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24.何笑ってやがる?

「……クソッ」


 苛立たしげに汚い言葉を吐いて、クロアが椅子に座り直し、足元に置いてあるコルク栓のようなものが付いたヘチマみたいな形をした袋を手に取った。


 キュポンッといい音を鳴らして栓を抜き、開けたところに口を当て、袋の中身をあおるように傾けた。

 どうやら、飲み物を入れる皮製の袋のようだ。


「ゴクッ、ゴクッ、ぷはぁっ、ふぅ……それで、お前は?」


 謎の液体を摂取して少し落ち着いたクロアが、言葉の足りない質問をしてきた。


「お前は、と言いますと?」


「お前は何が出来るんだ?」


「何がと言われても……」


「特別な能力はあるのか?」


「ないですね」


「腕力はどの程度だ?」


「並っス」


「剣は扱えるのか?」


「触ったこともないっス」


「槍は?」


「ないっス」


「弓は?」


「ないス」


「どんな武器なら扱えるんだ?」


「どんな武器も扱えないっス」


「貴様、何も出来んではないか」


「貴様と同じっス」


「……」


 クロアが、怒りで身体をプルプル震わせながら、防具と一緒に置いてあった剣を手に取り立ち上がった。


 こいつって戦闘は出来ないから、防具はともかく剣はいらないんじゃないかな。

 見た目だけでも強く見せようってことなんだろうか。


 弱いということを教えてもらったからか、剣を持って震えてる姿も、コスプレデビューしたレイヤーさんがカメラを向けられて緊張してるようにしか見えず、怖いというより微笑ましくて、ついつい笑顔がこぼれて


「……おい、クソ異世界人」


 ズイ、と。

 静かな声と共に、背後から肩口へ伸び出てきた大剣の冷たい鋼鉄の刃が、首筋にピタリと当てられた。


「ヒッ!?」


 死を連想せずにいられない鋭利な感触と恐怖で体が硬直してしまい、振り返ることが出来ないが、この大剣と声、後ろにいるのはミラだとすぐにわかった。


「……テメェ、何笑ってやがる?」


「い、いや、その、と、特に意味は……」


 あるけど言えるわけない。

 ミラは、クロアのことを笑った僕に腹を立てているのだろうとわかるから。

 言ったら確実に首が飛ぶ。


「クロアはテメェと違って頭が良いって聞いたろ。たった今聞いたことも憶えられねぇバカと一緒にすんじゃねぇよ」


「そ、そうですよね、ハイ」


「アタシらは、クロアのおかげで随分と助かってる。クロアの機転のおかげでやばい状況から救われたこともある。クロアの作戦のおかげで難しい仕事をこなせて、金もたんまり稼がせてもらってる。しかもクロアは、稼いだ金のほとんどをアタシ達に配って、自分はほんのわずかしか受け取らねぇんだ」


 ほんのわずかしか?


「そこらにいるテメェみてぇなバカ男と違って、女やギャンブルに金を使わねぇ、酒もたしなむ程度。たとえ戦闘はできなくても、クロアは文句なしに最高のリーダーなんだよ」


 ……女性、ギャンブルに興味がなく、お金もお酒もほぼ同様。

 意外なようなそうでもないような……。


「……だからな」


「ヒィッ!」


 首に押し付けられている大剣に、力が伝わるのを感じた。


「クロアをバカにするやつは、許せねぇんだよ……」


 ミラの声が、低く冷めたものに変わった。

 ……今僕、すごい死にそう。

 体がガタガタ震え出して、その振動で首が切れそう。

 とにかく謝らないと。


「あ、ああああのあの、ご、ごごごごごごごめ、ごめごめ」


「ち、ちょっと待ってくれ!」


 謝罪の言葉を震える声でなんとか紡ぎだそうとしていたところへ、リィザがミラを止めに入ってくれた。


「こ、こいつは今日召喚されたばかりで何もわかってないんだ。だから、えと……こ、これからしっかり私が躾けていくから、今はひとまず剣を収めてくれ。な? な?」


「……」


 ミラは無言。

 焚き火の炎と、明星のランプに照らされる鈍色の大剣は、首から離れない。


「た、頼む。私がしっかりお世話するから。な?」


 拾った犬を飼うことをお母さんにお願いするように、リィザがミラに再度頼み込むと、


「……そうだな」


 理解を得られたようで、


「これからは、アタシもたっぷり教育してやる」


 と言って首筋から刃を離し、大剣を引いてくれた。


「……ふへぇ〜〜〜」


 大剣が離れていく様子をしっかりと見届けた後、体から力が抜け落ち、安堵のため息とともに女の子座りの態勢で、その場に尻もちをついてしまった。


 殺されるかと思った。


 前を見ると、クロアが僕を見下ろしていた。


「……フッ」


 鼻で笑われた。

 これが最高のリーダー?

 地べたにヘタってる人を笑うような奴が?


「ちょっとあんた」


「へ?」


 ガブッ


「あだぁっ」


 ククに腕を噛まれた。


「クロアをバカにしたら、アタシだって許さないからね。クロアが弱いって言ったのは、バカにするためじゃないんだから。クロアのことを知ってもらうために教えただけなんだから。勘違いすんじゃないわよ」


 言った後にククは、僕へお尻を向け、


 ザッザッ


「わっ、わっ」


 後ろ脚で地面をかいて僕に土をかけ、焚き火のほうへ歩いて行った。

 やっぱポメラニアンだ。


「バハムートさん」


「はい?」


 グリグリグリ


「いはいいはいいはい」


 レアに傘の先っちょで、ほっぺをグリグリされた。


「いいですか、バハムートさん。クロアさんはイケメンなのです。わかりましたね」


 ピラリ


「ギャアァァァァァァァァァァッ! ミイラァァァァァァァァァァッ!」


「美の化身と謳われた私に向かって失礼でしょう!」


「今のミイラじゃないか!」


「今後イケメンをバカにしないように」


 レアも焚き火のそばへ行ってしまった。

 多分あの人イケメン好きだと思う。


「おい、バハムート」


 ペシンッ


「いてっ」


 リィザに頭をはたかれた。


「まったくお前は……。ほら、立て」


「ういっス」


 リィザが伸ばした手を取って立ち上がった。


「言っておくが、お前をかばったとはいえ私も怒ってるんだからな。二度とクロアをバカにするなよ。いいな」


「……はいっス。助けていただきありがとうございます」


「うむ」


「リィザさんも剣をチラつかせて似たようなことしてましたけど、助けていただきありがとうございます」


「……私の場合は本気で斬るつもりじゃなかったし」


 つまりミラは本気だったと。


「……はぁ、ミラ怖い」


 すでに丸太椅子に腰を落ち着けているミラをチラ見して、ため息とともにこぼすリィザ。

 ミラのことは、苦手なんだろうか。


「それにしても、クロアって」


「『さん』」


「クロさんて随分慕われてんですね」


「ああ。ミラも言っていたが、心から尊敬できる最高のリーダーだ。私もいつかは、クロアのような立派な人間になって、私の名前を世界中に轟かせるんだ」


 世界中ときたか。

 どでかい野望を持ってるんだな。

 それで僕が召喚術使う人は英雄になるって話をしたとき、ニヤけてたのかな。


 クロアのような立派な人間になって、ね……。


 もしかして、僕のクロアの見方が歪んでいたんだろうか。

 よくよく考えてみれば、特にクロアに何かをされたってわけじゃない。


 戦いの最中助けてくれなかったのは、クロアが戦いが出来ないってことと僕を試すためだったからだし、見下したものの言い方なのは、上に立つ者としての威厳ある話し方と考えられる気がしなくもないし、さっきコカされたのは、こう……なんか……なんかだろうし。


 きっと、ちゃんと接してみれば、リィザの言う通り尊敬できるやつなのかもしれない。

 稼いだお金のほとんどを、みんなにあげちゃう男なわけだから。


 よし。

 僕自身、クロアって人間としっかり向き合ってみよう。


 てことで、鍋の近くで何かをクッチャクッチャ食べてるクロアに謝ることにした。


「クロさん、先程はすみませんでした。これから頑張りますんで、仲良くしてやってください」


「……(クッチャクッチャクッチャクッチャ)」


 はい、無視。

 ダメコイツ。

 やっぱクズ。


 こっちを見向きもしないし、ずっと何かをクッチャクッチャやってるし。


 まぁね、わかってたけどね。


 戦ってるとき、コイツがヘッポコだろうが試すためだろうが、僕が助けてって言ってんだから仲間に指示出して助けろよって話だし、上に立つ者だろうが見下すもの言いしちゃいけないし、コカされたのはコカされただけだし。


 女性に金を使わないってのは、美女に囲まれてるからでしょ。


 コイツが優しい相手って女の人に対してだけだな。

 とんだ水色ドスケベ人間だよ。


「うむ、いい味だ」


 スープの味見をしていたらしいドスケベが、木製のお玉を持っているレアに微笑みかけた。


「そちらこそ、良いイケメンです」


 オホホと黒いベールの上から口辺りに手を当て笑うレア。

 なんのこっちゃ。

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