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20.ポメ

「たっだいまー」


 どこかへ行っていたククが帰ってきた。


「鍋洗ってきたわよ」


 洗い物をしていたのか。


「では、食事を温めるとしましょう」


 レアが、焚き火のほうへと移動する。

 その側には、小さく切られた茶色い何かが板の上に置かれていた。


 異世界料理か。

 楽しみだ。


「クク」


「んあ?」


 リィザが呼ぶと、丸太をぶった切って作った椅子に座りかけていたククが、面倒そうに腰を上げこっちへ来た。


「何?」


「ほら、バハムート」


 リィザが、僕の背中をポンと叩き挨拶を促した。


「おっす、僕バハムート。シクヨロ」


「軽。仲間の紹介してるんだったわね。アタシはククよ。足引っ張らないよう頑張りなさい」


 上からモノを言ってくるちびっ子。

 お姉さんぶりたい年頃なのだろう。


 見た目は中学一年生くらい。

 白銀色のふんわりロングヘアーで、黒い瞳の大きな目をした、色白の可愛い女の子。背は僕のアゴほどの高さ。


 パッと見、巫女さんが着るような白い羽織を一枚だけ身に着けた裸ワイシャツっぽい格好だが、羽織の長い裾に隠れて見えにくいだけでちゃんと黒いショーパンを穿いている。ただ、今はショーパンが見えない。


 穿いてるよな?

 洗い物行ってる間に脱いだりしてないよな?


「……」


「……何、じーっと見て」


「ちゃんとショーパン穿いてるかなと思って」


「お前、また人を変な目で見て……」


 リィザに白い目を向けられた。


「いやいや、さすがに胸がぺったんこの少女を変な目で見たりしないっスよ」


「……そうか」


 『胸がぺったんこ』のところで頬をピクリとひくつかせた、同じく胸がない女の子リィザ。


「穿いてるかなって、穿いてるに決まってるでしょ」


 対して、胸がぺったんこと言われても全く気にした様子のないクク。

 成長期の余裕だろうか。


「今の僕の目線から見えなかったからさ」


「今は人間に化けてるんだから、穿いてないわけないでしょうが」


 言って、ククが羽織の裾を捲り上げた。

 見えたのは黒いショーパンと、おまけの白いお腹。


「だよね……ん? 化けてる? 化けてるってどういうこと?」


「どういうことってそういうことよ」


「へ? そういうこと? へ?」


「……あんたもしかして、アタシが誰だかわかってないんじゃないでしょうね?」


「誰だかって……僕こっちの世界に知り合いなんていないんだけど」


 いたとしてもククのことは知らない。


「違うっての。今朝会ったでしょうが」


「今朝って……はっ!? ま、まさか!?」


「気づくの遅いわよ」


「今朝やっつけたクイーンモスキートってのが人間の姿を借りて化けて出て」


「そういう化けるじゃないわよ!」


「じゃあ何?」


「可愛らしい狐がいたでしょうが!」


「そんなんいたっけ?」


「はぁ!? 小っちゃくてふんわりしててクリっとしたお目々が超可愛い白銀色の狐がいたでしょうが!?」


「あれ犬だよ」


「狐よ!」


 そうだっけ?

 狐みたいなポメラニアンじゃなかったっけ?

 あれ? 逆?


「アタシはその狐よ!」


「え、あの喋るポメラニアン?」


「ポメラニアンって言うな!」


「アタシはその狐ってどゆこと?」


「アタシは狐で今は人間に化けてんの!」


「ポメちゃんそんなことできるの!?」


「ポメって言うな! アタシは狐よ! 変身能力があって人間とかに化けれる狐のクク!」


「マジで!? すっげぇっ! ククすっげぇっ!」


「フン、ようやくわかったようね。ウフフフ」


「何にでもなれるの!? 何にでも化けれるの!?」


「何にでもってわけじゃないけど……何? 見たいの?」


「見たい見たい! 超見たい! 変身するとこ超見たい!」


「……し、仕方ないわね。まぁ? そんなに見たいなら? 見せてあげなくもないわよ?」


「やったーっ! わーい! わーい!」


「ウフフ。で、何に変身してほしいの?」


「ポメラニアン」


「ぶち殺すわよ!」


「すごい変身の呪文だね」


「あんたに言ったのよ!」


「ポメラニアンは無理?」


「元に戻るだけじゃないの!」


「え、ククってやっぱりポメラニアン?」


「違うっつってんでしょーが!」


 どうやらポメラニアンはお気に召さないようだ。

 じゃあ……


「僕はどう?」


「ハァ、ハァ、あ? あんたは無理よ。まだ会って一日もたってないんだから」


「なんか条件があるの?」


「変身するにはその対象をじっくり観察して憶えなきゃいけないの。ただでさえ人間の顔って憶えにくいんだから」


 簡単に変身できるわけではないようだ。


「ん~、じゃあ…………あ」


「ん?」


 金髪な御主人様と目が合った。


「リィザさんで」


「私?」


「それならいいわよ」


「え? お、おい、ちょっと」


 リィザが止めようとするがククは構わず、羽織の袂から、字のようなものが書かれた短冊くらいの白い紙を取り出し、


「んじゃいくわよー」


 軽い調子で言ってから、紙を挟み込む形で手を勢いよく打ち合わせると、手の間から煙が発生してククの体を覆い隠し、


「『変化』!」


 と叫ぶ声が、煙の中から聞こえてきた。


 しばし煙に包まれるクク。

 そのまま待つこと十秒ほど。


 煙が少しずつ晴れ始め、やがて完全に消えると、そこに立っていたのは、


「うわっ! リ、リィザさん!? リィザさんがいる!」


 白い羽織に黒いショーパン姿のノーガーターベルト&ストッキングなサンダル履きのリィザがいた。


「え!? え!? ええ!?」


 ガーターベルトリィザとノーガーターベルトリィザを交互に見た。


 変わらぬ姿でたたずむリィザとククが着ていた衣装にチェンジしたリィザ。

 間違いなく二人いる。


 ならば、ククは本当にリィザに変身したということだ。

 変身できるとは言われたが、実際目の当たりにすると度肝を抜かれるレベルだった。


「フッフーン、どうよ?」


「わ! 声もリィザさんだ!」


「完璧でしょ」


「ククすげぇーーーっ! マジすげぇーーーっ! 変身能力マジすんげぇーーーーーっ!


 頭のてっぺんからつま先、さらには声まで、一部の隙もなくリィザだった。


「でしょ? ウフフフフ」


 ククが変身の完成度を見せつけるように、僕に背を向け、腰をくねらせ、両腕を上げて金色ショートボブの後ろ髪をかき上げ、首だけで振り返り、いたずらっぽく微笑んだ。


「うひょーーーっ! リ、リ、リィザしゃーーーーーん!」


 リィザは、僕より少し背が低いがククよりは高く体も大きい。

 なので、ククにはジャストサイズだったショーパンが、変身したことでピチピチのローライズになっていた。


 後ろから見る、何も着けていない真っすぐ伸びた白い足もきれいだが、腕を上げたことによって衣服が持ち上がり、細っそりとしたウエストが見え、そこから柔らかなお肉を無理矢理閉じ込めているピチピチローライズのショーパンを穿いたお尻へと流れる曲線がとても官能的で、よく見ると、ピチパンからはみ出したお尻上部の割れ


「見すぎだ」


 ゴンッ


「フゴッ」


 リィザにゲンコツ落とされた。


「クク、これを着ろ」


 リィザが、脱いだ自分のコートをククにかけた。


「え? 何で?」


「バハムートがエロいから」


 あぁ、せっかくのセクシーリィザがコートを……でも、裸の上からコートを一枚着てるだけの痴女っぽくてエロいな……。


「わかった? これがアタシの変身能力よ」


 リィザの姿をしたククがこちらを向き、腕を組んで胸をそらす。

 リィザのコートを着ているので、上半身だけを見るとこっちが本人のようだ。


「本当にすごいよクク。どっからどう見てもリィザさんだよ」


「ウフフフ……ゴホン。イッケーーーッ! バハムートーーーッ! ってね」


「おお~」


 パチパチパチ


 自然と拍手。


「ウフフ……ククはカワユイなぁ。こんなにカワユイ狐さんをポメラニアンと言うバハムートはバカムートだなぁ」


「……こんなこと言ったの?」


「言ってない」


 こいつ……。


「ああ、なぜ私はこんなにも美しいのだろう。足なんて超キレイで、バハムートは隙あらばガン見してくるし。私マジ美脚」


「……そんな風に思ってたんだ」


「思ってない! お前、足見てたの?」


「ごめんないだいっ!」


 ローキックくらった。


「ウフフ……あ、あのあの、わ、私、り、リィザ。よ、よろしく……ね?」


 一転して弱々しい口調で話し出した。


「それも真似? リィザさんそんな喋り方しないでしょ? ね?」


「……うん」


「?」


 なぜかリィザの反応が鈍い。


「お、お名前、ク、ククちゃんだよね? お、お友達に、な、なってくれる?」


「誰かの真似なの? クイズ? 誰なんスかね?」


「……さぁ」


 また反応が薄い。

 顔が赤い。


「み、湖で、き、きれいなお花さん、み、見つけたの。ク、ククちゃんに、あ、あげる。そ、それと、ポ、ポエムつくったの。き、聞いてくれる? タ、タイトル、『ククちゃんハトさん踊り食い』」


「やめろーーーーーーーーーーっ!」


「おおうっ」


 ビックリした。

 いきなりリィザが叫んだ。

 顔がさらに赤くなってた。


「どしたのリィザさん? 僕、ポエムの内容が気になるんだけど」


「聞かなくていい! ククも言わなくていい!」


「バリバリムシャムシャ お口が血まみれ真っ赤っか」


「言うなーーーーーーーーーーっ!」


 廃村に響くリィザの叫び。


「ホントどしたの?」


「ウフフ、今のはアタシと出会った頃のリィザよ」


 リィザモードのククが、しゃがんで両手で顔を隠してしまった本物リィザを楽しそうに眺めながら教えてくれた。


「出会った頃?」


「そ。一年半くらい前にクロアがリィザを連れてきたんだけどね、リィザってばすっごく人見知りするオドオドした性格で、クロアの後ろに隠れながらごにょごにょ挨拶するような子だったのよ」


「へぇ、リィザさんが……」


 全然想像つかない。

 ポエム読むんだ。

 ……ポエムか?


「アタシ最初に会った時、喋らないで変身もしないでいたのよ。ある日突然話しかけて人間になってリィザを驚かせてやろうと思って」


 イタズラっ子だな。


「驚かせるってことは、ポ……狐が喋って変身するのって普通じゃないってこと?」


「そりゃそうよ。常識でしょ」


 常識……。

 常識でないやつに常識……。


「でね、いつ驚かせてやろうか、なんて考えてたんだけど、人見知りなこの子には喋らない動物ってのが良かったみたいで、すんごい懐いちゃったのよ」


 人に懐くポメラニアンでなく、ポメラニアンに懐く人間リィザ。小さい子供のようだ。


「で、さっきのポエム聞いた後いきなり話しかけて人間になったんだけど、その時のリィザったら『はわわ!? はわわ!?』って言いながら目を白黒させて驚いちゃってね。可愛かったわ〜」


 リィザを年下の女の子のように話すククリィザ。


 ククリィザが本当に今朝見たポメラニアンなのだとしたら、心の成長は人間よりも早いだろうから、生きた年数は本物リィザより短くても、中身の年はけっこう上なのかもしれない。


「今のリィザさん、僕と普通に話してるよね。人見知り克服したの?」


「ほぼね。クロアの真似をするようになってから」


「真似?」


「いつの頃からか、クロアの動作や話し方を真似するようになったのよ。今じゃそっくり」


 言われてみれば似てる。


「本人が言うには、そのおかげで気が大きくなって、人見知りもオドオドしてた性格もほぼ克服したんだって」


 クロアの真似か……。

 あの不遜な態度、普通の人が真似したら周りから嫌われそう。

 オドオド系の人が真似したらミックスされて丁度……嫌な奴になるだろう。

 クロアは関係なく、自分の努力で克服したんじゃないかな?


「でも、クロアの真似をし始めてからは、アタシのことをククって呼び捨てにするようになっちゃって……あの頃の『ククちゃんククちゃん』言いながらアタシの後をついてきてたリィザが懐かしいわ……」


 思春期の子供を持つ母親みたいに愚痴りだした。


「でも『()()克服した』ってことは、たまに可愛いリィザさんが出るの?」


「テンパると出る」


 ぜひ見てみたい。


 ……ん?

 クロアにごめんなさいって謝ってる時のリィザは、可愛いと言うか少し幼い印象だったな。あんな感じになるのかな。


 つまりあの時のリィザはテンパっていたと。


 クロアが誰に対して役に立たんと言ったのかわからないが、自分が言われたと思ったリィザは、そのたった一言でテンパって子供のように謝ってしまうほどクロアのことを慕ってるってことか。


 見たところ、付き合ってるって雰囲気ではないけど……


「ねぇねぇ、ククリィザ」


「ククリィザ……」


「……もしかしてリィザさんはクロアに惚れてるの?」


 小声で尋ねた。


「あんたなかなか鋭いわね」


「鋭くない」


 恥ずかしがってしゃがんでいたリィザが立ち上がって否定。

 聞こえてたか。


「照れなくていいのに」


「照れなくていいのよ」


「照れてない。私はクロアのことを尊敬しているんだ」


「Sonkei?」


 ……ああ、尊敬か。

 あまりにもクロアとかけ離れた言葉だったから一瞬わかんなかった。

 惚れてるって言うなら、顔だけに惹かれたんだろうと理解できるが……尊敬?


 尊敬ってのは中身で判断するものだ。

 どこにそんな要素があるんだろう?

 今日会ったばっかだけど、そんな部分欠片も見当たらない。

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