表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/149

25.セイヴィア

「では、食事にしよう」


 クロアが呼びかけ、レアがお玉でドンブリくらいの木の器にスープをよそい、みんなに配っていった。

 ククは、丸太椅子の上にお座りをしており、その前にスープが置かれた。


 焚き火を囲むように配置された丸太椅子に全員が座り、


「みんな、いつも食事の準備をありがとう。さぁ、食べようか」


 とクロアが言って、


「ああ」


「うん」


「はい」


「うむ」


 ミラ、クク、レア、リィザが返事をし、食事が始まった。


 で、どうして僕が返事をしていないかと言うと、


「……あのー、僕の分ないんですけど」


 なかったから。


 僕も丸太椅子に座って焚き火を囲んでるんだけどな。

 みんなにはスープ配られてるんだけどな。

 何で僕だけないんだろうな。

 不思議だな。


 指をくわえてお腹をさすり、僕も食べたいことをアピールしてみた。

 ミラと目が合った。


「草食ってろ」


 完全に嫌われたな。


「ククじゃあるまいし食べないよ」


「アタシもたまにしか食べないわよ!」


「召喚獣が、喚ばれた先でお食事をお呼ばれですか」


 レアがうまいこと言う。

 確かにイメージないけど、僕人間だからお呼ばれしたい。


 一応リーダー様にも、僕の分は? 的な視線を送ってみた。


「貴様の分などあるわけがないだろう」


 言うと思った。

 魔除けの護符のとき、今と同じこと言われたもんな。


 ということで、頼みの綱である、先程から胸の前で手を組んで食前の祈りらしきことをしている御主人様へ目を向けると、ちょうど祈りがすんだのか、顔を上げ僕を見た。


「お前も食事まだだったのか?」


 リィザが、手のなかにある金のネックレスにつけられたペンダントを胸元から服の中にしまい、僕に尋ねてきた。


「いえ、食べました。でもこっちの食事に興味があるし、小腹が空いたなぁ、と」


「ふぅん。何食べたんだ?」


「親子丼です」


「……お前、人間食べるの?」


「食べないっスよ。人間の親子食ってどうすんですか。そうでなく、調理した鶏肉と卵を一緒に食べるんですよ」


「ああ、そういう親子か。……料理名が鬼畜だな」


「いや、そんなことは……」


 あるか?

 言われてみると、どことなくブラックジョークっぽいかも。


「それで、美味しいのか? 鬼畜ドン」


「親子丼っス。うまいっスよ」


「親子ドンか……レア、器とスプーンを取ってくれ」


「はい」


 リィザの隣にいたレアが、足元に置いてあった木製の器とスプーンをワンセット手に取り、リィザに渡した。

 リィザは、太ももに乗せていた自分の器の中身を、ドバッと半分ほど受け取った器に移し、


「ん」


 僕へ差し出してきた。


「いいんですか」


「うむ」


「ありがとうございます」


 感謝して器とスプーンを受け取った。

 正直、この器土の上に置いてなかった? とか、スープ移すとき親指入ってなかった? とか、今も入ってない? とか、手洗ってないよね? とか気になるところはあるけれど、感謝して受け取った。


「こんなヤツに食いもんやる必要ねぇって」


 スープを食べる手を止め、眉根を寄せてミラが言う。

 美女に嫌われるって、すごいヘコむ。


「そう言うな。バハムートは、今日の戦闘でがんばったからお腹が空いてるんだ。それに、クロアのことはバハムートも反省している。仲間なんだしあまり嫌ってやるな」


「あんたがいいってんなら何も言わないけど、もうスープ残ってないよ」


「大丈夫、問題ない」


「……フンッ」


 僕をひと睨みしてから、ミラは食事を再開させた。


「……」


 手に持った器に入っている、具沢山のスープをじっと見つめる。

 そっか、これってリィザの分か……そうだよな……。

 すでに火から下ろされてる鍋の中は空っぽだもんな……。


「……あの、ホントにいいんですか?」


 返せとは言われないだろうが、申し訳ない気持ちから、もう一度確認を取った。


「フフ、気にせず食べろ。黒パンも食べていいからな」


 地面に置かれた木皿に載っている、黒くて固そうなパンをスプーンで指し示すリィザ。


 喚ばれたときは、何だこの人? と思ってしまったが、良いコだな、リィザって。

 優しく微笑んだ表情には純真さが現れていて、ドキッとした。

 尊敬しているというクロアに毒されないことを祈ろう。


「それでは、いただきます」


「うむ」


 リィザへ頭を下げて、器の中のほぼ透明なスープにスプーンを入れて……ちょっと考える。


 ここは異世界。

 すでに聞いたことのない言葉がいくつも出てきた。


 いい匂いを漂わせてる美味しそうなスープなんだけど、一体何が入ってるんだろ?

 見たところ、特に変わったものは入ってなさそうだけど……


「姐さん」


「……それは私のことか?」


 すくったスープを口へ運ぼうとしていたリィザの手がピタリと止まった。

 マズい、怒らせたか?


「……良いじゃないか」


 セーフ。

 ニンマリ笑ってる。

 むしろ気に入ったようだ。


「それでですね」


「うん?」


「このスープって虫とか入ってます?」


「入れるわけないだろ」


 そうなのか。

 せっかくスープをくれたってのに失礼なことを聞いてしまった。


「この辺りのは美味しくないんだから」


 やっぱ聞いといてよかった。

 どの辺りなら美味しいのかは知らないが、今回は心の準備はしなくて良いかな。


 ではでは、スープと具をたっぷりとすくって、パクリ。


「……ふむふむ……うんうん」


 ゴックン。

 普通に美味いな。


 このお肉は豚かな。

 塩味の豚汁ってとこか。

 お出汁がしっかりと出ていて美味しい。


「バハムートさん、お味はいかがですか?」


 レアが、黒いベールの下の隙間から口へスプーンを運びながら聞いてきた。

 ベール取ればいいのに。


「うん、おいしいよ」


「オホホ、なによりで」


「異世界の料理だから、すんごく美味しいかすんごく不味いかの二択だと思ってたんだけど、普通に美味しいよ」


「あなたって一言多いタイプですか?」


「これってレアが作ったの?」


「そうですよ。と言っても、お昼にたくさん作って皮袋に入れておいたものを温めなおして、イノシシの干し肉を追加で入れただけですけど」


「へぇ」


 この肉ってイノシシか。

 初めて食べた。

 臭みがあるってよく聞くけど気にならなかったな。


「ほかには何が入ってるの?」


「ジャガイモ、ニンジン、しいたけ、ナカータ、玉ねぎなどなどです」


「ふんふん」


 ひとつ元日本代表みたいなのが入ってたけどほぼ知ってる食材だ。


 ナカータってどれだろ?

 これはジャガイモ、これはニンジン、これは玉ねぎ…………玉ねぎ?


 ククを見る。


「ガツガツムシャムシャ」


 器に顔を突っ込むようにして貪り食っていた。


 犬にとって玉ねぎは毒と同じ。

 狐はイヌ科だったはず。

 ダメなんじゃね?


「ちょっとちょっと、クク」


「もぐもぐもぐ、ゴックン。あ? 何?」


「このスープ玉ねぎ入ってるけど大丈夫?」


「アタシ好き嫌いない。ガツガツムシャムシャ」


「……」


 ま、大丈夫なんだろう。

 食べよ食べよ。


「もぐもぐもぐもぐ、ゴックン。うん、うまい。ところで姐さん」


「ん? 何だ?」


 ちぎった黒パンをスープに浸しつつ、リィザがこちらへ顔を向けた。

 なるほど。ああやって柔らかくして食べるのか。


「さっきミラが『稼いでる』って言ってましたけど、みなさんは普段何やって稼いでるんですか?」


「うむ、我々は『セイヴィア』だ」


「せーびあ?」


「セイヴィア」


「って何?」


「セイヴィア知らない?」


「知らない」


「お前の世界には」


「多分ないっス」


「フッフッフッ、ならば教えよう」


 リィザがなぜか椅子から立ち上がった。


「『セイヴィア』とは、世のため人のため困っている人のために働く、民の救世主なのだ!」


 選手宣誓をするように、黒パンを持った右手を夜空へ伸ばし、大声で説明してくれた。


「おお! そ、それってもしかして正義の味方みたいなもんっスか!」


「正義の味方?」


「弱きを助けるために戦う人たちのことっス!」


「それ! まさしくそれ! 私達は正義の味方なのだ!」


「うおぉぉぉっ! リィザさんカッケェェェェェッ! セイバーチョーカッケェェェェェェェェッ!」


「うむ! セイヴィアな! セイヴィアは超カッコイイのだ! フハハハハハハハハハハッ!」


 そんな、小さい頃男の子なら誰もが一度は憧れた職業があるとは。


「リィザ、食事は静かに」


「あ、うん」


 クロアに言われてリィザが丸太椅子に座った。

 ……この性悪イケメンもセイヴィア?

 困った人を助けるの?

 イメージできない。


「それで、セイヴィアってのは具体的にどんなことをするんです?」


「『セイヴズ』ってわかるか?」


「質問に対する答えは『いいえ』ですね」


「イラっとするから普通に『いいえ』と言え。セイヴズというのは、国や領主に聞き入れてもらえないような案件を、民が報酬付きで依頼を出すための組織だ」


「ふむふむ……話の腰を折ってすみませんが、領主ってのはお貴族様だったりします?」


「そうだけど……何?」


「いえ、続きをお願いしやす」


「? で、私達はセイヴズへ行って依頼を受け、依頼をこなし、稼いでいるというわけだ」


 なるほど。


「でもそれって正義の味方とは違うような気がするんですけど。依頼って一言に言ってもいろいろあるんでしょ?」


「セイヴズは、金持ちが道楽で『べングチョが食べたいから採ってきてくれ』などと依頼しても受け付けない。困っている人の依頼だけを扱っているんだ。なのでセイヴィアは、正義の味方だ」


「それなら確かに正義の味方っスね」


 お金をもらっているのは置いとくとして。

 あと、ベングチョが何かは知らないが、多分高級食材なのだろう。

 ゲリ便しか想像できないが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ