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23.水色

「さぁさぁみなさん、そろそろスープができますよ」


 レアがポンポンと手をたたき全員の注意を引いた。


「パンやお皿を出して食事の用意をして下さい」


「皿はアタシが出すよ」


 ミラが明星のランプをクロアの斜め前に置いて荷物のもとへ移動。

 懐中電灯はこのまま使われるってこと?

 還るときに返してもらえればそれでいいんだけど。


「アタシパン切るわ」


 ククは、焚き火のほうへ。

 ポメラニアン状態でパンが切れるんだろうか。


「私も手伝う」


 リィザがククの後についていく。


「狐の姿じゃ切れないだろ」


 だろうね。


「バハムート、他にも説明しなきゃいけないことが色々あるけど後でな」


「僕も手伝いますよ」


「もうそんなにやることないからいい。そこにいろ」


「……うっス」


 そこにいろと言われても、何か仕事を与えてもらったほうがありがたいんだけどね。

 そばには休日のお父さんみたく動かずのクロアがいて、会話に困るから。


 こいつ本当になんにもしないな。


 目を細め、物憂げな表情で明星のランプをただ見てるだけのサラサラ水色ヘアーのイケメン。

 ロダンの考える人みたいなポーズで座ってるだけなのに絵になる男。

 ランプの灯りに照らされてイケメン度三割増し。


 中性的な甘いマスクに加え、長いまつ毛が影を落とす水色の瞳は妙に哀愁たっぷりで、視線を交えた異性のハートを蕩けさせることだろう。


 背も高くて足も長い。

 ゴーストミストがいた時は、椅子の横に置いてある皮っぽい素材の胸当てと剣を装備していた。

 リーダーということを考えると、剣の腕も相当立つに違いない。

 羨ましい……。


「……何か用か?」


 僕の視線に気づいたクロア。

 鬱陶しそうにこっちを見てくる。


「別に。ただ、その瞳に見つめられたら一瞬で恋に落ちちゃうんだろうなぁ、と思ってね」


「……」


「いいよなぁ、クロアって」


「……」


「……あれ? 何でキモげに瞳そらすの?」


「……貴様はあれか? 男が好きなのか?」


「……いきなり何言ってるの? んなわけないじゃん。ハァ、僕もクロアみたく、見つめるだけで女の子を落とせるイケメンとイケメンアイが欲しいよ」


「……まぎらわしい」


「何が?」


「……」


 答えなし。

 変なヤツ。


「クロアは食事の準備手伝わないの?」


「……」


「また座ってるだけ?」


「……」


「いつもそうなの?」


「……」


「目ん玉水色だね」


「……」


「眉毛とまつ毛も水色だね」


「……」


「チ◯毛何色?」


「……バハムート」


 クロアがゆらりと椅子から立ち上がった。

 ちょっと怒った?


「ちゃんと挨拶していなかったな。私はここのリーダーで、名前はクロアだ。よろしく頼む」


 意外にも、クロアは僕に握手を求めてきた。

 何だ、まともに挨拶できるんじゃないか。


 しかし、相手の足を踏みながら挨拶するなんて、こっちの世界の風習は変わってるなー。

 しかも、踏んだ相手の足をグリグリするんだなー。


 すごいなー。

 痛いなー。

 珍しいなー。

 前の四人はこんなことしなかったんだけどなー。

 男同士は特別なのかなー。


 よーし、僕もこっちの世界の礼儀に習って水色君の足の骨を折れるようしっかり踏みしめて、粉となるまでグリグリしないとなー。


「ハ、ハハ、ぼ、僕チン召喚獣のバハムートです。よろしくお願いしません」


 ガッチリ握手をして、自由な左足で水色クロワッサンの右足を踏むため足を上げると、水色は右足を同じように上げ、僕の左足を小外刈りの要領で引っ掛け、握手していた手を放し、両手で僕の胸を押した。


「わっ!?」


 両足ともに自由にならない僕は、押されるまま後ろへと倒れ、後頭部を、


 ゴスッ


「んごっ」


 地面にしたたかに打ちつけた。


「んがあぁぁぁぁぁ~~~~~っ」


 水色クロワッサンが僕の足を解放したので、後ろ頭を押さえて転げ回った。


「何やってるんだ、お前達?」


 僕達の様子に気づいたリィザが、黒くて硬そうなパンをゴリゴリ切っていたギザギザナイフを置いて、そばへやって来た。


「なに、挨拶をしていただけだ。ついでに躾もな。おいバカムート、敬語を使い、敬意を払えと言っただろうが」


「あたたた」


 後頭部を手で撫でながら立ち上がった。


「お前、私にも所々敬語使ってなかったからな。ちゃんとしろ。いいな」


「……はーい」


「伸ばすな」


「……はい」


「元気よく」


「はい!」


「うむ。まぁ、お前もクロアともっと接していけば、自然と尊敬の念を抱くことになるだろうがな」


 永遠にないと思う。


「クロアはすごいんだぞ。いつでもどんな状況でも素早く的確な判断を下すことが出来る、最高のリーダーなんだ。世界中旅して様々な場所を訪れたことがあるし、魔術や道具のこともよく知っている。そして何より、クロアは魔物にとっても詳しいんだ。クロアの知らない魔物なんかこの世にいないんじゃないかってくらいにな」


 少女漫画に出てくる女の子のように瞳を輝かせて、クロアのことを熱く語るリィザ。よっぽど尊敬してるんだな。


「でもさっき、ゴーストミストのネクロマンサー見て、『珍しいやつもいたもんだ』って言ってたっスよ」


「そういうこともある」


 知らない魔物いるじゃん。


「とにかくクロアはすごいんだ」


「そうなんですねー。そのうえ剣の腕も超一流ってな具合なんでしょ?」


 さらには超超イケメンときたもんだ。

 こりゃ非の打ち所がないわ。

 いや、根性腐ってるか。

 十分非だな。


「んで、クロア……さんてどんくらい強いんスか? 見たところミラが一番強そうだけど、やっぱそれ以上?」


「……」


 ありゃ、黙っちゃった。

 言葉にできないくらい強いってこと?


「何か武勇伝とかあるの? 一晩でカワイ()ちゃん百人斬りとか」


「クロアに戦いはできないわよ」


 答えてくれたのは狐モードのクク。

 こちらへちょこちょこ歩いてきた。


「へ? 戦いはできない?」


「うん」


「って、どゆこと? 怪我でもしてるの?」


「そうでなく、クロアは強くないの。つーか、ぶっちゃけ弱いの」


「……弱い?」


「そ。だから、頭使うの専門なのよ」


「……」


 クロアが……弱い?

 この何でもできそうなイケメンが?


 弱いと言われた本人を見れば、余計なことを喋るなと言わんばかりにククをジロリとニラんでいた。


「何よ? ホントのことでしょ? それに、これから一緒に戦ったりするんだから、はっきり教えといたほうがいいでしょ?」


「……チッ」


 舌打ちをしてそっぽを向くクロア。

 反応を見る限り本当っぽいけど……


「でも僕、クロアにさっき倒されたんだけど」


「ああ、見てたわよ。言ったでしょ、クロアは頭使うの専門だって」


 つまり賢いと。

 確かに僕が倒されたのは力業でなく、両足を使えなくして押しただけ。

 うまい具合に倒されたって言える。


 クロアが弱い、か……。


 ……思い出してみれば、今朝のクイーンモスキートに相対していた時、クロアはミラとレアの一歩後ろにいた。

 ゴーストミストの時は、女の子四人に守られるように囲まれていた。


 ならばククの言う通り、クロアって頭はいいけど戦いは本当にからっきしってことか。


「ちなみに、弱いってどれくらい弱いの?」


「小っさい子供には勝てると思う」


 小っさい子供ってのが随分と範囲が広いけれど、『思う』ってことは、ククもはっきりとはわからないのだろう。


 ただ、相当弱いということは確かなようだ。


「クロア……いやさ、クロさん……」


「クロさん……」


 クロアが気味悪そうにこっちを見た。


「クロさん、そうだったんですね……」


 僕、今ならクロアにすごく優しくできそうだよ。


「気持ちの悪い目でこっちを見るな。ぶちのめされたいのか」


「……そうですか、ぶちのめしちゃうのですか。大丈夫、僕はあなたの言葉にしっかりと恐怖を感じていますよ。だから安心して下さい」


「ぐっ……こ、このアホ召喚獣が……!」


「うんうん」


 アホと言われても、不思議と腹が立たないよ。

 むしろこんなにも温かい気持ちになれるなんて……。

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