16.おいくつでありますか?
「なぁ、アタシ腹減ったよ。メシにしようぜ」
赤髪さんが、引き締まったお腹を撫でながら言うと、
「アタシもお腹空いた」
「私もペコペコです」
ククと真っ黒ドレスさんも同様に空腹を訴え、それを聞いた水色リーダーが、
「そうだな。では、食事にしよう」
みんなに言って、女子三人がテキパキと動き出した。
「じゃあ私も。バハムート、お前も手伝え」
リィザもどこかへ行こうとしたが、
「リィザ、準備はこっちに任せてバハムートに我々のことを教えておけ」
椅子に座ったままの不動のリーダーから言われ、
「あ、うん、わかった」
僕へ向き直った。
このイケメンまた何もしないの?
女の子三人はキャンプでも始めるつもりなのか、運んできた丸太を切ったり、火をおこしたりと、食事の準備を進めている。家があるんだし、屋内でやればいいのに。
「何で家に入らないんです? またゴーストミストが襲ってきたりしない?」
目の前の御主人様に尋ねる。
「ゴーストミストはネクロマンサーが集めて操っていたので、主がいなくなった今、もうここいらにはいないだろう」
「そんなもんですか」
「それにゴーストミストは生前に恨みのある人しか襲わないし」
「そういやそうでしたね」
「……」
「何です?」
リィザがじっと見てる。
「……さっきはお前がバハムートだと信じていたから、バハムートにとって小物であるゴーストミストやネクロマンサーを知らないと思っていたが、ただ単純に知らなかっただけなんだな」
「そうですね。知らないと言うか、僕の世界にはいないですからね」
「いない? ふーん……お前ってやっぱり召喚獣みたいに別の世界から来たのか?」
「そうなんでしょ? 自分で言ってたじゃないっスか。『ここはお前にとって異世界だ』って」
「まぁな……私の声真似二度とするな。お前、異世界人か……」
まじまじと僕を眺めるリィザ。
「もしかして、異世界人って珍しい?」
「この世界以外に人間がいるなんて聞いたことないし、初めて見た」
珍しいどころか、初めてときた。
僕にとっても異世界人がいるなんて初耳の初見なわけだけど。
そう考えるとここにいる五人も、人間ではあるけれど少し違った存在に見えてくる。
「……お前がこっちに喚ばれてキョトンとしてたり、バハムートって自分のことか聞いてきたりしてたのって、人間だったからなんだな」
「そういうことっスね。今はだいたい状況が飲み込めてますけど」
「そっか……。さっきはすまなかったな、お前が人間だと言っているのに信じてやれなくて。許してくれ」
真摯な眼差しを向けられた。
「いえ、お気になさらず」
最初言った時は信じてくれたし、自分が間違っていたらちゃんと謝ってくれた。
イケメンと違っていい娘さんだ。
喚ばれてすぐ背中蹴られたけどいい娘さんだ。
「ありがとう。で、何で人間のお前が召喚されたんだ?」
「わかんないっスよ」
そっちが喚んだんだから。
「クロアは何かわかるか?」
リィザが聞くがクロアは答えず、
「……」
黙って僕を見て、
「……そうか、別の世界から……」
独り言を漏らすようにボソッとつぶやいた。
「そうだけど」
尋ねたわけではないだろうが一応返事をした。
「……フッ」
しかしクロアは、思った通り答えを求めていたわけではないようで、自嘲気味に鼻を鳴らして丸太を切っている赤髪さんへ視線を移した。
何じゃこいつ?
「クロアもわからないか……」
返答はなかったがリィザにとってはそういう解釈になるらしい。
「ま、そのうち色々わかってくるだろ。で、他に何を聞いてきてた?」
「何でしたっけ? ガーターベルトの普及率?」
「家のことだったな。周りにある家には入らないほうがいい」
「何でっスか? 不法侵入?」
「三十年近くほったらかしの状態だからな……家の中にはたくさんの虫が……」
リィザが眉間にしわを寄せる。
実に嫌そうな顔だ。
ここは森に囲まれた廃村。
三十年近く手入れのされていない家。
それはさぞかし虫たちにとって天国なことだろう。
想像するのも嫌だ。
「私達は夕方頃に来て、試しに一軒の家の中を覗いてみたんだが、壁にはウヨウヨと」
「あーーーーーっ、あーーーーーっ、聞こえない! 聞こえないし聞きたくないそんな話!」
声を出して耳を塞いだ。
「フフ、お前怖がりだな」
誰でも怖いだろ。
「まぁ、それはいいとして」
「フゥ、勘弁してくだ」
「ウヨウヨとムカデがいた話はいいとして」
「言ったーーーーーっ! 何で言うの!? 何で言っちゃうの!? ウヒーーーーーーーーッ!」
イメージが湧いて体がかゆくなってきた。
「アハハハハハッ! ウヒーって! ウヒーって! アハハハハハハハハッ!」
リィザ大爆笑。
「何で言うのさ!? あんた怖くないの!?」
「ハハハハハ、ん? もちろん怖い」
「じゃあ何で言うの!?」
「私だけ怖いなんて理不尽だし」
「聞かされるほうが理不尽でしょ!?」
「お互い様だな」
「意味わかんないよ!」
「アハハハハハハハ」
何とも楽しそうなリィザ。
涙まで流して笑ってる。
しかし、そんなリィザを見て、
「おい、何を遊んでいる? さっさとやるべきことをやれ」
と言ってくる、ただ座っているだけの男クロア。
「あ、す、すまん。ゴホン」
リィザが笑いを収めて咳払いし、仕切り直す。
「えー、ウヨウヨムカデがいた話はいいとして」
いちいち言わなくていいっての。
「仲間の紹介をしておく」
「オス」
「まず私から。私の名前は、リィザ・ライン・ハイエス。お前の主人で、召喚術を操れる。剣の心得も多少はある」
「どうも、この度召喚獣をやることになりました人間のバハムートです。よろしくお願いします」
「ああ、期待しているぞ」
白い歯を見せ、わずかにこちらを見上げてニッと笑うリィザ。
少しあどけなさの残る、美少女スマイルだ。
身長は、百七十の僕より少し低いくらいだが、ブーツを履いている分を引くと、百六十ちょいってところだろう。
金髪のショートボブで、碧い瞳の猫目が可愛い、黒いガーターベルト&ストッキングがとてもよくお似合いの足長美少女。
歳は、同じくらいだろうか。
「リィザさんはおいくつでありますか?」
「突然だな。十七だ」
タメか。
学校とか行ってないのかな?
「お前は?」
「いくつに見える?」
カチッ、スラー
「十と七歳であります」
「同い年か」
とはいえ時間の流れや数え方が同じかわからないので正確なことは言えないけど。
「もひとつ質問。召喚術って何?」
「何って……ん? わかるだろ?」
「なんとなくはわかるんスけど、一応」
「召喚術とは、幻獣などを喚び寄せる術のことだ」
ほぼ想像通り。
「お前、もしかして召喚術見たことない?」
「術を見たことがないと言うか、召喚術ってのが僕の世界には存在しないっス」
「……え?」
「なので、生召喚獣も見たことないっス」
「…………ええぇっ!?」
少し呆けた後、リィザビックリ。
「な、何で召喚獣見たことないんだ!?」
「召喚術がないから」
「何で召喚術がないんだ!?」
「使える人がいないから」
「何で使い手がいないんだ!?」
「そーゆーもんだから」
「私がいるじゃないか!」
「ですよね」
アイデンティティーを否定されたような気分なのか、ちょっと錯乱中のリィザ。
「で、でもお前、バハムートがドラゴンみたいな姿だって知ってたじゃないか!?」
「召喚獣やバハムートは架空の物語に登場するんでなんとなく知ってるっス」
「……」
リィザ呆然。
周りを見れば、みんなも話を聞いていたようで、リィザほどではないが驚いている様子だった。
「……お前の世界異常」
ポツリと漏らすリィザ。
それはこっちのセリフ。
「てことは、召喚術の使い手も物語の中にだけ存在するってことか?」
「そうっスね」
「へぇ……それってどんな物語?」
「色々ありますけど、召喚術を使える人は、だいたい世界を救いますね」
「世界を……」
「んで、英雄になる物語っス」
「英雄……」
「違うパターンだと触手で凌じょ……どしたんスか?」
「……何が?」
「ニヤニヤして」
「別に……フフフ」
と言うわりには、ニヤニヤニヤニヤ。
自分が英雄と言われたようでうれしいんだろうか。




