょっと」


 無視されたので普通に立ち上がった。

 ミラがクロアの様子を見ているので僕も目を向ける。

 クロアは、リィザに支えられながら上半身を起こしていた。そして、


「ッ!? バハ……ムートォォォォォ……ッ!」


 僕と目が合うと、クロアが地の底から響いてくるようなデスボイスで、僕の名前を口に出した。


「……あの、クロさん呼んでるみたいなんで、行ったほうがよくない?」


 ミラにお伺いを立てた。


「ん〜……」


 ミラは、僕とクロアを交互に見てから、


「……しゃーねぇなぁ」


 頭に巻いていたバンダナをとり、気の進まない様子ながらクロア達のほうへ歩き出した。僕も後についていく。

 ふー、助かった。


「おい」


「へい」


「クロアに変なことすんなよ」


 首を後ろへ向けて釘を刺してくるミラ。

 肩に担がれたままの大剣の先が、僕へ向けられているのが怖い。


「しないしない」


「ホントかよ……」


 ミラは疑わしそうな視線を寄越しながらも首を前へ戻した。

 そのまま歩いてクロア達のそばへやってきた。


「クロア、大丈夫か? 意識はハッキリしてっか?」


 ミラが声をかけるがそれには答えず、


「バハムートォォォ……許さんぞぉぉぉ……」


 ずっと僕をニラんだまま、憎しみのこもった言葉を吐き出すクロア。


「そこを動くなよぉ……」


 クロアが足に力を込め何とか立ち上がった。


「クロア! まだ立たないほうがいい!」


 心配して手を伸ばしクロアを支えるリィザの言う通りで、プルプルプルプル膝が震えている。

 ちょっと残像が見えるくらい。

 何かの新技みたいだ。

 思わず笑ってしまいそうになる。


「ププッ」


 我慢できなんだ。


「こ、こいつ……!」


 火に油を注いでしまったようで、クロアは顔を真っ赤にしてこちらへヨロヨロと近づいてきた。


「あー、クロさん。さっきはごめんね。ちょびっとだけやりすぎたっていうか」


「うるさい! 黙れ!」


「とりあえず、もうちょい休んでたほうが」


「黙れ黙れ黙れ!」


 あらら。もう完全に聞く耳持たない状態かも。


「だいたいこっち来てどうすんのさ?」


「ブン殴るに決まっているだろ!」


「そんな目にも留まらぬ速さで膝プルプルさせてんのに無理だって。それにクロさんただでさえ……」


「……何だ?」


「……スゲー弱いじゃないっスか。ププッ」


「ブッ飛ばしてやるっ!」


「え、さっきのクロさんみたいに?」


「ブチ殺してやるあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 火に油を注いでガソリンをぶっかけちゃったようで、額に青筋をいくつも浮かべ、赤を通り越して紫に近い顔色と鬼の形相で、こっちへ少しづつ近づいてくるクロア。


「無理しちゃダメだって!」


「よろしければ患部を診てさしあげましょうか?」


 ククとレアが心配して言うもクロアは足を止めず、


「クロア、落ち着け。な?」


「うるさい!」


 リィザの言葉も聞き入れない。さらには、


「ええいっ、邪魔だ! 私から手を離せ!」


 パシンッ


「きゃっ」


 腕を振って、自分を支えていたリィザの手を打ち払った。

 一歩後ずさるリィザ。

 引いた右足のかかとが後ろに置いてあった明星のランプに当たり、パリンとガラスの割れた音が響いた。丸い形をした明星のランプがコロコロ転がる。


 リィザの手を払ったクロアは、腕を振ってバランスを崩したのか、それとも立っていることが限界だったのか、よろけて地面に両手両膝をついて四つん這いの格好になってしまった。


 明星のランプのオレンジ色の光に照らされるクロア。

 何と哀愁漂う姿だろうか。

 まるで、バンドメンバーに逃げられてしまったことをライヴ当日ステージ上で告白し始めたヴィジュアル系バンドのヴォーカリストのようじゃないか。

 リィザ達も何と声をかけて良いのかわからないのだろう、二の足を踏んでそれぞれ顔を見合わせていた。


「……くっ……うっ……」


 クロアから漏れ聞こえる声が、もの悲しい空気をさらに重いものに変えていく。


「……」


 なんだか可哀想になってきた。

 申し訳ない気持ちも芽生えてきた。

 頭下げて謝って、一発くらい殴られとくか……。


 誰も動かない中クロアへ歩み寄り、


「……えーと、大丈夫?」


 ひとまず当たり障りのない言葉をかけた。直後、


 カツン


 どこからか乾いた音が聞こえ、


「――――――――――――――――――――ッ!?」


 悲鳴が声にならないほどの尋常でない恐怖が僕を襲った。

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