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30.祇園精舎

「そうか。おい、聞いたかバハムート? 慈悲深いクロアに感謝しろ。私もこれからは甘やかしたりしないからな。厳しく指導してやるぞ」


 ペシッ


「あたっ」


 僕の頭を叩くリィザ。


「ああ、そいつはいいね。アタシは元から厳しくするつもりだったけど、さらにさらに厳しく鍛えてやるよ」


 ドフッ


「おえっ」


 わき腹を殴って立ち上がるミラ。


「アタシも、泣いてわめいて鼻水垂らすくらいチョー厳しく教育してあげるわ」


 ガブッ


「いでっ」


 耳を噛んで僕から降りるクク。


「異世界を教えてあげましょう」


 グッ、グッ、グッ、


「あっ、あっ、あっ」


 アスホールを傘で突っつくレア。


 こいつら、好き勝手しやがって……。


「良かったな」


 僕を見下ろし、ニヤリと嫌な笑みを浮かべるクロア。

 なんも良くない。


「バハムート、貴様のことを指導してくれる皆に、改めて挨拶をしておけ」


 言って、クロアが僕のアゴから靴を離した。

 うつぶせのまま、顔を前へ向けた。


「……えー、みなさんこんばんわ。世界を股にかけるハンサムボーイ、バハムートです」


「死んで下さい」


「……えー、みなさんのご指導大変うれしく思います。以後、夜露死苦お願い致します」


「血ヘド吐くまでシゴいてやるよ」


「……えー、つきましては、さんざん僕にアレコレやってくれた皆様へ、贈り物を差し上げたく存じます」


「え、贈り物? なになに? 良い物?」


「……ええ、大変良いものでございます。ぜひ、お受け取り下さいませ」


「何だ? なんだか嫌な予感がするんだが……」


「『祇園精舎の鐘の声……」


「? どうしたんです、バハムートさん?」


「諸行無常の響きあり……」


「突然何を……ハッ!? き、貴様、もしやそれは!?」


「沙羅双樹の花の色……」


「お、お前、それって……ま、魔法か!? 魔法の詠唱か!?」


「盛者必衰の理をあらわす……」


「ちょっと! こいつ白目むいてるわよ!」


「おごれる人も久しからず……」


「おいおいおい! こいつ魔力ねぇんじゃなかったのかよ!?」


「ただ春の夜の夢の如し……」


「皆下がれ! こいつはまともじゃない! 異世界の特殊な魔法に違いない!」


「たけ……たけ…………タケキモ? タケキモ君も、ついには……フラれる?」


「誰かフラれたぞ」


「ひ……ひとえ……ひとえちゃんに……か…………影? 影薄いなお前……ち……塵とおんなじ…………って言われて』?」


「……恋バナみたいな詠唱ね」


「……ヒトエちゃんむごいな」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……詠唱は終わったのか?」


「……何も起きないぞ?」


「……遅延魔法じゃねぇか?」


「あ、ちょっとレア! バハムートに近づくと危ないわよ!」


 レアは、僕へスタスタと歩み寄り、


 ムギュ


「ぐぇ」


 背中の上に立った。


「……レア、危険はないのか?」


 クロアが冷や汗を拭いながらレアに尋ねた。


「はい、まったく」


「……今の魔法は何だったんだ?」


「魔法じゃありません。ただのそれっぽい言葉です」


 魔法を使えるレアにはバレてたようだ。


「異世界の魔法でもないと?」


「神の意志も、精霊の鼓動も、大気の震えも、魔力の波動もなーんにも感じなかったので違いますね。ただ喋ってただけです」


「「「「……」」」」


 レアを除く四人が僕を見る。


「てへ♡」


 舌をペロリと出して、可愛くウインクした。


 そんなキュートな僕を見て、四人が無表情にこちらへやって来た。


「……何のつもりだ?」


 とクロア。


「何って、良いものあげるって言ったじゃん」


「……どこが良いものなんだ?」


 とリィザ。


「え? カッコ良いでしょ? 僕の国にある有名な物語の冒頭部分なんだけど」


「……わざと魔法の詠唱っぽく言ってたろ」


 とミラ。


「そんなことないよ? 普通だよ?」


「……何で白目むいてたの?」


 とクク。


「目のうんどー」


「確かにカッチョイイ言葉だったので、私黙って聞いてたんですが、タケキモ君が出てきたあたりからおかしくありませんでした?」


 とレア。


「……タケキモ君はおかしくないよ。クラスの人気者さ」


「影薄いって言われてるじゃないですか。そうではなく、内容が」


「タケキモ君のことはいい」


 リィザがレアの言葉を遮った。


「タケキモ君のことは、そっとしておいてやろう……」


 感情移入してしまったようだ。


「バハムート」


「はい?」


「結局何がしたかったんだ?」


「何、と仰いますと?」


「私達を驚かそうとしたのか?」


「いえいえ。ただ、僕の大好きな物語をみなさんにも楽しんでいただこうと思ったまでです。はい」


「では、怯える私達を見てどう思った?」


「怯えさせるつもりはなかったので、大変申し訳なく思いました」


「そうなのか?」


「ええ」


「良かれと思ってやったことだったんだな?」


「はい」


「その気持ち、嬉しく思うぞ」


「もったいなきお言葉」


「でもビックリしたんだ」


「左様で」


「だから何にせよ殴る」


「お戯れを」


「もう一度聞くぞ」


「何なりと」


「怯える私達を見てどう思った?」


「アホだこいつら超笑えぶべらっ」


「やっぱり私達を驚かそうとしたんじゃないか!」


「この真性のバカムートが!」


 ポス、ポフ、メコッ


「カスムート! てめぇは本当にカスムートだよ!」


 ドカァッ、ドゴォッ、メコッ


「アホムート! しょうもないことしてんじゃないわよアホムート!」


 ポム、モフ、メコッ


「おマヌケムートさん! 嗚呼、おマヌケムートさん!」


 ズブッ、ズプッ、メコッ


 よってたかって僕を殴る蹴る踏むする四人と一匹。


「バーカバーカ! げぼっ、ビビってやんの! ぶべっ、騙されてやんの! ごへっ、アハハハハハハハハッ、うぼっ、『特殊な魔法に違いにゃい〜』だって! ぼはっ、特殊どころか魔法ですらねーっつーの! ぐげっ、アハハハハハ、ばぼっ、ハハハハハハハッ」


「こ、このゴミクズ召喚獣がっ!」


 クロアのスカしたイケメンが真っ赤っか。

 あー、いい気味。


「アハハハハハハッ、アハハハハハハタタタタタタタタイタイタイタイタ痛いっ」


 リィザが僕の頭頂部の髪を掴み引っ張り出した。


「立てバハムート!」


「痛い痛い痛いっ! 髪引っ張っちゃダメ! ホントに髪引っ張っちゃダメ! 立つ! すぐに立つから!」


 自分で言った通りさっさと立ち上がると、リィザが髪から手を離した。


「フゥー、フゥー、フゥー」


 怒りか疲れか息の荒いリィザ。


「うぅぅぅ、何で髪引っ張んだよ~。髪引っ張んなよ~」


「うるさい! バカバカバカバカバカムート!」


 五回も言われた。


「すうぅー……はあぁー……」


 気を鎮めるためだろう、リィザが一度深呼吸。


「……よく聞け。このままだとお前が死ぬまで殴ってしまいそうだ。私達は一旦気持ちを落ち着かせる必要がある。もちろんお前もな。だから今日のところは還す。皆もそれでいいな」


「ああ」


「うん」


「よしなに」


 ミラ、クク、レアはオーケー。で、クロアは、


「……チッ」


 僕へ舌打ちをして、そっぽを向いてしまった。好きにしろってことだろう。


「よし。だがなバハムート、明日からは、地獄のような日々が待っていると思え、ククククク」


 クロアを真似てか陰湿に笑うリィザ。

 全然似合わない。


「リィザさんや」


「何だ?」


「そんな無理して根暗な笑い方しなくていいですよ」


「根暗……」


「僕は知ってますよ」


「何を?」


「リィザさんが、お天使様のようにお優しい人だって」


「……」


「口では地獄のようなとか言ってても、実際は厳しいことなんてしないですよね」


「いや、するけど」


「……するの?」


「うん」


「……そっスか」


「うん」


 言ってるだけかと思った。


「……心も胸みたく小さくなっちゃったか(ボソリ)」


「………………………………………………さーバハムート、そろそろ還るゾー」


「あ、はい」


「準備はいいナー?」


「え、いや、全然よくないっスよ。この白い糸取っ」


「じゃあ歯を食いしばれー」


「……何で? 呪文唱えて還すんでしょ? プリンちゃんのときみたく」


「あー、今回は少し違う方法で還すから」


「へぇ、どんなの?」


「コブシで」


「……ちょっと意味わかんないかな」


「いいからいいから。お前は夜空のお星さまでも数えてなさい」


「そんなアブないおじさんみたいなイダダダダダダダダダダッ! く、首! あなたが掴んでるの首のお肉だから! 首のお肉を服みたく掴まないで!」


「それではバハムート……死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


「死!? プリンちゃんのとき解放ってぶがごはぁっ」


「もういっちょぉぉぉっ!」


「もう一丁!? もう一丁てなごげぶぼぉぉぉっ(ガクリ)」


 ……顔に一発。さらにお腹に一発くらって意識が途切れた。



◇――――――――――――――――――――◇

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