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36.相当な代物

「えーと、パルティア教の聖印、パルティア教の聖印……あ、底の方に、小さいポケットみたいなのがある」


「え? 底の方に?」


 そのポケットに指を入れてみる。


「お」


 固い何かが指先に触れた。それを指に引っ掛けてポケットの外へ出し、腕を荷袋から抜いた。


「んーと……お、これじゃないっスか?」


 五百円玉サイズの金の輪が、串に刺さった団子のように四つ並んでくっついている。これ、本物の金か?


「あ! それ! それだ!」


 リィザが、僕の手から奪うように聖印を掴んだ。


「良かった〜。絶対鞄に入れたはずなんだけど、なかったらどうしようって……はぁ〜」


 安堵の息を吐き、聖印を握った手をもう片方の手で包んで、抱きしめるように胸に当てるリィザ。


「あって良かったっスね、パリジェンヌの聖印」


「パルティア教の聖印な」


「相当大切なものなんスか?」


「ああ。これは、我がハイエス家に代々受け継がれてきた大切な大切な聖印なんだ」


 だったら鞄の中整理したほうがいいと思うけど。


「よく見つけてくれた。さすがは我が召喚獣」


 召喚獣関係ない。


「ご褒美に、ここにあるものを一つお前にやろう」


「いいんスか?」


「うむ。遠慮はいらんぞ。好きなのを持ってけ」


「それじゃあ」


「あ、キレイな石はなしな。それ以外」


 いらないし。

 とはいえ、他に欲しいものと言われてもな。

 ガーターベルトはないし、ん〜……


「……んじゃ、これ貰います」


 板の上に置かれている物の中から、一つ手に取った。


「ん。目覚ましの種だな」


「はい」


 僕が選んだものは、アボカドの種のような、寝ている人や眠そうな人を起こすらしい、目覚ましの種。

 もうすぐテストなので、テスト中やテスト勉強中に眠くなったら使うとしよう。


「あら、聖印あったのね。良かったじゃない」


 白銀色のゆるふわロングヘアーで、素肌の上に羽織を一枚だけ着た、美少女に変身しているククが、家のほうからこちらへやってきた。

 穿いているショーパンが羽織の裾に隠れて見えにくいので、裸ワイシャツならぬ裸羽織のような格好に見える。素足にサンダル履きだし。


「あんたちゃんと持ってないとダメじゃない。それって相当な代物なんだからさ」


 ククが、手に持っている眩しいオレンジ色の光を放つ明星のランプをリィザへ近づけた。

 このランプ、僕の懐中電灯が光源として使われてるんだけど、全然返してもらえないんだよね。

 電池だって何回も交換してるし。

 せめて電池代払ってほしい。


「……わかってるし。ネックレスの留め具の具合がおかしかったから、外しただけだし」


 リィザは、すねたように言いながら、コートのポケットから取り出した金の細い鎖を聖印の輪っかの一つに通し、首から提げるため、ネックレスのはじとはじを持ったそれぞれの手を、首の後ろへ回した。


「相当な代物ってことは、それって見た目通り金でできてるの?」


 リィザの、露わになった白くて細いうなじを見ながらククに尋ねた。

 良いうなじだ……。


「もちろんそういう意味でも価値はあるけど、それだけじゃないわよ」


「それだけじゃないって?」


「何百年も受け継がれてきてるって話だから、リィザのご先祖様達がこの聖印にそれだけの長い間祈りを捧げてきたってことになるでしょ? その何百年分の念が積み重なって、かなりの力をもってるに違いないってわけ」


「ほえ~……こっちの一年って何日?」


「だいたい三百六十五日ね」


 地球と一緒。

 代々って、そんなにも長い年月なのか。


「かなりの力ってどんな力なの?」


「ん~……持ってると癒される、とか?」


「傷が?」


「心が」


 マイナスイオンでも出てるのか?


「よくわかんないんだけど」


「うっさいわね。とにかくすごいもんなの。長く使われてるものは、それだけですごいんだから」


「ふ~ん」


 わかるようなわからんような。


「ちょっとリィザ、まだつけらんないの? さっさとしないとおいてくわよ」


「ま、待ってくれ……留め具が……ゆるいというか……すぐに外れるというか……むぅ~……」


 首の後ろに回した手を、いつまでももぞもぞと動かしているリィザ。

 ……ん? 「おいてくわよ」?


「……もしかして、今からどっか行くの?」


「そうよ」


 時刻は多分、夜の八時から九時の間。

 辺りはもちろん真っ暗だってのに。

 ヤだなぁ。


「うおーっす。お待たせー」


「お待たせしました」


 ミラとレアも家から出てきて合流した。

 レアはいつもの真っ黒ウェディングドレス姿で、ツバ広の帽子、黒い手袋、黒いベールで肌を完全に隠した格好。手にはひょうたん型の紫色の傘。

 ミラもいつも通りの赤いビキニアーマーを着て、背に大剣を装備しているが、肩に米俵くらいの荷袋を担いでいた。


「お、聖印あったんだな」


「良かったですね」


「うん……それは……良かった……んだけど……」


 二人に声をかけられても、ネックレスを付けることに集中しているリィザは、返事もそぞろ。


「どした? ネックレスがおかしいのか?」


「無理に付けなくても良いのでは?」


 リィザの様子に気づいた二人。レアが、多分みんなが思ってることを口に出すが、


「これ……付けてないと……落ち着かない」


 らしい。


 仕方がない。

 ここは御主人様のためにも、僕がネックレスを付ける作業を手伝ってあげるとしよう。

 白くてなまめかしいうなじを至近距離で見ることになる、ネックレスを付ける作業を手伝ってあげるとしよう。


「姉御、あっしが」


「もうこれでいいや。みんな待たせ……どうしたバハムート? 目がキモムートになってるぞ?」


「……元からこんなもんスよ」


「だったな。よし、では……」


 リィザは、板の上に置いていた荷物の中身を、甲子園の砂を袋に入れる高校球児のように、手でかき集めて中へ入れていった。

 また荷物の中がカオスに……。


「早速出発しよう」


「おう」


「うん」


「はい」


「……うえ~い」


 ミラ、クク、レアと違い、やる気のない返事をする僕。

 はぁ~……ホントに行くのか……。

 魔物関係じゃなきゃいいけど。

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