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37.連れてって!

「バハムート」


 リィザがのそのそと重い足取りで歩き出した僕を呼んだ。

 また、しっかり返事しろとかそんなこったろう。


「なんでやんしょ?」


「お前は来なくていいぞ」


「へ?」


「お前はクロアとお留守番してろ」


 言われてクロアがいないことに気づいた。

 あいつ存在感薄いな。

 それより、


「僕行かなくていいの?」


「ああ、そう言ったろ」


「本当に?」


「本当に。ここでクロアを守るんだ」


「お守りっスか」


「……まぁ、お守りでも何でもいい。とにかく、クロアに危険が及びそうなときは、お前が命を懸けて守れ」


「え。それはちょっと……」


 頭ではクロアを守ろうと考えても、体はクロアを放って逃げると思う。


「怖がることはない。ここいら一帯には、盗賊などはいないし、そもそも夜に人が来たりしない。村には、レアが数日かけて作った『魔除けの円陣』も展開してあるから、魔物が村に入ってくることもない。獣も、ククがここを縄張りにしたから近寄っては来ないだろう」


「なるほど」


 勝手に僕の言葉を勘違いしてくれたリィザ。

 何にせよ、どこへ行くのかは知らないが、ここにいるほうが安全なのは間違いないだろう。

 だったらクロアの守りでもお守りでもしてやろう。

 できれば還してほしいけど。


「だが、万が一ということもある。そのときはクロアを守れ。いいな」


「オス」


「……あと、よほどのことがない限り家には入るな」


「え? 入っちゃダメなの? これまでも家の中に入れてくんなかったし、何で聖印探し家の中でやんないのか不思議に思ってたんだけど、もしかして僕を家の中に入れたくなかったってこと?」


 何か見られると困るものでもあるんだろうか。


「……世の中には知らないほうがいいこともあるんだ」


 おどろおどろしい声で言ってくるリィザ。


「……ゴ、ゴクリ」


 やはり、見られたくないもの、見られては困るものがあるんだ。

 僕の本能が詮索はするなと言っている。

 ここは素直に頷いておこう。


「わ、わかりました」


「うむ」


 ただ、クロアのやつ家の中にいるんだよな。

 ……別に問題ないか。どうせ何も起きないだろう。ここで家のほう向いて寝てりゃいいや。


「戻るのは、明日の早朝になると思う」


 リィザが荷袋を肩にかけた。


「了解しました」


「ここは頼むぞ」


「ははっ」


「では行ってくる」


「いってらっしゃいませ」


「カラムの街へ」


「ちょぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!」


「わっ!? 急に大きい声を出すな! ビックリするだろ!」


「え? え? 何? 街? 街っつった?」


「つった」


「つったよね? ね? 何でそれを言ってくんないのさ?」


「何で言う必要がある?」


「僕も行きたいからに決まってんでしょ!」


「来なくていいと言ったろ」


「行きたいって言ってんの! 僕も行きたいって!」


「お前を街へ連れて行っても仕方がないだろ」


「仕方なくないよ! 僕の心のリフレッシュのためだよ! 来る日も来る日も喚ばれるところはこの村か森ばっかで全っっっ然つまんないんだもん! 僕も街へ行きたい! 他の人と話したりしたい! お店にも行ってみたい!」


「また今度な」


「今行きたい! 今日行きたい! 連れてって連れてって僕も連れてって!」


「あ! コ、コラ! 足にしがみつくな! 離せバカ!」


「連れてくって言うまで離すもんか!」


「お前にはお留守番の役目があるだろ! クロアを守れと言ったろ!」


「僕がいなくても大丈夫なんでしょ! レアの『夜明けのエンジン』と、ククがおしっこまいて作った縄張りがあるから!」


「魔除けの円陣です」


「おしっこじゃないわよ!」


「万一に備えてって言ったろ! それに今のお前は夜の森を歩く格好じゃないだろ!」


 僕の今の服装は、白いTシャツ、半パンのジャージ、こっちに置きっぱにさせてもらってる古いスニーカー。確かに森を歩く格好じゃない。でも、


「それを言ったらククは羽織にサンダルだし、レアは黒いウェディングドレスだし、ミラに至ってはビキニじゃないか!」


「見た目と違ってこれらはしっかりとした装備品なんだ!」


「じゃあこの格好でダメってんなら、ここで一旦還して街についてからもっかい喚んでよ! それならいいでしょ!」


「だからお前が街へ来てもしょうがないと言ってるだろ!」


「僕も森とこの村ばっかでつまんないって言ってんでしょ!」


「もういいから離せ!」


「離すか! 連れてくって言うまでこのガーターベルトは離さないぞ!」


「あ、バカ! 太ももにしがみつくな!」


「離してほしかったら連れてけ! でもすぐには離したくないからしばらく連れて行かないと反対し続けた後連れて行くって言ってくれれば僕は二重の喜びを得ることができんごへぇっ」


「いい加減にしやがれ! このエロムート!」


 ミラに頭をどつかれ、リィザの足から手を離してしまった。


「アタシ達は、頼まれてた『木こり蟹』が獲れたから街へ行くんだよ」


「痛たたた……木こり蟹?」


「そう。首を長くして待ってる依頼主に少しでも早く届けるためにな。だから、街へ行っても遊ぶってわけじゃねぇ。大人しく待ってろ」


「遊べなくてもいいの! 街が見たいの! 違う景色が見たいの! もう森は飽きたの! 何でもいいから連れてってほしいの!」


「んなもん見てもしゃーねぇだろ」


「しゃーなくない! 全然しゃーなくない! 僕も街へ行きたい! 連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって!」


「ったく、しつこいやつだな。……けど、こんだけしつこく言われると、あれだな……」


「連れて行きたくなった?」


「よけいに連れて行きたくなくなるから不思議だな」


「不思議じゃないよ! まったくもって不思議じゃないよ! ミラの性格が歪んでるだけだよ!」


「……へぇ。アタシの性格が、ねぇ」


「あ、今のウソ。ミラたん超真っすぐ」


「絶っっっ対に連れて行かねぇ。腕立て一万回。アタシらが帰るまでに終わらせとけ、ボケナス召喚獣クソカスムート」


 ボケナス……クソカス……


「……ミラさんや」


「あぁ?」


「ゴリラって知ってる?」


「知らねぇ」


「ミラってゴリラみたいに強く美しく気高い存在だよね。いや、ゴリラみたいっていうか、ゴリラそのものだよ」


「……ふーん。レア」


「はい?」


「ゴリラって何だ?」


「黒くてデカいマッチョなサルです」


「さいならっきょ!」


「おらぁっ!」


「んごはぁっ」


 走って逃げようとしたが、背中に蹴りをくらってフッ飛ばされた。


「腕立て一万回に加えて腹筋一億回な。やってなかったら、足りない分指をへし折る」


 間違いなく全部折られるな。


「死ぬ気で終わらせろ。そして死ね」


 うつぶせに倒れている僕へ吐き捨てるように言って、森のほうへ歩いて行くミラ。


「では私も行く。……はぁ、ミラ怖い」


 リィザもミラに続く。


「あんた、ミラにケンカ売るなんてアホね」


 ククもリィザに続き、


「さいならっきょ」


 レアもククに続いて森へと歩いて行った。

 倒れた状態のままでしばし、四人の足音を聞いていたが、それが遠ざかったところで、


「よっこいしょ」


 サッと起き上がり、四人が向かった方角へ僕も歩き出した。


「ムフフ。いいもんねー。勝手について行くもんねー」


 せっかく異世界へ来れたのに、森と人のいない村ばっかりなんてつまらなさすぎる。意地でも街までついて行ってやる。

 ククが明星のランプを持ってるから、その光を追えば


「おーい、バハムートー」


 ドキッ


 リィザの声だ。


「な、何ですかー?」


「ついてくるなよー」


 ……バレてる。


「……はぁ」


 ため息をついて、焚き火のそばへ戻った。

 あぐらをかいて座り、炎を見つめる。


 異世界ってもっといっぱい楽しいことがあると思ってたのにな。

 いや、楽しいことはあるんだろうけど、森とこの廃村以外の場所で喚んでもらえないとは。


 一か八か適当に街や村がありそうな方向へ歩いて行ってみるか? って、魔物もいれば獣もいる森だ。五分歩いたら三回は死ぬだろう。


「……はぁ……筋トレでもするか」


 じっとしてても退屈だ。

 とりあえずミラに言われたノルマでもこなすとしよう。

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